THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

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2回戦まで

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「楽勝じゃったの」
「えらく殺気だっていたが、顔見知りだったのか?」
「エヴァがギルド前で蹴り飛ばしたやつじゃぞ」
「知らん!そんなのは日常茶飯事だ」

「あっそう……」

「さて」
「フィン?」
「なんじゃ?」

「帰るぞ」
「もう終わりか!?」
「2回戦は3日後だ、残って観ていてもいいが」
「興味ない、帰るんじゃ」

 ♦︎

 遠い歓声を背に、私は【国立ジングコロッセオ】の入口前に立っている。
 緊張感から解放され、2回戦に向けようやくやる気が出てきたところだと言うのに。試合が終わった私は係員に素早く着替えさせられ、そのまま追い出されてしまった。

「えっ……俺、勝った……よね?」

 誰か頼むからこのイベントの詳細なスケジュールを教えてください。こんな扱いをされ続けたら頭がおかしくなっちまう。

「フィーーーン!」

 このやる気のない声は。

「マロフィノ!!」

 即座に振り返り両手を広げて跪くと、黒いフワフワの毛玉が飛び込んできたので優しく抱きしめる。

「マロフィノォ~フィノフィノォォ」
「フィン!キュン!」

 ああ、少し海臭くてベタついてはいるが獣臭が微かにするフワフワに、荒んだ心が癒される。

「何泣いてんだ?」
「エヴァさん?あれ交流戦は?」
「今日はこれで終わりだよ、考えたらわかるだろ。帰るぞ」

 冷たい。考えたらわかるだろって……お前がちゃんと教えてくれたらいいだけの話でしょうが!

「お疲れ様じゃ、なかなか良かったぞ」
「あざっす……って偉そうに言うなよ」
「ウシシ、わらわは偉いんじゃぁ」

 あっそ。まあ確かにいつも偉そうではあるけどね。

 その後、リゾート宿に戻った私は部屋の庭でトレーニングを開始……
「フィン!フィン!」
「これ!マロフィノ!待つんじゃ!」
「フィン!フィン!」
「何を!生意気なやつめぇ」
「フィン!フィン!」
「なかなかやるのう!これなら!」
「フィン!フィン!」
「なんという動きじゃ!しかし、まだまだ
「ダァァァァ!!ウルセェ!!なんださっきから目の前をチョロチョロチョロチョロ!!嫌がらせか?嫌がらせだなコンチクショウ」

 素振りを始めた私の前を、横を、後ろをうざったくチョロチョロチョロチョロ走り回るちびっ子2匹についにキレてしまった。

「だって」
「だって、なんですか」

「ヒマじゃもん」
「だったら海行くとか、買い物行くとか、食事に行くとか色々できるじゃないですか」
「おっ!マロフィノ船じゃ!大きいのう」
「フィン!」
「聞けぇぇぇ!!」
「だったらお出かけしてやってもいいじゃけど、タタラも来るんじゃぞ」

 悪びれる様子もなく満面の笑みで振り返るリアス、まったくこのお嬢様ときたら。

「だーかーらーっ!俺はっ」
「なんじゃ!トレーニングか?イザベルの時からずっとずぅぅぅぅぅっと阿呆みたいに剣を振りおって!今さらやったからなんじゃというんじゃ!」
「何言ってんだよ!次の試合に勝たないと俺は……俺は……」

 エヴァさんに殺されるかそれ相応の罰が下されるだろう。ああ、考えただけでも恐ろしい。

「試合など次もタタラが勝つに決まっておるじゃろう!それよりもせっかくこんな綺麗な場所に来たのにトレーニングばかりで悔しくてないのか」
「いや別に悔しくは……そんなに気にいったんなら、またくればいいじゃないかよ」
「何をいうか!!わらわはもう二度と……」

 リアスはそこまで言いかけて、ハッとした表情で私から顔背けた。

「もう二度となんだよ」
「なんでもない、タタラなんか知らん!自分の剣に頭ぶつけてしまえ!アホ!バカ!大っ嫌いじゃ!!行くぞマロフィノ!!」

 大声で怒鳴りながら部屋に戻ったリアスはそのままの勢いで入口の扉を叩くように開け、出て行った。

「なっ……なんだよアイツ」

 視線を落とすと足元でマロフィノが私の顔を見つめている。
 良かった!お前はやっぱり私の味方だよな!と、思ったのもつかの間。

「フンッ」

 そう言い残し、去って行った。
 あっ入口の扉、カリカリして……ぁぁ、自分で開けれちゃうのね……。

 ……。

 私、なんか悪いことした?
 つーか、お金はあるんだからそんなに遊びたいなら交流戦終わってから少し残って泊まっていけば良いじゃん。
 ねぇ?そう思わない?
 まぁ、私がそう思ったところで、リアスにとってそういう問題ではないから怒っているのだろう。
 確かに、言われてみれば交流戦が決まってからというもの、まともにみんなで食事すら出来ていなかったし、チームワークが重要な冒険者パーティーにとって仲間割れは死活問題である。ここは、致し方なく、まったく乗り気ではないが……。

「俺の方が(魂は)年上だし、謝って一緒に観光でもしてやるか」

 まぁ、私の方が年上だからね、相手が悪かったとしても自分から謝って穏便に済ませてやるくらい余裕なんですよ。
 いや、マジで……。

「そうと決まれば」

 メニュー起動、装備ウインドウ起動。

 ジングリゾートシャツ、海パン、海サンダルを装備。

 衣服を換装し、これで完璧。ペタペタと音を立てながら走り出したのだがすぐに立ち止まり。

「おっと!鍵、鍵」

 戸締りは大事である。
 窓の鍵を閉めて、部屋の鍵を持って、いざ!リアスとマロフィノの元へ!っと、気合いを入れて入口の扉を開けたのだが。

「えっ……リアス、マロフィノ?」

 入口のすぐ横でしゃがんだリアスとマロフィノが私を見上げて、スッと立ち上がった。

「遅いんじゃ!まったく!わらわ達が他のパーティーに入ったらタタラ1人になるんじゃぞ!」
「フィン!フィィィン!」
「いや、大金払って紋章作ったばっかりでそれは無いっしょ」
「人生何があるかわからんのじゃぞ、次からはもっと早く追いかけて来るように!それから、わらわも着替えくるゆえそこで待っておれ」
「フィン!」

 リアスは満足そうな笑みを浮かべながら私を押しのけ部屋に戻り扉を閉めた。
 チクショウ、このガッカリペッタリミニエルフに一瞬でも謝ろうなどと思った私が馬鹿だった。

「覗くんじゃないぞ、助平」

 ダ・レ・ガお前の着替えなんぞ覗くか!!お前のどこに需要あるというんだ不愉快だまったく!
 怒り心頭しながら、視線を落とすと足元でマロフィノが私の顔を見つめている。
 なぁ!お前もそう思うだろ?

「フンッ」

 ですよね、君は女性の味方だもんね~。なんか最近ちょっと可愛くないなコイツ。

「フンッ」

 やめろ!それ。
 
 それから、2回戦までの2日間、私達【渡り鳥】はジング観光を行なった。
 正直めっちゃ楽しかったっし、すごくリフレッシュできたのだが。ちびっ子達が寝静まってからトレーニングに励んだのはいうまでも無いだろう。

 そして、交流戦2回戦の朝が訪れた。

「緊張はしておらぬか?」
「フィン!」
「いいか、今日は死んでも勝てよ」

 国立ジングコロッセオの前でみんなから激励の言葉をもらいながら、心を奮い立たせる。

 程よい緊張、思考は冷静、体は軽い。

「良し!いっちょやってやるますか!せーの!」
『フィィィィウォォォォ!!』

 さぁ私にとって運命の一戦だ!

「なんだその掛け声は……」

 ドン引きしているエヴァさんを見て思った。この掛け声、人前でやるのやめよっと。


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