THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

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サンズリブア

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「生ハムとチーズでございます。それからこちらお水です」
「なかなか良いじゃないか」
「ありがとうございます」

 酒につまみが揃ってご機嫌なエヴァさんと、お姉さんにお水をもらって尻尾を振りまくるマロフィノ。

「なんじゃ、外さえ見なきゃたいしたことないのう」

 意味不明な自己暗示をかけてすこし落ち着いた様子のリアス。

「あの……お客様は調魔士でいらっしゃいますか?」
「違いますけど」
「でしたら、この子はあちらのお客様の」
「いえ、なんと言ったらいいのか分かりませんが、マロフィノは誰かの調魔というわけではないんです」
「それでは、野良の魔獣が人に懐いているということですか?」

 そう言われると確かにおかしな事なのだが、別に野良ってことでは無いと思うのだが突っ込んで問いただされるとマロフィノの説明はかなり難しい……ここは……。
「まぁ平たく言えばそうですね」
 と、言っておこう。

「あっありえない……調魔されていない魔獣が人を襲うことなく、普通の犬のように人と生活するなんて……。冒険には連れて行くんですか!?他の魔獣と遭遇した時は戦闘に参加するんですか!?指示はどのように出すんですか!?」

 今、質問の嵐が私を襲っている。

「まぁパーティーリーダーですから、一緒に行きますし戦いもしますよ。指示というか言ったことはきちんとこなしてくれます」
「パッ……リーダー……すみません……私の理解力不足でもはや理解不能になってしまいました」

 やっぱり変かなぁマロフィノがリーダーって……私達は結構いい感じなんだけどなぁ。

「あっあの、これからの飛行プランを教えてもらっていいですか?」
「はい、これから当機は6時間ほど飛行したのちディアンタ大陸最東端から近い停留島にて1泊します。その後、日の出とともに出発し、順調に飛べば目的地のジング王国の【イストア】には午後4時頃の到着となります」
「停留島?」
「停留島は船舶会社や航空会社が共同で管理する、どの国にも属さない島で世界中に約200ほどあります。加盟している会社の飛竜車や船舶は自由に休息や修理などで滞在することができますが、停留島では独自の法律が適用されるのでご注意ください」

 停留島は派遣された駐在員がいて、島の管理と整備、治安維持をしているのだが、この駐在員に違法行為と判断されると船や飛竜車の所有会社にとんでもない額の賠償金請求がくるらしい。
 ちなみにこの駐在員は冒険者Sランク相当の戦闘能力と司法書士のような資格を持った人しかなることが出来ないのだとか。
 面倒くさそうなので停留島に着いても歩き回るのはやめておこう。

「タタラ、外を見てみろ」

 エヴァさんが酒を煽りながら強張った声で言うので、若干ビビりながら恐る恐る窓の外を見た。

「でっけぇ……」

 まるで大陸を分断しているように地平の彼方から流れて来ている2本の川が合流して1本の巨大な川になっていた。どれほどの川幅かはハッキリとはわからないが狭いところでも小さい湖くらいの幅はあるだろう。そして、飛竜旅客の真下の川の合流地点のすぐ横に人工的だと思うほど綺麗な丸い湖があった。

「ここはデスマウンテンから流れて来ている【アシデ川】とウォール山脈から続く【ルカリ川】の合流地点で、3つの国境が街の中に存在する【サンズリブア】という街があった場所だ」
「あった?」

 いくら見ても街のようなものは見当たらないが……サンズリブア……どこかで聞いたことがあるような……。

「魔王と名乗る魔者の王が現れてから、最も多くの犠牲を出した【サンズリブアの悲劇】といわれる戦いがここで起きた」

 【サンズリブアの悲劇】今から半年前に起きたアクリス全土を震撼させた歴史的大事件は、サンズリブアに国境を持つ1つの国が魔王軍の傘下に入ることを表明したことから始まった。
 サンズリブアの街に次々と集合してくる魔者の軍勢に恐怖を覚えた残りの2国は強力な騎士団を保有し度々、魔王軍と衝突していたアクリス正教に協力を要請。そして、派遣されたのがフラワルド騎士団であった。
 フラワルド騎士団と2国の連合軍がサンズリブアに到着した時には街はすでに魔王軍に占拠され、【人間ヒューマン】は皆殺し、傘下の国以外の亜人は追放されるか捕虜になっている状況だった。
 アクリス正教と魔王軍はこれまでに各地で何度も市街戦を繰り広げており、周辺諸国は当初、今回の一件も正教と魔王軍の小競り合い程度の認識でしかなかったのだが、事態は一転。
 魔王サタンと騎士団長【剣王】アフラ・シュウラが前線に現れ、そこから一気に正規の大事件へと転がっていった。
 そもそもなぜ魔王軍はこの地にそれほどの戦力を投入したのかというと、魔王軍の本拠地はアクリスの北半球に位置する大陸で、他国に攻め込む場合どうしても移動が大きな課題となってくる。そこで、海から巨大な川が大陸中に広がっていく起点となるこのサンズリブアは、ディアンタ大陸を侵略するためにどうしても抑えておきたい重要な拠点の一つと考えたのだ。
 結果、魔王自ら軍を率いて街の占拠に乗り出し、その情報を得たフラワルド騎士団は団長含む全勢力で魔王討伐に乗り出すことになり、主力同士のぶつかり合いでサンズリブアは火の海につつまれた。
 そして、3日続いた戦闘に終止符を打った魔王の極大魔法により、サンズリブアの街は消滅した。

「極大魔法っていったい何をしたんですか!?」
「詳しことはわからないが、生き残ったヤツの話によると、押され始めた魔王軍が突然撤退をした後すぐに巨大な隕石が街を消し飛ばしたらしいんだが、そんな魔法は見たことも聞いたことも無くてな。とりあえず魔王が使った得体の知れない魔法ということになっている」
「それは、おそらく魔王の重力魔法【メテオライト】ですね……でも……俺が知っている【メテオライト】はせいぜい拳ほどの大きさの隕石を降らせるくらいの魔法だったはずですが……」

 街を消滅させるなんて……レベル900オーバーの魔法はもはや、私の想像を遥かに超える規格外のものになっているようだ。
 しかし、いくらそれができる力があるからといって、戦局が不利になったくらいで街は消滅させてしまうなんて……サンタはここが現実世界だと本当にわかっているのだろうか……。
 湖になったサンズリブアのクレーターを見つめながら、サンタやアフラさんがこの世界で何をしているのか思い知った私は、自分は今後何をしたらいいのか、何をすべきなのかを模索し始めた。その答えは今すぐにでるものではないが、関係のない人々を巻き込む愚かな戦いを続けさせてはいけないと強く思ったのだ。

「エヴァさん、酒のつまみに世界の情勢を教えてもらってもいいですか?」
「いいぜ、ただし……潰れんなよ」
「大丈夫っす。結構強いの知ってるでしょ?」
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