散った桜は何処へいく ~失った愛に復活はあるのか~

mizuno sei

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14 礼奈参戦①

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 『ロゼ』を訪ねた日から一週間が過ぎた。この一週間、真由香は毎日胸をどきどきさせながら、優士郎からの連絡を待ち続けた。しかし、まだ何の音沙汰もなかった。
 もちろん、月に一二度しか店に現れない彼のことだ、一週間で答えが出たわけではない。だが、真由香はもう永遠に連絡は来ないような気がしていた。

 真由香はまたスマホに目を向け、手に取ってみる。一日何度も、そして何年間も繰り返されてきた行動だ。指が震えながら電話帳の画面をめくる。しかし、いつのように指はそこで止まり、口からは小さなうめき声が漏れ出る。優士郎へのSNSも、電話も、あの日以来止まっている。

 真由香は怖くて仕方がなかったのだ。やがて来るはずのメッセージや電話だったら、いつまでも待つことができる。でも、通信拒否や電話番号が変えられていたら、もう、それで永遠に優士郎とのつながりは切れてしまう。それは、彼女にとって死刑宣告にも等しかった。それが現実になるのが怖くて、真由香はスマホを使うことができなかった。

 だから、その日突然、優士郎からのSNSでメッセージが届いた時、真由香はそれが現実と理解できるまで長い時間がかかった。
〝ロゼで手紙受け取りました。返事はしばらく待って下さい〟
 真由香は涙でかすむ画面を見つめながら、ゆっくりとメッセージ文を作っていく。
〝はい、いつまでも待っています〟
 たったそれだけの返事を打つのに何分かかっただろう。今は、それだけのことしか言えなかった。全ては、彼に会えたときに伝えるのだ。
 それっきりメッセージは来なかったが、真由香の胸は幸せに満たされていた。娘が昼寝をしているベッドのそばで、床に横たわりながら、真由香はスマホを胸に抱きしめて温かい涙を流し続けた。


 さっきから何度もため息をついて、仕事に身が入らない様子の上司に、飯田礼奈はコーヒーでも入れてやろうと椅子から立ち上がった。

 特捜隊に配属になって一年、優秀な男たちを差し置いて、二十四歳の若さでここまで駆け上がってきた礼奈にとって、鹿島優士郎はずっとあこがれ続けてきた先輩だった。そのあこがれの存在と、今、こうして同じチームで仕事をしている毎日に、礼奈は充実した幸福感でいっぱいだった。必然的に、彼女の注意力と奉仕精神は優士郎に集中することになり、それが愛情に変わるのは時間の問題ではあった。

「どうぞ┅┅」
「おお、グッ・タイミング┅┅相変わらず、気が利くねえ」
 優士郎はいつもの調子でそう言うと、美味しそうにコーヒーを一口すすった。
「礼奈ちゃん、俺には?」
「はいはい、ちゃんとあるわよ」
 外事二課から出向してきた栗木が、中年太りし始めた腹をこちらに向けて、うれしそうにコーヒーカップを受け取る。

「どうしたんですか?鹿島さん┅┅何か悩みでもあるんじゃないですか?」
 自分の分を専用カップに注ぎながら、礼奈は分かっていてあえて探りを入れてみる。
「ん?そんな風に見えたか?┅┅うむ┅┅たぶん、奴のことを考えていたからだろうな」

 当然、心配をかけまいととぼけるのも計算内のことだ。犯罪心理学のスペシャリストである礼奈には、下手なごまかしは通用しない。
 礼奈はそこでいったん引いて、また次の良いタイミングを狙うことにする。

「しかし、なかなか引っ掛かりませんね、奴は。┅┅公安も協力して探しているんですが┅┅」
 コーヒーカップを持ったまま、パソコンを操作しながら栗木が言った。
「いや、逆ですよ。これは公安部の案件で、僕たちが協力しているんです。最初から、僕たちを頼るなんて、本末転倒ですよ」
 公安部所属の栗木は、そう言われて大きな体を縮めるようにして苦笑する。
「それだけヤバイってことですよね┅┅早く奴を見つけ出さないと┅┅」
「ん┅┅でも、二人のおかげで、ずいぶんと絞り込めましたからね┅┅じきに掛かってきますよ┅┅ふむ┅┅でも、掛からないなら、ちょっと揺さぶりをかけてみますか┅┅」
 鹿島はそう言うと、ホワイトボードに三枚の男の顔写真を貼った。

「今、捜索しているこの三人を全国に指名手配します┅┅」
「ええっ、そんな無茶なこと┅┅」
「はい、無茶は承知です。三人の家族には事情を説明して、むしろこの方が早く見つかるからと説得してもらいます。奴があわてて動き出せば、公安が張っている網に引っ掛かる可能性がある┅┅どうですか?」

 飯田と栗木はそれぞれのデスクで、腕や足を組んで考え込む。
「それくらいしないと、事態は動きませんよね」
「ううむ┅┅上が承知するかな┅┅それにマスコミに気づかれて追求されたら┅┅」
「責任はすべて僕が取ります。上には僕が掛け合いますから、飯田君は三人のご家族への説明に行ってもらえますか?栗木さんは、そのまま公安部とのつなぎをお願いします」
「はい、了解しました」
「┅┅わかりました。やってみましょう」
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