20 / 80
19 初めてダンジョンに挑戦してみた 1
しおりを挟む
当初心配していた、盗賊の襲撃も無く、俺たちは無事にラマータの街に到着した。
「では、三日後にまた護衛をお願いします。宿に使いを送りますので、すみませんが、それまでこの街で待機をお願いします」
王都に本店がある大商会「ビーピル商会」のパルトス支店で働くハンスさんが、丁寧に頭を下げた。
俺たちは彼が予約してくれた宿に向かいながら、二日間の過ごし方を話し合った。
「俺たちは、ギルドで適当な依頼を見つけて稼ぐつもりだ。トーマはどうする?」
「ええっと、俺はダンジョンに行ってみようかなと思っています」
「ダンジョンか……確かにそれも魅力的だな。なあ、ちょっとギルドでダンジョンについて聞いてみないか?」
「はい。俺も初めてなので、聞いてみようと思っていました。行きましょう」
俺たちは方向を変えて、いったんこの街の冒険者ギルドへ向かった。
夕方の混雑時間は過ぎていたので、ギルドの中の冒険者はまばらだった。
「すまない、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」
ジェンスさんが代表して、黒髪のクールビューティな受付嬢の所へ向かった。
「はい、ようこそ当ギルドへ。初めての方ですか?」
「ああ、ついさっきこの街に着いたところだ。それで、ダンジョンのことを聞きたいと思ってな」
「なるほど、承知しました。この街のダンジョンについては、簡単な地図をつけたパンフレットを銀貨2枚で販売しておりますが、いかがですか?」
なるほど、説明時間の節約にもなり、ギルドの収入にもなる、賢い方法だ。
ジェンスさんは、俺たちを振り返った。
「いいですね。俺は一部もらいます」
「うん、あたしたちも一部買いましょう。ラウンジでそれを見ながら相談すればいいし」
「そうだな。じゃあ、二部もらえるか?」
「はい、ありがとうございます。何か分からないことがありましたら、ご質問ください。では、どうぞこちらを」
俺たちはパンフレットを二部買って、ラウンジに移動した。
「ふうん、なるほど……二つのダンジョンがあって、一つは初心者から中級者向け、もう一つは中級以上向けか。トーマはどっちに行くんだ?」
「俺は、ソロだし、ダンジョンは初めてだから初級者用に行きますよ」
「だったら、俺たちと一緒にパーティ組んで中級用に挑戦しないか?」
話の流れから、そういう流れになる事は予想できた。まあ、別にかまわないが、正直言うと面倒くさい。たぶん、ペースも合わないし、俺の能力をあれこれ詮索されるのも嫌だ。何より、一人で自分の力を試し、レベルアップしたい。人付き合い、苦手だし……。
『出ましたね、マスターの孤独癖(ぼっちへき)』
(何とでも言いたまえ。自分勝手は承知の上さ)
「ええっと……それより勝負しませんか?」
「「「「勝負?」」」」
「はい。俺と《赤き雷光》で、どっちが多くダンジョンで稼げるかの勝負です」
「はあ? そりゃあ、当然俺たちが有利だろう?」
「ふふん、それはどうでしょうね。俺は初心者ダンジョンだから、モンスターも弱いだろうし、かなり深くまで潜れると思うんですよ。皆さんは中級以上のダンジョンですから、当然魔物は強い。そうなると、魔物を倒す数は俺の方が多くなると思う。でも、魔石やドロップ品はそちらがより価値が高いはず。どうです? いい勝負になると思いませんか?
それで、負けた方が夕食をおごるんです」
「あはは……どう考えても俺たちに有利だけどな。だが、面白いじゃないか、いいぜ、その勝負受けよう」
ジェンスさんたちは俺の口車にうまく乗ってくれた。
宿へ皆で歩きながら、勝負の細かい決めごとや冗談をわいわい言い合って楽しかった。
翌日、朝食を一緒に食べた俺たちは、さっそくそれぞれのダンジョンに向かって出発した。
終了時間は午後四時、ギルドに五時までに集合となっている。
俺は、ジェンスさんたちと別れると、初級者ダンジョンがある西門の先へ走り出した。
ラマータの街は、ダンジョンを中心に発展したが、街の中にダンジョンがあるわけではない。スタンピード(魔物暴走)などの突発事故を防ぐために、街との間に城壁が作られているのだ。
初級者ダンジョンは、西門から百メートルほど先の小高い丘の上に建てられたパルテノン神殿のような建物の中にあった。ダンジョンの入り口は地下への階段になっている。
今日もたくさんの冒険者たちが、入り口まで行列を作っていた。丘の麓には、食べ物やアイテム、ドロップ品の買い取りや即売所などの出店が並んでいる。
俺はその出店を眺めながら、冒険者たちの列の後ろに並んだ。
「次の方、どうぞ」
約二十分あまり待って、ようやく俺の番が来た。
「お一人ですか?」
入口の前の検問所で、ギルド派遣の受付嬢から訊かれた。
「はい、そうです」
「……分かりました。ギルドカードをお願いします」
たぶん、俺が子どもなので一瞬ためらったのだろう。だが、カードを受け取って魔道具にセットした受付嬢は、俺がCランクと知って驚いたようだった。
「はい、受付完了しました。どうぞお気を付けて」
俺はカードを受け取って礼を言うと、いよいよダンジョンの入り口へと向かった。
階段を下りた先は、ほのかに明るく広い通路が十メートルほど続き、突き当りは金属の壁になっていた。俺の前のパーティが、今、その壁の前で彼らの足元から発生した光に包まれて一瞬のうちに姿を消した。
そう、ここのダンジョンは「転移型」のダンジョンなのだ。
(「転移魔法」って本当にあるんだな……さすが異世界だ)
『はい、転移魔法は無属性空間魔法の一つです。ストレージ魔法、いわゆる収納魔法と同じ種類のものです。二つの異なる空間座標にある転移陣を、仮想空間を中継することによって瞬時に移動が可能となります』
(うん、分からん。空間には仮想と現実の二種類があるのか?)
『少々難しい話になりますが、空間は無限にある、というのが正確な答えでしょう。並行宇宙といった方がマスターには分かりやすいでしょうか。今いるこの世界が現実世界とするなら、並行世界はすべて仮想世界、仮想空間だと言えます』
(ああ、もういい、分かった。要するに、二つの転移陣を別空間経由で一瞬にしてつなぐってことね?)
『はい、そういう認識でいいです』
「おい、さっさと行けよ」
ぼおっと考え事をしていたら、後ろから来たパーティに注意された。
「あ、す、すみません」
慌てて壁の前にある転移陣の上に乗った。薄緑色のまぶしい光が足元から輝き始め、俺は
一瞬気が遠くなるような感覚に襲われた後、先ほどと違う場所に立っていた。
「では、三日後にまた護衛をお願いします。宿に使いを送りますので、すみませんが、それまでこの街で待機をお願いします」
王都に本店がある大商会「ビーピル商会」のパルトス支店で働くハンスさんが、丁寧に頭を下げた。
俺たちは彼が予約してくれた宿に向かいながら、二日間の過ごし方を話し合った。
「俺たちは、ギルドで適当な依頼を見つけて稼ぐつもりだ。トーマはどうする?」
「ええっと、俺はダンジョンに行ってみようかなと思っています」
「ダンジョンか……確かにそれも魅力的だな。なあ、ちょっとギルドでダンジョンについて聞いてみないか?」
「はい。俺も初めてなので、聞いてみようと思っていました。行きましょう」
俺たちは方向を変えて、いったんこの街の冒険者ギルドへ向かった。
夕方の混雑時間は過ぎていたので、ギルドの中の冒険者はまばらだった。
「すまない、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」
ジェンスさんが代表して、黒髪のクールビューティな受付嬢の所へ向かった。
「はい、ようこそ当ギルドへ。初めての方ですか?」
「ああ、ついさっきこの街に着いたところだ。それで、ダンジョンのことを聞きたいと思ってな」
「なるほど、承知しました。この街のダンジョンについては、簡単な地図をつけたパンフレットを銀貨2枚で販売しておりますが、いかがですか?」
なるほど、説明時間の節約にもなり、ギルドの収入にもなる、賢い方法だ。
ジェンスさんは、俺たちを振り返った。
「いいですね。俺は一部もらいます」
「うん、あたしたちも一部買いましょう。ラウンジでそれを見ながら相談すればいいし」
「そうだな。じゃあ、二部もらえるか?」
「はい、ありがとうございます。何か分からないことがありましたら、ご質問ください。では、どうぞこちらを」
俺たちはパンフレットを二部買って、ラウンジに移動した。
「ふうん、なるほど……二つのダンジョンがあって、一つは初心者から中級者向け、もう一つは中級以上向けか。トーマはどっちに行くんだ?」
「俺は、ソロだし、ダンジョンは初めてだから初級者用に行きますよ」
「だったら、俺たちと一緒にパーティ組んで中級用に挑戦しないか?」
話の流れから、そういう流れになる事は予想できた。まあ、別にかまわないが、正直言うと面倒くさい。たぶん、ペースも合わないし、俺の能力をあれこれ詮索されるのも嫌だ。何より、一人で自分の力を試し、レベルアップしたい。人付き合い、苦手だし……。
『出ましたね、マスターの孤独癖(ぼっちへき)』
(何とでも言いたまえ。自分勝手は承知の上さ)
「ええっと……それより勝負しませんか?」
「「「「勝負?」」」」
「はい。俺と《赤き雷光》で、どっちが多くダンジョンで稼げるかの勝負です」
「はあ? そりゃあ、当然俺たちが有利だろう?」
「ふふん、それはどうでしょうね。俺は初心者ダンジョンだから、モンスターも弱いだろうし、かなり深くまで潜れると思うんですよ。皆さんは中級以上のダンジョンですから、当然魔物は強い。そうなると、魔物を倒す数は俺の方が多くなると思う。でも、魔石やドロップ品はそちらがより価値が高いはず。どうです? いい勝負になると思いませんか?
それで、負けた方が夕食をおごるんです」
「あはは……どう考えても俺たちに有利だけどな。だが、面白いじゃないか、いいぜ、その勝負受けよう」
ジェンスさんたちは俺の口車にうまく乗ってくれた。
宿へ皆で歩きながら、勝負の細かい決めごとや冗談をわいわい言い合って楽しかった。
翌日、朝食を一緒に食べた俺たちは、さっそくそれぞれのダンジョンに向かって出発した。
終了時間は午後四時、ギルドに五時までに集合となっている。
俺は、ジェンスさんたちと別れると、初級者ダンジョンがある西門の先へ走り出した。
ラマータの街は、ダンジョンを中心に発展したが、街の中にダンジョンがあるわけではない。スタンピード(魔物暴走)などの突発事故を防ぐために、街との間に城壁が作られているのだ。
初級者ダンジョンは、西門から百メートルほど先の小高い丘の上に建てられたパルテノン神殿のような建物の中にあった。ダンジョンの入り口は地下への階段になっている。
今日もたくさんの冒険者たちが、入り口まで行列を作っていた。丘の麓には、食べ物やアイテム、ドロップ品の買い取りや即売所などの出店が並んでいる。
俺はその出店を眺めながら、冒険者たちの列の後ろに並んだ。
「次の方、どうぞ」
約二十分あまり待って、ようやく俺の番が来た。
「お一人ですか?」
入口の前の検問所で、ギルド派遣の受付嬢から訊かれた。
「はい、そうです」
「……分かりました。ギルドカードをお願いします」
たぶん、俺が子どもなので一瞬ためらったのだろう。だが、カードを受け取って魔道具にセットした受付嬢は、俺がCランクと知って驚いたようだった。
「はい、受付完了しました。どうぞお気を付けて」
俺はカードを受け取って礼を言うと、いよいよダンジョンの入り口へと向かった。
階段を下りた先は、ほのかに明るく広い通路が十メートルほど続き、突き当りは金属の壁になっていた。俺の前のパーティが、今、その壁の前で彼らの足元から発生した光に包まれて一瞬のうちに姿を消した。
そう、ここのダンジョンは「転移型」のダンジョンなのだ。
(「転移魔法」って本当にあるんだな……さすが異世界だ)
『はい、転移魔法は無属性空間魔法の一つです。ストレージ魔法、いわゆる収納魔法と同じ種類のものです。二つの異なる空間座標にある転移陣を、仮想空間を中継することによって瞬時に移動が可能となります』
(うん、分からん。空間には仮想と現実の二種類があるのか?)
『少々難しい話になりますが、空間は無限にある、というのが正確な答えでしょう。並行宇宙といった方がマスターには分かりやすいでしょうか。今いるこの世界が現実世界とするなら、並行世界はすべて仮想世界、仮想空間だと言えます』
(ああ、もういい、分かった。要するに、二つの転移陣を別空間経由で一瞬にしてつなぐってことね?)
『はい、そういう認識でいいです』
「おい、さっさと行けよ」
ぼおっと考え事をしていたら、後ろから来たパーティに注意された。
「あ、す、すみません」
慌てて壁の前にある転移陣の上に乗った。薄緑色のまぶしい光が足元から輝き始め、俺は
一瞬気が遠くなるような感覚に襲われた後、先ほどと違う場所に立っていた。
299
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる