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3 お好み焼き am0:00
3 お好み焼き am0:00(5)
最初に昴流の不在に気づいたのは紅だった。
翌週の土曜日、いつも店に来る昴流が現れないことをおかしく思った彼女が連絡をした。でも通じない。おかしいと思って部屋を訪ねると不在だった。週明けに会社に連絡してみると、退職していることがわかった。
慌てて紅は父親の広司に連絡した。美早子もその日の夜には、昴流の失踪を知ることとなった。
美早子は両親や双子と連絡をとりつつ、自分でも弟の行方を捜そうとした。
彼女は職場の同僚に会いに行って、昴流が仕事で悩みを抱えていなかったか訊いた。心配した上司も同席してくれたが、そのような心当たりはないらしかった。仕事は丁寧で早いので評判もよく、周囲ともうまくやっていたという。
退職の経緯は一方的なものだった。ある朝、直属の上司が出社すると、机の上に昴流からの退職届が置かれていた。既に彼の机は整理されて何も残っていなかった。もちろん連絡をとろうとしたが、つながらなかった。
美早子は次に、幼なじみの双子たちに話を聞いた。
紅のほうは美早子以上に気が動転していた。彼らに昴流の失踪の心当たりはなかった。なにか気づいていれば、全力で回避させただろうことは、美早子にも想像できた。
紅が昴流に幼なじみ以上の好意を抱いていることには、美早子も気付いていた。でも付き合っているわけではなく、彼女との間に恋愛上のトラブルがあったわけでもないようだった。なにかあれば、正直に美早子たちに打ち明けていただろう。「昴流が消える理由がわからない」と紅はひどくショックを受けていた。
そのほかにも、昴流の知人や学生時代の友人たちに、片っ端から連絡をとった。でも誰も昴流の行方を知らなかった。
昴流は誰にも相談せずにいなくなってしまった。
おそらく、慶子の誕生日を祝った夜には心を決めていたのだろう。
そう思うと、美早子はあの夜、昴流と交わした言葉のすべてを何度も反芻せずにはおられなかった。
確かに昴流は少し疲れているように見えた。
でも、会社を辞めて失踪するほど悩んでいるようには見えなかった。普通にお寿司を食べて、話をして、夜食をふるまってくれた。いつもの昴流のようだった。
昴流が住んでいたマンションの部屋は、しばらく両親が家賃を払っていた。すぐ戻ってくるかもしれないからと。だが半年もたつと両親も諦めて部屋を引き払い、荷物をすべて引き取った。
月に一度は美早子は実家に帰り、昴流の部屋を調べた。行方のヒントになるようなものがないかと。
一人暮らしの部屋から引き取った手帳やメモ書き、ノートパソコンなどを調べたけれど、悩みや失踪を匂わせるようなものは見つけられなかった。
「でも諦めがつかなくて、部屋にあるものすべてを、丁寧に調べ続けたの」
美早子がそう言うと、双子は頷いた。二匹の猫は抱き合うようにしてソファで寝ている。
「そうしたら押し入れから、高校時代に昴流が働いてたお好み焼き屋のマニュアルが出てきたの。その中に写真が一枚挟んであった。日に焼けた男の子と肩を組んでるの」
一緒に働いていた子と撮ったんだろう、と美早子は思った。部屋中をすべて探し回ったあと、なぜかその写真のことが気になった。
「それで、そのお店がまだあるか調べてみたの。まだやってるみたいだったから、食べに行ってみた」
平日の夜、仕事帰りに美早子はそのお好み屋を訪ねた。
小さなお店で、通路の両側に座敷のテーブルが二つずつあった。奥が厨房で、そこから店主らしき女性が出入りしている。もう一人、高校生らしき女の子がエプロンをして働いていた。
昴流がここでアルバイトしていたことは知っていたが、「恥ずかしいから来ないで」と家族は言われていたので、来たのは初めてだった。
まだ早い時間だったので家族連れが一組いるだけだった。
美早子は注文を取りにきた女の子に、昔弟がここで働いていたのだ、と伝えた。
すると、女の子が奥に消えてからしばらくして、女主人が笑顔でやって来た。
「昴流君のお姉さん、来ていただいてありがとうございます」
サービスだというサラダを置いて彼女はすぐに仕事に戻ったが、他の客が帰ったあとでまた美早子のところにやって来た。
翌週の土曜日、いつも店に来る昴流が現れないことをおかしく思った彼女が連絡をした。でも通じない。おかしいと思って部屋を訪ねると不在だった。週明けに会社に連絡してみると、退職していることがわかった。
慌てて紅は父親の広司に連絡した。美早子もその日の夜には、昴流の失踪を知ることとなった。
美早子は両親や双子と連絡をとりつつ、自分でも弟の行方を捜そうとした。
彼女は職場の同僚に会いに行って、昴流が仕事で悩みを抱えていなかったか訊いた。心配した上司も同席してくれたが、そのような心当たりはないらしかった。仕事は丁寧で早いので評判もよく、周囲ともうまくやっていたという。
退職の経緯は一方的なものだった。ある朝、直属の上司が出社すると、机の上に昴流からの退職届が置かれていた。既に彼の机は整理されて何も残っていなかった。もちろん連絡をとろうとしたが、つながらなかった。
美早子は次に、幼なじみの双子たちに話を聞いた。
紅のほうは美早子以上に気が動転していた。彼らに昴流の失踪の心当たりはなかった。なにか気づいていれば、全力で回避させただろうことは、美早子にも想像できた。
紅が昴流に幼なじみ以上の好意を抱いていることには、美早子も気付いていた。でも付き合っているわけではなく、彼女との間に恋愛上のトラブルがあったわけでもないようだった。なにかあれば、正直に美早子たちに打ち明けていただろう。「昴流が消える理由がわからない」と紅はひどくショックを受けていた。
そのほかにも、昴流の知人や学生時代の友人たちに、片っ端から連絡をとった。でも誰も昴流の行方を知らなかった。
昴流は誰にも相談せずにいなくなってしまった。
おそらく、慶子の誕生日を祝った夜には心を決めていたのだろう。
そう思うと、美早子はあの夜、昴流と交わした言葉のすべてを何度も反芻せずにはおられなかった。
確かに昴流は少し疲れているように見えた。
でも、会社を辞めて失踪するほど悩んでいるようには見えなかった。普通にお寿司を食べて、話をして、夜食をふるまってくれた。いつもの昴流のようだった。
昴流が住んでいたマンションの部屋は、しばらく両親が家賃を払っていた。すぐ戻ってくるかもしれないからと。だが半年もたつと両親も諦めて部屋を引き払い、荷物をすべて引き取った。
月に一度は美早子は実家に帰り、昴流の部屋を調べた。行方のヒントになるようなものがないかと。
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「でも諦めがつかなくて、部屋にあるものすべてを、丁寧に調べ続けたの」
美早子がそう言うと、双子は頷いた。二匹の猫は抱き合うようにしてソファで寝ている。
「そうしたら押し入れから、高校時代に昴流が働いてたお好み焼き屋のマニュアルが出てきたの。その中に写真が一枚挟んであった。日に焼けた男の子と肩を組んでるの」
一緒に働いていた子と撮ったんだろう、と美早子は思った。部屋中をすべて探し回ったあと、なぜかその写真のことが気になった。
「それで、そのお店がまだあるか調べてみたの。まだやってるみたいだったから、食べに行ってみた」
平日の夜、仕事帰りに美早子はそのお好み屋を訪ねた。
小さなお店で、通路の両側に座敷のテーブルが二つずつあった。奥が厨房で、そこから店主らしき女性が出入りしている。もう一人、高校生らしき女の子がエプロンをして働いていた。
昴流がここでアルバイトしていたことは知っていたが、「恥ずかしいから来ないで」と家族は言われていたので、来たのは初めてだった。
まだ早い時間だったので家族連れが一組いるだけだった。
美早子は注文を取りにきた女の子に、昔弟がここで働いていたのだ、と伝えた。
すると、女の子が奥に消えてからしばらくして、女主人が笑顔でやって来た。
「昴流君のお姉さん、来ていただいてありがとうございます」
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