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5 ロールキャベツ am0:20
5 ロールキャベツ am0:20(1)
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昨夜は生まれてはじめて世界がまわった。
めまいだ。
舞衣子(まいこ)が夜、ふと目が覚めて何時だろうと枕元の時計を見ようとした時のことだった。
視界に入った天井が、勢いよくまわした地球儀みたいにぐるぐるまわりはじめた。
パニックになった舞衣子は、隣で寝ていた夫の隆(たかし)を揺すり起こした。
「ねえ! 部屋がまわってる! なにこれ、怖い」
すぐにめまいだと気づいたが、ひどいめまいはおさまらない。
目をこすりながら起きた隆は不機嫌そうな声をだした。
「なんだよ……」
動揺した舞衣子の説明を聞くと、大あくびをする。
「めまいならそのうちおさまるだろ……」
高校の同級生で同い年の隆と舞衣子は共に四十七歳。
他の部屋には十七歳の娘と十四歳の息子が眠っている。
舞衣子はこらえきれずに目をぎゅっと閉じて、めまいがおさまるのを待った。
やがてめまいはおさまってきたが、今度は吐き気がこみあげてきた。
(なにかの病気なんじゃ)
不安に思った舞衣子は、救急車を呼ぶかどうかの判断をしてもらえる番号に電話をかけた。
症状を話すと、病院で診てもらったほうがいいだろう、と夜間診療を受け付けている近くの病院をいくつか教えてくれた。
病院名と電話番号をメモして電話を切ると、隣で話を聞いていた隆が不安そうに訊ねた。
「病院行くのか?」
その声色が面倒くさそうに舞衣子には聞こえた。寝ぼけて声がこもっていただけかもしれないが。
「どうしよう」
電話で話している間にめまいは徐々におさまってきた。吐き気はまだ残っているが、さっきよりはましなようにも感じる。
いまは深夜の二時。
「ちょっと様子を見てみる。めまいはおさまったから……」
「土曜は病院やってるだろ。朝になったら行ってみれば」
「そうだね……」
舞衣子は明かりを消してベッドに横になった。
うつらうつらしているうちに、気づくと朝になっていた。
眠ったんだかどうだかよくわからない。
夜中のひどいめまいのせいか、少し頭がぼんやりしている。
(あんなの生まれてはじめて)
六時になると、いつものように舞衣子はベッドから出た。
洗濯機をまわして朝食の準備をする。
トーストとベーコンエッグだけの簡単な料理でも、今朝は体がだるくてきつい。
七時に隆と息子の涼太(りょうた)が起きてきた。
二人とも寝間着がわりのTシャツと短パンを着たままだ。
長女の里桜(りお)は休みの日は昼近くまで寝ている。舞衣子が何度注意しても夜更かしをやめない。
「病院、九時からだから車で送ってくれない?」
舞衣子の言葉に隆はちらっと壁時計を見てから「わかった」とだけ返した。
体調はどう、とかの気遣いの言葉はないんだ、と舞衣子はがっかりする。
夫と息子はテレビを見ながら無言で食べた。
食欲はないが、無理をして舞衣子も少し食べる。
「お母さん、どっか悪いの?」
しばらくして涼太が訊ねた。
気の強い里桜にくらべて、涼太はやさしい。言葉は少ないが、いつも自分のことを気にかけてくれていると舞衣子は感じることができていた。
「夜中にすごいめまいがしたの。救急車呼ぼうかと思ったぐらい……でもいまは平気だし、病院で診てもらうから心配しないで」
涼太は頷くと、自分のお皿を流しに持っていった。洗いはしないが、夫や里桜が食べっぱなしなのにくらべればましだ。
九時少し前に、舞衣子は夫の運転する車でかかりつけの病院に行った。
めまいだ。
舞衣子(まいこ)が夜、ふと目が覚めて何時だろうと枕元の時計を見ようとした時のことだった。
視界に入った天井が、勢いよくまわした地球儀みたいにぐるぐるまわりはじめた。
パニックになった舞衣子は、隣で寝ていた夫の隆(たかし)を揺すり起こした。
「ねえ! 部屋がまわってる! なにこれ、怖い」
すぐにめまいだと気づいたが、ひどいめまいはおさまらない。
目をこすりながら起きた隆は不機嫌そうな声をだした。
「なんだよ……」
動揺した舞衣子の説明を聞くと、大あくびをする。
「めまいならそのうちおさまるだろ……」
高校の同級生で同い年の隆と舞衣子は共に四十七歳。
他の部屋には十七歳の娘と十四歳の息子が眠っている。
舞衣子はこらえきれずに目をぎゅっと閉じて、めまいがおさまるのを待った。
やがてめまいはおさまってきたが、今度は吐き気がこみあげてきた。
(なにかの病気なんじゃ)
不安に思った舞衣子は、救急車を呼ぶかどうかの判断をしてもらえる番号に電話をかけた。
症状を話すと、病院で診てもらったほうがいいだろう、と夜間診療を受け付けている近くの病院をいくつか教えてくれた。
病院名と電話番号をメモして電話を切ると、隣で話を聞いていた隆が不安そうに訊ねた。
「病院行くのか?」
その声色が面倒くさそうに舞衣子には聞こえた。寝ぼけて声がこもっていただけかもしれないが。
「どうしよう」
電話で話している間にめまいは徐々におさまってきた。吐き気はまだ残っているが、さっきよりはましなようにも感じる。
いまは深夜の二時。
「ちょっと様子を見てみる。めまいはおさまったから……」
「土曜は病院やってるだろ。朝になったら行ってみれば」
「そうだね……」
舞衣子は明かりを消してベッドに横になった。
うつらうつらしているうちに、気づくと朝になっていた。
眠ったんだかどうだかよくわからない。
夜中のひどいめまいのせいか、少し頭がぼんやりしている。
(あんなの生まれてはじめて)
六時になると、いつものように舞衣子はベッドから出た。
洗濯機をまわして朝食の準備をする。
トーストとベーコンエッグだけの簡単な料理でも、今朝は体がだるくてきつい。
七時に隆と息子の涼太(りょうた)が起きてきた。
二人とも寝間着がわりのTシャツと短パンを着たままだ。
長女の里桜(りお)は休みの日は昼近くまで寝ている。舞衣子が何度注意しても夜更かしをやめない。
「病院、九時からだから車で送ってくれない?」
舞衣子の言葉に隆はちらっと壁時計を見てから「わかった」とだけ返した。
体調はどう、とかの気遣いの言葉はないんだ、と舞衣子はがっかりする。
夫と息子はテレビを見ながら無言で食べた。
食欲はないが、無理をして舞衣子も少し食べる。
「お母さん、どっか悪いの?」
しばらくして涼太が訊ねた。
気の強い里桜にくらべて、涼太はやさしい。言葉は少ないが、いつも自分のことを気にかけてくれていると舞衣子は感じることができていた。
「夜中にすごいめまいがしたの。救急車呼ぼうかと思ったぐらい……でもいまは平気だし、病院で診てもらうから心配しないで」
涼太は頷くと、自分のお皿を流しに持っていった。洗いはしないが、夫や里桜が食べっぱなしなのにくらべればましだ。
九時少し前に、舞衣子は夫の運転する車でかかりつけの病院に行った。
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