THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

文字の大きさ
60 / 144

イザベルの領主

しおりを挟む
「皆さんいらっしゃい」

 聞いたことのある優しい声が緊張感に包まれた空間を打ち壊す。

「よっ……ヨーコさん!」

 着流しの怪物の後ろから、優しい笑顔でヨーコさんが現れた。

「依頼を受けに来てくださったのね、どうぞ上がってください」
「お邪魔して大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、だって私のお家だもん」

 だもん?……私のお家だもん?……って。

「ええええええ!!?ここヨーコさん家なんっすか!!?」
「そんな驚くほどかしら?」
「それは驚くじゃろ!?お主の店はこんなに儲けておるのか!?」
「ふふふ、やだ、あなた達もしかして私がただの居酒屋の店主だと思っていたの」

 笑いながら、着流しの怪物をビシバシと叩くヨーコさん。私の知っている上品でしとやかな印象とは少し異なり今日の彼女はなんというか……陽気だ。
 着流しの怪物は無言のまま表情も変えずまったく微動だにしないが、私達はまったく笑えない。

「そうだ!アナタ・・・見て、あの小さくて可愛いらしいのがフェンリルの子供ですって。おいでマロちゃん」

 両手を広げてマロフィノを呼ぶヨーコさんにためらいもせず飛びつくマロフィノ。
 そしてヨーコさんに抱きかかえられたマロフィノにゆっくりと顔を近づけていく着流しの怪物。
 ダメだ食われる!!覚悟を決めベルググを呼ぼうとした時、着流しの怪物はニヤッと笑いマロフィノの頭を指先で撫でた……その笑顔に、地下訓練場に手招きする悪魔とはまた違う恐怖を感じた。
 
「フィン!フィンフィン!キュゥン」

 マロフィノは自分を撫でている着流しの怪物の指先を舐めたり甘えた声を出している、どうやら敵意はないらしいが、私達の位置から見るその光景は異様なものであった。
 というか、リバーサイドって苗字……どこかで。

「あっ!もしかして、前に話てくれたご主人って」
「ごめんね、紹介が遅れたわね、この人が私の愛する旦那のリコウさんよ。アナタこちら前に話た冒険者パーティー【渡り鳥】のタタラさんとリアスさんよ」

 リコウさんは無言でこちらを睨み……頭を下げた。私達も急いで深々と頭を下げたが、どうやらリコウさんは睨んでいるわけではなく顔がめちゃくちゃ怖い人物らしい。まぁそう思ったところで直視はできませんが。

「さぁ立話もなんですから」
「おっお邪魔します」

 長い廊下をヨーコさん達の後に付いていく。まさかこれほど緊張するお宅訪問になるとは、さすがのリアスも後ろで私の服の裾を掴んでいる。
 ほどなく、畳の部屋に通されたのだが、そこは時代劇とかで将軍が座るような一段高くなった場所が設けてありその中央には立派な装飾の座椅子、まさに謁見の間といった感じだ。

「せっかくだし、それらしくしてみようかしら。マロちゃんはタタラさん達と座ってね」

 マロフィノを離したヨーコさんはリコウさんと一緒に一段高くなった場所に登った。何かを感じとったリアスに突然座るように促され、こういう雰囲気なので正座で座るとマロフィノが膝の上にお座りした。
 するとリアスが顔を寄せヒソヒソと。

「あのリコウという男、もしかしてイザベルの領主ではないのか」
「りょ……領主!?」

 イザベルの領主ってことは、イザベルで一番偉い人って事!?つーかその奥様のヨーコさんって、領主の奥様ってなんていうのかわからないがお妃様みたいな感じってこと!?
 この建物とリコウあのひとの只事ではない雰囲気に確かに領主以外ありえないだろうと確信しながら、2人が座るのを固唾を飲んで見守っているのだが。

「えっ?」
「なっ?」
「フィン?」

 一段高くなった将軍が座りそうな中央の座椅子に腰掛けたヨーコさん。そしてとなりにあぐらをかいてリコウさんが座った。その光景に思わず声を上げてしまった。

「どうも、皆さん。居酒屋・妖狐の店主改め、イザベルの領主ヨーコでーす」

 …………。

『えええええええええええええ!!?』

 
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...