少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei

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6 ルッダの商人サバンニ 1

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 夕暮れの太陽が海を照らし、城壁の上の空には、この星の二つの月が並んでぼんやりとした光を放ち始めていた。

「おい、小僧、もうすぐ城門を閉めるぞ。街に入るなら早くしろ」
「あ、はい、入ります」

 名前も知らない海岸の街。その門の前でボーっと空を眺めていた俺は、衛兵に言われて慌てて門の方へ走って行った。

「ふむ、冒険者か。どこから来た?」
 衛兵は俺が差し出した冒険者カードを見ながら尋ねた。
「ブロスタから来ました」
「そうか。よし、通っていいぞ」
 冒険者カードを衛兵から受け取って、俺はその街の中に入っていった。かなり大きな街で、多くの人で賑わっていた。

(とりあえず、冒険者ギルドに行って、いろいろ聞いてみるか)
『そうですね。……ギルドはこの通りをまっすぐ行って、広場から右に三十メートルほど行った所にあります』
(……なあ、ナビさんよ。ずっと気になっていたんだけど、そのGPSのような道路情報のシステムって、どういう原理でできているんだ?)
『何を今更言っているのですか。マスターも使われている〈索敵〉と原理は同じですよ。魔素はどこにでも溢れているのですから、それを使えばかなり広範囲の視覚情報を得ることができます。私の場合、よりクリアーな視覚映像で解析が可能ですが』

 いや、言ってることは理にかなっているけどさ、それってスーパーコンピューター並みの能力だからね。まあ、お前がそれくらいすごい奴だってことは知っていたけどさ……。

♢♢♢

「こんにちは、いや、こんばんは、ですね」
「ふふ……こんばんは。ようこそ当ギルドへ。受付担当のシェリルです。どんな御用でしょうか?」

 俺は、思わずにやけそうになる顔を引き締めながら、その超絶可愛い受付嬢の質問に答えた。
「はい、あの、この街に来たのは初めてなので、いろいろ聞きたいなと思って……」

 受付嬢はちょっと顎に手をやって考えてから、こう言った。
「ん……ええっと、ここに来たってことは、もしかして冒険者ですか?」

「あ、はい、これです」
 俺は冒険者カードを差し出した。
「はい、じゃあ、ちょっと確認しますね」
 シェリル嬢はカードを受け取ると、魔道具の機械にそれを差し込む

 この大陸の冒険者ギルドは、一応、国に属さない独立組織ということになっている。だから、カードも共通で使えるし、運営の仕方もほとんど変わらない。もちろん、独立と言っても、その国の法律には従わなければならないし、領主の意向は無視できない。まあ、言うならば、最低限の冒険者の権利や生活を守ることに尽力している組織なのだ。
 それに、国によって、ギルド職員の服装も違っている。このローダス王国のギルド職員の服装は、水色と白を基調にしている。アウグスト王国では、緑と赤が使われていた。
 シェリル嬢の銀髪と紫色の瞳は、まさにその服の色に見事にマッチしていた。

「……はい、トーマ様ですね。えっ、まあ、B級……それに、登録地はアウグスト王国のパルトス支部ですね……はい、確認できました。お返しします」
 シェリル嬢はカードを俺に返すと、真剣な目で俺をまじまじと見つめた。
(いや、そ、そんな真顔で見つめられたら照れるぜ……惚れちまうやないかい)
『何を中年オヤジのようなこと言ってるんですか』

 俺が思わず下を向いて赤くなった顔を隠していると、シェリル嬢の声が聞こえてきた。

「つい最近まで、この国とアウグスト王国は戦争状態にあったのですが、よくここまで来ることができましたね?」

「ああ、はい。戦争前にこの国に来たんですが、帰れなくなって……それからはこの国でずっと暮らしています」
 俺の言葉に、シェリル嬢は同情するように頷いてから、柔らかな微笑みを浮かべた。
「それは大変でしたね。それで、どんなことをお聞きになりたいのですか?」

「はい、ええっと……おすすめの宿と食事の店の場所、できれば街の地図があればほしいなと思います」

「地図ですか…あるのですが、ちょっとお値段が高いので、言葉で場所をお伝えした方が良いかと……」

 そうなんだよな。この世界には、まだ機械印刷というものがない。あるのは、いわゆる銅板印刷だ。薄い銅の板にニードルのような鉄の針で字や絵を描き、それに油脂に溶かした顔料をすり込んで、手刷りで印刷する。そのため、本や地図などは他の物価に比べると、馬鹿みたいに高い。

(金はあるけど、まだ両替をしてなかったな。あっ、そうだ、この手があった)
 俺はあることを思いついて、シェリルさんに尋ねた。
「あの、俺、アウグスト王国のギルドに口座を持っているんですが、それはこちらでも使えますか?」

 シェリルさんは少し驚いたような顔で頷いた。
「はい、もちろん使えます。ギルドに国境はありません」
「よかった。じゃあ、地図の値段を教えてください。お金を下ろしますから」
「分かりました。ハンスさん、こちらの方の口座確認をして500ラグナの引き落としをお願いします。トーマ様、あちらの受付へどうぞ」

 俺はシェリルさんに促されて、少し離れたギルドの預金口座の受付へ向かった。そこには、いかにも神経質そうな顔の、痩せた三十後半くらいの男が座っていた。
 彼は俺を細く鋭い目で見つめると、つっけんどんな口調で一言言った。
「カードを」

 俺は黙ってギルドカードを差し出した。その男ハンスは、さっとカードを取ると無造作に機械に差し込んだ。そして、最初は侮って無表情に機械の画面を見ていた彼の表情が、すぐに変化して、細い目を見開きながら、何度も画面を確認するように覗き込んだ。

 まあ、口座には三十万ベル預金されているからな。俺の年から考えると、そりゃあ驚くだろう。為替両替したらいくらになるのかは分からないが。

「え、ええっと、500ラグナ引き落とすんだったかね?手数料は10ラグナだが、いいかね?」
「はい、それでいいです。あの、1ベルは何ラグナになるか、訊いていいですか?」
「あ、ああ、現在の為替率だと、1ベルは15ラグナだ」

(なるほど。じゃあ、今、俺の口座には44999490ラグナはいっているわけか。そりゃあ驚くわな)

「どうもありがとう」
「い、いや、どうも。ま、またのご利用を」

 俺は思わず吹き出しそうになるのを我慢しながら、再びシェリルさんの所へ戻っていった。
「はい。これが地図です。それと、おすすめの宿と食事のお店、メモに書いておきました。地図を見れば、場所はすぐに分かると思います」
 俺は地図とメモを受け取りながら、頭を下げた。
「いろいろとありがとうございました」
「どういたしまして。またのご利用をお待ちしています」

 俺はシェリルさんに手を振ってギルドを後にした。
(いやあ、美人で感じのいい受付嬢だったな。さて、今日のところは飯を食って宿で休むとするか)

 俺は、広場のベンチまで歩いて行って、ベンチに座りながら地図を開いた。
(ふむふむ、この街はルッダって言うんだな。うん、やっぱり港がある。かなり商業が盛んな街のようだ……で、宿屋と飯屋は……)
 俺はきれいな字で書かれたメモを見ながら、番地を地図で確認した。


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