THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

戦陣

　１人連携技【戦陣】とは、敵の人数、形状、状態、自分の状況などをシミュレートして、あらかじめ決めておいた攻撃手順をおこなうオリジナル技である。
　これがゲーム内で私の通り名になってしまったのは、ＰＫ集団に囲まれた時思わず「戦陣！【目貫】！」と叫んでしまったからなのだが……それは置いといて。
　例えば、今回の【転飛てんと】は、人型の小隊に正面から突撃された時に使う技で、先頭の足を奪いつつ、左右に弾幕をはり、左右に散られるのを防ぎながら意図的に上方に逃げ場を作っておき、飛んだ所を攻撃力の高い両手剣で【飛断剣】を行い、それを盾にしながら自分も突撃して一気に勝負を決めると言う技だ。ただし両手剣これが片手剣の【飛剣】になった場合、衝撃波のサイズが小さく空中でかわされてしまうため両手剣はマストアイテムとなる。
　というか、多くの【戦陣】が両手剣の攻撃力ありきで構成されているため、ベルググ入手後の【AQURIS online】ではほとんどの戦陣の途中でＳＰが切れてしまい使えなくなってしまったのだった。

「しかし、エヴァも言っておったが、タタラは少しばかりスキルに頼りすぎではないかのう、もう少し【技アーツ】を使った方がいいのではないか？」
「アーツ……ですか」
「スキルは天より与えらた才能のようなもので、アーツは日々の鍛錬で磨く技のことじゃ」

　言われてみると確かに、【AQURIS online】の時でも剣道とか、ボクシングとか武道系の経験者はスキルを使わなくても結構強い人多かったな。しかし、武道どころかスポーツさえまともに経験のない私はスキルを控えて戦闘をするというのがイマイチピンとこない。

「検討・・してみます」
「おお！健闘・・するんじゃ！」

　なぜ、ちょっと嬉しそうなのかわからない、何か勘違いしていなければ良いのだが。

「それから、次は妾わらわ達も戦うからな！タタラは強いがちょっとせっかちすぎるぞ」
「フィン！」

　ソロとしての活動時間が圧倒的に多かった私はどうしても力を温存しながらというより、素早い敵の殲滅を優先してしまう。なぜなら、ソロで多人数を相手にする場合、時間がかかればかかるほど後ろを取られる可能性が上がり、後方から攻撃されるだけならまだ良いが、羽交い締めなんてされた日には即、死に直結してしまう。
　だが、今は頼れる仲間たちがいる。

「はい、すみません。次からは連携を取ってみんなで戦いましょう」
「よろしくなのじゃぞ！」
「フィン！」

　キンコン。
　【警戒】の警告音が響く。前方からコボルトの集団。

「戦陣【転飛】！」

　１０秒で敵集団を殲滅して武器を収納する。

「さぁ！行きましょう。次の階へはもうす、ヘブッ！？」

　爽やかな笑みで振り返った私のスネに懐かしい激痛が走る。
「どうしておぬしはそうなんじゃ！！さっきの約束はどこにいった！？バカか？おぬしはバカなのか？」

　リアスは痛烈なローキックを放ち、激怒し、地面にうずくまる私を置いてマロフィノと去っていく。

「待ってください！今のはわざとじゃ……決してわざとじゃないんです」

　リアスは軽く振り返り、私を睨む。

「だったら、余計に厄介じゃのう」
「フィッ！」

　ああ、マロフィノまで冷たい目……。

『大変だな、お前』

　うっさい！アイテムボックスから同情してくんじゃない！
　ダンジョンの地面に揺れる草の上を朝露のように涙が流れていった。