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サタンサイド

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 AAアンノアクリス720年4月1日
 
 魔者王によって惑星アクリスのヘルズに魔王として召喚された僕はまず手始めに目の前にいたレジバンを【調魔ティム】してみた。かざした左手から七色の光が放たれ、レジバンを包み込みそのままレジバンの中へと消えていった、ゲームの時はウィンドウが開き調魔成功のメッセージが表示されたが何も起こらないので不安になったので調魔ウィンドウのリストで確認をしてみると、一番下にレジバンの文字があった。

【 名前 】  レジバン
【 種族 】 サイチョロプス
【  レベル  】 21
【 HP 】 180/180
【 OP 】 28/28

 サイチョロプスってなんだろうとは思ったが、コレ・・のことなんだろうと納得することにした。
 次にレジバンに世界の説明を受ける前にOPについて質問したのだが、どうやらMPとかと同じようなものらしいが0になると死ぬらしいのでそこは気をつけなければ。

 次にこの世界でモンスターは【魔獣】と呼ばれることと、魔獣と魔者の違いについて説明された。
 魔獣とはこの惑星のオーラとも言える【魔動マソ】が何かの原因で汚染されたり、濃度が高くなったりすると魔石が生成され、魔石自身が持つ収集の効果で近くの【マナ】と【マソ】を集成した結果生まれるもので、魔獣という存在は人間や動物とは根本的に違う生命体と説明されたが実のところ僕はあまり理解できなかった。
 そして、魔者はこの魔獣が進化した結果、思考を持ち人語を話すようになった者達を魔者と呼ぶのだとか、また魔者どうしの子供や、稀に生まれた時から魔者といった例もあるようだけど……要は魔獣の上位種族ってことなのだろう。

 その後レジバンは世界地図を持ってきて世界情勢について色々と説明を始めた、子供の書いたような地図ではあったがそれが逆にわかりやすくて良かった。
 まずこの世界には5つ大陸があり、その中で一番小さい大陸が今いる【ヘルズ大陸】だ。
 現在このヘルズ大陸にある国は【ヘルズ合州国】だけであるが、歴史をたどるとかつてこの大陸は別の名前で呼ばれ3か4の国が存在していたそうなのだけど、初代魔者王【ヘルズ】がこの大陸に出現し徐々にその領土を広げると自然と世界各国から魔者がこの大陸に集まるようになった。
 初代魔者王【ヘルズ】は規格外の戦闘力を誇り【災厄の王】と呼ばれた反面、その性格は穏やかで人類に対し友好的であったため当時の人類はこの大陸を魔者達に差し出す代わりに友好条約を持ちかけ【ヘルズ】はそれを了承。
 そして初代魔者王となった【ヘルズ】は、大陸の自然状況に合わせて大陸を8つの【州】に区切りそれぞれに州を治める王【州王】を配置し、ここに魔者達の国【ヘルズ合州国】が誕生した。

 ヘルズ合州国はどんどん経済を発展させ大きな国になっていったが、初代魔者王ヘルズの死去により状況は一転、2代目に就任した魔者王は人類を嫌う武闘派で就任と同時に友好条約を破棄、軍を率いて他の大陸に侵略を始めた。
 これが人類がヘルズ合州国に抱く印象を決定する要因になっているらしく、現在、魔者が侵略者とか人類の敵とか魔獣と同じようにあつかわれているのは2代目魔者王のせいなのだとか。

 そして、この争いばかりの状況を打開するべく動いたのが僕を召喚した3代目魔者王だ。3代目魔者王は州王達の意見を無視し、強引に他の大陸の国と友好条約を結び「もういくさは起きない」と軍を解体。そして、友好国とした国に裏切られ、他国に外交に赴いた魔者の幹部は皆殺しにされヘルズ大陸にかつて住まっていた人類の祖先の連合軍により侵攻を受けた。
 なんとか撃退はしたものの、湾岸部で大きな被害が出てしまいそのまま魔者王の権力は衰退していき、今に至る。

 ということで、現在僕の味方になってくれる州は一つも存在しない。

 まぁ人間を信じた魔者王が悪いな。

 ちなみ、僕の領土はヘルズ城のみで10kmほどしか無いがこれでもれっきした州の一つであるため、残る7つの州にまず大陸の主と認められなければ人類滅亡計画どこかではないわけで、話の中で一番驚いたのはこの、ヘルズ城の領土にいる魔者はレジバンだけだということだ。
 どれだけ嫌われていたか知らないが配下が1人だけでよく魔者王なんて名乗れたものだ。

 まず少しの期待を持って大々的に魔王誕生をヘルズ全土に発表し新王に仕える者を募集しようと試みたが、レジバンにそういった連絡手段は無いといわれ即断念。
 仕方がないので就任のご挨拶に各州回るしかないという結論になった。やる事が決まったので早速行動を開始しようとしたのだが、移動手段が無いことが判明したので、ルドルフに続き調魔を呼び出す。

【 名前 】   ギヴェール
【 種族 】  翼小竜エイバーン
【  レベル  】  95

 そしてギヴェールに乗竜用の鞍を装備させ、僕とルドルフとレジバンで乗り一番近い州王の城を空から目指す。
 ちなみこの青い鱗の翼小竜エイバーンは【AQURIS online】で偶然遭遇したレアモンスターで、通常の翼小竜エイバーンは緑色である。
 さらに言うとレアモンスターは調魔成功率が悪魔的に低く、現在成功例はたった5件しか報告されていない。まぁそのうち2体が僕なんですが。
 そんな自慢話しをているとレジバンが何か言いにくそうにしていたので、話を聞くと一番近い州ではなく別の州ではダメかという内容のものだった。
 その理由は一番近い州の王はヘルズ合衆国で1、2を争うほどの実力に持ち主でかなり好戦的な魔者らしいとのことだった。さらにレジバンの話は続き、州王同士はすこぶる中が悪いらしく、さらに全員がもれなくヘルズ城と魔者王の座を狙っているらしい。
 しかし、魔者王を撃ちに出ると帰る頃には燐州に侵略されてました、なんてことになりかねない微妙な駆け引きというかバランスがとられいて、そのおかげで魔者王が今日まで寝首をかかれずにいれたのだ。
 まぁ要は近い所は強い魔者がいるし、魔王自ら出向いたら殺されかねないので弱いところからコツコツいきましょうと言いたいのだろうが、僕の考え方は違う。
 レジバンが分かる程度の強弱設定なら、ヘルズ合州国全員が理解しているはずだ。そこでもし僕達が弱い州から順に回っているというのが広まれば、弱い州と格付けされた州は妬みと怨みを、強い州と格付けされた州は逆に僕達を舐めて来るだろう。だからこういう時は、多少リスクがあっても当初の予定通り隣国から回るべき、だと、思ったのだけど州王ってどのくらい強い魔者なのだろうかと、少し足が震えてきた。レジバンには武者震いだと誤魔化しつつ向かっている州とその王の情報を知っている限り話させた。
 
 今向かっている州の名前は【ジャハン州】、領土のほとんどが溶岩と火山という炎とマグマの灼熱の州。
 当然そこに住む魔者は火の魔者か火耐性の強い魔者に限られ、もっとも数の多い魔者は【竜種】。
 つまり、ジャハン州の王は、火炎耐性を持つ最大派閥である竜種で一番強い魔者。【レッドドラゴン】である。
 初戦からレッドドラゴンは確かに骨が折れるが、ゲームでは幾度となく倒しているし攻略法が同じなら特別問題はないだろう。しかし僕は不意に、この世界に来てから準備運動すらしていないことを思い出し【AQURIS online】のように動けるのか心配になった。
 まぁ、いきなり王に会えるわけではないだろうし途中で下っ端で小手調べくらいできるだろう。

 ジャハン州に到着するまでの間に、メニューウインドウを開き装備を一通り確認したのだが、ゲームの時よりも細かく装備が可能になっていることに気づき火耐性が上がる【炎の指輪】を8つと入手したての【魔者王のマント】を装備した。
 これで大幅に火耐性が上昇して、【AQURIS online】のレッドドラゴンの最強ブレス技【フレアブレス】も数値的には1桁ダメージで抑えることが可能なほどになった。
 信じられないほど上昇したステータスウインドウを見つめニヤついていると、ジャハン州に入ったとレジバンが警戒を促す。この正確なナビゲート、何気にレジバンという魔者は使えるヤツだと感心していると、ジャハン州の州境警備であろう鎧を装備した飛竜がいきなり火の息で攻撃してきた。
 現在は力がないとはいえ、大陸の主の住む州から侵入してきた者を問答無用でで攻撃するのは如何なものかとは思ったが、ちょうどいい準備運動になると思いギヴェールに回避をしながら地面に近づくよう命令、そして地面から数メートルのところで戦闘区域からの離脱を命じ自分だけ背から飛び降り、動作確認と準備運動を兼ねた戦闘を開始した。

 まず敵戦力の確認を行う。

 鑑定スキル【解析かいせき
 【 名前 】  エイバーン
 【  レベル  】  58
 【 HP    】      2188/2188
 【 OP    】 101/101

 【AQURIS online】の翼竜に近いエイバーンとは微妙に違い翼の生えたリザードマンといった感じの鎧姿の剣を持ったエイバーン4体との戦闘は1分もかからずに終了した。
 戦闘内容を簡潔に述べると、まず重力魔法【グラヴィアス】でエイバーンの群れを地面叩き落とし、地上戦に持ち込み敵エイバーンの剣を一撃、火の息を1発受けてみて【痛み】を確認。その後は槍で薙ぎ払って終わりである。

 もちろん、自国民であるためとどめはさしていない。

 この異世界において、攻撃で受けるダメージと痛みの度合いは【AQURIS online】のそれと大差がなく、火の息に関してはサウナに入った程度の印象だったためこの1分くらいの戦闘で得た情報はかなり有意義なものだった。
 それに僕の主属性である【重力】の魔法はこの世界でも飛行タイプには有効なようだ。
 地面に転がるエイバーン達に回復薬を渡し、自分が新王でありこれからジャハン州の王に挨拶に行くところだと説明すると、礼儀正しく正座をしてこうべを垂れ、いきなり攻撃をした事への謝罪と州王の命令でヘルズ城から来た者には問題無用で攻撃せよとの命令があったことを説明され、さらに州王に挨拶に行くのは危険だと説得された。
 彼等からすると、僕も相当強いのだが州王の方がさらに強いといった印象のようだ。
 まぁだからと言って、このまま退散するわけもなく、エイバーン達を警備に戻し、ギヴェール達を呼び寄せ再びジャハン州王の居城を目指す。

 途中、何度か空中警備に遭遇したがいちいち降りるような事はせず重力魔法で叩き落としながら進むこと1時間。
 僕達は州王の城【ジャハン城】に到着した。
 さすがに空から入城したのでは賊っぽいので城の手前から徒歩で進み城門を通り入城をする。
 僕が新王だとわかるようにわざわざ【魔者王の王冠】と【魔者王のマント】を身につけているのに武器を向けてくるような無礼者はルドルフとギヴェールが片っ端からねじ伏せていく。
 そして、30分を要し辿りついた州王がいる部屋の扉をノックして入室すると、【AQURIS online】のレッドドラゴンの倍はある巨大なドラゴンが……腹筋をして汗を流していた。
 少し気まずい雰囲気になったので、一度退室、数秒待って再びノックをして部屋に入ると頭から尻尾の先までで10mはあろうかという巨大なレッドドラゴンが腕を組み僕達を見降ろしている。

  鑑定スキル【解析かいせき】 

【 名前 】  レクター
【  レベル  】 308

 確かにコイツはかなりのレベルだが、ヘルズ大陸1、2を争う強者がこの程度?っといった印象である。
 とりあえず、新王として臆せず就任の挨拶をしたが、相手は当然「飛んで火にいる……」とか「俺が大陸の王に……」とか、まったく想像通りの返答で返してきたので遠慮せずにこの場で戦闘を開始した。
 ちなみにルドルフやギヴェールの力を借りたら後で文句を言われそうなので自分1人で対応する。
 
 そして、1時間後。

 城を半壊させながら、勝敗が決まった。

 まぁもちろん僕の勝利なのだが、目の前で倒れているツノと翼と尻尾の生えた全裸の女性は戦闘中に変身したレッドドラゴン【レクター】である。俺とか言っていたのでオスだとばかり思っていたので変身された時は若干顔が熱くなったのは置いておくことにして。

 レクターの戦闘は終始ブレス攻撃を吐きまくるというだいぶお粗末なもので、僕の対策は重力魔法【グラヴィウォール】という重力の壁で対応しつつ、ブレスの切れ間を見て槍で突くといった感じだ。
 戦闘中盤、レクターはいとも簡単に硬い鱗を貫通してくる槍を警戒して空を飛んでブレス攻撃を仕掛けてきたので飛ぶたびに重力魔法【グラヴィアス】で地面に叩き落とし、槍スキル【五月雨】で一気にダメージを重ね、戦闘終盤、巨体が不利と感じたのか人型に変身したレクターは高速で移動しながらあたりを火の海に変えていった、正直、初動からこれなら厳しい戦いになっていたと思うが、戦闘感を取り戻した僕はレクターの高速移動にも簡単に対応、最後は空中から急降下して僕を押し潰そうと放った【ドラゴンキック】を【グラヴィウォール】で受け流し、地面に突き刺さったレクターの首もとに槍を向け「とどめをさせ」と目を閉じたところで床が崩落しレクターが瓦礫に埋もれ勝敗が決まった。

 ちなみに僕の使う槍【ロンギヌス】は課金アイテムの中で最もレアな武器のひとつで【AQURIS online】で現在存在するのはこれは1本だけである。
 本当はもう一つのレア【エクスカリバー】が欲しかったのだがロンギヌスが当たり、かなりのチート性能だったため剣から槍にコンバートしたという余談である。

 さて、勝負の後、重力魔法で瓦礫を浮かせて排除し、気を失ったレクターに回復薬を(レジバンが)飲ませ、意識が戻るのを待つこと数分、目覚めたレクターは、僕の力に納得して新王として認め助力を尽くす事を約束してくれたので忠誠の証にレクターを【調魔ティム】したのだが、驚く事があった。

【 名前 】   レクター
【 種族 】  レッドドラゴン
【  レベル  】  309
【  眷属数  】 98558

 僕との戦闘でレベルが上がっていたのもそうだが、眷属数という見慣れない表示があり、さらに開くと名前がずらっと表示された。
 これはジャハン州のレクターを支持する魔者達のことで、州王【調魔ティム】をすれば、他の魔者はいちいち【調魔ティム】しなくてもいいということのようだ、これはありがたい。

 レクターを味方につけた時、すでにあたりは暗くなってきていたので目的を果たした僕達は一度ヘルズ時に戻ろうとしたところ、レクターが城下町でもてなしをすると言うので無下に帰るのもアレなので御言葉に甘える事にした。

 サンタ・クロウズ(Lv399)魔者王
 HP:6484/6484 OP:3912/3912

  攻撃力:4005
  守備力:3804
         魔力:3098
  素早さ:2106
      技術:935
          運:480

 両手:ロンギヌス
  頭:魔者王の王冠
  体:魔者王のマント
   :ブラックヴァイパージャケット
  腕:ブラックミスリルグローブ
   :炎の指輪×8
  足:ブラックヴァイパーブーツ
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