夜食屋ふくろう

森園ことり

文字の大きさ
18 / 51
3 お好み焼き am0:00

3 お好み焼き am0:00(5)

 最初に昴流の不在に気づいたのは紅だった。

 翌週の土曜日、いつも店に来る昴流が現れないことをおかしく思った彼女が連絡をした。でも通じない。おかしいと思って部屋を訪ねると不在だった。週明けに会社に連絡してみると、退職していることがわかった。
 慌てて紅は父親の広司に連絡した。美早子もその日の夜には、昴流の失踪を知ることとなった。
 美早子は両親や双子と連絡をとりつつ、自分でも弟の行方を捜そうとした。

 彼女は職場の同僚に会いに行って、昴流が仕事で悩みを抱えていなかったか訊いた。心配した上司も同席してくれたが、そのような心当たりはないらしかった。仕事は丁寧で早いので評判もよく、周囲ともうまくやっていたという。
 退職の経緯は一方的なものだった。ある朝、直属の上司が出社すると、机の上に昴流からの退職届が置かれていた。既に彼の机は整理されて何も残っていなかった。もちろん連絡をとろうとしたが、つながらなかった。

 美早子は次に、幼なじみの双子たちに話を聞いた。
 紅のほうは美早子以上に気が動転していた。彼らに昴流の失踪の心当たりはなかった。なにか気づいていれば、全力で回避させただろうことは、美早子にも想像できた。
 紅が昴流に幼なじみ以上の好意を抱いていることには、美早子も気付いていた。でも付き合っているわけではなく、彼女との間に恋愛上のトラブルがあったわけでもないようだった。なにかあれば、正直に美早子たちに打ち明けていただろう。「昴流が消える理由がわからない」と紅はひどくショックを受けていた。
 そのほかにも、昴流の知人や学生時代の友人たちに、片っ端から連絡をとった。でも誰も昴流の行方を知らなかった。

 昴流は誰にも相談せずにいなくなってしまった。
 おそらく、慶子の誕生日を祝った夜には心を決めていたのだろう。
 そう思うと、美早子はあの夜、昴流と交わした言葉のすべてを何度も反芻せずにはおられなかった。
 確かに昴流は少し疲れているように見えた。
 でも、会社を辞めて失踪するほど悩んでいるようには見えなかった。普通にお寿司を食べて、話をして、夜食をふるまってくれた。いつもの昴流のようだった。

 昴流が住んでいたマンションの部屋は、しばらく両親が家賃を払っていた。すぐ戻ってくるかもしれないからと。だが半年もたつと両親も諦めて部屋を引き払い、荷物をすべて引き取った。
 月に一度は美早子は実家に帰り、昴流の部屋を調べた。行方のヒントになるようなものがないかと。
 一人暮らしの部屋から引き取った手帳やメモ書き、ノートパソコンなどを調べたけれど、悩みや失踪を匂わせるようなものは見つけられなかった。

「でも諦めがつかなくて、部屋にあるものすべてを、丁寧に調べ続けたの」

 美早子がそう言うと、双子は頷いた。二匹の猫は抱き合うようにしてソファで寝ている。

「そうしたら押し入れから、高校時代に昴流が働いてたお好み焼き屋のマニュアルが出てきたの。その中に写真が一枚挟んであった。日に焼けた男の子と肩を組んでるの」

 一緒に働いていた子と撮ったんだろう、と美早子は思った。部屋中をすべて探し回ったあと、なぜかその写真のことが気になった。

「それで、そのお店がまだあるか調べてみたの。まだやってるみたいだったから、食べに行ってみた」

 平日の夜、仕事帰りに美早子はそのお好み屋を訪ねた。
 小さなお店で、通路の両側に座敷のテーブルが二つずつあった。奥が厨房で、そこから店主らしき女性が出入りしている。もう一人、高校生らしき女の子がエプロンをして働いていた。
 昴流がここでアルバイトしていたことは知っていたが、「恥ずかしいから来ないで」と家族は言われていたので、来たのは初めてだった。

 まだ早い時間だったので家族連れが一組いるだけだった。
 美早子は注文を取りにきた女の子に、昔弟がここで働いていたのだ、と伝えた。
 すると、女の子が奥に消えてからしばらくして、女主人が笑顔でやって来た。

「昴流君のお姉さん、来ていただいてありがとうございます」

 サービスだというサラダを置いて彼女はすぐに仕事に戻ったが、他の客が帰ったあとでまた美早子のところにやって来た。

感想 1

あなたにおすすめの小説

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】1王妃は、幸せになれる?

華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。 側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。 ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。 そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。 王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

熱い風の果てへ

朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。 カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。 必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。 そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。 まさか―― そのまさかは的中する。 ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。 ※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

逆行令嬢の反撃~これから妹達に陥れられると知っているので、安全な自分の部屋に籠りつつ逆行前のお返しを行います~

柚木ゆず
恋愛
 妹ソフィ―、継母アンナ、婚約者シリルの3人に陥れられ、極刑を宣告されてしまった子爵家令嬢・セリア。  そんな彼女は執行前夜泣き疲れて眠り、次の日起きると――そこは、牢屋ではなく自分の部屋。セリアは3人の罠にはまってしまうその日に、戻っていたのでした。  こんな人達の思い通りにはさせないし、許せない。  逆行して3人の本心と企みを知っているセリアは、反撃を決意。そうとは知らない妹たち3人は、セリアに翻弄されてゆくことになるのでした――。 ※体調不良の影響で現在感想欄は閉じさせていただいております。 ※こちらは3年前に投稿させていただいたお話の改稿版(文章をすべて書き直し、ストーリーの一部を変更したもの)となっております。  1月29日追加。後日ざまぁの部分にストーリーを追加させていただきます。

おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな
恋愛
 ストラウド子爵家の長女・エレーゼ18歳はお父様が大好きだ。このままお父様と同じ屋敷で暮らし、いつかお父様を私が看取る、そんな将来設計があるので結婚はしたくない。だがこれでも貴族令嬢、そういうわけにもいかなくて。  ある日、仕方なく見合いに赴くことになったのだが。  見合い相手はプラチナブロンド煌めくひたすら優美な王子様、いや辺境伯の跡取り息子。  見た目も家柄もファビュラスなのに、彼は今までことごとく見合い相手に断られ、挙句エレーゼのところに話が回ってきたという訳あり物件。  この話、断る? 断られるよう仕向ける?  しかし彼は言ったのだ。「こちらの条件のんでくれたら、結婚後、自由にしていい」と。つまり、実家暮らしの妻でOKだと!  名を貸し借りする程度の結婚でいいなんて。オイシイじゃない? で、条件とは何ですの?  お父様だけがもつ“私への無限の愛”しか信じない令嬢エレーゼが、何を考えているのだかよく分からない婚約者エイリークと少しずつ絆を深めていく、日常みじみじラブストーリーです。    ※第4話④⑤、最終話⑧⑨は視点を切り替えてヒーローサイドでお送りしております。