少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei

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1巻

1-2

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 2 スキルの話



 村の周囲の巡回は、村の男たちにとって大切な仕事だ。この役目は、主に『武術系ギフト』や『魔法系ギフト』を授かった者たちの役目となるが、俺のような『はずれギフト』の者たちも何人か加わっている。

「よし、じゃあ集まってくれ。グループ分けはいつもの通りだが、今日は北側にスライムの大量発生が確認された。そこで、一班から三班までは俺と一緒に北側の駆除くじょに当たってくれ。残りの四班から六班まではいつも通り東、南、西の順番で回ってくれ。じゃあ、出発」

 てきぱきと指示を出している二十代後半の男性は、この村で狩人や魔物退治の仕事をやっている《ラトス自警団》の副団長ピレルさんだ。
『弓士』のギフトを持っていて、『大剣使い』のギフトを持つ団長のクレイグさんと共に、村の少年たちのあこがれのまとだ。
 俺は四班なので、五人の班の人たちと一緒に東に向かって歩き出した。
 俺の武器は直径約六センチ、長さ二メートルの硬い木の先をけずってとがらせたもの、簡単に言うと細長い木のくいのようなものだ。
 これでたたいたり、突いたりして敵を倒す。
 まあ、立派な金属製の武器に比べると粗末そまつなものだが、俺の戦い方にはピッタリだ。

「よお、はずれギフト、今日も来たのか」

 ……で、このウザいやつが、アント。俺より一つ年上で、村で一番大きな農家の息子だ。『剣士』のギフトを持っていて、いつも数人の取り巻きに囲まれ威張いばり散らしているガキ大将だいしょうだ。

「……」

 俺は基本、こういう手合いは無視することにしている。関わると面倒くさいし、いいことなんか一つもないからな。
 だが、アントのやつは何かというと俺に突っかかって来る。
 ほんと、ウザいやつだ。

『その理由に気づかないマスターは、ほんとに〝にぶちん〟ですけどね……』
(ん? 何か言ったか?)
『いいえ、何でもありません』

 何やら含みのある物言いに頭の中にはてなマークを浮かべていると、なおもアントが突っかかって来る。

「おい、何シカトしてんだよ。生意気なんだよ、〝はずれ〟のくせしやがって」

 アントが俺の肩をつかんできたので、俺はそれを振り払うと、早足で班のリーダーであるダンさんの側に向かった。

「ん、どうした、トーマ? ……ああ、そういうことか。おい、アント、お前五班だろう? 班に戻れ。それと、あんまりトーマをいじめるな。いいな?」

 ダンさんはまだ十八の若者だが、『槍士やりし』のギフトを持ち、リーダーシップもあり真面目な好青年だ。

「ちっ……卑怯者ひきょうものが……」

 アントは舌打ちしながら、口の中で捨て台詞ぜりふを吐いて、仕方なく自分の班に戻っていった。

「何であいつ、トーマにばかり突っかかるんだろうな?」
「さあ……たぶん、俺がはずれだからじゃないですか? 人間て、弱い者いじめが好きですからね」

 俺の冷めた言葉に、ダンさんは苦笑した。

「あはは……お前、ほんと十歳らしくないよな。だが、そんな子供のうちから世の中をしゃに見たような考えはやめた方がいい。現に、お前はその年で魔物とやり合える力を持ってるじゃないか。その力で、十分世の中の役に立てる人間になれるはずだ」

 そう、ダンさんが言うように、俺はこの班の中で一番年下だが、魔物退治はダンさんに次ぐくらいの実績を上げている。
 なぜ、そんなことができるのか。それは『スキル』のおかげだ。
 この世界には、ギフトと同時にスキルというものが存在する。
 ギフトは先天的に与えられた恩恵おんけいであり、『生きる方向性』のようなものだ。それに対して、スキルはその名の通り、後天的に身に付く技術で、『生きる上での補助能力』と言える。
 当然の如く、スキルはギフトの影響を受ける。
 つまり、ギフトに関係するスキルは獲得かくとくしやすい。
 たとえば、《剣士》は《ぎ払い》《刺突しとつ》……などのスキルが得やすい。
 やがて、それらのスキルがそろい、レベルが一定以上に達すると、《剣術》というスキルに統合される。
 俺が毎日のように鍛錬している理由が、これで分かってもらえるだろう。そう、俺ははずれギフトを補うために、必死で《スキル》を身に付けようと頑張っているのだ。
 ちなみに、これが今の俺のステータスと獲得しているスキルだ。


 ***
【名 前】 トーマ Lv‌11
【種 族】 人族(転生)
【性 別】 ♂
【年 齢】 10
【体 力】 186
【魔 力】 155
【物理力】 102
【知 力】 228
敏捷びんしょう性】 165
【器用さ】 220
【 運 】 64
【ギフト】 ナビゲーションシステム
【称 号】 異世界異能者
【スキル】 
〈強化系〉 身体強化Lv3 跳躍ちょうやくLv2
〈攻撃系〉 打撃Lv1 刺突Lv2
〈防御系〉 物理耐性Lv1 精神耐性Lv2 索敵Lv2
〈その他〉 鑑定かんていLv4 調合Lv1
 ***


 これは、一般の十歳の少年と比べてかなり高いステータスだ。いや、異常とすら言える。
 ああ、ちなみに『【称号】異世界異能者』というのが何かはよく分からない。
 ナビに聞いたが、『そのままの意味です』などと、らちが明かないことを言う。
 意味は分かるが、それによってどういう影響があるかを聞きたいんだよな。
 まあ、〈鑑定〉のランクが上がったら、詳細が見られるようになるらしいから、それまで待つとしよう。
 ちなみに、あのいけかないアントのステータスとスキルはこんなものだ。


 ***
【名 前】 アント Lv8
【種 族】 人族
【性 別】 ♂
【年 齢】 11
【体 力】 83
【物理力】 103
【魔 力】 32
【知 力】 45
【敏捷性】 56
【器用さ】 40
【 運 】 55
【ギフト】 剣士
【称 号】 なし
【スキル】 
〈強化系〉 身体強化Lv1
〈攻撃系〉 薙ぎ払いLv2 刺突Lv1
〈防御系〉 なし
〈その他〉 恐喝きょうかつLv2
 ***


 これが、まあ普通、いや、〈恐喝〉なんていうスキルを身に付けている時点で普通ではないな。まったく、十一歳の子供が恐喝なんてするなよ。
 こんなふうに自分のステータスや、他人のステータスを見られるのは、ナビのおかげでもある。というのも、〈鑑定〉のスキルは、『商人』や『探索者』というギフトを持つ者が、かなりの経験を積んでようやく獲得できるレアスキルなのだが、俺は生まれた時から持っていた。
 どうやら、《ナビゲーションシステム》というギフトとセットのスキルらしい。
 おっ! ……〈索敵〉に反応があった。かなりの数だ。

「ダンさん、左の森の中に何かいるっ! 数が多いから気をつけて」
「おうっ、了解だ。おおい、皆、獲物えものだ。左の森。ジーンとマルクは左右から回り込んで背後を突け。他の者は戦闘準備をして待機」

 さて、一仕事やりますか。




 3 旅立ちに向けて



 その日、俺たち見回り組は、六つの班でスライムや大ネズミ、アーマードキャタピラーなどを合計五十六匹退治した。
 一日の退治数としては多い方である。やはりスライムの大量発生があったからだ。その原因は、北側の山の斜面しゃめんにできた『魔泉ません』だった。魔泉は地中をめぐる魔素の流れが何かの原因で分かれて、地上にき出したものらしい。
 魔泉から噴き出す魔素は、やがて周囲の鉱物や生物に吸収され続けて結晶けっしょうを形成する。
 その結晶を体内に取り込んだり、体内で結晶が生成されたりした生物は『魔物』へと変異する。
 スライムは魔素が結晶化した魔石を体内に生成したアメーバが変異したものだ。
 魔泉は一応岩でふさいだが、一時的な処理にすぎない。
 いずれ大きな街から、魔法使いをやとって来てもらい、結界石で封印ふういんしてもらう必要があるとのことだ。
 そして、その魔泉はあと何十年後か、あるいは何百年後かにダンジョンになるらしい。
 魔泉が通り道の内部を迷宮めいきゅう化し、一番深い所に魔石=コアが形成されたらダンジョンの完成だ。
 ダンジョンはうまく管理すれば、お金を生み出してくれる貴重な存在。まあ、後の世代がうまくやってくれることを期待しよう。


「ほら、これは今日のトーマの取り分だ」

 獲物の魔石は班ごとの退治数に応じて分配される。四班は大ネズミとアーマードキャタピラーを二十二匹退治した。班の六人で分けると一人三個と余りが四個になる。
 ダンさんは、その余った分を全部俺に追加してくれた。

「え? こんなにもらっていいの?」
「ああ、今日は……いや今日だな、トーマのおかげでたくさんの魔物を退治できた。そいつは正当な報酬だよ」
「ああ、遠慮すんな、トーマ。おかげで他の班の連中よりずいぶんもうけさせてもらっているからな」
「トーマ、また頼むぜ」

 班の他の人たちも、俺が余った分をもらうのを文句を言わずに認めてくれた。

「ありがとう。じゃあ、遠慮なくもらっておくよ。じゃあ、また明日」

 俺は班の人たちに手を振って、集会所を出て行った。


『魔石もずいぶんとまりましたね』
(うん……目標額まで、あと一週間もあれば貯まるな)
『いよいよですね』
(ああ、いよいよだ。予定通り、十歳で第二の人生のスタートだ)

 村から約三百メートルほど離れた小高い丘に小さな林があり、その先に、村の命綱いのちづなとも言うべきみずうみがある。
 周囲の山々からのき水が溜まった湖で、その水は用水路を通って村の畑をうるおし、家畜の飲み水にもなっている。
 俺の秘密ひみつかくがあるのが、この湖の側にある林の中なのだ。
 大木の枝の間に板を組み合わせて作った小さな小屋。大風が吹けば吹き飛んでしまうような粗末な小屋だったが、さいわい、作ってから三年、まだこわれずにすんでいる。
 入り口を含む三面は板壁いたかべで、もう一面は大木がそのままかべになっている。その大木の壁には大きなうろが口を開けている。俺はここに自分の宝物を隠していた。
 ロープでり下げた麻袋あさぶくろを引き上げ、中身を床に取り出して並べる。びて捨てられたナイフや美しい小石などのがらくたに交じって、大小様々な魔石が大量に積み重なっている。三年間こつこつと貯めて来た成果だ。
 魔石の価格は多少の変動はあるが、ここにある分を売れば三十万ベル近くにはなるはずだ。目標はほぼ達成した。
 ベルというのはこの世界のお金の単位だ。ちなみにすべて硬貨で、一円玉サイズの『小銅貨』が一ベル、日本円で換算すると十円くらいの価値である。
 十円玉より少し大きいサイズの『大銅貨』が十ベル。つまり、簡単な十進法が採用されている。
『銀貨』が百ベル、千円くらいの価値だね。
 そして、『金貨』が千ベル。日常でよく使われるのは、この金貨までだ。
 この上に『大金貨』(一万ベル)、『竜金貨』(十万ベル)とかがあるけど、主に大きな取引や多額の褒賞金に使われるくらいだ。
 さて、俺は一週間後、この村を出て旅に出る。そしてとりあえず近くの街まで行って、冒険者登録をし、装備を調ととのえる予定だ。ここまでが今の段階での計画。それから先は、たぶん冒険者の仕事をしながらなんとか食っていければいいと思っている。

(ん……っ!)

 そんなことを考えていたら、〈索敵〉のスキルに反応があった。湖の近くだ。

『マスター、気づきましたか?』
(ああ、三匹、いや四匹か。大きいな)

 俺は、急いで魔石を麻袋に戻し、洞の中に吊り下げた。そして、音を立てないように小屋から出て、大木の根元に身を潜めた。

「オークだな……何でこんな所に……」

 この湖は村の共有地であり、一応魔物けの結界石が周囲四か所に置いてある。普通なら近づけないはずなのだ。

『結界が十分機能していないようです。魔力切れか、もしくは何者かが結界石を持ち去ったか、そんなところでしょうか。それで、どうしますか? 討伐しますか?』
(……ナビさんや、中身はともかく、俺はまだ十歳の子供だぞ。オーク四匹を相手にできると思うか?)
『はい、できると思います』
(は? 簡単に言ってくれるね)
『ご自分でオークたちを〈鑑定〉された方が早いと思いますが』
(……あ……うん、できるな……)

 ナビに言われて〈鑑定〉のスキルを使った俺は、納得した。
 何せ、一番強い個体のステータスがこれなのである。


 ***
【名 前】 なし Lv‌18
【種 族】 オーク(亜人族)
【性 別】 ♂
【年 齢】 25
【体 力】 135
【物理力】 113
【魔 力】 20
【知 力】 33
【敏捷性】 86
【器用さ】 33
【 運 】 50
【ギフト】 なし
【称 号】 なし
【スキル】 
〈強化系〉 〈憤怒〉Lv4
〈攻撃系〉 薙ぎ払いLv2 強打Lv3
〈防御系〉 なし
〈その他〉 生殖せいしょくLv2
 ***


 うん、アントとさほど変わらないな。アントはオークだったのか……。
 まあ、冗談はさておき、油断さえしなければ、一匹ずつ確実に仕留めるやり方で殲滅せんめつできそうだ。

「それにしても、あいつら俺よりレベルが高いのに、何でステータスは俺より低いんだ?」
『マスター、そろそろご自分が特別であることを認識された方がよろしいかと……』
(ん、ああ、まあ、確かに俺のステータスの上がり具合はおかしいと思うが……理由が分からん)
『異世界からの転生ということで、補正が掛かっていると思われます』
(ああ、つまりラノベの異世界ものとかでよくある『神の加護』ってやつか?)
『はい。マスターの場合はむしろ「神の謝罪」と言った方がいいかもしれません』
(は? 謝罪? ……)

 ナビの口からまた突拍子とっぴょうしもない言葉が出て来たのであった。




 4 初めてのオーク討伐



(謝罪? どういうことだ?)
『まあ、その辺りの事情はおいおいご説明いたします。今は、とりあえず〝あれ〟を何とかしましょう』
(む……後でちゃんと説明してもらうからな)

 俺はもやもやした気持ちを抱えながら、今、水を飲み終えて村の方角へ移動を始めたオークたちの方へ近づいていった。
 ッ! プギャッ……、プガギャ、プギャ、プギャ……
 突然、森の方から現れた人間の子供に、オークたちは驚いて、何やらプギャプギャと話していたが、やがていやらしい笑みを浮かべながらゆっくりと近づいて来た。

「ああ、お前ら、美味うまい餌が向こうからやって来た、とか思っているだろう?」

 俺は愛用の木の杭を肩に、近づいて来るオークたちに言った。

「残念だったな。獲物はお前らのほうだっ!」

 俺は、そう言うなり、一気にダッシュして一番前にいた一匹ののどに、木の杭を突き刺した。
 ブガッ!! グゥゥゥ……
 弱小人間族の子供とあなどっていたオークたちは、まったく油断しきっていた。俺は最初の一匹を倒すと、そのまま走り抜けて、村と反対の方向へ移動した。
 あっけなく仲間を倒されて呆然ぼうぜんとしていた残りの三匹のオークたちは、ようやく我に返ると、背後でニヤニヤしている俺を振り返った。

「ほらほら、どうした? ここまで来てみろ」

 俺は手で来い来いとあおってから、わざと逃げにくい上りの斜面の方へゆっくりと移動した。
 オークたちは興奮した声でわめきながら、地響きを立てて俺に迫って来た。

「おっと……あらよっと……そりゃっ!」

 アジリティーの差というやつは、まったくありがたいものだ。
 戦いにおいて、最も影響が大きいのは敏捷性、つまりアジリティーの差だと思う。少なくとも、回避力が高ければ負けることはない。
 逃げればいいのだから。
 俺とオークたちのアジリティーの差は約二倍だ。
 彼らの動きが鈍く、とても分かりやすく見える。
 俺は斜面を利用して、一気に近づけないオークたちに確実にダメージを与えていった。特に柔らかい部分を狙って突いていく。俺の武器は木の棒なので、頑丈なオークを叩くと折れる可能性が高い。だから、おのを振り上げたやつの脇や首、目などを徹底して突く。
 やがて、一匹、また一匹と戦意を喪失そうしつして地面にうずくまる。
 プギャーアアアッ!
 ついに最後の一匹が、あごの下を突き刺されて倒れ込んだ。
 俺は、倒れてもがくオークに、一匹ずつ確実にとどめを刺していった。
 残酷ざんこく? ああ、そうだな、残酷だ。だが、その言葉は、ぬるま湯のような世界に生きているからこそ言える言葉だ。
 俺が転生したこの世界は、生きるか死ぬかの厳しい世界だ。
 生き残りたいから、容赦なく殺す。
 そうしなければ、自分が死ぬだけだ。俺はこの世界で天寿てんじゅを全うしたいから、必要ならばためらいなく殺す、それだけだ。

『初めてのオーク討伐、お疲れ様でした。そしておめでとうございます』
(ああ、ありがとう。さて、後始末をするか)

 四匹のオークから魔石を抜き取ると、死体を一か所にまとめておく。後で自警団に知らせて、処理してもらおう。
 その後、俺は湖の周囲の結界石を見に行った。

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