少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei

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85 Aランク冒険者はひきこもりたい 1

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「それで、何がどうすれば解決になったんだ?」

 ギルド長室で、ウェイドさんとバークさんに両側から挟まれての尋問が始まった。

「ええっと、それがですね、話せばすごく長くなるんですが、簡単に言うと……」

「いや、簡単に言うな。どんなに長くなってもいい、最終的にはお前の話を聞きながらバークが本部へ報告書をまとめなければならんのだ」

 バークさんはちょっと嫌な顔をしたが、いつものことなのだろう、ため息をついて反論するのを諦めた。

 そこで、俺は、〈魔の森〉の奥で〈最古のダンジョン〉を発見したこと、その途中で、魔人族の親子が住む岩屋を発見し、彼らから今回の状況について、多くの情報を得たこと、父親の名はアンガスといい、娘はこの町に住む錬金術師のアリョーシャさんであること、アンガスは、ダンジョン探索に協力してくれたこと、そして、魔物が爆発的に増えたのは、ダンジョンの管理者である神獣ベヒモスが、ダンジョンの最奥に住み着いた古竜親子を追い出そうと、膨大な魔力を放出しながら戦ったため、その魔力がダンジョン内を満たしてしまった結果であること、いったん、そこまで話して、一息ついた。

 ウェイドさんとバークさんは、何か異常なものを見るかのように俺を見つめたまま、黙っている。

 トントン、とドアを叩く音がした後、「失礼します」と言って、ミレーユさんが人数分のお茶とお菓子の入ったプレートを持って入ってきた。

「あ、ああ、すまんな。ミレーユ、しばらくここには誰も近づけないでくれ」

「分かりました」
 ミレーユさんも、部屋の中の異常な空気を感じ取って、俺たちを見回しながら部屋を出ていった。

「よし、話は分かった。とうてい信じがたいが、お前がウソをつく人間ではないことは知っている。それで……どうやって解決したんだ?」
 ウェイドさんは、眉間を指で押さえて揉むようにしながら尋ねた。

「ええっと……最奥のダンジョンコアをテイムして、ダンジョンを俺のものにしました」

はあああっ……二人の驚きと疑問を含んだ大きな声が、部屋の中に響き渡った。

「テイムだとっ! しかも、ダンジョンコアを? 待て待て待て……理解が追いつかん。バーク、お前は聞いたことがあるか?」

 普段は冷静沈着なバークさんも、ブルブルと首を振って、つっかえながら言った。
「い、いいえ、は、初耳です……〈テイム〉の魔法は、あまり役に立たないということで、もともと使う者が少ないのですが……ダ、ダンジョンコアをテイムしようなど、まず、そんな発想が出て来ませんよ……まあ、その前にコアにたどり着けませんがね」

 二人はため息を吐いて、俺を見つめた。

(いや、そんな可哀想な人間を見るような目はやめてもらえませんかね)

「なあ、トーマ、今だから言うが……」
 ウェイドさんは立ち上がって、俺の体面に座り直すと続けた。
「……今、王都では、いや、正確に言うと〈ギルド本部〉と〈王宮内〉でだがな……お前は〈最重要人物〉として、マークされている……」

 俺は驚いて、慌てて反論した。
「えっ、ちょっと待ってください。俺、何も悪いことはしてませんよ」

 ウェイドさんは、両手で俺に落ち着くように抑えるしぐさをしながら言った。
「落ち着け、そういう意味じゃない。むしろ、この国にとって大切な人物、という意味だ。お前、身に覚えがあるんじゃないか?
 今、急速に発展している最北の港、〈自由貿易港ポートレス〉、それに関わる人々の口から、お前の名前が頻繁に出ているらしい。いろいろな相談事があるから、ぜひ連絡先を教えてほしいとな……」

 俺は、思わずあっと声が出かかって、口を押えながら二人を見回した。

「……まあ、いい。それに関しては我々の管轄外の話だ。だが、今回、〈スタンビート〉を単独調査で解明したうえ未然に阻止し、しかも、ダンジョンコアをテイムし、自分の所有物にしたなんて、それが再びお前の名前で〈ギルド本部〉や〈王宮〉に報告が行ったら、どうなると思う?」

 聞けば、聞くほど、俺は自分がとんでもないことをしてしまったのを実感した。確かに、そんな冒険者がいたら、国としては恐ろしくて暗殺したくなるレベルだ。

「お、俺はどうすれば……いっそ、国外に出ていった方がいいですかね?」

 俺がしょんぼりした声でそう言うと、いきなりバークさんに肩を強くつかまれた。
「何を馬鹿なことを……ギルマス、トーマ君を脅してどうするんですかっ!」

 バークさんに強く叱責されて、ウェイドさんは慌てて手を上げて降参した。
「い、いや、すまん、脅すつもりじゃなかったんだ。つまりだな、それほど、今や、お前はギルドにとって、いや、この国にとって重要な人物になっているということをだな……」

「いや、それはちっとも嬉しくないです……」
 俺はそう言うと、うなだれ気味にうつむいて、続けた。
「……俺は地位や権力には全く興味はありません。ただ、自由に、旅をしたり、おいしいものを食べたり、魔法の研究をしたりして生きていきたい、ただ、それだけです」

「もちろん、それは俺も、バークもよく知っている……」
 ウェイドさんはそう言うと、ゆっくり立ち上がって俺の方に歩いてきながら続けた。
「……だがな、〝強い力をもつ者〟は、それをどう使うかについて、責任を持つ義務がある。そりゃあそうだろう? まだ、成人もしていない少年が、単独で国をも滅ぼしかねない力を持っていたら、野放しにできるか?」

 俺は、ウェイドさんの言葉に顔を上げて、小さく頷いた。
「はい、分かります。そいつが悪い人間なら、確かに危険ですよね」

 ウェイドさんは俺の肩に両手を置いて、優しくポンポンと叩いた。
「そういうことだ。俺たちは、お前がどういう人間か分かっている。だが、王都の連中は、まだお前のことを何も知らないんだ……」

「……俺は、これからどうすればいいんですか?」

「なあに、簡単なことだ……」
 ウェイドさんは元の位置に戻って座り、微かに微笑みながら続けた。
「俺は今回のことを報告するために、明日か明後日には王都に行く。おそらく、本部の連中は腰を抜かすほど驚くだろうな……そして、その報告は王宮にも届けられる……その結果、何が起こると思う?」

 ウェイドさんの問いに、俺はすぐに答えた。

「王都への呼び出し、王宮での尋問、下手をするとそのまま地下牢行き、ですか?」

「あはは……いやいや、お前、どんだけ上の連中を信用してないんだよ……まあ、いきなりそんなことにはならないさ、いや、俺がそんなことはさせない。まあ、いずれ王宮への呼び出しはあると思うがな。それは、お前を拘束するためではない。いや、裏を返せばそういう意味になるのか……つまりだな、今回のことを受けて、本部や王宮の連中が考えることは……」
 ウェイドさんは、身を乗り出して俺を見つめながら続けた。
「お前に、〝特別な待遇〟を与えることだ。そして、お前がやるべきことは、それを拒否せず、ありがたく受けることだ、分かるな?」

 ああ、なるほど、理解した。国は、俺に一定の〝責任〟を持たせたいのだ。それを素直に受ければ、上の人々は安心するし、拒否すれば、不安を感じて次の手を打ってくる、と。

「分かりました……分かりましたが、〝貴族に取り立てる〟とか、絶対に嫌ですからね」

 俺の言葉に、ウェイドさんとバークさんは顔を見合わせて苦笑した。

「そんなことを言うのは、お前くらいのものだぞ。王宮の連中も、さぞかしぶったまげるだろうな、あはは……。
 じゃあ、答えは簡単だ。《Sランク》冒険者になれ。そうすれば、〝男爵と同待遇〟になり、しかも自由に行動することを保障されるからな。
 ただ、本部もいきなり《Sランク昇格》は出さないだろう、まあ、《Aランク昇格》は間違いないだろうがな。まずはAランクになって、Sランク昇格に必要な資格を得ることだ。まあ、お前なら、そう難しい事ではあるまい」

 うわあ、とんでもない話になってきたぞ。
(俺は……俺は、こそこそとのんびりと異世界生活を楽しみたい、それだけなんだ。ああ、もういっそのこと、どこか遠い場所に行って、引きこもりたい……)
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