夜食屋ふくろう

森園ことり

文字の大きさ
5 / 51
1 フライドポテト&コーラ am0:10 

1 フライドポテト&コーラ am0:10(4) 

「ごめんなさい。心配させちゃって」

 万喜が謝ると、紅は首を横に振った。

「(怖い)って言ってくれて嬉しいです」
「え?」
「私の友達、一年前に黙っていなくなっちゃったんです。幼なじみでいつも一緒にいたのに、なにも言ってくれませんでした。川島さんみたいに自分の気持ちを打ち明けてもらいたかったです」

 悲しそうに笑う紅を見た祭は小さく咳ばらいをした。

「あの、愚痴を吐きたくなったり、家族と離れて一人になりたくなったら、うちのお店に寄ってください。貸し切り状態でくつろげますよ。することないんで、喜んで話し相手になりますし」

 万喜が頷くと、双子はやっと笑顔になって戻っていった。

 油の温度をまた上げる。
 紅は粉の入ったビニール袋に切ったじゃがいもを入れた。軽く振ってまぶし、粉をまとったじゃがいもを油の中に入れていった。

 じゅうわっという小気味いい音。次いで、ぱちぱちという賑やかな音と油の熱気で、深夜のしんとした室内が明るく変身する。

 万喜は腰を浮かせて、フライヤーの中を覗き込んだ。
 きれいな油の中で全身から泡を吹き出しているポテトたち。

「おいしい匂いがしてくるまで、ちょっとお待ちを」

 紅は菜箸でポテトがくっつかないように、そっとかきまぜる。

 万喜は壁の時計を見た。もう一時を過ぎている。
 こんな深夜に起きていることもなければ、子供や夫もいないで一人きりというのも普段はない。
 しかもキッチンには双子の料理人がいて、自分のためにポテトを揚げてくれている。

 もうおとぎ話のような夢は見られないけれど、これはそれに近い特別な出来事のようだった。

「家で揚げ物なんて久しぶり」

 ぽつりと万喜は呟いた。

 元々彼女は天ぷらやフライが好きで、一人暮らしの時もよく家で揚げ物を作った。
 しなくなったのは結婚してからだ。
 家事と仕事の両立で忙しかったのもあるし、子供が産まれてからは油の扱いが不安になるようにもなった。

 それに子供が好きな唐揚げやコロッケは、専門店のものの方がおいしいし喜んで食べてくれる。手間もかからない。

 でも、食材に油の熱が入っていく時の食欲をそそる香りは、お惣菜では味わえない。味だってそう。揚げたてはたまらなくおいしい。つまみ食いだって楽しい。

(今度、子供たちにも作ってあげよう)

 フライドポテトは子供たちも大好物だ。
 頭の中に、食卓を囲む自分と子供たちの光景が浮かんだ。そこに幸一はいない。それではっとした。

 気づけば、部屋中にじゃがいもの香ばしくて甘い匂いがふんわり広がっている。
 急くような空腹を感じた。おいしいポテトの匂いのせいだ。唾が口の中にたまっている。

 かす揚げで丁寧にポテトをすくってはバットに移していく紅。祭が横から手を伸ばして、「失礼」と一本味見をした。オーケーマークを出してにっこりと頷く。

 フライヤーをオフにすると、ポテトに塩を振りかけて軽く混ぜ合わた。

 完成だ。万喜はスツールの上で姿勢を正す。ようやくありつける。お腹はぺこぺこだ。もう揚げたてのポテトのことしか考えられない。

 祭はポテトをたっぷりと、ストライプ柄の紙製の入れ物に盛り付けた。紅がクーラーボックスから缶のコーラを取り出し、紙コップに注いで蓋をしてストローをきゅっとさす。
 まるでファストフード店のようなフライドポテトとコーラが、万喜の目の前に置かれた。

「お待たせしました。フライドポテトとコーラです。どうぞお召し上がりください」

 万喜は唾を飲み込んでから頷く。

「火傷に気をつけて」

 祭が囁くのに彼女はくすっと笑いを漏らした。

「いただきます」

 細長いポテトを一本つまむ。熱い、けどそれがいい。揚げたての醍醐味だから。いま口の中に入れたらちょっと危険。でも熱々を食べたい欲求に耐え切れず、万喜は口に入れた。

「あっつ」

 双子が声をあげて笑い、万喜も笑った。

「でも、おいしい。いままで食べてきたポテトの中で一番おいしい」

 万喜の褒め言葉に、双子は照れくさそうに笑って会釈する。

「ほくほくで香ばしくて、塩味もちょうどいい」

 コーラをごくごく飲む。最近は健康を考えてジュースも控えるようになった。だから久しぶりだ。びっくりするほどおいしい。すごく冷えてる。

 万喜は飢えていたかのように、夢中でポテトを口に運んだ。
 空っぽになった頭の中に、高校時代の幸一が浮かび上がってくる。
 万喜を見つけて、大きく手を振る彼の姿が。

感想 1

あなたにおすすめの小説

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

【完結】1王妃は、幸せになれる?

華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。 側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。 ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。 そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。 王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

熱い風の果てへ

朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。 カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。 必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。 そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。 まさか―― そのまさかは的中する。 ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。 ※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

逆行令嬢の反撃~これから妹達に陥れられると知っているので、安全な自分の部屋に籠りつつ逆行前のお返しを行います~

柚木ゆず
恋愛
 妹ソフィ―、継母アンナ、婚約者シリルの3人に陥れられ、極刑を宣告されてしまった子爵家令嬢・セリア。  そんな彼女は執行前夜泣き疲れて眠り、次の日起きると――そこは、牢屋ではなく自分の部屋。セリアは3人の罠にはまってしまうその日に、戻っていたのでした。  こんな人達の思い通りにはさせないし、許せない。  逆行して3人の本心と企みを知っているセリアは、反撃を決意。そうとは知らない妹たち3人は、セリアに翻弄されてゆくことになるのでした――。 ※体調不良の影響で現在感想欄は閉じさせていただいております。 ※こちらは3年前に投稿させていただいたお話の改稿版(文章をすべて書き直し、ストーリーの一部を変更したもの)となっております。  1月29日追加。後日ざまぁの部分にストーリーを追加させていただきます。