58 / 61
連載
75 獣人族と海の向こうの大陸 3
しおりを挟む(だが、漁師たちの話では、最近朝の漁でも何度かお前たちの仲間に襲われたと聞いたぞ)
『ああ、その件については俺も聞いている。だが、それは間違いだ。最近、この辺りにシーサーペントが現れるようになった。だから、何度か人間たちにそれを警告しに行ったが、そのたびに攻撃を受け、仲間が傷つけられたらしい。だからやむを得ず、水魔法で反撃したそうだ』
(なんだ、じゃあ、主に人間たちの誤解によるものだったんだな)
『二年前のことは、俺は知らない。国に帰って調べれば誰か知っている者もいるだろう。だが、俺には無理かもしれない……帰れば捕まるだろうからな』
(そうか、分かった。じゃあ、こうしよう。お前とリラさんには悪いが人質になってもらう。そして、そこにいるお前の部下たちにスーリア族の国に帰ってもらい、二年前の事件について調べて、何か分かったら、ここに報告に帰ってきてもらう。
後は、その結果次第だ。ただ、安心しろ。お前たちは無事に解放してやる。これは俺が約束する)
『分かった。リラは無事なんだな?』
(ああ、俺は何もしていない。だが、なぜ気を失っていたんだ?)
『兄が水魔法で彼女を殺そうとした。俺が咄嗟に水魔法で相殺したから、なんとか無事だったが衝撃で気を失ったんだ。直接当たっていたら、体に穴が開いていただろう』
(そうだったのか。じゃあ、今からお前と部下たちの〈麻痺〉状態を解くから、ちゃんと説得してくれ。それができたら、リラさんと会わせてやる)
『ああ、分かった』
俺はまずザガンの麻痺状態を解いた。ザガンはよろよろと立ち上がると、麻痺状態の五人の部下たちのもとへ近づいていった。
俺は少し離れた場所から、五人の麻痺を解いた。
「「ウゴ! ガウ、ウガウ……」」
「ゴガウッ、ガウガ、ウゴゴ……」
・・・・・・
彼らはしばらくの間、ウゴウゴと話し合っていたが、やがてザガンが五人から離れて、俺の方へ歩いてきた。
『話はついた。部下たちの中に二年前のことを知っている者がいた。彼らが当時の関係者を連れてくるということだ』
(そうか、分かった。じゃあ、今日の昼過ぎ、ここで待っている)
俺の言葉をザガンが部下たちに伝え、彼らは海へ帰っていった。夜明け間近の海に、西に傾いた月の最後の光が、キラキラと波を輝かせていた。
(ここに居たら、お前の義兄の仇を取りにさっきの奴らが来るかもしれない。この崖の上に移動するぞ)
『ああ、分かった……って、え? ちょ、な、何を?』
(じっとしてろよ。よいしょっと)
俺はザガンをひょいと小脇に抱えると、一気に崖の上に跳躍した。
『あ、あ、あなたは、いったい……』
(よし、ここに一晩泊まるための小屋を作るか)
呆気にとられたザガンをよそに、俺は土魔法で直方体の壁を作った。そして近くの林から大量の木の枝を刈り取ってきて、屋根代わりに上に積み重ねた。後は、内部に土魔法でかまどとテーブル、椅子、ベッドを作れば完成だ。そうそう、窓の穴も開けとかないとね。
あっという間に完成した小屋に、ザガンを招き入れて、ベッド代わりの土台の上に〈ルーム〉からマーメイドを取り出した。
「ガウッ! ゴガググ……」
ザガンはまだ気を失っているマーメイドに駆け寄って、優しく髪を撫で始めた。
俺は一応気を利かせて、小屋の外に出て行った。
「さて、リトやバルたちに事情を知らせに行かないとな。冒険者ギルドにいるかな?」
(ザガン、俺はちょっと出かけてくる。食料もついでに買ってくるが、魚でいいか?)
『あ、ああ、大丈夫だ。すまない』
(気にするな。二人でゆっくりしていてくれ)
俺はそう言い残すと、身体強化を発動してブラスタの街へ走り出した。
♢♢♢
俺はいったん宿屋へ帰り、朝が来るのを待った。朝食の時間になって、いかにも、今、目を覚ましたかのように、あくびをしながら食堂のテーブルに着いた。実は本当に眠かった。まあ、仮眠をとったから徹夜というほどではなかったがな。
ゆっくりと朝食を摂った後、市場へ出向き、新鮮な魚を中心に食料を買い込んだ。こういう時、本当に〈ルーム〉は重宝だ。生魚でも、丸一日は余裕で保存できるからな。
食料を買い込んだ後、俺は冒険者ギルドへ向かった。ギルドは朝から賑わっていた。その原因はすぐに分かった。
「お、来た来た、おーい、トーマ、こっちだ」
ガヤガヤと賑やかなラウンジの一角から、バルが手を振って俺を呼んだ。そこには、リトと妹をはじめ、七人ほどの獣人たちが集まっていた。
「紹介するぜ。こいつが話をしていたトーマ、Bランクの冒険者だ」
「その年でBランクとはすごいな。俺はルド、Cランクの冒険者だ。よろしくな」
「同じくCランクのギルだ」
「俺はジオ。ルドたちとパーティを組んでいる。Cランクの弓使いだ」
「あたいはベル、こっちは妹のメル、バルのパーティメンバーよ。あたいたちはまだDランクなの。でも、そこらへんの人間たちには負けないわよ」
「メ、メルです。よろしくお願いします」
「トーマです。よろしくお願いします。皆さんとても強そうなんですが、Bランクの方はいないんですね? あ、いや、見た感じでは俺なんかより強そうだったので」
俺の言葉に、獣人の冒険者たちは苦い顔をして黙り込んだ。
「ああ、まあ、それにはちょっと理由があってな……」
バルが、言いにくそうにそう切り出した。俺は、またてっきり獣人差別かなと思ったが、そうではなかった。バルは続けてこう説明した。
「……ここのギルドは依頼は多いんだ。だが、そのほとんどは漁船の護衛任務なんだよ。討伐依頼もあるにはあるが、どれも、困難なものばかりでな。今回のマーマン討伐もそうだが、シーワームやアーマークラブの討伐も、魔法が使える奴がいないと、物理攻撃だけではとうてい無理なものばかりなんだ。しかも、あいにく俺たち獣人は魔法がほとんど使えない。だから、討伐ポイントが足りずに昇級できないってことさ」
「なるほど、そういうことか。魔物討伐の遠征とかしないのか?」
「ああ、トーマは知らなかったのか。この国ではな、魔物退治は主に騎士団の仕事なんだ。戦闘訓練もかねて、各騎士団が競い合いながら各地の魔物を狩っている。だから、俺たち冒険者に回って来るのは、小さな村を襲うゴブリンや虫型の魔物のような、騎士団がわざわざ出向いて来ない小物か、逆に騎士団の手にも余る海の魔物やワイバーン、ドラゴンのような超大物だけなんだよ」
うわあ、なんかひでえな。いや、逆に考えれば、国が民を守っているいい国とも言えるのか? なんにしろ、冒険者にとっては生きにくい国だな。
「ところで、例の件だが……」
「おう、仲間に声を掛けたら、皆協力してくれることになった。ただな、船はまだ見つかっていないんだ。だが、あてはある。そのためにお前を待っていたんだよ。その爺さんは頑固者だが、強い奴の言うことには耳を貸すんだ。ただ、自分の目にかなった奴しか認めない。だから、お前が……」
「そのお爺さんて、ゼムさんだろう?」
「えっ! お前、ゼム爺さんを知っているのか?」
「ああ、市場のバーツさんに教えてもらった」
「そうか、バーツさんに……だったら、話は早い。今から……」
意気込むバルに、俺は手を上げて制した。
「もう、その必要はなくなったよ」
俺の言葉に、その場にいる全員が唖然として言葉を失った。
「はあ? いったい、何を言っているんだ? まさか、マーマン討伐はもうやらないって言うのか?」
「いや、場合によってはやるさ。まあ、俺の話を聞いてくれ」
俺はそう言って、頭の上に?マークを出している獣人たちに、深夜からの出来事を語って聞かせた。それを聞いた彼らは、一様に呆気にとられ、信じられないといった表情だった。
「……ちょ、ちょっと待ってくれ、頭が混乱してくらくらする。ということは、俺たちは、わざわざ危険を知らせに何度も来てくれたマーマンたちを攻撃したっていうのか?」
ルドが頭を抱えながら尋ねた。
「ああ、そういうことだな。でもまあ、言葉が通じないから仕方がない面もあるよ。マーマンたちもそれについては、そんなに怒っていなかったぜ」
「あ、あんた、なんでマーマンの言葉が分かるの?」
ベルが、なぜか俺の隣に座って腕を掴みながら尋ねた。
「ああ、そうか、言ってなかったな。おれは、そのザガンていう勝った方のマーマンの王子をテイムしたんだ」
「「「「テイムッ!?」」」」
「しーっ、声が大きいよ。あんまり知られたくなかったんだけどな」
「お、お前、本当に何者だよ? 闇魔法にテイムまで使えるなんて」
「まあ、今はそれはどうでもいいだろう? それより、リト、今から、二年前の真実を聞きに行くぞ。マーマンたちに会っても、早まったことはするなよ、いいな?」
俺の言葉に、リトと妹はしっかりと頷いた。
「うん……確かに、父さんがマーマンたちに殺された証拠は無いんだ。ただ、死体の側にマーマンたちがいたって、漁師のおじさんたちが言ってただけで……」
「そうか。真実が分かれば、死んだお父さんも安心するだろう。よし、じゃあ、皆で行くか」
俺はそう言って立ち上がった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
読んでくださって、ありがとうございます。
少しでも面白いと思われたら、📢の応援よろしくお願いします。
306
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。
しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。
全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。
超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!?
万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。
一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。
「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」
――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。
これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。