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66 強者の自覚

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 廃墟の周囲はさほど高くない山々が連なり、地形的には火山の噴火口の中のような感じだ。そして、山の麓まで森が広がっていた、さほど深い森ではないが、一本一本の木々は太く高い。

 俺は森に入る前に、自分のステータスを確認した。前回確認してからかなり時間が経っているし、新しいスキルも幾つか覚えたからな。

***

【名前】 トーマ Lv 29
【種族】 人族(転生)   
【性別】 ♂        
【年齢】 11        

【体力】 508  
【物理力】389
【魔力】 655  
【知力】 882
【敏捷性】530  
【器用さ】615
【運】  230
【ギフト】ナビゲーションシステム         
【称号】 異世界異能者    

【スキル】            
〈強化系〉身体強化Rnk10 
     跳躍Rnk10 
     魔法付与Rnk2
〈攻撃系〉打撃Rnk8 
     刺突Rnk8 
     棒術Rnk8 
     火属性魔法Rnk5 
     風属性魔法Rnk6 
     水属性魔法Rnk1 
     土属性魔法Rnk7 
     闇属性魔法Rnk2 
     光属性魔法Rnk1
     無属性魔法Rnk6
〈防御系〉物理耐性Rnk6 
     精神耐性Rnk8 
     サーチRnk2 
     回避Rnk5 
〈その他〉鑑定Rnk8 
     調合Rnk6 
     テイムRnk2
     視覚共有Rnk2 
     並列思考Rnk2

***

 いやあ、自分で言うのもおかしいけど、はっきり言って〝化け物〟だね。俺を化け物って言っていた戦場の皆さん、すみません、あなたたちが正しかったです。まあ、自分で努力した自覚はあるけど、これは人間の努力だけでどうにかなるようなステータスではない。天恵、そう、はっきり言って天恵です。

 秋も深まって、森は紅葉が始まり、空気もひんやりとしている。思えば、故郷を出てからもう八か月になる。「強くなる」という当初の目標は、かなり早いペースで達成しつつある。まだ、最終目標には遠いけど、今でも大抵の人間には負ける気はしない。
 え? 最終目標は何かって? そりゃあもちろん、ドラゴンとタイマン張って勝利することさ。まあ、伝説や神話には、魔神とか魔人とか、すごい存在が語られているけど、現実に存在しているかどうか不明だからね。現実の存在として最強なのは、やはりドラゴンでしょ。

『マスター、珍しい魔物がいます』
 森に入って、手ごろな木を切り倒して収納しながら進んでいると、ナビがそう報告した。

(ああ、いるな。確かに木の上を移動する魔物は珍しいな。何だろう?)
 俺は〈索敵〉が進化した〈サーチ〉を使って、そいつらの様子を探った。〈サーチ〉のすごい所は、索敵と同じように敵意のある存在を広範囲で察知できる上に、敵を示す赤い点の一つに意識を集中すると、その個体が何をしようとしているのか、具体的な映像として見えるということだ。
 俺は、一番近くの奴に集中して様子を探ってみた。そいつは俺から十メートルほど離れた樹上で、じっと俺の方を見ながら、仲間に何か手で合図を送っていた。
 体の大きさは人間の大人くらいで、上半身が発達した〝猿〟のような魔物だ。

『体毛の色から見て、クリムゾンエイプかと思われます。単体でBランク、集団だとAランクに分類されています。魔法は使いませんが、知能が高く狂暴な魔物です』

(へえ、クリムゾンエイプか。じゃあ、その知能を攪乱してやりますか)
 俺はそう言うと、身体強化と跳躍をを発動し、一番近くで合図を送っていた奴のすぐそばの枝に跳躍した。

「よっ、初めまして!」
「ッ!……」
 そいつはあまりの出来事に硬直してしまい、口をあんぐりと開けたまま、俺をただ見つめていた。

 俺がそのまま闇属性魔法〈麻痺〉を放つと、そいつは硬直したまま木から落下し、地面に激突した。
 
 ウホホッホ、ウホウホッ、キイィィ、キイィィ~~ッ!

 離れた木の上から見ていた残りの二匹は、落ちた仲間をかばうためか、他の仲間を呼び集めるためか分からないが、けたたましい声を上げながら、木を激しく揺さぶり始めた。

「うるせえっ! このっ!」
 俺は近くの一匹に向かって、風の矢(ウィンドアロー)を放った。しかし、さすがはBランクというべきか、魔力感知のスキルを持っているらしく、素早く避けて木の陰に隠れた。
「甘いぜっ!」
 だが、俺は避けられるのも想定して、すでにウィンドスラッシュを放っていた。さすがの知恵ある猿もこれは避けられなかった。ザシュッ、という切り裂き音が響くと同時に、まるで木から吹き出したような血しぶきが上がり、木と共に真っ二つになった魔物が地上に落ちていった。

 三匹目のクリムゾンエイプは、それを見てけたたましい声で叫びながら、一目散に森の奥に消えて行った。

 俺は、二匹の魔物から魔石を切り出すと、死体は土に埋めた。そして、遺跡の拠点へ帰っていった。


♢♢♢

「よし、できた。あとは、中をもう少し広げて壁を土魔法で固めれば完成だ」
 
 俺は、持ち帰った木々の枝打ちをした後、穴の上に三角に組んで蔓で縛り、屋根の形にした。そして、土魔法で土を固めたプレートを二枚作り、その屋根の上に被せた。
 両側面が開いているので換気は問題ない。ただ、雨水が流れ込まないように、やはり土のプレートで半分ほど側面を塞いだ。出入り口の外の穴は、周囲を土魔法でドームで覆い、俺一人が出入りできるくらいの穴を開けた。

 居住スペースに入り、先ず横穴の入り口付近に竈(かまど)を作った。土魔法、大活躍だ。後は、トイレを作れば。すべて完成だ。横穴の一番奥に下に向かって落とし穴を掘る。

 ボコッ! ガラガラガラ……。

 ん? 何か変な音がしたぞ。

『穴の底が抜け落ちたようです。どうやら、ここは天井の上だったようですね』

(ああ、そうか。地下に部屋か通路があったんだな。ほお、するとこの下は、遺跡の地下ダンジョンってことか?)

 俺はニヤリとしながら、さっそく下に下りてみることにした。トイレ作りは後回しだ。俺が唯一使える光魔法ライトを灯して、穴の中に飛び込んでいった。

 そこは地下道のようだった。壁はタイルのようなものでびっしりと覆われている。かなりしっかりとした造りだ。

 地下通路は長い直線で、どっちに進むべきか迷ってしまう。よし、〈サーチ〉を使ってみよう。……ん? 左の通路の先に……うおっ、なんじゃあ? 赤い点がうじゃうじゃいるぞ。しかもこっちに近づいて来てるし。

『マスター、何者か確認できるまで、戦いは避けた方が賢明です。反対側の通路へ行ってみましょう』

(そうだな)

 ナビのアドバイスに従って、俺は通路の右側へ走り出した。すると、二十メートルほど進んだところで、通路が直角に左に曲がっていた。俺はサーチで索敵しながら、左に曲がり、さらに二十メートルほど進んだ。と、急に周囲の壁がなくなり、広い空間に出たことに気づいた。
 俺はライトを二つにして、上の方へ移動させた。

「おお、何だ、ここは……」
 俺の目の前には、ドーム型の天井に覆われたホールのような広い空間があった。
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