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43 決戦のとき 1
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俺たちが潜入捜査を始めて五日が過ぎた。必要な情報はほぼ出そろった。
「そうか、やっぱりやめるのか……」
俺がその日の仕事を終えて、部長のクライブさんに明日で仕事を辞めると言うと、彼は肩を落としてぽつりとそう言った。
もともと契約期間は一週間だったので一日早いが、俺の後に三人ほど短期希望者が入ったので、仕事は回っていくだろう。
「分かった。これは退職金代わりだ、取っておけ」
彼はそう言うと、小さな皮袋を俺に向かって投げてよこした。
「ありがとうございます。遠慮なくいただいておきます。短い間でしたが、お世話になりました。明日は、仕事が終わったら、そのまま帰らせてもらいます」
「ああ……元気でな」
俺がもう一度頭を下げて去って行こうとすると、クレイグさんがポツリと言った。
「妹を大事にな」
「はい」
俺は小さく頷いて、部屋を出て行った。
領政局を出た俺は、その足で近くにある衛兵官舎へ向かった。今までは用心して近づかなかったが、もうバレても関係ない。明日の夜には、あいつらは腐った牛乳の中で……オホンッ、いや、どうせ叩き潰すのだから。
この時間帯なら、まだダルトンさんは部屋にいるはずだ、と思ったらやっぱりいた。
「おう、トーマ、久しぶりだな。お前がここに直接来たってことは……」
俺は頷いて言った。
「はい、明日の夜中に決行しようと思います。それで、ライナス様にも手筈を説明しておきたいので、ダルトンさんにライナス様の所について来てもらいたいのですが」
「よし、行こう」
ダルトンさんは、興奮を抑えるように低い声でそう言うと、立ち上がった。
♢♢♢
俺は領主館で、ダルトンさんとライナス様に、これまでの調査で分かったこと、推測したことを交えて報告した。
「この短期間で、よくそこまで調べたね。すごいよ」
「まあ、半分は推測ですけれどね。想定外のことが起きることは、十分頭に入れておいてください。でも、大筋は間違っていないと思います」
「トーマ、お前、騎士養成学校に入らないか?」
ダルトンさんが、いきなり変なことを言い始めた。
「俺は、田舎出身の平民ですよ。貴族出身がほとんどの騎士になれるわけありません。まず、試験で落とされますよ」
「いや、そんなことはないぞ。騎士の中には平民出身者もそれなりにいる。それに、お前の実力なら、必ず試験に受かる。この件が済んだら、ライナス様に推薦状を書いていただいて、王都の騎士養成学校を受験しろ」
いやいやいや、何でそんな話になっているんですか。ここは強引に話を元に戻そう。
「俺はこの前も言ったように、冒険者として世界中を旅するのが夢なんです。だから、すみませんが、騎士にはなりません。
それより、明日の襲撃のことです。俺が考えた作戦をお話します。何かご意見があったら後でお願いします」
「あ、ああ、そうだな。まずは目の前のことから片付けないとな」
「トーマ、聞かせてくれ」
よし、軌道修正成功。じゃあ、作戦を公表しますよ。
♢♢♢
翌朝、最後の〈ゴミ回収〉に出かける。ボラッド商会に何か変化がないか、観察したが特に何も変わりはないようだ。
(ここから、《恋する子猫ちゃん》までは、直線距離で約四十メートルくらいか。地下道もそのくらいと考えていいな。走れば十秒足らずで移動できる……)
俺は、作戦を再確認しながら、荷車を牽いて行った。
「おはようございま~す、ゴミの回収に来ました」
「は~い」
《恋する子猫ちゃん》でのゴミ回収も今日が最後だ。
いつものように、ドアを開けてゴミ袋を抱えたポピィが出てくる。俺はゴミ袋を受け取りながら、そっと彼女の手に折りたたんだメモ用紙を渡した。
「今日で最後だ」
「了解です。ご苦労様でした」
俺たちは短い言葉を交わした後、分かれてそれぞれの仕事に戻っていった。
俺はそのまま仕事を終えると、宿に帰って軽く睡眠をとり、夜まで部屋でゆっくり過ごすことにした。
♢♢♢
夜中の三時。街はすでに深い眠りに就き静まり返っている。街灯がない街は暗闇に包まれ、満天の星空がやけに明るく感じられる。
その微かな星明りの中、暗闇の街を足早に移動する三十人ほどの集団があった。やがて、その集団は街角で二つに分かれ、少ない方の十人の集団が、裏町のとある店の前で立ち止まった。
「ポピィ、俺だ」
俺がドアの前で小さな声で呼びかけると、すぐにガチャリと音がして、ドアがそっと開かれた。俺たちは素早く店の中に入った。
「店の奥の廊下を右に曲がった所にある階段下の横の部屋が、バーテンダーのロムさんの部屋です。たぶん、この店の用心棒だと思います」
「分かった」
俺は頷いてから、ライナス様に目を向けた。
「俺が行きます。ライナス様たちは、先に地下室へ移動してください。ポピィ、頼んだぞ」
「分かった」
「はい。では、こちらへ」
ライナス様と衛兵八名が、ポピィに先導されて店の奥に去った後、俺はロムというバーテンダーが眠る部屋に向かった。相手が、どんなスキルを持っているか分からない。不意打ちを食わないように、結界で体を覆ってから、そっとドアを開いた。
幸い、気づかず眠っているようだ。素早く、鑑定で男のステータスを確認する。
***
【名前】 ロム(アンカス) Lv38
【種族】 人族
【性別】 ♂
【年齢】 35
【体力】 418
【物理力】218
【魔力】 187
【知力】 213
【敏捷性】215
【器用さ】350
【運】 133
【ギフト】警備員
【称号】 ルイス・ボラッドの盟約者
【スキル】
〈強化系〉身体強化Rnk5
〈攻撃系〉格闘術Rnk5 暗器術Rnk4
〈防御系〉物理耐性Rnk3 精神耐性Rnk3
毒耐性Rnk2 ※血の盟約
〈その他〉調理Rnk5 話術Rnk3
カクテルブレンドRnk5
***
っ! こいつが、「アンカス」かいっ、偽名使ってたら、そら分からんわっ! こいつが、ボラッド商会のルイスと組んで、裏で好き勝手やってたってことか。
ステータス自体は大したことはないが、何か、ヤバいスキルを持っているな。
(〈血の盟約〉? なんか嫌な感じしかしない。ナビ、分かるか?)
『〈血の盟約〉とは、闇属性の契約魔法の一種です。契約する者同士がいくつかの誓いを立て、それをどちらかが破ったら死ぬという契約をする魔法です。自分の秘密を守るという意味で防御スキルに分類されていますが、どう考えても隷属魔法です。なぜなら、誓いは、片方に都合の良い誓いで良いわけですから』
(なるほどな。自分が知らない所で、裏切られないための口封じ用の魔法ってわけか)
『そういうことです』
よし、とりあえず、こいつは全てが終わるまで退場しておいてもらおうか。
俺は、〈ルーム〉を発動して、そいつが眠るベッドに近づいた。そしてそいつの毛布をそっとはぎ取ると、気持ち悪さを我慢しながら、そいつをお姫様抱っこした。
「っ! ん? な、何」
「ほいっ、ばいばい」
そいつは目を覚ましたが、叫び出す前に、〈ルーム〉の中に収納した。生き物を収納したのは初めてだけど、死にはしないよな?
『はい、問題ありません。中の気温と大気状態はこちらの世界と同じです。ただし、時間の経過がこちらと違って、二十分の一ほどになっております』
(ほお、じゃあこちらで一時間経過しても、ルームの中は三分しか経っていないってことか。もしかして、ルームの中に入っていれば、千年くらい生きられるんじゃね?)
と、アホなことを考えている場合じゃない。さて、ポピィたちの所へ行こう。
「そうか、やっぱりやめるのか……」
俺がその日の仕事を終えて、部長のクライブさんに明日で仕事を辞めると言うと、彼は肩を落としてぽつりとそう言った。
もともと契約期間は一週間だったので一日早いが、俺の後に三人ほど短期希望者が入ったので、仕事は回っていくだろう。
「分かった。これは退職金代わりだ、取っておけ」
彼はそう言うと、小さな皮袋を俺に向かって投げてよこした。
「ありがとうございます。遠慮なくいただいておきます。短い間でしたが、お世話になりました。明日は、仕事が終わったら、そのまま帰らせてもらいます」
「ああ……元気でな」
俺がもう一度頭を下げて去って行こうとすると、クレイグさんがポツリと言った。
「妹を大事にな」
「はい」
俺は小さく頷いて、部屋を出て行った。
領政局を出た俺は、その足で近くにある衛兵官舎へ向かった。今までは用心して近づかなかったが、もうバレても関係ない。明日の夜には、あいつらは腐った牛乳の中で……オホンッ、いや、どうせ叩き潰すのだから。
この時間帯なら、まだダルトンさんは部屋にいるはずだ、と思ったらやっぱりいた。
「おう、トーマ、久しぶりだな。お前がここに直接来たってことは……」
俺は頷いて言った。
「はい、明日の夜中に決行しようと思います。それで、ライナス様にも手筈を説明しておきたいので、ダルトンさんにライナス様の所について来てもらいたいのですが」
「よし、行こう」
ダルトンさんは、興奮を抑えるように低い声でそう言うと、立ち上がった。
♢♢♢
俺は領主館で、ダルトンさんとライナス様に、これまでの調査で分かったこと、推測したことを交えて報告した。
「この短期間で、よくそこまで調べたね。すごいよ」
「まあ、半分は推測ですけれどね。想定外のことが起きることは、十分頭に入れておいてください。でも、大筋は間違っていないと思います」
「トーマ、お前、騎士養成学校に入らないか?」
ダルトンさんが、いきなり変なことを言い始めた。
「俺は、田舎出身の平民ですよ。貴族出身がほとんどの騎士になれるわけありません。まず、試験で落とされますよ」
「いや、そんなことはないぞ。騎士の中には平民出身者もそれなりにいる。それに、お前の実力なら、必ず試験に受かる。この件が済んだら、ライナス様に推薦状を書いていただいて、王都の騎士養成学校を受験しろ」
いやいやいや、何でそんな話になっているんですか。ここは強引に話を元に戻そう。
「俺はこの前も言ったように、冒険者として世界中を旅するのが夢なんです。だから、すみませんが、騎士にはなりません。
それより、明日の襲撃のことです。俺が考えた作戦をお話します。何かご意見があったら後でお願いします」
「あ、ああ、そうだな。まずは目の前のことから片付けないとな」
「トーマ、聞かせてくれ」
よし、軌道修正成功。じゃあ、作戦を公表しますよ。
♢♢♢
翌朝、最後の〈ゴミ回収〉に出かける。ボラッド商会に何か変化がないか、観察したが特に何も変わりはないようだ。
(ここから、《恋する子猫ちゃん》までは、直線距離で約四十メートルくらいか。地下道もそのくらいと考えていいな。走れば十秒足らずで移動できる……)
俺は、作戦を再確認しながら、荷車を牽いて行った。
「おはようございま~す、ゴミの回収に来ました」
「は~い」
《恋する子猫ちゃん》でのゴミ回収も今日が最後だ。
いつものように、ドアを開けてゴミ袋を抱えたポピィが出てくる。俺はゴミ袋を受け取りながら、そっと彼女の手に折りたたんだメモ用紙を渡した。
「今日で最後だ」
「了解です。ご苦労様でした」
俺たちは短い言葉を交わした後、分かれてそれぞれの仕事に戻っていった。
俺はそのまま仕事を終えると、宿に帰って軽く睡眠をとり、夜まで部屋でゆっくり過ごすことにした。
♢♢♢
夜中の三時。街はすでに深い眠りに就き静まり返っている。街灯がない街は暗闇に包まれ、満天の星空がやけに明るく感じられる。
その微かな星明りの中、暗闇の街を足早に移動する三十人ほどの集団があった。やがて、その集団は街角で二つに分かれ、少ない方の十人の集団が、裏町のとある店の前で立ち止まった。
「ポピィ、俺だ」
俺がドアの前で小さな声で呼びかけると、すぐにガチャリと音がして、ドアがそっと開かれた。俺たちは素早く店の中に入った。
「店の奥の廊下を右に曲がった所にある階段下の横の部屋が、バーテンダーのロムさんの部屋です。たぶん、この店の用心棒だと思います」
「分かった」
俺は頷いてから、ライナス様に目を向けた。
「俺が行きます。ライナス様たちは、先に地下室へ移動してください。ポピィ、頼んだぞ」
「分かった」
「はい。では、こちらへ」
ライナス様と衛兵八名が、ポピィに先導されて店の奥に去った後、俺はロムというバーテンダーが眠る部屋に向かった。相手が、どんなスキルを持っているか分からない。不意打ちを食わないように、結界で体を覆ってから、そっとドアを開いた。
幸い、気づかず眠っているようだ。素早く、鑑定で男のステータスを確認する。
***
【名前】 ロム(アンカス) Lv38
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【性別】 ♂
【年齢】 35
【体力】 418
【物理力】218
【魔力】 187
【知力】 213
【敏捷性】215
【器用さ】350
【運】 133
【ギフト】警備員
【称号】 ルイス・ボラッドの盟約者
【スキル】
〈強化系〉身体強化Rnk5
〈攻撃系〉格闘術Rnk5 暗器術Rnk4
〈防御系〉物理耐性Rnk3 精神耐性Rnk3
毒耐性Rnk2 ※血の盟約
〈その他〉調理Rnk5 話術Rnk3
カクテルブレンドRnk5
***
っ! こいつが、「アンカス」かいっ、偽名使ってたら、そら分からんわっ! こいつが、ボラッド商会のルイスと組んで、裏で好き勝手やってたってことか。
ステータス自体は大したことはないが、何か、ヤバいスキルを持っているな。
(〈血の盟約〉? なんか嫌な感じしかしない。ナビ、分かるか?)
『〈血の盟約〉とは、闇属性の契約魔法の一種です。契約する者同士がいくつかの誓いを立て、それをどちらかが破ったら死ぬという契約をする魔法です。自分の秘密を守るという意味で防御スキルに分類されていますが、どう考えても隷属魔法です。なぜなら、誓いは、片方に都合の良い誓いで良いわけですから』
(なるほどな。自分が知らない所で、裏切られないための口封じ用の魔法ってわけか)
『そういうことです』
よし、とりあえず、こいつは全てが終わるまで退場しておいてもらおうか。
俺は、〈ルーム〉を発動して、そいつが眠るベッドに近づいた。そしてそいつの毛布をそっとはぎ取ると、気持ち悪さを我慢しながら、そいつをお姫様抱っこした。
「っ! ん? な、何」
「ほいっ、ばいばい」
そいつは目を覚ましたが、叫び出す前に、〈ルーム〉の中に収納した。生き物を収納したのは初めてだけど、死にはしないよな?
『はい、問題ありません。中の気温と大気状態はこちらの世界と同じです。ただし、時間の経過がこちらと違って、二十分の一ほどになっております』
(ほお、じゃあこちらで一時間経過しても、ルームの中は三分しか経っていないってことか。もしかして、ルームの中に入っていれば、千年くらい生きられるんじゃね?)
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