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2 転生した独身OLは、新しい世界を受け入れる
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あれから数日、呆然自失だった私は、ただ流れに身を任せていた。だが、生きている以上、生存本能だけは勝手に働く。寝ることと食べること、今の私にできることはそれだけだ。あ、もう一つ、排泄することも……うう、死にたい……。
そして今、私は本来の「中里衣津美」としての自我を、徐々に取り戻しつつある。
(納得がいかない…んぐ、んぐ……だって、そうでしょう…んぐ……死んだら、天国みたいな所に行ってさ……んぐ、んぐ、ぷは~っ……神様みたいな人に会ってさ、すっごいスキルとかもらってさ……ああ、もういいよ、お母さん……げっぷ……失礼)
私は、口に押し当てられる柔らかい乳首から顔をそむけた。そして、優しく背中を叩かれ、大きなげっぷを吐いた。
(お母さん、か……前世の母さん、会えなくなってまだ一週間くらいだけど……もう、二度と会えないのよね……兄さんや姉さんや弟に比べると、あまり可愛がってもらえた記憶はないけど、やっぱり寂しいな……父さんや兄さん、姉さんも、私にはあまり関心がなかったけど……弟は生意気なだけだったし……って、あれ?……私って、けっこう可哀想な子だった?……まあ、自覚はあったけどね……大学に行きたかったけど、早く働いて一人立ちしろって言われてたし……片思いは何度かしたけど、男性と付き合ったことも一度もないし……うわあ、考えてみると、私の人生って……うう……)
私は少し落ち込んで、グスッっと鼻を鳴らす。すると、〈今のお母さん〉が心配そうな声を出して、私をベッド(たぶん)に寝かせ、暖かい毛布を着せてくれた。ありがとうね。
(……って、違う違う。落ち込んでいる場合ではないのよ。うん、大事なのはこれからの私の人生だ。もう、あんな前世のような死に方はしたくない!)
私は自分でも切り替えは早い方だと思う。というか、それほど未練のある前世ではなかったしね。より良い今回の人生を送るために頑張らないと。うしっ!
(で、よ……ここは私の知らない言葉が使われている外国よね。お母さんはいるし、時々男の人の声が聞こえて、私をやや乱暴に抱き上げるから、お父さんもいる(と思う)。それに、もう一人、頻繁にお母さん以外の、たぶん女の人が私の世話をしてくれる。ほとんどしゃべらないけど、優しい手つきで下のお世話とかしてくれる。時々お母さんと短い会話をしている声から判断すると、若い女の人だ……お姉さんかな?お手伝いさん?……ふああ…眠くなってきた……うん、ひとまず眠ろう……あせっても…しょうがないしね……)
寝て、起きて、食って(飲んで)、考えて、また、寝て……その繰り返しの毎日。
起きている間、私は、唯一の情報源である耳から入ってくる音や声から、周囲の状況の把握と「ことば」の習得に励んでいた。
そして、今日、私は新しい情報源を手に入れた。そう、目が見えるようになったのだ。いや、正確には、ぼんやりとしていた視界が、より鮮明になったのである。私の眼球が、レンズの調節を覚え、脳の視覚中枢が認識を開始したのだ。やった~~!
♢♢♢
新しい情報源を得て、私のこの世界に関する知識は日に日に増えていた。
まず、私の新しい名前は、ジャーン♪〈リーリエ〉、と思われます。だって、〈新しいお母さん〉も〈新しいお父さん〉も、お手伝いの女の子(メイドさんでいいのかな)も、私を見ながら、まず〈リーリエ〉って呼びかけるんだもの。うん、間違いない。可愛いし。
次に、新しい家族ね。お母さんは、多分〈レーニエ〉という名前で、すごく若い。そして、とんでもない美人。緩やかにウェーブがかかった明るい金髪に、澄んだ青空のような青い瞳。透き通るように色が白くて……ああ、こんな人から生まれてきたなんて、それだけで幸せって思うくらい。
そして、〈新しいお父さん〉は、〈レブロン〉。これは間違いない。お母さんがそう呼んでいるから。でも、お母さんは「レビー」って愛称で呼ぶことが多いかな。お父さんは、あまりお母さんを名前では呼ばないのよ。きっと、「マイハニー」とか「麗しの君」とか言ってるんじゃないかしら。いっつもデレデレして、お母さんにキスをしようとするの。まあ、でも、お父さんも若くてイケメンだから許しちゃう。銀髪を伸ばして、後ろに束ねている。薄茶の瞳で身長も高く、筋肉もそれなりについている。どんな仕事をしているのかしら?
もう一人、メイドの女の子、〈プラム〉。十代半ばくらいかしら、美しい黒髪のストレートヘヤーで黒い瞳、あまり背は高くない。元日本人の私からすると、とても親近感がある。おとなしい感じだけど、両親からはとても信頼されているように感じる。
私が寝ている部屋は、それほど広くはないけれど、木造でとても落ち着いた雰囲気の部屋だ。私は天蓋付きの大きなベビーベッドに寝かされている。最近転げ回ることを覚えたが、ベッドの端から端まで転げ回ると、かなり運動になる。そのくらい広い。
ただね、生まれた直後に感じた、あの疑問と不満はいまだに解消されていない。だって、こんな〈生前の記憶〉を持って生まれ変わるなんて、「特別」に決まっているでしょう? それなのに……。
(そうよ、なんで神様とか、女神様とか、会ってくれないの?
「君は前世で苦労したね。今度の人生では楽しく生きられるように、このチートな〈スキル〉を授けてあげよう」
とか言ってさ、すごい能力をくれるんじゃないの?
「ステータス、オープン」とか唱えれば、パソコンのディスプレイみたいなのが開いてさ……そうそう、こんなふうに……って……えっ?……は?……ええええええっ!!)
♢♢♢
驚いた……いや、驚いたなんてもんじゃない、気を失いそうだった……だって、私の目の前には、正確に言うと、ベッドに寝ていた私と天井の間、私から三十センチほど天井に近い位置に、半透明の画面が現れたのだから……。
(こ、これって、ス、ステータス画面よ、ね?)
それは、確かにアニメとかでおなじみのステータス画面のようだった。しかし……。
(なんて書いてあるのか、ぜんぜん分かんな~~い!!)
字が読めなかった……数字らしきものも分からない。まだ、赤ん坊だから仕方がないといえば、そうなのだが……。
(うううっ……ひどい、こんなのって、ある? 普通、〈言語の自動翻訳〉機能くらい、サービスするものでしょう? どのアニメやラノベでも、言葉はすぐに通じてたわよ)
私は涙を流しながら、ひとしきり愚痴をこぼした後、意味が分からないまま、整然と文字や記号が並んだ画面を眺めていたが、ふと、画面の下の方に、前世でもよく使っていた()の付いている文字列が目に留まった。
何気ない気持ちで、その文字列に指を伸ばして、触れた。
その瞬間、その部分が拡大されて別画面が浮き出てきた。何やら選択肢を示すかのように、二つの文字群と矢印マークがある。
(これって、何かの選択肢よね。普通はイエスが前でノーが後ろでしょう? どっちを選ぶべきかしら……ええい、考えても仕方がない。答えはイエスよ、死ぬわけじゃないでしょう? 死なないよね?)
私は、小さな心臓をドキドキさせながら、震える指で矢印に触れ、それを前の方の文字列に移動させ、一呼吸おいて、目をつぶりながらタッチした。
………………………………………………………
………………………………………………………
そおっと目を開いて、画面を眺める……っ!
(うおおおおっ!……)
思わず、赤ん坊らしからぬ声で叫び声を上げてしまった。すると、すぐにバタバタと足音が聞こえてきて、ドアが勢いよく開かれた。
「リーリエお嬢様っ!」
あの黒髪の少女メイドさん〈プラム〉が、日本語で、日本語でよ、私の名前を呼びながら駈け込んできたの……うう、感動……。
(ステータス、クローズ!)
感動しながらも、私は冷静にステータス画面を閉じて、赤ん坊らしい声を出した。
「あう、あう……」
プラムさんは、てきぱきと私の額に手を当てて熱がないと分かると、私の〈おむつ〉の状態を調べた。
「ああ、おしっこだったのですね、良かった……今、お替えいたしますね」
プラムさんは、安心したようにそう言うと、優しく私の下のお世話をしてくれた。
はい、そうです。私、興奮のあまり、おしっこを漏らしていました……。
そして今、私は本来の「中里衣津美」としての自我を、徐々に取り戻しつつある。
(納得がいかない…んぐ、んぐ……だって、そうでしょう…んぐ……死んだら、天国みたいな所に行ってさ……んぐ、んぐ、ぷは~っ……神様みたいな人に会ってさ、すっごいスキルとかもらってさ……ああ、もういいよ、お母さん……げっぷ……失礼)
私は、口に押し当てられる柔らかい乳首から顔をそむけた。そして、優しく背中を叩かれ、大きなげっぷを吐いた。
(お母さん、か……前世の母さん、会えなくなってまだ一週間くらいだけど……もう、二度と会えないのよね……兄さんや姉さんや弟に比べると、あまり可愛がってもらえた記憶はないけど、やっぱり寂しいな……父さんや兄さん、姉さんも、私にはあまり関心がなかったけど……弟は生意気なだけだったし……って、あれ?……私って、けっこう可哀想な子だった?……まあ、自覚はあったけどね……大学に行きたかったけど、早く働いて一人立ちしろって言われてたし……片思いは何度かしたけど、男性と付き合ったことも一度もないし……うわあ、考えてみると、私の人生って……うう……)
私は少し落ち込んで、グスッっと鼻を鳴らす。すると、〈今のお母さん〉が心配そうな声を出して、私をベッド(たぶん)に寝かせ、暖かい毛布を着せてくれた。ありがとうね。
(……って、違う違う。落ち込んでいる場合ではないのよ。うん、大事なのはこれからの私の人生だ。もう、あんな前世のような死に方はしたくない!)
私は自分でも切り替えは早い方だと思う。というか、それほど未練のある前世ではなかったしね。より良い今回の人生を送るために頑張らないと。うしっ!
(で、よ……ここは私の知らない言葉が使われている外国よね。お母さんはいるし、時々男の人の声が聞こえて、私をやや乱暴に抱き上げるから、お父さんもいる(と思う)。それに、もう一人、頻繁にお母さん以外の、たぶん女の人が私の世話をしてくれる。ほとんどしゃべらないけど、優しい手つきで下のお世話とかしてくれる。時々お母さんと短い会話をしている声から判断すると、若い女の人だ……お姉さんかな?お手伝いさん?……ふああ…眠くなってきた……うん、ひとまず眠ろう……あせっても…しょうがないしね……)
寝て、起きて、食って(飲んで)、考えて、また、寝て……その繰り返しの毎日。
起きている間、私は、唯一の情報源である耳から入ってくる音や声から、周囲の状況の把握と「ことば」の習得に励んでいた。
そして、今日、私は新しい情報源を手に入れた。そう、目が見えるようになったのだ。いや、正確には、ぼんやりとしていた視界が、より鮮明になったのである。私の眼球が、レンズの調節を覚え、脳の視覚中枢が認識を開始したのだ。やった~~!
♢♢♢
新しい情報源を得て、私のこの世界に関する知識は日に日に増えていた。
まず、私の新しい名前は、ジャーン♪〈リーリエ〉、と思われます。だって、〈新しいお母さん〉も〈新しいお父さん〉も、お手伝いの女の子(メイドさんでいいのかな)も、私を見ながら、まず〈リーリエ〉って呼びかけるんだもの。うん、間違いない。可愛いし。
次に、新しい家族ね。お母さんは、多分〈レーニエ〉という名前で、すごく若い。そして、とんでもない美人。緩やかにウェーブがかかった明るい金髪に、澄んだ青空のような青い瞳。透き通るように色が白くて……ああ、こんな人から生まれてきたなんて、それだけで幸せって思うくらい。
そして、〈新しいお父さん〉は、〈レブロン〉。これは間違いない。お母さんがそう呼んでいるから。でも、お母さんは「レビー」って愛称で呼ぶことが多いかな。お父さんは、あまりお母さんを名前では呼ばないのよ。きっと、「マイハニー」とか「麗しの君」とか言ってるんじゃないかしら。いっつもデレデレして、お母さんにキスをしようとするの。まあ、でも、お父さんも若くてイケメンだから許しちゃう。銀髪を伸ばして、後ろに束ねている。薄茶の瞳で身長も高く、筋肉もそれなりについている。どんな仕事をしているのかしら?
もう一人、メイドの女の子、〈プラム〉。十代半ばくらいかしら、美しい黒髪のストレートヘヤーで黒い瞳、あまり背は高くない。元日本人の私からすると、とても親近感がある。おとなしい感じだけど、両親からはとても信頼されているように感じる。
私が寝ている部屋は、それほど広くはないけれど、木造でとても落ち着いた雰囲気の部屋だ。私は天蓋付きの大きなベビーベッドに寝かされている。最近転げ回ることを覚えたが、ベッドの端から端まで転げ回ると、かなり運動になる。そのくらい広い。
ただね、生まれた直後に感じた、あの疑問と不満はいまだに解消されていない。だって、こんな〈生前の記憶〉を持って生まれ変わるなんて、「特別」に決まっているでしょう? それなのに……。
(そうよ、なんで神様とか、女神様とか、会ってくれないの?
「君は前世で苦労したね。今度の人生では楽しく生きられるように、このチートな〈スキル〉を授けてあげよう」
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「ステータス、オープン」とか唱えれば、パソコンのディスプレイみたいなのが開いてさ……そうそう、こんなふうに……って……えっ?……は?……ええええええっ!!)
♢♢♢
驚いた……いや、驚いたなんてもんじゃない、気を失いそうだった……だって、私の目の前には、正確に言うと、ベッドに寝ていた私と天井の間、私から三十センチほど天井に近い位置に、半透明の画面が現れたのだから……。
(こ、これって、ス、ステータス画面よ、ね?)
それは、確かにアニメとかでおなじみのステータス画面のようだった。しかし……。
(なんて書いてあるのか、ぜんぜん分かんな~~い!!)
字が読めなかった……数字らしきものも分からない。まだ、赤ん坊だから仕方がないといえば、そうなのだが……。
(うううっ……ひどい、こんなのって、ある? 普通、〈言語の自動翻訳〉機能くらい、サービスするものでしょう? どのアニメやラノベでも、言葉はすぐに通じてたわよ)
私は涙を流しながら、ひとしきり愚痴をこぼした後、意味が分からないまま、整然と文字や記号が並んだ画面を眺めていたが、ふと、画面の下の方に、前世でもよく使っていた()の付いている文字列が目に留まった。
何気ない気持ちで、その文字列に指を伸ばして、触れた。
その瞬間、その部分が拡大されて別画面が浮き出てきた。何やら選択肢を示すかのように、二つの文字群と矢印マークがある。
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私は、小さな心臓をドキドキさせながら、震える指で矢印に触れ、それを前の方の文字列に移動させ、一呼吸おいて、目をつぶりながらタッチした。
………………………………………………………
………………………………………………………
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(うおおおおっ!……)
思わず、赤ん坊らしからぬ声で叫び声を上げてしまった。すると、すぐにバタバタと足音が聞こえてきて、ドアが勢いよく開かれた。
「リーリエお嬢様っ!」
あの黒髪の少女メイドさん〈プラム〉が、日本語で、日本語でよ、私の名前を呼びながら駈け込んできたの……うう、感動……。
(ステータス、クローズ!)
感動しながらも、私は冷静にステータス画面を閉じて、赤ん坊らしい声を出した。
「あう、あう……」
プラムさんは、てきぱきと私の額に手を当てて熱がないと分かると、私の〈おむつ〉の状態を調べた。
「ああ、おしっこだったのですね、良かった……今、お替えいたしますね」
プラムさんは、安心したようにそう言うと、優しく私の下のお世話をしてくれた。
はい、そうです。私、興奮のあまり、おしっこを漏らしていました……。
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