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65 ジャミール遺跡 2
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冒険の前哨戦ともいうべき、ワイバーン五匹との戦いは、スノウの大活躍もあって俺たちの圧勝に終わった。残り一匹になったワイバーンは、慌てて身をひるがえし逃げ去って行った。完全な脳筋馬鹿ではなかったようだ。
『マスター、地上に落ちたワイバーンはまだ生きています。とどめを刺しましょう』
(ああ、そうだな。スノウ、頼む)
『わかった~』
俺たちは地上に降り立った。幸い周囲は岩や砂に覆われた荒れ地で、ワイバーンが落ちたことによる被害はなかった。
すでに事切れたワイバーンも一匹いたが、残りの三匹はまだ生きており、起き上がってこちらに攻撃をしようとする奴もいた。
俺たちは、それぞれが魔法で一匹ずつ首を落としてとどめを刺した。ちなみに俺とナビが使ったのは、ウィンドカッターの上位版、中級魔法のウィンドスラッシュだ。魔力量も多く必要だが、対象を狙って放つときの、イメージの固定、角度、強度などにかなりの〝意志の強さ・明確さ〟が必要になる。初級と中級の違いなのだろう。
『ワイバーンの爪や皮は貴重な素材です。肉も淡白で美味です。さあ、マスター、解体しましょう』
(待て待て、待て~いっ! 言っておくが、俺は魔石を取り出すくらいしかやったことがないぞ。しかも、こんなドでかいのを四匹も解体なんて、できるかっ!)
『甘いですね、マスター。解体くらいできないと、この先冒険者として生きていけませんよ』
(うっ、で、でもよ、こんなの無理だって……)
『……では、全部解体しなくていいですから、爪と尻尾だけ持っていくことにしましょう』
(ま、まあ、そのくらいなら……でも、ナイフは普通のハンティングナイフだぞ? これで切れるのか?)
『そうですね。では、〈魔力付与〉の練習をしましょうか。これは、武器にも人間にも応用できます』
(おお、付与魔法か、お願いします、ナビさん)
『はい。では、ナイフを見ながら、ナイフ全体を包み込むイメージで、先ほどのウィンドスラッシュの魔法を掛けてください』
(はあ? ちょ、ちょっと待ってくれ。ナイフにウィンドスラッシュの魔法? そんなことしたら俺の手が斬れちゃうぞ?)
『魔法を放つのではなく、属性を付与した魔法で包み込むのです。纏わせると言い換えてもいいでしょう。そうすることで、武器なら、その武器と対象物との間に属性魔法の効果が発動します。切れ味なら風属性、硬さなら土属性というふうに、対象物に与えたい効果によって属性を変えるのです』
(な、なるほど……理屈は分かったけど、魔法って武器に固定できるのか?)
『固定というより、纏わせるのです。当然、魔力との親和性が高い金属の方が、長時間纏わせることができます。例えば、ミスリルや黒鉄がそうですね。逆に鋼鉄は親和性が低いですから、短時間しか纏わせることができません。これは、人間の場合も同じことです』
(なるほどな……じゃ、じゃあさ、もしかして、拳に火属性や水属性の魔法を纏わせて攻撃したりもできるのか?)
『当然できます』
ヒャッハ~~! おい、聞いたか、俺? 『ストフ〇イ』の技が現実に使えるんだぞ。リュ〇や〇鬼みたいに、敵を殴って火だるまにしたり、凍らせたりできるんだ。すげええ!
『浮かれていないで、練習してください』
(は、はい。ええっと、ナイフに風魔法のウィンドスラッシュを纏わせる……んん……なかなか魔力が広がって行かないな……)
『まだ、魔法を放つ癖が出ています。放つのではなく、流し込むようなイメージです』
(分かった。流し込む……流し込む……お、おお、出来たんじゃね?)
『はい、できましたね。では、それでワイバーンの尻尾を切ってみてください』
俺はワクワクしながら、薄緑色の魔力に包まれたナイフを持って、首なしワイバーンの死体に近づいた。そして、尻尾の付け根にナイフをぐっと差し込んだ。
ザクッ!
ひゃああっ! おいおいおいっ、なんだこの切れ味はっ! ほとんど力を入れていないのに半分近くまで切れちゃったぞ。
(す、すげえな……よし、この調子で残りも……って、あ、あれ? 切れない)
『鉄のナイフだと、一回の効果で終わりのようですね。もう一回付与しないといけません』
なるほど。これが付与魔法、いわゆる〈エンチャント〉というやつか。これは相当すごい魔法だぞ。使い方次第で、かなりの強敵でも倒せるな。練習しがいがある。
こうして、俺は付与魔法の練習をしながら、四匹のワイバーンの爪を切り取り、尻尾を切り落として皮を剥いだ。肉も塊に切り分けた。すべての素材を〈ルーム〉に収納した後、残った死体は土魔法で穴を掘って埋めた。
(お待たせ、スノウ。じゃあ、遺跡に行こうか)
『は~い。見てて面白かったよ~、ご主人様。頑張ったね~』
(そうか? ありがとうな。よし、出発していいぞ)
俺は、スノウの背中に上って首元を優しくポンポンと叩いた。
スノウはゆっくりと空に向かって高度を上げていく。地上が見る見るうちに遠くになっていった。
♢♢♢
『さあ、着いたよ、ご主人様~』
(おお、ここがジャミール遺跡か……って、デカっ! いったい何の遺跡なんだ?)
そこに広がっていたのは、例えるなら〝石材の廃棄場〟だろうか。大小無数の石の直方体が一つの村ほどの広さの中に積み重なり、墓標のように突き立っているものも点々と残っている。そして、長い年月の間に、苔むし、蔦やつる草が絡みつき、全体を覆っている。
『かなり古い遺跡ですね。恐らく何かの施設だったのではないかと推測します』
『ここにはね、大昔、ジャミールっていう大きな国があったんだって。エルフの長老が教えてくれたんだ~。でも、世界樹を支配しようとして、神様の怒りに触れ、滅ぼされたって聞いたよ~』
(なるほど……その国が滅んで、その跡地に現在のローダス王国が作られたのか。ここは、いかにも神話の舞台にふさわしい遺跡だな。降りてみるか。スノウ、あそこの少し開けた場所に下ろしてくれ)
『は~い』
俺たちは、何か円形状の庭のような場所に降り立った、石のブロックが敷き詰められているが、所々は剥がれて、そこから雑草や蔦などが生えていた。
(よし、今日はここで野営をするか。スノウ、ここまでありがとうな。木漏れ日亭の皆が心配しているだろうから、帰って安心させてやってくれ)
俺の言葉に、スノウは少し悲し気に顔をすり寄せてきた。
『うん……もっとご主人様と一緒に居たいけど、しかたないね。でも、私が必要になったら、すぐに呼んでね』
(ああ、その時は頼むよ。あ、そうだ、ワイバーンの肉を皆に持って行ってくれないか)
俺はスノウの顎の下を優しく撫でた後、収納からワイバーンの尻尾の肉の塊を取り出した。スノウはそれを口に咥えると、ゆっくりと空中に浮かび上がっていった。
『じゃあね~、ご主人様。気を付けて。帰るときはまた呼んでね~』
スノウは俺の上で何回か輪を描いた後、優雅に空の彼方へ消えて行った。
「さて、いろんな魔物がやって来るらしいから、ちょっと丈夫な寝床でも作りますか」
スノウを見送った後、俺は急に緊張感に包まれて、周囲を警戒しながら行動を開始した。
まずは安全な夜を過ごすためにどうするか考えて、地面の中に寝床を作ることにした。
円形の庭のすぐ近くに、ちょうど周囲に石材が壁のように積み重なった小さなスペースを見つけたので、そのスペースに土魔法で縦穴を掘り、そこから横に穴を広げて居住スペースを作った。壁を固めてからいったん外へ出た。
屋根の材料と薪を集めようと周囲を見回したが、ぽつんぽつんと木はあるものの、近くでは必要な量は集められないようだ。
『マスター、遺跡の周囲には森があります。どんな魔物がいるか、確認するためにも簡単に散策しませんか?』
(ああ、そうだな。どうせ木を集める必要があるから、行くしかないか)
俺はメイスを肩に、身体強化を発動して走り出した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
読んでくださって、ありがとうございます。
皆様の応援が書き続ける力となります。
少しでも面白いと思われたら、📢を押していただくとありがたいです。
『マスター、地上に落ちたワイバーンはまだ生きています。とどめを刺しましょう』
(ああ、そうだな。スノウ、頼む)
『わかった~』
俺たちは地上に降り立った。幸い周囲は岩や砂に覆われた荒れ地で、ワイバーンが落ちたことによる被害はなかった。
すでに事切れたワイバーンも一匹いたが、残りの三匹はまだ生きており、起き上がってこちらに攻撃をしようとする奴もいた。
俺たちは、それぞれが魔法で一匹ずつ首を落としてとどめを刺した。ちなみに俺とナビが使ったのは、ウィンドカッターの上位版、中級魔法のウィンドスラッシュだ。魔力量も多く必要だが、対象を狙って放つときの、イメージの固定、角度、強度などにかなりの〝意志の強さ・明確さ〟が必要になる。初級と中級の違いなのだろう。
『ワイバーンの爪や皮は貴重な素材です。肉も淡白で美味です。さあ、マスター、解体しましょう』
(待て待て、待て~いっ! 言っておくが、俺は魔石を取り出すくらいしかやったことがないぞ。しかも、こんなドでかいのを四匹も解体なんて、できるかっ!)
『甘いですね、マスター。解体くらいできないと、この先冒険者として生きていけませんよ』
(うっ、で、でもよ、こんなの無理だって……)
『……では、全部解体しなくていいですから、爪と尻尾だけ持っていくことにしましょう』
(ま、まあ、そのくらいなら……でも、ナイフは普通のハンティングナイフだぞ? これで切れるのか?)
『そうですね。では、〈魔力付与〉の練習をしましょうか。これは、武器にも人間にも応用できます』
(おお、付与魔法か、お願いします、ナビさん)
『はい。では、ナイフを見ながら、ナイフ全体を包み込むイメージで、先ほどのウィンドスラッシュの魔法を掛けてください』
(はあ? ちょ、ちょっと待ってくれ。ナイフにウィンドスラッシュの魔法? そんなことしたら俺の手が斬れちゃうぞ?)
『魔法を放つのではなく、属性を付与した魔法で包み込むのです。纏わせると言い換えてもいいでしょう。そうすることで、武器なら、その武器と対象物との間に属性魔法の効果が発動します。切れ味なら風属性、硬さなら土属性というふうに、対象物に与えたい効果によって属性を変えるのです』
(な、なるほど……理屈は分かったけど、魔法って武器に固定できるのか?)
『固定というより、纏わせるのです。当然、魔力との親和性が高い金属の方が、長時間纏わせることができます。例えば、ミスリルや黒鉄がそうですね。逆に鋼鉄は親和性が低いですから、短時間しか纏わせることができません。これは、人間の場合も同じことです』
(なるほどな……じゃ、じゃあさ、もしかして、拳に火属性や水属性の魔法を纏わせて攻撃したりもできるのか?)
『当然できます』
ヒャッハ~~! おい、聞いたか、俺? 『ストフ〇イ』の技が現実に使えるんだぞ。リュ〇や〇鬼みたいに、敵を殴って火だるまにしたり、凍らせたりできるんだ。すげええ!
『浮かれていないで、練習してください』
(は、はい。ええっと、ナイフに風魔法のウィンドスラッシュを纏わせる……んん……なかなか魔力が広がって行かないな……)
『まだ、魔法を放つ癖が出ています。放つのではなく、流し込むようなイメージです』
(分かった。流し込む……流し込む……お、おお、出来たんじゃね?)
『はい、できましたね。では、それでワイバーンの尻尾を切ってみてください』
俺はワクワクしながら、薄緑色の魔力に包まれたナイフを持って、首なしワイバーンの死体に近づいた。そして、尻尾の付け根にナイフをぐっと差し込んだ。
ザクッ!
ひゃああっ! おいおいおいっ、なんだこの切れ味はっ! ほとんど力を入れていないのに半分近くまで切れちゃったぞ。
(す、すげえな……よし、この調子で残りも……って、あ、あれ? 切れない)
『鉄のナイフだと、一回の効果で終わりのようですね。もう一回付与しないといけません』
なるほど。これが付与魔法、いわゆる〈エンチャント〉というやつか。これは相当すごい魔法だぞ。使い方次第で、かなりの強敵でも倒せるな。練習しがいがある。
こうして、俺は付与魔法の練習をしながら、四匹のワイバーンの爪を切り取り、尻尾を切り落として皮を剥いだ。肉も塊に切り分けた。すべての素材を〈ルーム〉に収納した後、残った死体は土魔法で穴を掘って埋めた。
(お待たせ、スノウ。じゃあ、遺跡に行こうか)
『は~い。見てて面白かったよ~、ご主人様。頑張ったね~』
(そうか? ありがとうな。よし、出発していいぞ)
俺は、スノウの背中に上って首元を優しくポンポンと叩いた。
スノウはゆっくりと空に向かって高度を上げていく。地上が見る見るうちに遠くになっていった。
♢♢♢
『さあ、着いたよ、ご主人様~』
(おお、ここがジャミール遺跡か……って、デカっ! いったい何の遺跡なんだ?)
そこに広がっていたのは、例えるなら〝石材の廃棄場〟だろうか。大小無数の石の直方体が一つの村ほどの広さの中に積み重なり、墓標のように突き立っているものも点々と残っている。そして、長い年月の間に、苔むし、蔦やつる草が絡みつき、全体を覆っている。
『かなり古い遺跡ですね。恐らく何かの施設だったのではないかと推測します』
『ここにはね、大昔、ジャミールっていう大きな国があったんだって。エルフの長老が教えてくれたんだ~。でも、世界樹を支配しようとして、神様の怒りに触れ、滅ぼされたって聞いたよ~』
(なるほど……その国が滅んで、その跡地に現在のローダス王国が作られたのか。ここは、いかにも神話の舞台にふさわしい遺跡だな。降りてみるか。スノウ、あそこの少し開けた場所に下ろしてくれ)
『は~い』
俺たちは、何か円形状の庭のような場所に降り立った、石のブロックが敷き詰められているが、所々は剥がれて、そこから雑草や蔦などが生えていた。
(よし、今日はここで野営をするか。スノウ、ここまでありがとうな。木漏れ日亭の皆が心配しているだろうから、帰って安心させてやってくれ)
俺の言葉に、スノウは少し悲し気に顔をすり寄せてきた。
『うん……もっとご主人様と一緒に居たいけど、しかたないね。でも、私が必要になったら、すぐに呼んでね』
(ああ、その時は頼むよ。あ、そうだ、ワイバーンの肉を皆に持って行ってくれないか)
俺はスノウの顎の下を優しく撫でた後、収納からワイバーンの尻尾の肉の塊を取り出した。スノウはそれを口に咥えると、ゆっくりと空中に浮かび上がっていった。
『じゃあね~、ご主人様。気を付けて。帰るときはまた呼んでね~』
スノウは俺の上で何回か輪を描いた後、優雅に空の彼方へ消えて行った。
「さて、いろんな魔物がやって来るらしいから、ちょっと丈夫な寝床でも作りますか」
スノウを見送った後、俺は急に緊張感に包まれて、周囲を警戒しながら行動を開始した。
まずは安全な夜を過ごすためにどうするか考えて、地面の中に寝床を作ることにした。
円形の庭のすぐ近くに、ちょうど周囲に石材が壁のように積み重なった小さなスペースを見つけたので、そのスペースに土魔法で縦穴を掘り、そこから横に穴を広げて居住スペースを作った。壁を固めてからいったん外へ出た。
屋根の材料と薪を集めようと周囲を見回したが、ぽつんぽつんと木はあるものの、近くでは必要な量は集められないようだ。
『マスター、遺跡の周囲には森があります。どんな魔物がいるか、確認するためにも簡単に散策しませんか?』
(ああ、そうだな。どうせ木を集める必要があるから、行くしかないか)
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