散った桜は何処へいく ~失った愛に復活はあるのか~

mizuno sei

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エピローグ

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「優君、真由ちゃん、三回目の結婚記念日、おめでとう!」
 自称小説家和田の声と共に、クラッカーの破裂音と祝福の声が『ロゼ』の店内に響き渡る。結婚以来、毎年この日は店を貸し切りにして、少人数の小さなパーティが開かれる。優士郎と真由香の出会いからこの日までを見てきた、数人の知人たちだ。例外は、飯田礼奈で、彼女は、二人が悲劇的な別れをした後に二人と関わった人物だ。しかし、いつの間にか、『ロゼ』の常連客と親しくなり、今では一番の古株のような顔で店に出入りしている。
この日は、ようやく彼女の心を射止めた特捜隊員の酒井も一緒に来ていた。

「真由ちゃん、予定は何月?」
「五月です。予定日は六日ですけど、その前日に産もうと決めてるんです」
「ああ、真由ちゃんなら本当にやりそうだ。二人目の女の子は、確か九月二十一日、秋分の日だったよね」
 和田が、真由香のふくらんだお腹をそっと撫でながら何度も頷く。

「でも、ちょっとペースが早すぎない?いくら若いって言ってもさぁ、体壊さないようにしないと┅┅優君、ちゃんと真由ちゃんのこと考えてやんなさいよ」
 ルミ子の小言に、優士郎は大げさな仕草で頭を深々と下げた。
「ふふ┅┅いいんですよ、ルミ子さん┅┅わたしが望んでいることですから┅┅まだたくさん優君の赤ちゃん産みたいんです┅┅」
「┅┅んんもう、いじらしいんだから、ほんとにこの子は┅┅」
 涙もろいルミ子は、すぐ泣きべそをかいて真由香の頭を抱きしめる。

「でも、それを罪滅ぼしなんて考えちゃダメだよ。真由香さんが病気になんかなったら、元も子もないんだから┅┅健康で、うんと長生きして、鹿島さんを幸せにしてあげないと┅┅」
「はい┅┅」
礼奈の言葉に、真由香はしっかりと頷いて微笑んだ。

「ところで、君たちの方はどうなんだ?式の予定とか、もう決まったのか?」
 優士郎の問いに、カウンター席でビールを飲んでいた酒井が、思わずむせてビールをこぼした。礼奈は、年上のように酒井をたしなめながらも、ハンカチで優しく酒井の服を拭いてやる。
「い、いやあ、それが┅┅こんな仕事ですから、式の予定立ててもできるかどうか、分からないって彼女が言うもので┅┅じゃあ、取りあえず入籍だけ済ませちゃおうってことになり、先週の金曜日に┅┅」
 皆の驚きの声が店内に響き渡る。そして、その後は祝福の嵐だった。

「ああ、ついに孤高の白百合も手折られる日が来たか、くうう┅┅」
「やめてよ、好きで孤高やってたわけじゃないんだからね┅┅この二人が、もう別れそうにないなって、見切りつけちゃっただけだから┅┅」
 礼奈の半分本気の告白に、優士郎は苦笑し、真由香はべそをかいて礼奈を抱きしめに行き、和田とルミ子は感動して泣きながら抱き合い、酒井はマスターに三杯目のビールをジョッキで頼んで、やけ酒気味に飲み干していく。
 誰もが幸せで、そして誰もがちょっぴりセンチメンタルな夕暮れだった。

 賑やかな会がお開きになった。優士郎と真由香は皆と別れを交わした後、酔い覚ましに少し歩こうということになり、温かい春の夜道を並んで歩いた。
「公園で少し休んでいくか?」
「うん」

 二人は思い出の公園に入り、ベンチに座る。足下の地面は、一面ピンクの花びらで覆われ、今も風の動きに合わせて、少しづつあるいは一斉に花吹雪が舞っていた。
「なんか┅┅あの頃に時間が戻ったみたい┅┅」
「うん、そうだな┅┅真由香はあの頃と少しも変わらない┅┅きれいだ┅┅」
「ゆ、優君もだよ┅┅今でもアイドルで通用するから┅┅」
二人は肩を寄せ合って、お互いにもたれかかる。
「┅┅でも、いつかは、二人も年を取るんだな┅┅」
「うん┅┅おじいちゃんとおばあちゃんになる┅┅」
「ずっと、一緒にいような┅┅」
「うん┅┅ずっと、ずっと一緒だよ┅┅」
 真由香はそう言った後、優士郎の腕を両腕で抱きしめながらささやいた。
「優君┅┅わたしを見つけてくれて、ありがとう┅┅わたしと出会ってくれて┅┅ありがとう┅┅」
 
 強い風が吹き、二人の姿をかき消すように桜の花びらが舞い落ちてゆく。
                                                (完)
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