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47 ガーランド王国へ
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「その情報、どこから入ってきたの? ことと次第によっては、辺境伯様のお力をお借りするかもしれないわ」
私の脅しよりも、プラムの無言の殺気の方がギルマスには効いたのかもしれない。
「い、いや、待て、待て……これは、辺境伯直々(じきじき)の提案なんだよ」
はあ?……やっぱり貴族は信用できなかったってこと? すごいショックなんですけど……。
「お嬢様、これは明らかな契約違反です。すぐに辺境伯家に乗り込みましょう」
「待てっ、頼むから落ち着いてくれ」
ギルマスはソファから立ち上がりかけながら、必死に私たちを引き止めた。
「もちろん、辺境伯からは、絶対に他言無用ということは念押しされている。俺も絶対に誰にも知られないようにする。そのうえでの、辺境伯からの言伝だ……」
「……分かったわ。話を聞いてから判断しましょう」
私の言葉に、ギルマスはほっとしたようにため息をついてソファに座り直した。
「辺境伯様のお考えは、こうだ……」
ギルマスが語った内容は、次の通りだ。
・ 私たちは辺境伯軍の兵士たちと一緒にガーランド王国へ向かう。魔導士隊の所属ということにする。
・ 砦に着いたら、魔導兵器の調整という名目で、砦の上部を覆うように結界を張る。
・ 砦に結界を張り終わったら、ガーランド王国の王都に移動して、街全体を覆う結界を
張る。無理ならば、王城だけでも結界で覆う。
かなりどころか、とんでもなく無茶な要求だ。あの辺境伯、人を何だと思っているの?
「そんなことして、向こうの兵士とか、監視役の人に疑われたりしないの?」
「ああ、それは大丈夫だ。辺境伯の軍の中にガーランド王国の監視役として、近衛騎士が一
人付き添っているそうだ。その騎士に、お前たちが特別な任務で加わっていることを内密に
話を通してあるということだ」
「じゃあ、その騎士は、私たちが結界を張ることを知っているのね?」
「いや、あくまでも特別な任務ということで、結界のことは話していない。その特別な任務
というのは魔物よけの呪術を掛けるという設定だ。覚えておいてくれ」
私とプラムは顏を見合わせた。無茶な要求だったが、無理な要求ではない。ガーランド王国が魔物の侵入を防いでくれることは、この国のためにもなることだ。
「分かったわ。やりましょう」
「おお、そうか、感謝する」
「いいのですか、お嬢様? 相当無茶な話ですが……」
「うん。まあ、それなりの代価はいただかないとね。それと、魔石とマジックポーションを用意してちょうだい」
「ああ、全面的に協力しろとのお達しだ。どのくらい用意すればいい?」
「そうね……王都の広さがどれくらいかによるけど、魔石は二百個は必要でしょうね。ポーションは五十本くらいかな」
「わ、分かった、何とかしよう。出発は来週の十五日だ。朝九時までに広場に来てくれ」
こうして、話は終わり、私たちは応接室を出て階下に下りていった。
ラウンジには、お父さんもいて、皆でサンドイッチをつまみながらお茶を飲んでいた。
「お疲れさん。その顔だと、あまりいい話じゃなかったようだな」
「うん……ここでは話せないから、あとでね。とりあえず、私たちにもお茶をちょうだい。喉が渇いたわ」
♢♢♢
帰りの馬車の中で、私たちは家族にギルマスからの話を伝えた。家族は驚き、私たちが危険にさらされることを心配した。
「魔物と戦うわけじゃないから、だいじょうぶだよ。プラムが一緒だし」
最後の一言で、家族も納得せざるを得なかった。
今やプラムの強さは、家族はもちろん、ギルマスさえAランクと太鼓判を押すほどだ。それは、ひとえに彼女の不断の努力のたまものだ。私やロナンに格闘術を指導する傍らで、自分の鍛錬もずっと続けている。今では、近辺に彼女に勝てる魔物などいなくなった。一度、ギルドの討伐依頼で、討伐隊に混じって〝はぐれオーガ〟を追ったことがあった。そのとき、最初にオーガを見つけ出したのはプラムだった。
実際の戦闘の時は、あまり目立たないように私たちは後方に控えていたが、討伐隊のAランク、Bランクパーティが次々に負傷者を出して苦戦しているのを見て、プラムは後方からオーガの目を狙って数本の特注ナイフを投げた。そのうちの一本が見事オーガの目を射抜き、そのおかげで他のパーティがとどめを刺すことができたのだ。
そんなわけで、私とプラムはガーランド王国へ二週間の予定で向かうことになった。
そして、六月十五日の朝は、昨日まで降っていた雨は上がり、出発にふさわしい天気になった。私たちは、予定の時間少し前に、イルクスの街の広場に到着した。
「じゃあ、くれぐれも気をつけてな。帰るときは連絡をくれ。迎えに行くから」
「うん、ありがとう、お父さん」
お父さんは未練を断ち切るように、手を一回振ると、もう振り返らず馬車の向きを変えて去っていった。
「おはようございます、先生、プラムさん。ご一緒出来て光栄です」
シーベル男爵の魔導士兵団の副隊長、アレアスさんが近づいてきて挨拶した。
「おはようございます、アレアスさん。今回は魔導士さんたちは何人くらい行かれるんですか?」
「はい、八人行きます。皆、先生たちがご一緒なら心強いと申しております。さあ、こちらへどうぞ」
アレアスさんは、そう言って、私たちを辺境伯の救援部隊の方へ案内してくれた。
広場には、辺境伯軍の兵士たちの他に、Aランク、Bランクの冒険者たちも十数名参加していた。
「失礼、君がリーリエ・ポーデット嬢で、そちらがメイドのプラムかな?」
不意に辺境伯軍の中から、一人のまだ三十代前半と思われる立派な身なりの男性が出てきて、そう尋ねた。
「はい、私がリーリエ・ポーデットでこちらがプラムです。あなたは?」
「申し遅れた、私はベイル・ラズモンド、ガーランド王国近衛騎士団に所属している。ランデール辺境伯から、君たちに協力してほしいと頼まれている」
ああ、この人がギルマスが言っていた、監視役の騎士か、真面目なイケメンって感じ?
「はい、伺っております。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「うむ……それにしても…話には聞いていたが、本当に若いな。だが、魔法の腕は超一流とか。楽しみにしているよ」
ラズモンド騎士爵は、そう言ってさわやかに微笑んだ。うっ、いかん、その笑顔は反則やぞ。前世の私なら、いちころで恋に堕ちるところだが、今世の私は違うのだ。
恋愛という、限りある存在の人間同士の営み(愛)ではなく、異世界という、私に与えられた無尽蔵の宝物との営み(人生そのものの喜び)を満喫したいのだ。
「ご期待に沿えるよう、全力を尽くします」
私もにこやかに微笑んでそう答えると、顔見知りたちが待つ辺境軍の中に入って行った。
私の脅しよりも、プラムの無言の殺気の方がギルマスには効いたのかもしれない。
「い、いや、待て、待て……これは、辺境伯直々(じきじき)の提案なんだよ」
はあ?……やっぱり貴族は信用できなかったってこと? すごいショックなんですけど……。
「お嬢様、これは明らかな契約違反です。すぐに辺境伯家に乗り込みましょう」
「待てっ、頼むから落ち着いてくれ」
ギルマスはソファから立ち上がりかけながら、必死に私たちを引き止めた。
「もちろん、辺境伯からは、絶対に他言無用ということは念押しされている。俺も絶対に誰にも知られないようにする。そのうえでの、辺境伯からの言伝だ……」
「……分かったわ。話を聞いてから判断しましょう」
私の言葉に、ギルマスはほっとしたようにため息をついてソファに座り直した。
「辺境伯様のお考えは、こうだ……」
ギルマスが語った内容は、次の通りだ。
・ 私たちは辺境伯軍の兵士たちと一緒にガーランド王国へ向かう。魔導士隊の所属ということにする。
・ 砦に着いたら、魔導兵器の調整という名目で、砦の上部を覆うように結界を張る。
・ 砦に結界を張り終わったら、ガーランド王国の王都に移動して、街全体を覆う結界を
張る。無理ならば、王城だけでも結界で覆う。
かなりどころか、とんでもなく無茶な要求だ。あの辺境伯、人を何だと思っているの?
「そんなことして、向こうの兵士とか、監視役の人に疑われたりしないの?」
「ああ、それは大丈夫だ。辺境伯の軍の中にガーランド王国の監視役として、近衛騎士が一
人付き添っているそうだ。その騎士に、お前たちが特別な任務で加わっていることを内密に
話を通してあるということだ」
「じゃあ、その騎士は、私たちが結界を張ることを知っているのね?」
「いや、あくまでも特別な任務ということで、結界のことは話していない。その特別な任務
というのは魔物よけの呪術を掛けるという設定だ。覚えておいてくれ」
私とプラムは顏を見合わせた。無茶な要求だったが、無理な要求ではない。ガーランド王国が魔物の侵入を防いでくれることは、この国のためにもなることだ。
「分かったわ。やりましょう」
「おお、そうか、感謝する」
「いいのですか、お嬢様? 相当無茶な話ですが……」
「うん。まあ、それなりの代価はいただかないとね。それと、魔石とマジックポーションを用意してちょうだい」
「ああ、全面的に協力しろとのお達しだ。どのくらい用意すればいい?」
「そうね……王都の広さがどれくらいかによるけど、魔石は二百個は必要でしょうね。ポーションは五十本くらいかな」
「わ、分かった、何とかしよう。出発は来週の十五日だ。朝九時までに広場に来てくれ」
こうして、話は終わり、私たちは応接室を出て階下に下りていった。
ラウンジには、お父さんもいて、皆でサンドイッチをつまみながらお茶を飲んでいた。
「お疲れさん。その顔だと、あまりいい話じゃなかったようだな」
「うん……ここでは話せないから、あとでね。とりあえず、私たちにもお茶をちょうだい。喉が渇いたわ」
♢♢♢
帰りの馬車の中で、私たちは家族にギルマスからの話を伝えた。家族は驚き、私たちが危険にさらされることを心配した。
「魔物と戦うわけじゃないから、だいじょうぶだよ。プラムが一緒だし」
最後の一言で、家族も納得せざるを得なかった。
今やプラムの強さは、家族はもちろん、ギルマスさえAランクと太鼓判を押すほどだ。それは、ひとえに彼女の不断の努力のたまものだ。私やロナンに格闘術を指導する傍らで、自分の鍛錬もずっと続けている。今では、近辺に彼女に勝てる魔物などいなくなった。一度、ギルドの討伐依頼で、討伐隊に混じって〝はぐれオーガ〟を追ったことがあった。そのとき、最初にオーガを見つけ出したのはプラムだった。
実際の戦闘の時は、あまり目立たないように私たちは後方に控えていたが、討伐隊のAランク、Bランクパーティが次々に負傷者を出して苦戦しているのを見て、プラムは後方からオーガの目を狙って数本の特注ナイフを投げた。そのうちの一本が見事オーガの目を射抜き、そのおかげで他のパーティがとどめを刺すことができたのだ。
そんなわけで、私とプラムはガーランド王国へ二週間の予定で向かうことになった。
そして、六月十五日の朝は、昨日まで降っていた雨は上がり、出発にふさわしい天気になった。私たちは、予定の時間少し前に、イルクスの街の広場に到着した。
「じゃあ、くれぐれも気をつけてな。帰るときは連絡をくれ。迎えに行くから」
「うん、ありがとう、お父さん」
お父さんは未練を断ち切るように、手を一回振ると、もう振り返らず馬車の向きを変えて去っていった。
「おはようございます、先生、プラムさん。ご一緒出来て光栄です」
シーベル男爵の魔導士兵団の副隊長、アレアスさんが近づいてきて挨拶した。
「おはようございます、アレアスさん。今回は魔導士さんたちは何人くらい行かれるんですか?」
「はい、八人行きます。皆、先生たちがご一緒なら心強いと申しております。さあ、こちらへどうぞ」
アレアスさんは、そう言って、私たちを辺境伯の救援部隊の方へ案内してくれた。
広場には、辺境伯軍の兵士たちの他に、Aランク、Bランクの冒険者たちも十数名参加していた。
「失礼、君がリーリエ・ポーデット嬢で、そちらがメイドのプラムかな?」
不意に辺境伯軍の中から、一人のまだ三十代前半と思われる立派な身なりの男性が出てきて、そう尋ねた。
「はい、私がリーリエ・ポーデットでこちらがプラムです。あなたは?」
「申し遅れた、私はベイル・ラズモンド、ガーランド王国近衛騎士団に所属している。ランデール辺境伯から、君たちに協力してほしいと頼まれている」
ああ、この人がギルマスが言っていた、監視役の騎士か、真面目なイケメンって感じ?
「はい、伺っております。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「うむ……それにしても…話には聞いていたが、本当に若いな。だが、魔法の腕は超一流とか。楽しみにしているよ」
ラズモンド騎士爵は、そう言ってさわやかに微笑んだ。うっ、いかん、その笑顔は反則やぞ。前世の私なら、いちころで恋に堕ちるところだが、今世の私は違うのだ。
恋愛という、限りある存在の人間同士の営み(愛)ではなく、異世界という、私に与えられた無尽蔵の宝物との営み(人生そのものの喜び)を満喫したいのだ。
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