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6 カオマンガイ am0:30
6 カオマンガイ am0:30(3)
なにかの物音で拓は目を覚ました。
部屋は明るいままで、ラジオもついている。
うとうとしてしまったようだ。時計を見ると十一時。
トイレに行こうと部屋を出た。
リビングを通り抜けながら、なんとなく紗季の部屋を振り返る。すると、引き戸が十センチほど開いていた。
部屋の中は暗い。
開けたまま寝てしまったのだろうか。
トイレに行って戻ってくると、紗季の部屋がやっぱり気になった。戸を閉めてあげようか。そのまえに、なんとなく中を覗き込む。
真っ暗でなにも見えない。
おかしいな、と思った。
紗季も自分も寝る時は常夜灯をつけておく。でもいまは真っ暗だ。
リビングの明かりをつけると、紗季の部屋の戸を少しだけ開けた。光が中を照らしだす。
ベッドに彼女の姿はなかった。掛布団は畳まれて、枕と一緒に重ねてある。
「え」
驚いて拓は部屋の明かりをつけて中に入った。
念のためクローゼットを開けてみたが、もちろん彼女はいない。
部屋を出て浴室を見に行ったが、やはり姿はない。
拓は玄関に急いで鍵を見た。鍵はかかっているが、チェーンははずれている。
そうか。
さっき目が覚めた時に聞いた物音は、玄関のドアの鍵をかけた音だったんだ。
コンビニでも行ったんだろうか。
夕飯の冷凍パスタだけでは足りなかったのかもしれない。
でも、冷凍庫にはまだグラタンやうどんなど、食べられるものはストックされている。
ちょっと気になって紗季の部屋に戻った。
室内のものを調べる。仕事用のバッグとスーツ、それとスーツケースが見当たらない。
玄関に戻ると、仕事用の靴もなかった。
出て行ったのか。
拓は自分の部屋に戻って、アドレス帳を引っ張り出した。リビングの固定電話で紗季のスマホに電話をかける。
通じない。もしかして、この電話からの着信を拒否されている?
時間は十一時半になろうとしていた。
これから家族や知り合いに連絡をとるのは非常識だろうか。もしかしたらすぐに戻ってくるかもしれないし。
いや、スーツケースを持って出て行ったんだから簡単には帰ってこないつもりだろう。
今頃彼女は友人宅か実家に向かうタクシーの中かもしれない。こんな深夜に行く当てもなく出ていくことはないはずだ。
拓はソファに座るとため息をついた。
いくら腹を立てていたとしても、出ていくならメモぐらい残して欲しかった。残された者は心配するのだから。
かさこそと部屋の隅で音がした。
クルミがケージの中で動いている。
にじり寄って、ケージの外からクルミに声をかけた。彼女は水を飲みはじめる。
拓はまた壁の時計を見上げた。
十二時になってしまう前に、紗季の知り合いに連絡してみるべきだろう。
紗季がこういう時に頼りそうなのは、いとこの佳奈(かな)ちゃんだ。
紗季の二つ年上で、都内で一人暮らしをしている。
電話をかけると、佳奈はすぐに出た。まだ起きていたことがはきはきした口調からわかる。
『夜分すみません。紗季がそちらにお邪魔してないでしょうか?』
佳奈は少し黙り込み、どうしたんですかと訊ねた。
簡単に事情を説明すると、彼女はまた黙り込んだ。
「もし連絡があったらこちらにお電話いただけないでしょうか」
わかりましたと相手は言葉少なに答えた。
電話越しでも壁があるのを感じる。おそらく紗季は拓がスマホを持たなくなったことを彼女に話しているのだろう。そのことを不満に感じていることも。
遅くにすみませんでしたと電話を切ろうとした時、佳奈が口を開いた。
『私のほうから紗季に連絡してみます。つながらないようだったら、折り返し電話さしあげますね』
ありがとうございます、と拓は少しほっとしながら電話を切った。
緊張がとけたせいかあくびが出た。でも眠るわけにはいかない。佳奈から電話があるのかもしれないのだ。一時間は待っていよう。
不安な気持ちを紛らわすようにテレビをつけて、コーヒーを淹れた。
拓はコーヒー会社に入社するほどのコーヒー好きだ。自宅にも立派なコーヒーメーカーを置いて、毎日何杯も飲んでいる。
紗季はコーヒーよりは紅茶が好きだが、拓に付き合ってよく飲んだ。
二人がコーヒーを飲みながらいつも座るエメラルドグリーンのソファは紗季が選んだものだ。インテリア会社に勤める彼女は、長く大事に使える家具しか選ばない。このソファも高かったが彼女はあまり悩まずに買っていた。
ソファの真ん中に一人で座り、コーヒーをすすりながら深夜番組を眺める。
コーヒーを飲み終えて時刻を確認すると、十二時半近くになっていた。
佳奈はあのあとすぐに紗季に連絡してくれたはずだ。折り返しの電話がないということは、無事に彼女につながったということなのだろう。どこかホテルにいるのか、それとも別の知り合いのところにいるのか。
今夜はもう佳奈から連絡はない気がする。
固定電話を見るが鳴り始める気配がない。
もう寝たほうがいいけれど、ベッドに戻っても寝られる気がしなかった。濃いコーヒーを飲んでしまったことだし。
腹も空いてきた気がする。なんか入れれば眠くなるだろうか。
部屋がとても静かだった。クルミも疲れて巣箱に帰ってしまったようだ。
彼は部屋に戻ると、ノートパソコンを開いた。
*
部屋は明るいままで、ラジオもついている。
うとうとしてしまったようだ。時計を見ると十一時。
トイレに行こうと部屋を出た。
リビングを通り抜けながら、なんとなく紗季の部屋を振り返る。すると、引き戸が十センチほど開いていた。
部屋の中は暗い。
開けたまま寝てしまったのだろうか。
トイレに行って戻ってくると、紗季の部屋がやっぱり気になった。戸を閉めてあげようか。そのまえに、なんとなく中を覗き込む。
真っ暗でなにも見えない。
おかしいな、と思った。
紗季も自分も寝る時は常夜灯をつけておく。でもいまは真っ暗だ。
リビングの明かりをつけると、紗季の部屋の戸を少しだけ開けた。光が中を照らしだす。
ベッドに彼女の姿はなかった。掛布団は畳まれて、枕と一緒に重ねてある。
「え」
驚いて拓は部屋の明かりをつけて中に入った。
念のためクローゼットを開けてみたが、もちろん彼女はいない。
部屋を出て浴室を見に行ったが、やはり姿はない。
拓は玄関に急いで鍵を見た。鍵はかかっているが、チェーンははずれている。
そうか。
さっき目が覚めた時に聞いた物音は、玄関のドアの鍵をかけた音だったんだ。
コンビニでも行ったんだろうか。
夕飯の冷凍パスタだけでは足りなかったのかもしれない。
でも、冷凍庫にはまだグラタンやうどんなど、食べられるものはストックされている。
ちょっと気になって紗季の部屋に戻った。
室内のものを調べる。仕事用のバッグとスーツ、それとスーツケースが見当たらない。
玄関に戻ると、仕事用の靴もなかった。
出て行ったのか。
拓は自分の部屋に戻って、アドレス帳を引っ張り出した。リビングの固定電話で紗季のスマホに電話をかける。
通じない。もしかして、この電話からの着信を拒否されている?
時間は十一時半になろうとしていた。
これから家族や知り合いに連絡をとるのは非常識だろうか。もしかしたらすぐに戻ってくるかもしれないし。
いや、スーツケースを持って出て行ったんだから簡単には帰ってこないつもりだろう。
今頃彼女は友人宅か実家に向かうタクシーの中かもしれない。こんな深夜に行く当てもなく出ていくことはないはずだ。
拓はソファに座るとため息をついた。
いくら腹を立てていたとしても、出ていくならメモぐらい残して欲しかった。残された者は心配するのだから。
かさこそと部屋の隅で音がした。
クルミがケージの中で動いている。
にじり寄って、ケージの外からクルミに声をかけた。彼女は水を飲みはじめる。
拓はまた壁の時計を見上げた。
十二時になってしまう前に、紗季の知り合いに連絡してみるべきだろう。
紗季がこういう時に頼りそうなのは、いとこの佳奈(かな)ちゃんだ。
紗季の二つ年上で、都内で一人暮らしをしている。
電話をかけると、佳奈はすぐに出た。まだ起きていたことがはきはきした口調からわかる。
『夜分すみません。紗季がそちらにお邪魔してないでしょうか?』
佳奈は少し黙り込み、どうしたんですかと訊ねた。
簡単に事情を説明すると、彼女はまた黙り込んだ。
「もし連絡があったらこちらにお電話いただけないでしょうか」
わかりましたと相手は言葉少なに答えた。
電話越しでも壁があるのを感じる。おそらく紗季は拓がスマホを持たなくなったことを彼女に話しているのだろう。そのことを不満に感じていることも。
遅くにすみませんでしたと電話を切ろうとした時、佳奈が口を開いた。
『私のほうから紗季に連絡してみます。つながらないようだったら、折り返し電話さしあげますね』
ありがとうございます、と拓は少しほっとしながら電話を切った。
緊張がとけたせいかあくびが出た。でも眠るわけにはいかない。佳奈から電話があるのかもしれないのだ。一時間は待っていよう。
不安な気持ちを紛らわすようにテレビをつけて、コーヒーを淹れた。
拓はコーヒー会社に入社するほどのコーヒー好きだ。自宅にも立派なコーヒーメーカーを置いて、毎日何杯も飲んでいる。
紗季はコーヒーよりは紅茶が好きだが、拓に付き合ってよく飲んだ。
二人がコーヒーを飲みながらいつも座るエメラルドグリーンのソファは紗季が選んだものだ。インテリア会社に勤める彼女は、長く大事に使える家具しか選ばない。このソファも高かったが彼女はあまり悩まずに買っていた。
ソファの真ん中に一人で座り、コーヒーをすすりながら深夜番組を眺める。
コーヒーを飲み終えて時刻を確認すると、十二時半近くになっていた。
佳奈はあのあとすぐに紗季に連絡してくれたはずだ。折り返しの電話がないということは、無事に彼女につながったということなのだろう。どこかホテルにいるのか、それとも別の知り合いのところにいるのか。
今夜はもう佳奈から連絡はない気がする。
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もう寝たほうがいいけれど、ベッドに戻っても寝られる気がしなかった。濃いコーヒーを飲んでしまったことだし。
腹も空いてきた気がする。なんか入れれば眠くなるだろうか。
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彼は部屋に戻ると、ノートパソコンを開いた。
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