神様の忘れ物

mizuno sei

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38 辺境伯のお気に入り?

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 私は、シーベル男爵に説明したときと同じように、辺境伯に無属性の有能性を語った。

「……なんと、驚くべき事実だな。これまで、無属性は知られていたが、何の役にも立たない属性として誰も研究する者はいなかった。それを、この幼さで解明するとは……」
 ランデール辺境伯は、何回も質問をしながら、無属性魔法の働きとその可能性を理解した。

「リーリエ、私が王都から帰ってきたら、ぜひ、魔導士たちへの指導をよろしく頼む。それと、レブロン殿、そなたたち一家は今、ロマーナ村に住んでいるとか、ここまで毎回通ってくるのは大変であろう。もし、良ければ、イルクスの街に住居を用意したいと思うのだが……」

「あ、いいえ、そのような……」

「何か、都合が悪い事でもあるのか?」

「あの、辺境伯様…実は、今、ランザ村に新しい家を建てている所なのです……」

 私の言葉に、辺境伯は納得したように頷いた。
「そうか……うむ、であれば、これは今回の魔導士たちへの指導についての契約金と住居を建てる資金だと考えてくれ。トーラス、例の物を」

 辺境伯の声に、ドアの所に控えていた執事さんが、辺境伯の事務机の裏へ行って、大きく膨らんだ皮袋を持ってきた。
「どうぞ、お受け取りください」

「こ、こんなにいただいてもよろしいのでしょうか?」

「気にせずともよい。当然の報酬なのだ。もちろん、マジックバッグについては、扱い方が分かり次第、別途に支払うつもりだ」

「はっ、ありがとうございます。では、遠慮なく頂きます」
 お父さんは両手で押し頂いた後、それを腰のポーチに入れた。もちろん亜空間に、である。

「おお、それそれ、私も無属性を習得できれば、その魔法が使えるのだな?」

「ふふ……はい、そうです。習得方法をお教えしますので、辺境伯様も、魔導士さんたちと一緒にしっかり練習してください」

「うむ、王都から帰ったらさっそく練習に励むことにしよう……」
 辺境伯はそう言って、子どものように無邪気な笑顔を見せながら私に手を差し出した。
「よろしく頼む、リーリエ師匠、あはは……」

 私も笑いながらその手を握った。

 こうして、初めての辺境伯との対面は、上々の首尾で終わることができた。私から見た辺境伯は、とても気さくで賢明な人物に見えた。少なくとも、貴族という地位に胡坐(あぐら)をかいて私欲にふけるような人物ではないだろう。
 もっとも、私が彼の手のひらの上で上手く踊らされていただけかもしれないが……。そう思わせるだけの底知れない何かを感じさせる人だった。


《ランデール辺境伯視点》

 例の、エルバートが手放しで〈天才魔導士〉と讃える少女に初めて会った。
 まず、驚いたのが、その年齢に似合わぬ落ち着きようだった。私をちらりと見るその目は、まるで心の中まで見透かすような、澄んだ光を放っていた。
 そして、そのたぐい希(まれ)なる美貌。金色の光を放つ銀の髪、小さく細い顔の中に絶妙に配置された目鼻口……天使が実際にいるなら、こんな姿なのだろうと思う。
 そして、一番驚かされたのは、やはり魔法についての才覚だ。なぜ、この片田舎の辺境の地に、こんな天才が生まれたのだろうか。考えれば考えるほど、わがランデール家のために生まれてきてくれたとしか思えない。

「トーラス、お前はどう見た、あの少女?」
 彼らが去った後、見送りに行って戻って来た我が右腕に尋ねた。

 トーラスは真剣な顔で、しばらく言葉を選んでからこう答えた。
「一言で申すならば、あれは〝化け物〟です。言葉が悪かったらお許しください」

「いや、よい。そうか、やはりそれほどのものか……」
 実は、トーラスは〈鑑定〉のスキル持ちだ。もちろん、そのことは彼と私しか知らない秘密である。そのトーラスが、これほどのことを言うのだから、少し聞くのが怖かったが、思い切って聞いてみた。

「……つまり、それほどのステータスだったのだな?」

 トーラスは頷いて、上着の内ポケットからメモ帳を取り出し、私に見せた。
「ご歓談の間に、手早くメモしたものです」

 私は、そこに記された数値を見て、驚愕のあまり言葉を失った。
「っ! な、なんだこれは……」

「はい、私もメモをしながら手が震えるのを抑えきれませんでした。あの年で、これだけのステータスならば、大人になるころには、おそらく……こんな表現は不穏だとは思いますが……一人で一国を滅ぼせるほどの〝大魔導士〟になっているでしょう」

 トーラスの言葉が全くの誇張でないことを、私は実感せざるを得なかった。

「ううむ……今後、どう扱えばよいのか、難しい問題だな」

 私のつぶやきに、トーラスは安心させるような穏やかな声でこう言った。
「その点は、ご心配には及ばないかと……メモの一番下をご覧ください……」

 そう言われて、私はもう一度メモ帳の一番下に書かれた言葉を見た。
「女神…ラクシス…アポロトス……加護持ち、か? しかも、二柱の神の……」

「はい。その二柱の女神たちが、どのような神々なのかは知りません。が、少なくとも、あの少女から、邪悪なものは一切感じられませんでした。むしろ、清らかな心地よい気をずっと感じておりました。ですから、むしろ我々が為すべきことは、女神たちの怒りを買わないようにすることか、と」

 トーラスの言葉に、私はスーッと悩みや不安が消えてゆくのを感じた。
「うむ、そうだな。あの子に外部からの干渉や悪意が届かぬよう、全力で守ることにしよう。トーラス、さっそく影たちとそのことを計画してくれ」

「はっ、承知いたしました」

 トーラスが頭を下げて去った後、私は椅子の背にもたれながら、あの少女のことを思い出していた。
「なるほど…女神と言われれば納得する……いかん、いかん、年端もいかない少女に、この年になって心を乱されるなどと……それこそ女神の怒りに触れるわ……ふっ……」
 思わず自分に苦笑をしながら、私は気持ちを切り替えて、国王との謁見への準備を始めた。


《リーリエ視点》

 イルクスからの帰り道、お父さんは終始ご機嫌だった。まあ、そりゃあね、二百万グール(日本円で二千万円相当)を手にしたんだから、ご機嫌にもなるよね。

「想像以上に素晴らしいお方だったな、辺境伯様は?」

「うん、貴族らしくない方だったね」
 私はお父さんにそう答えながらも、辺境伯との懇談中、たぶん執事さんからだと思うけど、〈鑑定〉の魔法を受けていたことは話さなかった。やはり、どんなにいい人でも、貴族は抜け目はない。こちらも相応の覚悟を持って付き合わなければならないだろう。

 森の中の心地よい風を受けながら、私はそう考えていた。
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