異世界の路地裏で育った僕、商会を設立して幸せを届けます

mizuno sei

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2巻

2-1

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 第一章 動き出した計画


 ルート・ブロワーは転生者である。前世は工業系の学科に通う普通の高校生で、道原進示みちはらしんじという十七歳の少年だった。
 彼は、ある日不慮ふりょの事故で転落死してしまい、グランデル王国にあるポルージャという街のスラムの一角で、ミーシャという娼婦しょうふの息子として生まれ変わる。
 ルートは、母親や娼婦たちからの愛情をいっぱい受けて、心優しい少年に育っていった。
 温かい人々に囲まれ、ルートはとても幸せだったが、スラム街は社会の最下層である。搾取さくしゅえられず、あるいはそれに反抗してここに逃げ込んだ人々が作った、社会のまり……老人や子供たちが、あたりまえのように行き倒れ、餓死がししてそのしかばねをさらす。
 そんなスラム街の状況をたりにし、ルートは激しく胸を痛め、恐怖を覚えた。その悲惨ひさんな姿は明日の自分、愛する母、その仲間たちかもしれないのだ。
 だから、ルートは強く心にちかった。この悲惨な状況から抜け出し、愛する母やその仲間の娼婦たちを救い出すことを。
 そのためには、『お金を稼ぎながら、多くの人たちが働ける場所』が必要だ。
 ルートは前世の記憶と魔法をかしながら、様々な商品を発明し、商会を作ろうと考えた。
 どんな商品を最初に売り出すか、なやんでいたルートは、ダンジョン探索たんさくのために立ち寄った隣国りんごくの国境の街ボーゲルで、大きなヒントをる。そして、ものや人を早く運ぶための新しい乗り物を作るために、その動力源となる『魔導式蒸気機関まどうしきじょうききかん』を開発するのだった……


   ◇ ◇ ◇


『魔導式蒸気機関』の試運転から三日後、ルートは朝からポルージャの商業ギルドをおとずれていた。
 二日で『魔導式蒸気機関』の全体図、各部品とその材質、実験のときの簡単なデータなどを二部描き上げ、その一部を手に持っていた。特許とっきょ申請しんせいするのである。
 最初、ルートはこのアイデアのきっかけをくれたボーゲルの街の商業ギルドマスター、エドガーに特許を申請しようかと考えた。そして、鍛冶屋かじやの親方をしているボーグに相談したら、彼は今ルートが住んでいるポルージャの商業ギルドに申請すべきだ、と言うのだった。
 たしかに、商会の本店をこの街に置き、生活の本拠地ほんきょちも変えないのならば、商業ギルドや領主ににらまれるのはけたいところだ。
『魔導式蒸気機関』は画期的かっきてきな発明であり、これを使った新しい乗り物は、どれだけ大きな社会的変革へんかくをもたらすか予想もつかない。
 ボーグの意見に納得したルートは、エドガーに申し訳ないと思いつつ、このポルージャの街で特許を申請することにしたのだ。

「おはようございます」
「いらっしゃいませ、ブロワー様、本日はどのようなご用件でしょうか?」

 受付のリディアが、にこやかな顔で応対する。

「ええっと、特許の申請に来たのですが……」
「特許ですか、承知しょうちしました。では、二階へご案内します。どうぞこちらへ」

 リディアのあとについて、階段をのぼり、特許係の窓口まどぐちへ向かう。

「ドランさん、お願いします。申請のかたです」
「はい、了解りょうかいです」

 仕事をしていた四十代くらいの男性職員だんせいしょくいんが、書類を置いて立ち上がる。
 リディアは軽くお辞儀じぎをすると、階下へ下りていった。

「ん? 申請するって、君かい?」
「あ、はい、そうです」

 ドランは客がまだ幼い少年であることに、いぶかしげな表情をした。

「それで、どんなものを申請するのかね?」
「はい、これです」

 ルートは封筒ふうとうに入れた三枚の図面を取り出して、ドランに手渡てわたした。

「ふむ、『魔導式蒸気自動馬車まどうしきじょうきじどうばしゃ』? ……ん? ……ほう。ううむ……」

 図面を眺めながら、ドランは首をひねり、感心し、うなずき、うなごえを上げた。

「これは、実際に完成したのかね?」
「はい、五分の一の大きさの試作品ですが、三日前、動力源の試運転に成功しました」
「そうか……いや、おどろいたよ。こんなの見たこともない、すごいよ。できればその動力源の完成品を見てみたいんだが、持ってこれるかい?」
「ああ、重くて僕一人じゃ無理ですね。工房こうぼうの中に置いてあるんです。見にきていただく分にはかまいませんが……」
「ふむ、分かった、これから見にいこう。ちょっと下で待っててくれないか?」
「あ、はい、分かりました」

 ルートはすぐにでも特許申請の手続きをしたかったのだが、世界中のだれもが初めて見る機械きかいだし、図面だけでは信じられないのかもしれないと思い、ドランとともに工房に向かうことにした。
 ロビーでドランが準備するのを待っていると、周囲の客たちが急にざわめきだす。

「おい、ギルドマスターだぞ」
「なんだろう? 珍しいな。めったに外に出ない人なのに」

 ルートの近くに立っていた男たちが、そんな会話をしている。
 そしてざわめきの中を通り抜け、高価なコートを着た男とドランがルートのもとに近づいてきた。

「待たせたね。こちらは、ここのギルドマスターのベンソンさんだ」

 ドランが隣に立つ男を紹介する。

「あ、初めまして、ルート・ブロワーです」
「うむ。本当に少年なのだな」

 六十代前半くらいの白髪交しらがまじりの茶髪ちゃぱつの老人は、眼鏡めがねの奥から鋭い視線をルートに送った。

「じゃあ、案内してくれ」

 ベンソンにそう言われ、ルートたちは周囲の好奇の視線に見送られ、外に出た。そしてボーグの工房へと向かったのだった。


   ◇ ◇ ◇


「なんだ、あんたまで来たのか?」
ひさしぶりだな、ボーグ。この少年はお前の弟子でしだったのか?」

 ボーグとベンソンは旧知きゅうち間柄あいだがらである。
 うでのいい鍛冶職人として有名なボーグは、商業ギルドにとっても、囲い込んでおきたい大事な取引相手なのだ。

「いや、弟子じゃない。大事な仕事のうえでの相棒あいぼうで、わしらのやとぬしだ」
「お、親方、それはまだ気が早いですよ」
「な、なんと、雇い主だと? この少年がか?」
「うむ、まあ、その話はあとでしよう。あんた、あれを見にきたんだろう? 驚くぞ」

 ボーグはにやりと笑みを浮かべながら、ドランとベンソンを奥へ連れていった。それから十分後、コートを脱ぎ捨てた二人の男たちは、蒸気機関にかじりついて何度も唸り声を上げていた。

「どうやってこんなものを考えついた? 小僧こぞう、お前、誰に教わったんだ? それとも、誰かの設計図をぬすんだのか?」

 ベンソンの言葉を、ルートは腹にえかねたが、つとめて冷静にこう答えた。

「……ああ、ベンソンさん。実はハウネスト聖教国のボーゲルという街の商業ギルドに、エドガーさんというギルドマスターがいるんですが……」
「エドガーだと……やつがどうした?」
「ああ、お知り合いでしたか。いや、そのエドガーさんは、速くて安全な輸送手段ゆそうしゅだんを考えついたら、ぜひ自分のもとに持ってきてくれと、おっしゃっているんです。だから、無理にポルージャのギルドで承認しょうにんしていただかなくても構わないのです」
「む……ま、待て、なにを言っておる……」

 ベンソンは興奮こうふんのあまり、自分がつい失礼なことを口走ってしまったことに気づいたが、子供にあやまることをためらった。

「あ、あの、ブロワー君、もちろんうちのギルドであつかわせてもらうよ、ねえ、ギルマス? あは、はは……」

 ドランの言葉に、ルートは苦々にがにがしい表情でため息をいた。

「どうして固定観念こていかんねんしばられて、人間が持っている色々な可能性や能力をうたがうのでしょうか? 特許なんて取らず、勝手に作って、欲しい人に売りますよ。技術を盗みたければ盗めばいい。そしたら、僕はもっと高度な、誰にも真似できないものを作り出すまでです」

 ルートは今までまっていたうっぷんを晴らすかのように、一気にまくし立てる。
 これまでも、子供だからと能力や成果を疑われたことが度々あったのだ。
 さらに、スラム街で育ったルートは身分や見た目で不当な扱いをされる人をたくさん見てきた。ベンソンにとっては何気ない一言でも、特許の申請をやめにするくらいには、ルートには嫌な気持ちになる一言だったのだ。
 ベンソンとドランは、思いがけない少年の痛烈つうれつな言葉に、青ざめてすぐには返事ができない。

「ルートがそうしたければ、そうするがいい。わしはついていくだけだ」

 ボーグはさっぱりとした顔で、そう言った。
 ベンソンはこめかみをヒクヒクさせながら、ルートを睨みつける。

「こんなとんでもない発明をしておいて、特許も取らず、欲しい人に売るだと? お前はギルドを、いや、この国を敵に回すつもりか?」
「どんな人間にも好きな場所で生きる権利はあります。それさえもうばおうというのなら、とことん戦いますよ」

 ベンソンは深いため息を吐いて、じっと下を向いて考え込んだ。

「わしが謝れば、特許を申請してくれるのか?」
「すぐにそうすべきでしたね。子供だから謝れない、というプライドがなにになるというんです」
「き、君、言葉が過ぎるぞ」
「待て、ドラン……分かった、謝ろう。さっきはつい傷つけるようなことを言ってすまなかった。どうかゆるしてくれ」

 ベンソンがそう言って頭を下げると、ドランも一緒に頭を下げた。

「分かりました、謝罪を受け入れます。申請にはなにが必要でしょうか?」

 ルートの言葉に、二人の男はほっとしたように顔を上げた。

契約書けいやくしょを作らねばならん。カードを持って一緒に来てくれ」
「分かりました、行きましょう。親方、ご迷惑めいわくをおかけしました。行ってきます」
「ああ、また気に入らんことがあったら、さっさと帰ってこい」
「ボーグ、余計なことを……さあ、行くぞ」

 こうして『魔導式蒸気機関』の実物を確認した一行いっこうは、『魔導式蒸気自動馬車』の特許を承認すべく、またポルージャの商業ギルドに向かったのだった。


   ◇ ◇ ◇


 ポルージャの商業ギルドにもどったあと、『魔導式蒸気自動馬車』の特許申請は無事に受理じゅりされ、早々に契約までわされた。
 その内容は、特許使用料を八十万ベニーとすること。今後、使用料が発生した場合は、八十万ベニーのうちその三割をギルドが、七割をルートが受け取ること。特許の維持料いじりょうとして、毎年六万ベニーをギルドに納入のうにゅうすること、などであった。契約の内容は、この世界では一般的なものだ。
 ギルマスのベンソンは、人間的にはいけかない人物だが、ビジネスと割り切って付き合う分には問題はないようである。
 ギルド長室で、ルートはその契約書にサインした。

「これで契約成立だ。口座は今までのものでいいかね?」

 ベンソンはルートと握手を交わしたあと、急に笑顔を浮かべて、そうたずねた。

「はい、構いません。それと、早急に工房を用意したいと思います。従業員を二十名ほど雇える広い工房です。中心街からそれほど遠くなくて、周囲への騒音そうおんとかを気にしなくてもいいような場所は売りに出ていないでしょうか?」

 ルートの問いに、ベンソンは少し考えてから答えた。

「ふむ、そうだな……候補地こうほちはいくつかある。今から見にいくなら、案内させよう」
「お願いします」

 商業ギルドの専用馬車が、ポルージャの街の中をゆっくりと進んでいく。
 ルートは案内役のリディアとともに、工房の候補地を見にきていた。

「この先が最初の物件です」

 馬車の窓から顔を出しながら、リディアが言う。
 そこは、街の中心から北へ三〇〇メートルほど行った川の近くだった。元々は川船かわぶねを使って商品の輸送をしていた業者が、倉庫そうことして使っていた場所だが、王都に移転するということで売りに出されたという。
 倉庫は鉄板製で、屋根が一部こわれていたが、広さ的には問題なかったし、周囲にも住居はなく、騒音の苦情くじょうも心配なさそうだった。

「ふむ……街からもそんなに遠くないし、いい場所ですね」
「ええ、おすすめですよ。この広さで一五〇〇万ベニーはお安いですしね」

 こうして、ルートはリディアの案内で、あと二件の物件を見て回った。

「リディアさん、ついでに商品を販売はんばいする店も探したいのですが、中心街でなくても構いませんから、どこかおすすめの物件はありませんか?」
「なるほど。ふふふ……そういうことなら、このリディアにお任せください」

 リディアは胸を突き出して、こぶしで叩きながらそう言った。
 そして、御者ぎょしゃに指示を出し、しばらくして馬車が止まる。

「ここが、私のイチオシの物件です」

 リディアはそう言って馬車の外に出ていった。ルートもそのあとについていく。
 そこは街の中心から少し西へ行った商店街の一番端だった。市場と教会のちょうど中間くらいの場所だ。さらに北へ行くと川があり、その川沿いに上流へ一五〇メートルほど行くと、最初に見た倉庫の物件がある。
 建物は二階建にかいだてで、横十八メートル、奥行き二十メートルほどの石造いしづくりだった。
 ルートが考えていたものより、少し小さかったが、建物の横に広い停車場があるのはいい。
 もとの持ち主の商人が、店舗兼事務所てんぽけんじむしょとして建てたらしい。年を取って体の具合が悪くなったので、店をたたみ、ガルニアで侯爵家こうしゃくけ騎士きしになった息子のもとに身を寄せることになったとか。

「なかなかいいですね、気に入りました。リディアさん、では、ここと最初に見た倉庫を二件とも購入こうにゅうします」
「えっ、二ついっぺんにですか?」
「はい、いくらになりますか?」
「え、ええっと、こちらの物件は二八〇〇万ベニーですので、両方で四三〇〇万ベニーになります」
「いっぺんに全額ぜんがくお支払いするので、四〇〇〇万ベニーきっちりになりませんか?」

 リディアはうーんと考え込んでいたが、やがて顔を上げてルートを見た。

「三〇〇万となると、ギルマスに相談しないと決められません。でも、お任せください、必ず頷かせてみせます」

 リディアは胸の前で拳をにぎると、ルートに馬車に乗るようにうながした。
 そして、リディアの奮闘ふんとうもあって、ルートは二つの物件を四〇〇〇万ベニーちょうどで購入することができ、その日のうちに購入手続きもすませた。許可が下りたのは、ベンソンの謝罪の気持ちも少しは含まれていたのかもしれない。ともあれ、こうして、ルートは目標だった自分の商会を設立するための、大きな一歩をしたのだった。


   ◇ ◇ ◇


 ルートが『魔導式蒸気自動馬車』の特許を申請してから、あっという間に四か月が過ぎ去った。
 最初に売り出す商品を決め、いざ商会を設立しようとしたものの、ルートはなにから始めればいいのかさっぱり分からなかった。
 そこで、この四か月間は、どうすれば商会を立ち上げられるのか調べたり、各地の商会や商業ギルドに聞き込みにいったり、下準備にたくさん時間を使うことにしたのだ。
 ようやく、商会設立の目処めどがつき、ルートは工房を建てる土地の整備せいびや、商会本店の準備などを頑張がんばろうとしていた。そして、その一方でルートとパーティを組んでいるリーナとジークも、大事な役割を任されている。
 この日、二人は王国の西のてにある、リンドバル辺境伯領へんきょうはくりょうを目指していた。

「いい天気だな」
「ん、よすぎて少しあつい」

 春もなかばにさしかかり、日差しが日ごとに強くなっているように感じられる。
 コルテスの街を出てしばらくすると、周りの景色けしきが、手つかずの自然が残る鬱蒼うっそうとした森になってきた。

「ほら、遠くに雪をかぶった山脈さんみゃくが見えるだろう? あれがグランデル王国と俺の故郷こきょう、サラディン王国との国境にそびえる、アントネシア山脈。通称つうしょうりゅう背骨せぼね』だ」

 ジークが御者席から山脈を指し示しながら、荷台にだいに乗っているリーナに、そう言った。

「すごいね。下はこんなに暑いのに、雪がもってる……ジークはあの山をえてきたの?」
「まさか……空が飛べるなら越えられるだろうがな。俺は船で海を渡ったんだ」
「ん、そうなんだ……それにしても暑い」

 リーナはそう言いながら、手でパタパタと自分に風を送る。

「あの山脈のせいで、雨雲あまぐもがこっちがわにせき止められて、このあたりは雨が多くてあついんだ。逆に山脈の向こう側は雨がらない砂漠さばくの国なんだよ」

 ジークの故郷は過酷かこく環境かんきょうだったのか、過去を思い出すように、いまいましげに山脈の向こうを睨んだ。
 さて、二人がなぜこんな場所に来ているかというと、ルートに、あるものを探してきてくれとたのまれたからだった。それは、『ゴムの木』だ。
 ルートは、雨が多くて気温が高い王国の西のほうには、『ゴムの木』や『コーヒーの木』があるかもしれないと考えた。そして、二人に木の特徴とくちょうを描いた絵と説明書きを渡して、探してみてほしいと頼んだのである。どちらも、今のところこの世界では流通していない。もし見つかれば、大変な発見になる。まさに『かねる木』なのだ。
 リンドバル辺境伯領の領都りょうとリンドバルの街に着いた二人は、早速このあたりで一番大きいという材木を取り扱う商会の場所を聞いて、そこへ出向いた。
 どうやら現場の責任者せきにんしゃは不在なようで、二人はあちこちに木材が山積みされた広場の片隅かたすみにある事務所に通され、お茶を飲みながら待つ。

「用があるっていうのは、お前さんたちか? 俺がここの人夫頭にんぷがしらのロイドだ」

 しばらくすると、二人のもとへ、たくましい体の三十代後半くらいの男があらわれた。

「ああ、そうだ。木のことならあんたが一番くわしいって聞いてね。俺はジーク、こいつはリーナだ。ポルージャから来た」
「ほお、わざわざそんな遠いところから、どんな用で来たんだ?」
「俺もこいつも説明が苦手なんでね、まず、これを見てくれ」

 ジークはそう言って、ルートからあずかってきた木のイラストと説明書きを見せた。

「俺たちのボスが言うには、その二つの木は、黄金おうごんがザクザク手に入るようになる『金の生る木』らしい」
「ふむ……『ゴムの木』に『コーヒーの木』ねぇ……名前は全くちがうが、似たような木は見たことがある。特に、このゴムの木は、説明に書いてあるように、木のみきを傷つけると白い樹液じゅえきが出てくるから間違いないだろう。このあたりじゃ、『ボコダの木』って呼んでいる」

 ジークとリーナは思わず顔を見合わせてよろこった。

「っしゃあ! 『金の生る木』ゲットだぜ。それで、ロイドさんよ、その『ボコダの木』は貴重きちょうな木なのか?」
「いや、まさか……ボコダはこのへんの言葉で『寝小便ねしょうべん』って意味なんだ。もろくて材木にもならねえし、べたべたするし、役立たずでやすしかねえ木さ。こんな木が金になるなんて、なにかの間違いじゃないのか?」
「ふふふ……俺たちのボスが間違うわけがないさ。よし、ロイドさんよ、よく聞け。その『ボコダの木』は全て俺たちで買い取る。ただし、伐採ばっさいするんじゃなく、そこの三枚目に書いてあるように、地面に生えた状態のまま買い取る。リーナ……」

 驚きぽかんとしているロイドに、今度はリーナが契約書を差し出す。

「ん、そこに書いてあるように、直径三十センチの木は五〇〇〇ベニー、それをもとに、十センチ大きくなるごとに一〇〇〇ベニーずつ増やす。逆に、小さくなるごとに一〇〇〇ベニーずつ減らす。五センチ以下の木は残しておいてくれれば、十本ごとに毎年五〇〇〇ベニー払う。これでいいなら、会長さんにサインもらってきて」

 ロイドはわけが分からないまま、この降っていたもうばなしに乗せられて、貯木場ちょぼくじょうの向かいにある商会の本部へ走っていった。
 ジークとリーナがガッツポーズをしながら待っていると、五分ほど経った頃、ロイドとその後ろから太ったどじょうひげの男が、あせきながら走ってきた。

「会長のポチョルさんが、詳しい話を聞きたいそうだ」

 ロイドはあらい息をきながらそう言い、会長らしい太った男はハアハアと息を切らしながら、まだひざに両手をついて下を向いている。

「はあ……はあ……わしが……会長の……ポチョルだ……はあ……ロイドから聞いたが、この契約書の……内容は、本当なのか?」
「ああ、もちろん本当だぜ」
「信じられんな。あの『ボコダの木』にそんな値打ねうちがあるなんて」

 ポチョルはようやく息をととのえて、ひたいの汗を拭きながら二人を見る。

「ああ、まあそうだろうな。実は、さっきロイドさんに渡した紙に書かれている二本の木から、『あるもの』がれるんだ。木そのものを使うわけじゃねぇ。そいつは、市場に出れば馬鹿ばかみたいに売れる。だから、ボスは今のうちに木を確保しておきたいわけだ」
「ん、ボスは天才で神の子、信じるべき。ここに、とりあえず二〇〇万ベニーある。中を確かめて」

 ジークの言葉に頷きながら、リーナも得意げに言った。

「に、二〇〇万……」

 ポチョルとロイドは目を丸くし、差し出された革袋かわぶくろふるえながら受け取った。そして、中に入っている二十枚の金貨に息をんだ。

「た、確かに……で、では、我々は、『ボコダの木』を確保かくほするだけでこの金がもらえるのか?」
「ああ、今はそれだけでいい。木こりたちに、『ボコダの木』を切らないように通達つうたつしてくれ。それと、もう一つの『コーヒーの木』も、あったら切らないようにしてくれ。しばらくしたらまた来るから、よろしく頼むぜ」

 ポチョルはそれを約束し、契約書にサインする。
 こうして、二人は見事ルートの依頼いらいを達成し、意気揚々いきようようとポルージャへの帰路きろいたのだった。


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