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7 パルトスの街
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故郷のラトス村からほとんど等距離に、タナトスとパルトスという二つの街がある。東に向かうと隣国ローダス王国に国境を接する砦の街タナトスがあり、西に向かうと王都に向かう途中の最初の街であるパルトスがある。
俺は、一度は王都アウグストを見たかったので、分かれ道を西に向かいパルトスの街を目指した。辺境の村ラトスからパルトスまでは、順調に歩けば約二週間の距離だ。
で、俺の旅はというと……。
『マスター、左から二匹、来ます』
(おうっ、分かっている。あと、五匹か、こなくそっ!)
今日も今日とて、道のわきで野宿をしようと、適当な岩場を見つけてたき火を起こした途端、森の方からランドウルフの群れが現れたのだ。
二日前はゴブリンの集団六匹が襲って来たし、その前の日はスライム十数匹が行く手を塞いで日向ぼっこをしていた。
「はあ~……旅に出てまだ一週間だってのに、もう三回も魔物に襲われてるぞ。いったいどういうわけだ? 他の奴らもこんなに頻繁に襲われているのか?」
三十分近くの格闘の末、ようやく八匹の狼の群れを駆逐した俺は、ぐったりと地面に座り込んで愚痴をこぼした。
『いいえ、これは異常なエンカウント率です。さすがマスターですね。異能者の称号は伊達ではありません』
(いやいや、そんな能力、全然うれしくないから……あ、思い出した。おい、ナビ、あの時の続きを話してもらおうか?)
『どの時でしょうか?』
(ほら、オークを倒す前……神の謝罪とかなんとか言ってただろう?)
俺は森の側まで行ってたきぎを拾いながら、ナビを問い詰めた。
『マスター、森の奥に強い魔力反応が……』
(ああ、ずいぶん遠くだな。大丈夫だ)
ナビは、ごまかしが効かないことを覚悟したのか、慎重な様子で語り始めた。
『私の知識は、マスターの成長に合わせて与えるように神に命じられています。これからお話しすることは、まだ与える予定ではありませんでした。しかし、マスターの精神年齢から判断して、私の独断で知識を与えることにします』
(そうか……やはり神は実在するんだな? つまり、俺は神の意志で地球からこの世界に転生させられた、ということか?)
『はい。ただ、マスターの場合は少し事情がありまして……本来なら、地球で魂の輪廻の輪に入って、百年後くらいに生まれ変わるはずだったのですが……輪廻の輪の中には入れなかったのです……』
(は? それって、どういうことよ?)
『はい、簡単に言うと、まだ死ぬ予定ではなかったということですね。まあ、珍しいことではありません。たまにあるんです。最近はけっこう増えましたね』
(……つまり、俺は、死ななくてもいいのに死んで、しかもこんな〝力なきものは死ね〟的な厳しい世界に放り込まれたってことか?)
『まあ、平たく言うと……』
(平たくもへったくれもあるかっ! 俺が何をした? 真面目に一生懸命働いて、働いて、何も悪いことはしてねえのに、そりゃあ、少しはスケベ心を抱いたこともあるさ、でも、それだけだぞ、それなのに、それなのに……死ぬ予定じゃなかっただぁ? ふざけるなっ!)
俺は荒れた。十歳の少年が何か喚きながら、野原を歩き回る姿はさぞかし不気味なものだったろう。
ナビはしばらくの間何も言わず、荒れ狂う俺を放っておいた。
一時間後、俺は疲れ果てて、たき火の側で毛布にくるまって寝転んでいた。
『マスターのお怒りはごもっともです。やはり、まだお話しするのは早すぎましたね。もっと、マスターが力をつけ、この世界を楽しみ、愛するようになるまで明かすべきではありませんでした。私の判断ミスです』
(……)
『ただ、これだけはご理解ください。神はマスターへの謝罪として、経験値取得率の二倍アップ、全属性魔法取得可能という「異能」とともに、「私」という史上最強のパートナーをお与えになったのです、ジャジャ~ン♪』
(……)
『……』
(……まあ、考えてみるとさ、元の世界も毎日が地獄のようなものだったな……今の方が、誰にも命令されず、好きなように生きられる分、ましなのかもしれない……魔物と戦うのも、案外嫌いじゃないし……うん、悪くない。ナビ、俺はもう自分の不幸を嘆くことはやめたぞ。この世界で、好きなように生きてやる。というわけで、これからもよろしくな、ナビ……)
『はい、もちろんです! 全力でマスターをサポートいたします』
機械的なナビの声が、心なしか弾んでいるように聞こえた。
実際、ナビは有能だ。普通ならこんな魔物がうろつく野原で、見張りも無しに眠るなど自殺行為に等しい。だが、俺の場合、ナビが常に周囲を監視し、危険な時は俺を目覚めさせて必要な情報を与えてくれるので、安心して眠ることができる。
また、魔物との戦闘の時も、死角にいる魔物の動きを教えてくれるので、余裕をもって対処できるのだ。
ナビ曰く、『まだ自分の能力はこんなものではない』らしい。俺の成長に合わせて、その能力を見せてくれるらしいので、楽しみにしておこう。
さて、それから五日後の朝、俺はようやくパルトスの街の城壁の前に立っていた。
「おお、この世界に来て初めて文明らしきものに出会った感じだな」
城門の前に並んだ様々な種族、様々な格好の人々を見て、興奮を抑えきれなかった。
『さあ、行きましょう、マスター。新しい生活の始まりです』
(ああ、そうだな。楽しみだ)
俺はナビの言葉に頷きながら、人々の列の中に入っていった。
俺は、一度は王都アウグストを見たかったので、分かれ道を西に向かいパルトスの街を目指した。辺境の村ラトスからパルトスまでは、順調に歩けば約二週間の距離だ。
で、俺の旅はというと……。
『マスター、左から二匹、来ます』
(おうっ、分かっている。あと、五匹か、こなくそっ!)
今日も今日とて、道のわきで野宿をしようと、適当な岩場を見つけてたき火を起こした途端、森の方からランドウルフの群れが現れたのだ。
二日前はゴブリンの集団六匹が襲って来たし、その前の日はスライム十数匹が行く手を塞いで日向ぼっこをしていた。
「はあ~……旅に出てまだ一週間だってのに、もう三回も魔物に襲われてるぞ。いったいどういうわけだ? 他の奴らもこんなに頻繁に襲われているのか?」
三十分近くの格闘の末、ようやく八匹の狼の群れを駆逐した俺は、ぐったりと地面に座り込んで愚痴をこぼした。
『いいえ、これは異常なエンカウント率です。さすがマスターですね。異能者の称号は伊達ではありません』
(いやいや、そんな能力、全然うれしくないから……あ、思い出した。おい、ナビ、あの時の続きを話してもらおうか?)
『どの時でしょうか?』
(ほら、オークを倒す前……神の謝罪とかなんとか言ってただろう?)
俺は森の側まで行ってたきぎを拾いながら、ナビを問い詰めた。
『マスター、森の奥に強い魔力反応が……』
(ああ、ずいぶん遠くだな。大丈夫だ)
ナビは、ごまかしが効かないことを覚悟したのか、慎重な様子で語り始めた。
『私の知識は、マスターの成長に合わせて与えるように神に命じられています。これからお話しすることは、まだ与える予定ではありませんでした。しかし、マスターの精神年齢から判断して、私の独断で知識を与えることにします』
(そうか……やはり神は実在するんだな? つまり、俺は神の意志で地球からこの世界に転生させられた、ということか?)
『はい。ただ、マスターの場合は少し事情がありまして……本来なら、地球で魂の輪廻の輪に入って、百年後くらいに生まれ変わるはずだったのですが……輪廻の輪の中には入れなかったのです……』
(は? それって、どういうことよ?)
『はい、簡単に言うと、まだ死ぬ予定ではなかったということですね。まあ、珍しいことではありません。たまにあるんです。最近はけっこう増えましたね』
(……つまり、俺は、死ななくてもいいのに死んで、しかもこんな〝力なきものは死ね〟的な厳しい世界に放り込まれたってことか?)
『まあ、平たく言うと……』
(平たくもへったくれもあるかっ! 俺が何をした? 真面目に一生懸命働いて、働いて、何も悪いことはしてねえのに、そりゃあ、少しはスケベ心を抱いたこともあるさ、でも、それだけだぞ、それなのに、それなのに……死ぬ予定じゃなかっただぁ? ふざけるなっ!)
俺は荒れた。十歳の少年が何か喚きながら、野原を歩き回る姿はさぞかし不気味なものだったろう。
ナビはしばらくの間何も言わず、荒れ狂う俺を放っておいた。
一時間後、俺は疲れ果てて、たき火の側で毛布にくるまって寝転んでいた。
『マスターのお怒りはごもっともです。やはり、まだお話しするのは早すぎましたね。もっと、マスターが力をつけ、この世界を楽しみ、愛するようになるまで明かすべきではありませんでした。私の判断ミスです』
(……)
『ただ、これだけはご理解ください。神はマスターへの謝罪として、経験値取得率の二倍アップ、全属性魔法取得可能という「異能」とともに、「私」という史上最強のパートナーをお与えになったのです、ジャジャ~ン♪』
(……)
『……』
(……まあ、考えてみるとさ、元の世界も毎日が地獄のようなものだったな……今の方が、誰にも命令されず、好きなように生きられる分、ましなのかもしれない……魔物と戦うのも、案外嫌いじゃないし……うん、悪くない。ナビ、俺はもう自分の不幸を嘆くことはやめたぞ。この世界で、好きなように生きてやる。というわけで、これからもよろしくな、ナビ……)
『はい、もちろんです! 全力でマスターをサポートいたします』
機械的なナビの声が、心なしか弾んでいるように聞こえた。
実際、ナビは有能だ。普通ならこんな魔物がうろつく野原で、見張りも無しに眠るなど自殺行為に等しい。だが、俺の場合、ナビが常に周囲を監視し、危険な時は俺を目覚めさせて必要な情報を与えてくれるので、安心して眠ることができる。
また、魔物との戦闘の時も、死角にいる魔物の動きを教えてくれるので、余裕をもって対処できるのだ。
ナビ曰く、『まだ自分の能力はこんなものではない』らしい。俺の成長に合わせて、その能力を見せてくれるらしいので、楽しみにしておこう。
さて、それから五日後の朝、俺はようやくパルトスの街の城壁の前に立っていた。
「おお、この世界に来て初めて文明らしきものに出会った感じだな」
城門の前に並んだ様々な種族、様々な格好の人々を見て、興奮を抑えきれなかった。
『さあ、行きましょう、マスター。新しい生活の始まりです』
(ああ、そうだな。楽しみだ)
俺はナビの言葉に頷きながら、人々の列の中に入っていった。
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