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75 獣人族と海の向こうの大陸 3
しおりを挟む(だが、漁師たちの話では、最近朝の漁でも何度かお前たちの仲間に襲われたと聞いたぞ)
『ああ、その件については俺も聞いている。だが、それは間違いだ。最近、この辺りにシーサーペントが現れるようになった。だから、何度か人間たちにそれを警告しに行ったが、そのたびに攻撃を受け、仲間が傷つけられたらしい。だからやむを得ず、水魔法で反撃したそうだ』
(なんだ、じゃあ、主に人間たちの誤解によるものだったんだな)
『二年前のことは、俺は知らない。国に帰って調べれば誰か知っている者もいるだろう。だが、俺には無理かもしれない……帰れば捕まるだろうからな』
(そうか、分かった。じゃあ、こうしよう。お前とリラさんには悪いが人質になってもらう。そして、そこにいるお前の部下たちにスーリア族の国に帰ってもらい、二年前の事件について調べて、何か分かったら、ここに報告に帰ってきてもらう。
後は、その結果次第だ。ただ、安心しろ。お前たちは無事に解放してやる。これは俺が約束する)
『分かった。リラは無事なんだな?』
(ああ、俺は何もしていない。だが、なぜ気を失っていたんだ?)
『兄が水魔法で彼女を殺そうとした。俺が咄嗟に水魔法で相殺したから、なんとか無事だったが衝撃で気を失ったんだ。直接当たっていたら、体に穴が開いていただろう』
(そうだったのか。じゃあ、今からお前と部下たちの〈麻痺〉状態を解くから、ちゃんと説得してくれ。それができたら、リラさんと会わせてやる)
『ああ、分かった』
俺はまずザガンの麻痺状態を解いた。ザガンはよろよろと立ち上がると、麻痺状態の五人の部下たちのもとへ近づいていった。
俺は少し離れた場所から、五人の麻痺を解いた。
「「ウゴ! ガウ、ウガウ……」」
「ゴガウッ、ガウガ、ウゴゴ……」
・・・・・・
彼らはしばらくの間、ウゴウゴと話し合っていたが、やがてザガンが五人から離れて、俺の方へ歩いてきた。
『話はついた。部下たちの中に二年前のことを知っている者がいた。彼らが当時の関係者を連れてくるということだ』
(そうか、分かった。じゃあ、今日の昼過ぎ、ここで待っている)
俺の言葉をザガンが部下たちに伝え、彼らは海へ帰っていった。夜明け間近の海に、西に傾いた月の最後の光が、キラキラと波を輝かせていた。
(ここに居たら、お前の義兄の仇を取りにさっきの奴らが来るかもしれない。この崖の上に移動するぞ)
『ああ、分かった……って、え? ちょ、な、何を?』
(じっとしてろよ。よいしょっと)
俺はザガンをひょいと小脇に抱えると、一気に崖の上に跳躍した。
『あ、あ、あなたは、いったい……』
(よし、ここに一晩泊まるための小屋を作るか)
呆気にとられたザガンをよそに、俺は土魔法で直方体の壁を作った。そして近くの林から大量の木の枝を刈り取ってきて、屋根代わりに上に積み重ねた。後は、内部に土魔法でかまどとテーブル、椅子、ベッドを作れば完成だ。そうそう、窓の穴も開けとかないとね。
あっという間に完成した小屋に、ザガンを招き入れて、ベッド代わりの土台の上に〈ルーム〉からマーメイドを取り出した。
「ガウッ! ゴガググ……」
ザガンはまだ気を失っているマーメイドに駆け寄って、優しく髪を撫で始めた。
俺は一応気を利かせて、小屋の外に出て行った。
「さて、リトやバルたちに事情を知らせに行かないとな。冒険者ギルドにいるかな?」
(ザガン、俺はちょっと出かけてくる。食料もついでに買ってくるが、魚でいいか?)
『あ、ああ、大丈夫だ。すまない』
(気にするな。二人でゆっくりしていてくれ)
俺はそう言い残すと、身体強化を発動してブラスタの街へ走り出した。
♢♢♢
俺はいったん宿屋へ帰り、朝が来るのを待った。朝食の時間になって、いかにも、今、目を覚ましたかのように、あくびをしながら食堂のテーブルに着いた。実は本当に眠かった。まあ、仮眠をとったから徹夜というほどではなかったがな。
ゆっくりと朝食を摂った後、市場へ出向き、新鮮な魚を中心に食料を買い込んだ。こういう時、本当に〈ルーム〉は重宝だ。生魚でも、丸一日は余裕で保存できるからな。
食料を買い込んだ後、俺は冒険者ギルドへ向かった。ギルドは朝から賑わっていた。その原因はすぐに分かった。
「お、来た来た、おーい、トーマ、こっちだ」
ガヤガヤと賑やかなラウンジの一角から、バルが手を振って俺を呼んだ。そこには、リトと妹をはじめ、七人ほどの獣人たちが集まっていた。
「紹介するぜ。こいつが話をしていたトーマ、Bランクの冒険者だ」
「その年でBランクとはすごいな。俺はルド、Cランクの冒険者だ。よろしくな」
「同じくCランクのギルだ」
「俺はジオ。ルドたちとパーティを組んでいる。Cランクの弓使いだ」
「あたいはベル、こっちは妹のメル、バルのパーティメンバーよ。あたいたちはまだDランクなの。でも、そこらへんの人間たちには負けないわよ」
「メ、メルです。よろしくお願いします」
「トーマです。よろしくお願いします。皆さんとても強そうなんですが、Bランクの方はいないんですね? あ、いや、見た感じでは俺なんかより強そうだったので」
俺の言葉に、獣人の冒険者たちは苦い顔をして黙り込んだ。
「ああ、まあ、それにはちょっと理由があってな……」
バルが、言いにくそうにそう切り出した。俺は、またてっきり獣人差別かなと思ったが、そうではなかった。バルは続けてこう説明した。
「……ここのギルドは依頼は多いんだ。だが、そのほとんどは漁船の護衛任務なんだよ。討伐依頼もあるにはあるが、どれも、困難なものばかりでな。今回のマーマン討伐もそうだが、シーワームやアーマークラブの討伐も、魔法が使える奴がいないと、物理攻撃だけではとうてい無理なものばかりなんだ。しかも、あいにく俺たち獣人は魔法がほとんど使えない。だから、討伐ポイントが足りずに昇級できないってことさ」
「なるほど、そういうことか。魔物討伐の遠征とかしないのか?」
「ああ、トーマは知らなかったのか。この国ではな、魔物退治は主に騎士団の仕事なんだ。戦闘訓練もかねて、各騎士団が競い合いながら各地の魔物を狩っている。だから、俺たち冒険者に回って来るのは、小さな村を襲うゴブリンや虫型の魔物のような、騎士団がわざわざ出向いて来ない小物か、逆に騎士団の手にも余る海の魔物やワイバーン、ドラゴンのような超大物だけなんだよ」
うわあ、なんかひでえな。いや、逆に考えれば、国が民を守っているいい国とも言えるのか? なんにしろ、冒険者にとっては生きにくい国だな。
「ところで、例の件だが……」
「おう、仲間に声を掛けたら、皆協力してくれることになった。ただな、船はまだ見つかっていないんだ。だが、あてはある。そのためにお前を待っていたんだよ。その爺さんは頑固者だが、強い奴の言うことには耳を貸すんだ。ただ、自分の目にかなった奴しか認めない。だから、お前が……」
「そのお爺さんて、ゼムさんだろう?」
「えっ! お前、ゼム爺さんを知っているのか?」
「ああ、市場のバーツさんに教えてもらった」
「そうか、バーツさんに……だったら、話は早い。今から……」
意気込むバルに、俺は手を上げて制した。
「もう、その必要はなくなったよ」
俺の言葉に、その場にいる全員が唖然として言葉を失った。
「はあ? いったい、何を言っているんだ? まさか、マーマン討伐はもうやらないって言うのか?」
「いや、場合によってはやるさ。まあ、俺の話を聞いてくれ」
俺はそう言って、頭の上に?マークを出している獣人たちに、深夜からの出来事を語って聞かせた。それを聞いた彼らは、一様に呆気にとられ、信じられないといった表情だった。
「……ちょ、ちょっと待ってくれ、頭が混乱してくらくらする。ということは、俺たちは、わざわざ危険を知らせに何度も来てくれたマーマンたちを攻撃したっていうのか?」
ルドが頭を抱えながら尋ねた。
「ああ、そういうことだな。でもまあ、言葉が通じないから仕方がない面もあるよ。マーマンたちもそれについては、そんなに怒っていなかったぜ」
「あ、あんた、なんでマーマンの言葉が分かるの?」
ベルが、なぜか俺の隣に座って腕を掴みながら尋ねた。
「ああ、そうか、言ってなかったな。おれは、そのザガンていう勝った方のマーマンの王子をテイムしたんだ」
「「「「テイムッ!?」」」」
「しーっ、声が大きいよ。あんまり知られたくなかったんだけどな」
「お、お前、本当に何者だよ? 闇魔法にテイムまで使えるなんて」
「まあ、今はそれはどうでもいいだろう? それより、リト、今から、二年前の真実を聞きに行くぞ。マーマンたちに会っても、早まったことはするなよ、いいな?」
俺の言葉に、リトと妹はしっかりと頷いた。
「うん……確かに、父さんがマーマンたちに殺された証拠は無いんだ。ただ、死体の側にマーマンたちがいたって、漁師のおじさんたちが言ってただけで……」
「そうか。真実が分かれば、死んだお父さんも安心するだろう。よし、じゃあ、皆で行くか」
俺はそう言って立ち上がった。
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