神様の忘れ物

mizuno sei

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26 リーリエ式災害対策

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 本日、連投二話目になります。



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 心配していたナスの苗はもちろん、ニンジンやレタスも土が流され、根がむき出しになったり抜けたりしていた。トマトは、支えの木組みごと倒れている。かぼちゃとハーブはいまだに泥水の中だ。

(やられた……去年までは、こんなにひどい嵐は来なかったから油断していたわ。害獣対策に石の塀を作って、それで安心していたのがいけなかったわね……)

「とにかく、やれることだけはやっておきましょう」
 お母さんの言葉に、全員頷いて、手分けして菜園の復旧に当たった。七歳になったロナンもけなげに、抜けたニンジンを手で土に埋め直していた。

(さて、じゃあ、二度とこんなことにならないための対策を始めますか)

 復旧があらかた終わったところで、私は全員に集まってもらい、こう言った。
「もう二度とこんな目に合わないように、今から、この菜園に〈結界〉を張ります」

 私の宣言に、お母さんやおばあちゃんは、もう驚く元気もないといった顔で、プラムはにこりと微笑みながら誇らしげな顔で、そして、ロナンはキラキラした目で憧れのスターを見るような顔で応じた。

「姉さま、すごぉい」

「ふふん、ロナン、やり方を教えるから、あなたも手伝いなさい」

「はいっ、やったあ!」

 私は準備をするために、魔石や道具を取りに部屋に戻った。その後をプラムが、そして尻尾をブンブン振っている子犬のようなロナンがついていった。

♢♢♢

 魔石は高く売れるので、魔物狩りの戦果の中心的な素材の一つだ。私はお父さんにお願いして、魔物狩りの後、自分用に魔石を一個か二個もらっていた。だから、五年間でかなりの量の魔石が貯まっていた。マジックバッグや水洗トイレの魔道具、魔石ランプなどに使ったが、まだたくさん残っていた。

 これは余談になるが、実は地上の魔物とダンジョンの魔物には大きな違いがあることを、後で知った。その違いとは、地上の魔物には血肉があり、ダンジョンの魔物にはそれがないということだ。共通するのはどちらも体内に魔石をもっているということ。
 その理由については、天空神の天地創造の話にまで及ぶので、またいつか話そうと思う。


 さて、結界用の道具を用意した私たちは、再び菜園にやってきた。

「いい? まず、この魔石をこの石の器に入れて、菜園の周り六か所に埋めるの。深さは、そうね、二十五セルリード(二十センチ)くらいでいいわ。蓋も忘れないでね。それと、プラムは、これを私が掘った穴に立ててちょうだい」
 私はロナンとプラムにそう指示を出して、ロナンには魔石を入れた石の器を三個渡し、プラムにはてっぺんに魔石を入れた細長い木の杭を渡した。

「「はい、分かりました」」
 二人は声をそろえて返事をすると、うきうきと作業に取り掛かった。私も三個の石の器を等間隔で埋めていく。

 お母さんとおばあちゃんが、遠くからニコニコ眺めている中で、私たちは、魔石入りの石の器と木の杭を菜園の周囲と真ん中に設置し終わった。

「さあ、じゃあ次よ。この図面を見て」
 私はそう言って、プラムとロナンにメモ帳に描いた図面を見せた。

「なるほど、この丸い点が、今埋めた魔石ですね?」

「正解」

「じゃあ、この線は何なの、姉さま?」

 ロナンの問いに、私は微笑みながら頷いた。
「これは魔力線だよ。この線の通りに魔力を流すの。そして、最後に、線の間がつながって、畑全体をシーツで覆うようなイメージで魔力を流すと、結界ハウスの完成っ!」

 ロナンは、まだわけがわからないまま、私のテンションに合わせて拍手してくれた。
「じゃあ、やってみるね」
 私はそう言うと、一か所の魔石から順番に隣の魔石へ魔力を流していった。入口にするために、一か所は魔力を流さず空けておく。最後に菜園の中央に立てられた高さ二メートルほどの杭のてっぺんに向けて、魔力を流していった。

 ツリー型の「結界野菜ハウス」の出来上がりだ。

 私が満足の笑みを浮かべて、ふうっとため息を吐くと、お母さんとおばあちゃん、そして、ロナンとプラムが私のそばに集まってきた。

「リーリエちゃん、これで終わり?」
 お母さんが、不安そうに尋ねた。

 まあ、それは仕方がない。何しろ、見た目には何も変わっていない、ただ、畑の真ん中に木の杭が一本立っているだけの風景だからね。

「うん、たぶん、うまくできたと思う。正面が入口だから、あとで分かるように柵を作っておくね。ロナン、試しに小石を上に向けてあの杭の辺りに投げてみて」

「う、うん、分かった」
 ロナンも半信半疑で、足元にあった小石を拾い、畑の真ん中めがけて投げた。

 小石は放物線を描いて杭の近くの何もない空間に落ち、なかった。
 
 カツンッ! コロコロ……ポトン……。

「フワッ!」、「ヒエッ!」、「うわあ、すごい、すごおいっ」、「お見事ですっ!」
 お母さんとおばあちゃんの変な声、ロナンの歓声、プラムの静かな賞賛の声が同時に聞こえてきた。

「もう、あなたって子は、なんて天才なの。こんなの、人が見たら、あなたを神か悪魔かって思っちゃうじゃない」
 お母さんは私を抱きしめて頬ずりをしながら、興奮して、褒めているのか貶しているのか分からないようなことを叫んだ。

「あははは……まったく、たまげた子だよ。神様が機嫌悪くならなきゃいいがね」

「ふふ……どう、おばあちゃん? 人間の知恵もなかなかのものでしょう?」

「ああ、大したもんだよ。これって、ずっと効果が続くのかい?」

「うん、魔石はだんだん小さくなるから、取り替えなくちゃいけないけどね」

 おばあちゃんは、何度も小さく頷きながら少し考え込んだ。そして、私を見つめながらこう言った。
「ねえ、リーリエ、この結界を、領地の農家にもやってあげられないかねえ? きっと、みんな害獣や害虫、それに今回のような嵐には打つ手がなくて困っていると思うんだよ」

 私は少し考えてから、こう答えた。
「もちろん、構わないわ。でも、先ず、叔父さんが許してくれなきゃダメでしょう? それに、変に崇められたり、逆に怖がられたり、ねたまれたりしても嫌なのよ。みんなが、これは、少し練習すれば誰にでもできることなんだって、思ってくれるといいんだけどね」

 おばあちゃんは、ため息をついて頷いた。
「そうだね、確かにあんたの言う通りだ。まずは、これが普通に行われているやり方なんだって、布教して回る必要があるね。よし、アレンに話してみるよ」

 おばあちゃんはそう言って、私の頭を優しく撫でると、館の方へ帰っていった。

「ねえ、姉さま、僕にも、これ、出来るかな?」
 ロナンがキラキラした目で、私を見上げた。

「うん、できるよ。じゃあ、小さい結界を作る練習をしようか。お母さんも、やろうね。これを覚えたら、自分の身を守る防御魔法にもなるよ」

「やったあ、うん、やろう、やろう」、「ええっ、私も? できるかなぁ?」
 喜ぶロナンと困惑する母さん、プラムは楽し気に笑いながら、お茶の準備に去っていった。




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