少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei

文字の大きさ
78 / 88

78 ダンジョン攻略

しおりを挟む
 十一階層への階段を見つけた俺たちは、いったんそこを岩で塞いで魔物が出てこないようにしてから、その大きな岩屋の片隅でキャンプすることにした。

「できあいのものだが、まだ作り立てで温かいぞ。ルーシーにはこっちな」
 俺はストレージから、ブロスタの街の《海鳥亭》で仕入れた海鮮スープとパンを取り出してアンガスに渡し、ラパスの人間街で仕入れたケーキ類やクッキーをルーシーの前に並べた。

「うはあ、これはなんともうまそうな甘味なのじゃあ。さすがは主殿、分かっておるのう」

「野営でこんな贅沢ができるとは、ありがたい……いただきます」
 アンガスは、育ちの良さがにじみ出るようなきれいな所作で手を合わせ、スープを口に運んだ。そして、満足そうに微笑みを浮かべ、ふうっと小さなため息を吐いた。

「んん、うまいのじゃあ……幸せなのじゃあ……」
 ルーシーは口いっぱいにケーキを頬張りながら、天井に向かって幸福の笑みを浮かべていた。
 そんな二人の様子を見ながら、俺も海鮮スープに舌鼓を打ち、パンを浸しておいしくいただいた。


 ダンジョンの中では、一日の時間感覚が分からない。俺が目を覚ました時、すでにアンガスとルーシーは準備を済ませ、雑談をしていた。

「おお、主殿、起きたか。よく眠っておったが、もう体は大丈夫かの?」

「ああ、すっきりさわやかだ。すまないな、待たせてしまって」

「いや、俺たちもさっき起きたところだ。今は、二日目の朝五時半まえだな」
 アンガスは、ローブの内ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認した。

(おお、そうだった……魔人族はこのくらいの魔道具なら朝飯前に作るよな)

「それ、ラパスの人間街には売ってなかったぞ。魔人たちが独占していたのか?」

 俺の言葉に、アンガスは少し気まずそうな表情で時計を見つめた。
「ああ、俺がいた頃はそうだったな……だが、こいつは、俺の妻エリーシアが自分で作って、俺にくれたものだ」

「そうか……なんか辛いこと思い出させて、すまなかったな」

「いや、かまわぬよ。そうか、いまだに魔族、いや魔人族だったな、人族を差別しているのだな。たかが長生きして、魔力が多い、それだけの理由で……愚かな話だ」

「ふむ、そうじゃな。アンガスよ、これが終わったら、我とともに一度ラパスに帰ってみぬか?魔人たちは、外に向けてもっと国を開くべきじゃ。アレッサの思いも我と同じじゃと思うがな」

 ルーシーの言葉に、アンガスはじっと下を見つめていたが、やがて顔を上げて頷いた。
「ああ、そうだな、一度行ってみなければなるまい。ただ、俺の帰る場所は、あの家だ。最後はあの家で、妻と義母の側で死ぬ、それはもう決めていることだ」

(おいおい、泣かせるなよ……アンガス、お前、いい奴だなあ……)

『そうですね。故郷のことをすっかり忘れてしまっている誰かさんとは違いますね』

 ナビの突っ込みに、せっかく流れそうになった涙が引っ込んで、出たのは咳払いだけだった。


♢♢♢

「ほお、十一階からはダンジョンの様相ががらりと変わったのう」

 俺たちは長い階段を下って、十一階層に入った。そこは、今までの洞窟迷路ではなく、に渡す限りの広い平原であった。天井の高さは二十メートルほどだろうか、そのすぐ下に暖かな光の層が広がり、地上を柔らかに照らしていた。

「十階層ごとにダンジョンの形態が変わる、とか? だとしたら、この平原エリアが二十階層まで続くわけだが……魔物、多いな」

「ここも、飽和状態なのだろう。今はスピードを重視すべきじゃないか?」

「うむ、そうじゃのう。主殿の推測は当たっていると思うぞ。ここは、アンガスが言う通り、出来るだけ戦闘は避けて、二十階層まで走り抜けようぞ」

「よし、それでいこう」

 俺たちは、魔物がそこら中を跋扈している平原エリアを、一気に駆け抜け始めた。
 だが、それは、口で言うほど簡単なことではなかった。平原エリアと言っても、大森林エリアあり、岩場エリアあり、沼地エリアありで、生息する魔物も多種多様だった。さすがは太古から手つかずだったダンジョンである、作りこまれている。

「ハア、ハア……おい、大丈夫か、アンガス?」

「……いや、さすがにきついな……」

「うむ……我ももうすぐ魔力切れじゃ。少し休もうぞ」

 雪原の二十階層を突破したとき、俺たちは疲れ果てて、二十一階層に下りる階段の手前でへたり込んだ。よろよろと岩場の陰に移動し、周囲に結界を張って一息つく。

「しかし、あの白い大猿は手強かったな。チーム戦術でこられると、どうしても数で押し切られてしまう」

「まったくじゃ……しかし、久しぶりに存分に戦えて楽しいぞ、呼んでくれて感謝するのじゃ、主殿」

「ああ、それは良かった……ほら、マジックポーションだ。アンガスには、こっちを。手作りのエリクサーもどきだ。かなり苦いけど、効き目は保障する」

「うむ、もらおう。いちおう、アリョーシャが作ってくれたポーションはいくつか持ってきたが……んぐっ、くはあっ……苦いな……」

 普段はほとんど表情を変えないアンガスが、いかにも苦そうに舌を出したものだから、俺とルーシーは大笑いした。


 十四、五分休み、ポーションで魔力と体力を回復した俺たちは、再び移動を開始した。いよいよ二十一階層だ。

「お次は廃墟と墓場のエリアか。アンデッドじゃな」
 夕闇が辺りを覆う荒涼とした光景が広がっていた。あちこちに崩れた建物や塔があり、遠くには墓地のような場所が見えた。

「まずいな……俺は闇属性と土属性の魔法しか使えない。アンデッド系とは相性が悪い」

 アンガスの言葉にルーシーも頷いた。
「我も闇属性の魔法しか使えぬ。レイスやリッチなどの霊体系の魔物は特に相性が悪いのう」

「そうか……よし、じゃあここからは俺が先頭を行こう。霊体系の魔物を中心に倒していくから、物理攻撃で倒せる奴らはお前たちに任せる」

「うむ、分かった」

「了解なのじゃ」

 俺たちは役割分担を済ませると、走り出した。

 今回のダンジョン攻略は、お宝や素材集めが目的ではない。とにかく最速にダンジョンの最奥にたどり着くことが目的だ。
 この遺跡エリアには、魅力的な探索ポイントがたくさんあったが、俺はその欲望を抑えて、ひたすら前に向かって進んでいった。

 そして、二十六階層で昼食休憩をとった以外は休むことなく、ついにその日の夕方、三十階層に到達したのだった。ただ、三十階層には、このダンジョンで初めての《エリアボス》がいた。《リッチ》と彼が操る《キングスケルトン》である。

 その部屋は、エリアとは別の空間に特別に作られたものだった。ただし、初めての侵入者には何の違和感もなく誘い込まれるような作りになっていて、俺たちもまんまとそれに引っ掛かったのである。

 部屋の中に入って彼らの姿を見た時、俺は絶望を感じて、これで終わったと本気で諦めた。アンガスも同様だっただろう。ただ、ルーシーだけは嬉々として笑っていた。

「おお、歯ごたえがありそうな奴らじゃのう。主殿、我にあの骸骨と戦わせてくれ」

「あ、ああ、頼む……アンガス、十二歳で人生を終わる気持ちが分かるか?」
 ルーシーが張り切って前に歩き出した後、俺は横の二百歳越えの魔人につぶやいた。

「はは……それは何とも気の毒だな……俺は、まあ、自分の役目は終えられたので、後悔はないかな……」

 俺たちは、ちらりと顔を見合わせて苦笑した。

「行くか……」

「ああ、行くしかないな」

 俺たちは死を覚悟して、今まさに死闘を開始したルーシーと巨大スケルトンの後ろで、悠々と空中に浮かび、こちらを見つめている死神に近づいていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...