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サタンサイド

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AAアンノアクリス720年4月5日

 レクターのもてなしの宴は三日三晩続き、初めてお酒を飲んだ僕はその美味しさに驚きほとんど眠る事なく飲み続けた。ゲームからこの世界に召喚されてきたこの体はかなりお酒に耐性があるようだ。
 宴がお開きになった後、ルドルフ達が完全に酔い潰れてしまったのでジャハン州の宿に2泊することになった。その間、レクターからヘルズ城の警備に何名か連れて行ってくれないかというと
提案があり、ギヴェールとルドルフが気に入った飛竜を4名ヘルズ城の警備として連れ帰ることにしたため、僕たちは挨拶回りで次の州へは渡らず、現在ヘルズ城への帰路についている。

 ギヴェールの背に乗りながら飛竜5体の編隊を満喫していると、ヘルズ城から赤い煙が上がっているのが見えた。それはレジバンいわく【バラリバ州】の鬼人隊がよく使う狼煙らしいのだが、あまりいい予感はしない。
 様子を見るため、ルドルフを乗せた飛竜だけを同行させ他には待機を命じた。もちろん危険があったりした場合にはジャハンに戻るようにも伝えてある。
 レジバンが自分もお供するとか、王自ら偵察なんてとか騒いでいたが足手まといなので無視して自分の行動を開始した。

 城に近づくと門の前やバルコニー、外廊下などに数体の鎧姿の武装兵が見える。レジバンの言う通り鬼人隊とかいう奴らだろう、全員こめかみの上のあたりから二本のツノが生えている。その中の1体が上空で旋回する僕らの存在に気づき指差しながら「飛竜だ!!」と叫ぶと全員が僕らを見上げて武器を構えた。
 その行動を見て僕はコイツ等を侵略者として排除することに決めた。

  鑑定スキル【解析かいせき】 【 名前 】  アオイオニ
【  レベル  】 39
【 HP 】 1590/1590
【 OP 】 38/38

 他の奴らも同種でだいたい似たりよったりだった。こんなレベルでよく人の城に攻めて来たもんだと呆れながら上空でルドルフ達を待機させ、ギヴェールに城のバルコニーまで降下するように命じその間に【ロンギヌス】を装備、一応「我はヘルズ合州国の新たな王にしてヘルズ城のあるじ【魔王サタン】。今すぐ武装放棄して降伏すれば不当な入城は不問とする」と説いてみたが、「何が魔王だチビが」とか「一騎で我ら鬼人隊100名相手にするつもりか」とか言って笑らわれた。
 一番傷ついたのは暴言に怒ったギヴェールを見て「飛竜には気をつけろ」と言われたことだった。
 僕は怒り狂って城を壊しそうなギヴェールをなだめ上空待機を命じ単身ヘルズ城3階のバルコニーに飛び移る。
 せっかくの自分の城がジャハン州の城みたいに倒壊してしまうのは嫌なので重力魔法は極力使わないように鬼人隊の制圧を開始した。
 まずはバルコニーに集まった5体の鬼兵をロンギヌスでなぎ払いそのまま城の中に入った。もう少し手ごたえがあってもいいような気もするがレベル38なのでこんなものかと思っていると左右の廊下から雄叫びをあげた鬼兵がそれぞれ2体づつで挟み討ちにされた。
 その内の左から走ってくる1体が「貴様がこの城の主だと!?魔者王はどこへ行った!?」と質問してきたが雑魚の質問にいちいち答えていてもキリがないので無視。そいつの振り上げた斧を2、3度かわして槍の柄の底の石突を打ち付け鬼兵の兜を砕きそのまま眉間を突く、まぁこのレベル差なので案の定一撃で決着がついたわけで他の3体も排除しようとしたのだが、立ち止まって動こうとしない。
 仕方なく「どうした怖じ気づいたのか」と煽ってみると「一撃で隊長がやられたぞ」「こんな化け物に俺たちで太刀打ち出来るわけがない」と震えだす。どうやら今の鬼兵が鬼人隊の隊長だったようなのだが、このまま問答無用で戦意喪失の鬼兵どもを排除するべきか、もう一度降伏勧告をするべきか悩んでいると、「魔王様ぁぁ!今行きますぞ!」『おい!心配なのはわかるけどサンタの言うことを守れ』と揉めているような声が聞こえてバルコニーに5体の飛竜が降りてきた。どうやら心配レベルがマックスに達したレジバンが命令を破って僕の加勢に行こうとしたのをルドルフやギヴェールが制止しようとしたのだが、【魔獣言語】スキルを持たないレジバンには2人の声は届かずここまで来てしまったようだ。
 とりあえず命令違反のお仕置きは後で考えるとしてみんなを呼ぶ手間が省けたということで今は良しとした。
 さて問題はこの戦意喪失した残りの鬼人隊なのだが、とりあえず転がっている負傷兵を連れて全員で謁見の間に来るように伝えると驚くほど素直にその命令に従って行動しだした。
 ここまで圧倒的な【力】を差を見せられてはヘルズ合州国の正統な王の命令には逆らえないということなのだろうけど、少し拍子抜けだと思いながらも、ギヴェールと飛竜達に上空監視を命じルドルフとレジバンを連れ謁見の間で鬼人隊が集まってくるのを待っていると、総勢103名の鬼人隊が謁見の間を埋め尽くした。
 全員集める必要はあまり無いと思うが、僕が鬼人隊が集まったところでまったく恐れる必要も無いほどの【力】を持っているぞ、と暗に示唆する目的で一応集めてはみたが、弱いのはわかってはいるが自分より体の倍以上ある敵対者がこのくらい集まっているのを見ていると内心ちょっと怖かった。
 気を引き締めて初めに、僕の質問に誰も答えなかったり、逆に鬼人隊の誰かが何かをこちらに質問をするごとに1名殺すと脅しをかけた、自分の国民なので実際はそんなことをするつもりは無いが、情報を得られなかったり、この人数にいちいち質問責めにあっても面倒だからだ。
 次に僕が魔者王に変わり新たな王になったことを伝えながら誰の命令で何の目的でヘルズ城に侵攻して来たのか尋ねた。当然すぐに答えようとする者はいないが適当に指差しながら10・9・8・7……とカウントダウンをすると指差された鬼兵が大きな声で答えてくれた、足りない情報を埋めるため何度かそれを繰り返すと、今回の騒動のあらましがみえてきた。

 今回の襲撃の首謀者はヘルズ城の北部に隣接する【バラリバ州】の州王【ラボウ】。
 ラボウは兼ねてからヘルズ州境に部隊を配置してヘルズ城を常時監視していたのだが3日ほど前ヘルズ城からジャハン州方面に飛び立つ飛竜を発見、それを耳にしたラボウと側近は2つの憶測をする。
 1つは、ジャハン州の州王レクターが魔者王を討ち取りヘルズ城を手に入れたのではないかというもの。まぁ開戦の形跡は目撃されていないためその可能性は低いと考えながらもゼロではないということになったらしい。
 2つ目は、魔者王にジャハン州が取り入り傘下に入ったのではないか、というものだった。
 実際は目撃した飛び立った飛竜は僕たちを乗せたギヴェールだったので、結局はどちらの憶測も的外れなものだが、ジャハン州が僕の傘下に入ったという点だけは正しいといえば正しい。
 話しはそれたがそれら2つの可能性を踏まえて、ラボウはバラリバ州最強部隊である鬼人隊に命令を下した。
 その内容は、魔者王とレクターが戦ったのであれば必ず深手を負っているはずなのでレクターがヘルズ城にいた場合の殺害と、ジャハン州が魔者王の傘下に入っていた場合必ずジャハン州の兵をヘルズ城に出兵させるはずなのでその規模を確認するというものだった。
 命令を受けて即座に行動を開始した鬼人隊は徒歩で半日もかからずヘルズ城に到着、そして潜入をしたのだが城内はもぬけの殻でどうしたものかと悩みながらも城をくまなく探索するも何も誰も見つからず、とりあえず城の占拠完了の狼煙を上げたところへ僕たちが帰って来て今に至ると言った感じだ。
 ちなみに占拠完了の狼煙を上げたことで明日の午後にはヘルズ城を完全に占領するべく10000兵から15000兵規模のバラリバ州の州軍師団を率いて州王【ラボウ】もしくは軍部の最高司令官がやってきてしまうらしいのだが僕としてはわざわざ挨拶に行く手間が省けるので願ったり叶ったりだと高笑いをしてみると、気絶していた鬼人隊の隊長が恐れながら申し上げますと意見して来た。

 鑑定スキル【解析かいせき】 
【 名前 】  シビク
【  レベル  】 161

 一撃でノックアウトしたので他のアオイオニと同等かと思ったけどそこそこまぁまぁのレベルだった。とりあえずそれは置いておいて。
 シビクいわく、バラリバ州軍師団は一兵の戦闘力は鬼人隊には及ばないものの、師団を編成する各部隊の高度な連携によりヘルズ大陸最強と呼び名の高い軍団らしいのだが、正直全員がシビククラスでもない限り今のところあまり脅威には思わない。
 それよりも困っているのはこの鬼人隊の扱いだ、というのも試しに何名かに【調魔】スキルを試してみたのだがまったく効果がなかった。つまり州に属する魔者はその州の王を調魔しないといけないということなのだが、鬼人隊を調魔できない以上この城に残しておいてバラリバ州軍との戦いを邪魔されても困るし、仮にバラリバ州に帰ったらどうなるか尋ねたのだが即答で作戦失敗は責任を取らされてシビクは処刑されてしまうとのことだった。
 軍隊なんてそんなものかとも思ったが、レベル100を超える魔者はジャハン州でも幹部連中以外ほとんど見ることがなかったのでヘルズ合州国のこれからを考える簡単に処刑されてしまうのはもったいないような気がする。
 そんなことを悩んでいると僕の心情を察してかルドルフがある提案をしてきた、それは単純明解かつ突拍子のないものであったが手間もかからないし最高の案だったのでみんなに訳して伝えたいのだが「由緒正しきヘルズ城にそのような汚点を残してはなりません!!」とレジバンが猛反発。「では、他に鬼人隊が罰せられることなくバラリバに帰れる案を述べよ」と言ってやったら黙ってうなだれたのでルドルフ案で作戦を行うことが決定した。
 
 その作戦とは、このヘルズ城で鬼人隊がバラリバ州軍と合流するまで鬼人隊かれらにヘルズ城を貸しておくというものだ。そうすることで鬼人隊の作戦は完了したことになるので、その間僕たちはジャハン州で待機、そして合流した頃合いを見て再び城に戻りバラリバ州軍から城を奪還するという作戦だ。
 シビクは驚き、なぜ侵略者である我々を咎めず助けてくれるのかと不思議そうにしていたので「ヘルズ合州国の王として民をぞんざいに扱うような真似は決してしない」と、かっこつけてみたら全員が号泣してしまった。
 面倒くさくなる前に一番感動して泣いているレジバンを引きずってヘルズ城を後にした。
 さて、ジャハンに戻ってレクターに何と言ったものか……あれはあれで面倒くさい性格なので自分も加勢すると騒ぎそうなのでなるべく会わないように気をつけて、万が一遭遇した場合は適当なことを言って黙っておこう。
 
 どうか明日は【ラボウ】がやって来ますように。

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