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落雷
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「ところでヒバチ、さっきの火傷は火炎放射でなったのか」
「それもあるんやけど、この火の海も相当効いてたで、まぁこの指輪つけてからめっちゃ楽んなったけどな」
炎の指輪を装備して突っ込んできたのであまり感じなかったが、指輪の火耐性はかなり効果があるようだ。確かに火の海の中にいるというのに感覚的には猛暑日の屋外に立っている感じだ。
私の腕の中で静かに寝息を立てるマロフィノも首輪の効果か火の海でダメージを受けている様子はない。
「とりあえず反対側の入場口を目指してみようと思うんだが」
「せやな、何か行動せぇへんと干からびてまうわ」
「行くぞ」
さっきとは逆の入場口を目指しながら状況を整理する。
まずフレイムフィールドは火耐性がなければ継続ダメージを受けるということ。まぁ当たり前ですが。
次、フィールド中から突然現れるイオタは何かしらの制限があるということ。例えば……一度現れたら次現れるまでチャージタイムが必要とか、もしくは……うーん……なんだろう。
最後に、フレイムフィールド中にはイオタが何故か手を出して来ない安全地帯があるということだ、まぁそれも火耐性があってこそなのだが。
「タラちゃんよけぇっ!!」
ヒバチの叫び声に驚き視線を上げると真横に現れたイオタが両手をかざし。
「火魔法【フレイムスロウ】」
手から放たれた火炎放射を身を翻しギリギリで躱したが。
「気ぃ抜くな!後ろや!」
「火魔法【フレイムスロウ】」
真横にいたイオタが今後は真後ろで火炎放射を放つ、これは避けきれない。
雷魔法。
「【放電】!」
私を覆いながらほとばしる青白い電撃の閃光が火炎放射とぶつかり相殺する。
チッ!誰だ時間制限があるなんて言った馬鹿は!ノータイムで連続攻撃かよ!
「まだ来とるで!って!?」
私の真後ろにいたイオタが消え今後は追って来たヒバチの左後ろに現れた。
「火魔法【フレイム
「伏せろヒバチ!!」
私は右手の銃を突き出しヒバチが伏せるとほぼ同時に、武器スキル【ブルーム】銃口から放たれた衝撃波がフレイムスロウを放とうとしたイオタに直撃したように見えたがその姿はすでに消えていた。
「ヒバチ!さっきのポイントに一旦戻るぞ!」
「異議なしや!!」
途中で何度かイオタのフレイムスロウに襲われながらも私達は全速力でさっきの安全地帯まで走りきった。
「ゼーッ、ゼーッ、どうや?感想は」
「ゼーッ、ゼーッ、正直来なきゃ良かったぜ」
「カカカカカッ!後悔先に立たずやで」
「そーですね」
とりあえず安全地帯のおかげでなんとかまだ生きているが正直このままじゃジリ貧である。
さっき推測したイオタが現れるまでにチャージタイムがあるというのは大きな間違いだったが、この安全地帯にはどんな意味があるのだろう……つーか。
「ヒバチ、お前武器とか無いのか?」
「せやねん!ワイは金棒を使うんやけど取られてしもうてん」
「取られたって……アレか」
「アレや」
ヒバチの言う金棒と言うのはまさしくイオタの持っているそれである。このまま丸腰では流石に厳しいので戦力増強のため【赤ミスリルの剣】を取り出しヒバチに手渡す。
「使え」
「なんや!?めっちゃ良い剣やないか!!タラちゃん太っ腹やな!!」
「おい!指輪と剣はちゃんと後で
「おおきにやで!大事に使わさせてもらうわ」
この野郎、絶対返してもらうからな。
とっ、それは置いておくとして。さてそろそろいい加減、活路を見つけ出さねばこのままじゃ……。
「うおっ!軽っ!なんやこの剣!めっちゃ良いの貰ろうたやん」
次の行動に悩む私の横で剣を振り回す風切り音が……。
「ダァ!!うるせえぞ!!逃げる気あんのか!?お前も何か考え……ろ……」
「どないしたんや?」
ちょっと待てよ、なんでイオタはフレイムスロウを連発するばかりでヒバチの金棒を使わないんだ。火炎放射に紛れて金棒を打ち込んだほうが厄介なのは考えるまでもないのに。
というか。
「さっきイオタが現れた時ヒバチの金棒持ってたか?」
「あれ?そういえば両手突き出してフレイムスロウしとったけど、手には何んも持ってへんかったような……それがどないしたんや」
やっぱりそうか……だとすると、おそらくこのフレイムフィールドは……。
「今逃げて来た方向にもう一度突っ込むぞ」
「なんやて!?丸焼きになるつもりかいな」
「ならねぇよ。次はイオタが出ても足を止めないでなぎ倒してまっすぐ入場口を目指すぞ」
「なんやよう分からんが……分かった。信じるでタラちゃん」
「行くぞ!」
私の号令で再度、入場口を目指し走り出す。
ほどなくして、目の前の炎が揺れイオタが現れたがやはりヒバチの金棒は持っていない。
「懲りない奴等や。そんなに火葬して欲しいんやったら望み通り燃やしてやる!!火魔法【フレイムスロウ】」
突き出された両手から火炎放射が放たれたが。
銃スキル【ブルーム】銃口から放たれた衝撃波がフレイムスロウとぶつかり合い相殺したが、すでにイオタの姿は消えていた。
「このまま行くぞ!ヒバチ!」
「オッケイやで!!」
今の攻防で私は確信した。
冷静になって考えてみるとレベル480の火炎放射をこんなに簡単に相殺できるはずが無いし、姿を消して炎の中を移動できるのであればもっと効率の良い攻撃があるはずなのにそれをしないということは。揺らめきながら私達の前に現れるイオタは、炎が作ったイオタの形をしたフレイムスロウの発射台でしかないということだ。
しかも出現場所も自由自在というわけではなく、あらかじめ決められた場所で近くを通る者を攻撃するというもの(だろう)。
「お前が炎の中を移動するスキルって言うから随分惑わされたぜ」
「えっ?何の話しや」
「要は俺たちはピンボールの玉で、ここはピンボール台の中ってことさ」
「……ピ……ボール?なんやのそれは?」
「……何でもない、忘れてくれ」
出入り口を目指す私達がフレイムフィールド中を定位置で待ち構えるイオタ型火炎放射台に右往左往する様をわかりやすく例えたつもりだったが……この世界にはピンボールはないらしい。
「タラちゃん!出たで!!」
「撃たれる前にぶった斬れ!!」
ヒバチは一瞬だけ躊躇した表情を見せたが。
「やったるわ!!姉御!!すんません!!」
私との試合で見せた突進力で前方に現れたイオタに一気に迫り、振り降ろした赤ミスリルの剣に両断されたイオタは炎を吹き上げながら火の海に消えた。
「なんや!?」
「止まるな!走れ!」
「そういうことかいな」
ヒバチは手ごたえの無さに驚きながらも、フレイムフィールドに突如現れるイオタの正体に勘付いた様子だった。
「タラちゃん、反対の入り口に出た姉御だけが本物ってことかいな」
「たぶん、そうだと思う」
入場口が近づくにつれて火の海の中からイオタの現れる頻度が上がったが、ただの火を吹く幻影と悟った私達の進撃を止めることはできない。
「見えたで!」
「このまま突っ込むぞ!!」
入場口まで後3・4メートル、イオタの幻影の猛攻は最高潮に達していた。
「逃すかぁぁ!!」
「これはちょっと厳しいんとちゃうか」
「俺の後ろに続けぇぇ!!」
武器スキル【ブルームソード】刃を形取ったオーラが銃身を包む。
片手剣スキル奥義【龍剣】
剣と化した銃を突き出し、地面を蹴る足がオーラの爆発の推進力を得てどんどん加速して、全身を包んだオーラが次第に龍を形造りながら大地を駆ける龍の突進の如く、火の海に現れるイオタの火炎放射をなぎ払いながら闘技場の入場口の門を破壊してそのまま通路に飛び込んだ。
「やったぜ!!ヒバッ……」
逃走成功の歓喜のまま笑顔で振り返った私の遥か後方でヒバチは闘技場に倒れこんでいた。
「タラ……ちゃ……逃げっグハっ」
それを見下ろす肩に金棒をかけたイオタ。
真っ赤な髪をかきあげて現れた燃えているような真っ赤な毛に覆われた大きな耳が赤く光る眼光と一緒にこちらを睨みつけている。
「タタラ!マロフィノは!?ヒバチは!?無事か!?」
通路の奥からリアスが駆け寄って来た。どうやら失敗した1度目の突撃の時にすでにこちらまで降りて来ていたようだ。
「マロフィノは今は眠っていますが大丈夫です、でもヒバチは」
「そうか……」
「マロフィノをお願いします、俺は」
「何を言うか!今度こそ妾も」
「マロフィノを……お願いします」
「タタラ?」
「不意打ちとはいえあのヒバチが一瞬でやられてるんです……アレは……ヤバすぎます、だからリアスはマロフィノを連れて先に街まで逃げてください」
私の言葉にこちらを睨むイオタを見るリアスはその迫力に圧倒されたのか一歩後ずさりした。
「なっなんじゃアレは、本当に人なのか?……すまん、正直、妾では手も足も出そうにないんじゃ」
アイアンゴーレムにも臆せず挑んだ勇敢なリアスでさえ圧倒するほどの覇気。
まさかギルドマスターの本気がこれほどまでとは。
「なんや!!来ぃへんのか!?このガキ殺してまうぞ!!」
私はリアスにマロフィノを託しゆっくりと闘技場に戻っていく。
「タタラ!!死ぬんじゃないぞ!!マロフィノと待っておるからな!!絶対戻って来るんじゃぞ!!」
死ぬつもりなどまったくないが、怒れるギルドマスターから果たして無事ヒバチを救出できるかどうか。
闘技場に入るとフレイムフィールドを解除したのだろう、火の海は跡形も無く消え去っていた。
「なんで戻って……きた」
「やかましい!!テメェは黙ってろや!!」
「グハッ!!」
うつ伏せで倒れてているヒバチの背中を踏みつけるイオタ。
「初見で私の【火炎領域】を逃げ切るなんてたいしたもんやんけ、エヴァには勿体ないやん、アンタぁウチのギルドに来ぃへんか?」
「そんな扱い受けてるのを目の当たりにして、行きますって言うやついるんすかね?」
「グッガァァァ!!」
イオタはヒバチを睨むように見下ろすながら踏み付ける足にさらに力を込めたようだ。
「コイツの扱いは特別や、なんたってアタイのペットやからな」
「ペット……だと?」
「そうや。親に捨てられ、村中から嫌われ、挙句、奴隷屋に売られ、そこでアタイが買うたんや、なんやオモロイのがいるな思うてな。ほんで、冒険者まで育ててやったいうのにこのクソガキ、恩も忘れてギルド辞めさせもらうわやと!?んなもん誰が許すっちゅーねん!!なぁ兄ちゃん」
ヒバチの壮絶人生は置いといて、相当ヤバイなこの人。いちいち反論してたら絶対噛み合う気がしないので黙っておこう。
さて、今思いついたが時間がかかるがこういう状況にうってつけの方法がある。
最小表示したメニューウインドウを素早くスクロールして魔法をセットした。
「何黙っとんねん、言うとくが妙な真似したらコイツの背骨ぶち折ったるで」
私は素早く両手を上げた。20……19……。
「勘弁してください、どうしたらソイツを助けてくれますか?」
「せやな、さっきも言ったとおりアンタがウチのギルドに来る言うんなら助けてやってもいいで」
9……8……7……。
「そういうことなら……わかりました。その話……」
その時上空から、ゴロゴロっと低い轟音が響きイオタは不思議そうに空を見上げた。
4……3……2……。
「丁重にお断りします」
私はイオタめがけて手をかざし叫ぶ……0。
雷魔法。
「なんや!?」
「落ちろ!!【サンダー】(+スタン)!!」
タイムラグ20秒、消費OP500。
この世界で初めて放った自身最高の雷魔法は、上空から雷鳴を置き去りに漆黒の夜の闇を青白い閃光でジグザグに切り裂きながらイオタに直撃し大地をえぐった。
『グアアああああああ!!!』
イオタとヒバチの叫び声の直後、置き去りされた雷鳴が鼓膜と心臓が破裂するのではないかと思うほどの爆音を上げ、さすがにここまでの衝撃を想定していなかった私は驚きのあまり尻もちをついて倒れてしまったが、急いで立ち上がり。
「来い!ベルググ!!」
現れた漆黒の大剣を手に電撃に拘束され口から煙を上げているイオタに突進しながら両手剣スキル【飛剣】放たれた衝撃波に押されてイオタが闘技場の反対まで吹き飛んで行く。
「戻れベルググ!大丈夫か!?ヒバチ!!」
返事はないがまだ生きている……はずだ。回復魔法【ハイパーヒール】
私の手から放たれた光で電撃で焼け焦げた体がみるみるうちに修復されて、ヒバチが飛び起き。
「なんや!!タラちゃん!!殺す気か!?殺す気やったな完全に!!」
半ベソをかきながら私の胸ぐらを掴み怒鳴り散らすヒバチ。
そう、この雷魔法【サンダー】は超強力な攻撃魔法ではあるが、実戦では絶望的なタイムラグ、尋常じゃないOP消費、屋内では使用不可能、そして範囲内の無差別攻撃(使用者も含む)というかなり使い勝手の悪い魔法なのだが。
その威力のほどはご覧の通りである。
「生き残るって信じていたぞ」
「白々しいねん!ホンマに」
胸ぐらを掴んでいた両手をはなし、うなだれながら腰に手を当て首を振るヒバチ。
「あれ?」
「んっ?」
ヒバチは足元に何かを発見して突然しゃがみこみ、剣と棒を拾い上げた。
「やった!ワイの【鬼神棒】や!!タラちゃんコレもういらへんから返すわ!」
赤ミスリルの剣を私に突き返すヒバチ。だからあげるなんて言ってないっつーの。
それにしても、キカンボウという名の棒……ヒバチにピッタリすぎて怖い。
「よっしゃ!タラちゃん逃げるで」
「そうだなこんな所にもう用は無いな」
あとは闘技場から脱出したらミッションコンプリート、そう思った瞬間。
闘技場内の空気が一変。
『殺す』
脳に直接響いたような圧倒的殺意に私達の体は硬直した。
『火魔法【ファイアウォール】』
私達の目の前で入場口が炎の壁によって封鎖されたが、その熱量は今までくらっていたフレイムスロウをはるかに上回るものだった。
恐怖にすくむ体を奮い立たせなんとか振り返った私達に向かってゆっくりと近づいて来るイオタの真紅に光る瞳を見た私は、魔王と対峙した時の絶望感を思い出していた。
「それもあるんやけど、この火の海も相当効いてたで、まぁこの指輪つけてからめっちゃ楽んなったけどな」
炎の指輪を装備して突っ込んできたのであまり感じなかったが、指輪の火耐性はかなり効果があるようだ。確かに火の海の中にいるというのに感覚的には猛暑日の屋外に立っている感じだ。
私の腕の中で静かに寝息を立てるマロフィノも首輪の効果か火の海でダメージを受けている様子はない。
「とりあえず反対側の入場口を目指してみようと思うんだが」
「せやな、何か行動せぇへんと干からびてまうわ」
「行くぞ」
さっきとは逆の入場口を目指しながら状況を整理する。
まずフレイムフィールドは火耐性がなければ継続ダメージを受けるということ。まぁ当たり前ですが。
次、フィールド中から突然現れるイオタは何かしらの制限があるということ。例えば……一度現れたら次現れるまでチャージタイムが必要とか、もしくは……うーん……なんだろう。
最後に、フレイムフィールド中にはイオタが何故か手を出して来ない安全地帯があるということだ、まぁそれも火耐性があってこそなのだが。
「タラちゃんよけぇっ!!」
ヒバチの叫び声に驚き視線を上げると真横に現れたイオタが両手をかざし。
「火魔法【フレイムスロウ】」
手から放たれた火炎放射を身を翻しギリギリで躱したが。
「気ぃ抜くな!後ろや!」
「火魔法【フレイムスロウ】」
真横にいたイオタが今後は真後ろで火炎放射を放つ、これは避けきれない。
雷魔法。
「【放電】!」
私を覆いながらほとばしる青白い電撃の閃光が火炎放射とぶつかり相殺する。
チッ!誰だ時間制限があるなんて言った馬鹿は!ノータイムで連続攻撃かよ!
「まだ来とるで!って!?」
私の真後ろにいたイオタが消え今後は追って来たヒバチの左後ろに現れた。
「火魔法【フレイム
「伏せろヒバチ!!」
私は右手の銃を突き出しヒバチが伏せるとほぼ同時に、武器スキル【ブルーム】銃口から放たれた衝撃波がフレイムスロウを放とうとしたイオタに直撃したように見えたがその姿はすでに消えていた。
「ヒバチ!さっきのポイントに一旦戻るぞ!」
「異議なしや!!」
途中で何度かイオタのフレイムスロウに襲われながらも私達は全速力でさっきの安全地帯まで走りきった。
「ゼーッ、ゼーッ、どうや?感想は」
「ゼーッ、ゼーッ、正直来なきゃ良かったぜ」
「カカカカカッ!後悔先に立たずやで」
「そーですね」
とりあえず安全地帯のおかげでなんとかまだ生きているが正直このままじゃジリ貧である。
さっき推測したイオタが現れるまでにチャージタイムがあるというのは大きな間違いだったが、この安全地帯にはどんな意味があるのだろう……つーか。
「ヒバチ、お前武器とか無いのか?」
「せやねん!ワイは金棒を使うんやけど取られてしもうてん」
「取られたって……アレか」
「アレや」
ヒバチの言う金棒と言うのはまさしくイオタの持っているそれである。このまま丸腰では流石に厳しいので戦力増強のため【赤ミスリルの剣】を取り出しヒバチに手渡す。
「使え」
「なんや!?めっちゃ良い剣やないか!!タラちゃん太っ腹やな!!」
「おい!指輪と剣はちゃんと後で
「おおきにやで!大事に使わさせてもらうわ」
この野郎、絶対返してもらうからな。
とっ、それは置いておくとして。さてそろそろいい加減、活路を見つけ出さねばこのままじゃ……。
「うおっ!軽っ!なんやこの剣!めっちゃ良いの貰ろうたやん」
次の行動に悩む私の横で剣を振り回す風切り音が……。
「ダァ!!うるせえぞ!!逃げる気あんのか!?お前も何か考え……ろ……」
「どないしたんや?」
ちょっと待てよ、なんでイオタはフレイムスロウを連発するばかりでヒバチの金棒を使わないんだ。火炎放射に紛れて金棒を打ち込んだほうが厄介なのは考えるまでもないのに。
というか。
「さっきイオタが現れた時ヒバチの金棒持ってたか?」
「あれ?そういえば両手突き出してフレイムスロウしとったけど、手には何んも持ってへんかったような……それがどないしたんや」
やっぱりそうか……だとすると、おそらくこのフレイムフィールドは……。
「今逃げて来た方向にもう一度突っ込むぞ」
「なんやて!?丸焼きになるつもりかいな」
「ならねぇよ。次はイオタが出ても足を止めないでなぎ倒してまっすぐ入場口を目指すぞ」
「なんやよう分からんが……分かった。信じるでタラちゃん」
「行くぞ!」
私の号令で再度、入場口を目指し走り出す。
ほどなくして、目の前の炎が揺れイオタが現れたがやはりヒバチの金棒は持っていない。
「懲りない奴等や。そんなに火葬して欲しいんやったら望み通り燃やしてやる!!火魔法【フレイムスロウ】」
突き出された両手から火炎放射が放たれたが。
銃スキル【ブルーム】銃口から放たれた衝撃波がフレイムスロウとぶつかり合い相殺したが、すでにイオタの姿は消えていた。
「このまま行くぞ!ヒバチ!」
「オッケイやで!!」
今の攻防で私は確信した。
冷静になって考えてみるとレベル480の火炎放射をこんなに簡単に相殺できるはずが無いし、姿を消して炎の中を移動できるのであればもっと効率の良い攻撃があるはずなのにそれをしないということは。揺らめきながら私達の前に現れるイオタは、炎が作ったイオタの形をしたフレイムスロウの発射台でしかないということだ。
しかも出現場所も自由自在というわけではなく、あらかじめ決められた場所で近くを通る者を攻撃するというもの(だろう)。
「お前が炎の中を移動するスキルって言うから随分惑わされたぜ」
「えっ?何の話しや」
「要は俺たちはピンボールの玉で、ここはピンボール台の中ってことさ」
「……ピ……ボール?なんやのそれは?」
「……何でもない、忘れてくれ」
出入り口を目指す私達がフレイムフィールド中を定位置で待ち構えるイオタ型火炎放射台に右往左往する様をわかりやすく例えたつもりだったが……この世界にはピンボールはないらしい。
「タラちゃん!出たで!!」
「撃たれる前にぶった斬れ!!」
ヒバチは一瞬だけ躊躇した表情を見せたが。
「やったるわ!!姉御!!すんません!!」
私との試合で見せた突進力で前方に現れたイオタに一気に迫り、振り降ろした赤ミスリルの剣に両断されたイオタは炎を吹き上げながら火の海に消えた。
「なんや!?」
「止まるな!走れ!」
「そういうことかいな」
ヒバチは手ごたえの無さに驚きながらも、フレイムフィールドに突如現れるイオタの正体に勘付いた様子だった。
「タラちゃん、反対の入り口に出た姉御だけが本物ってことかいな」
「たぶん、そうだと思う」
入場口が近づくにつれて火の海の中からイオタの現れる頻度が上がったが、ただの火を吹く幻影と悟った私達の進撃を止めることはできない。
「見えたで!」
「このまま突っ込むぞ!!」
入場口まで後3・4メートル、イオタの幻影の猛攻は最高潮に達していた。
「逃すかぁぁ!!」
「これはちょっと厳しいんとちゃうか」
「俺の後ろに続けぇぇ!!」
武器スキル【ブルームソード】刃を形取ったオーラが銃身を包む。
片手剣スキル奥義【龍剣】
剣と化した銃を突き出し、地面を蹴る足がオーラの爆発の推進力を得てどんどん加速して、全身を包んだオーラが次第に龍を形造りながら大地を駆ける龍の突進の如く、火の海に現れるイオタの火炎放射をなぎ払いながら闘技場の入場口の門を破壊してそのまま通路に飛び込んだ。
「やったぜ!!ヒバッ……」
逃走成功の歓喜のまま笑顔で振り返った私の遥か後方でヒバチは闘技場に倒れこんでいた。
「タラ……ちゃ……逃げっグハっ」
それを見下ろす肩に金棒をかけたイオタ。
真っ赤な髪をかきあげて現れた燃えているような真っ赤な毛に覆われた大きな耳が赤く光る眼光と一緒にこちらを睨みつけている。
「タタラ!マロフィノは!?ヒバチは!?無事か!?」
通路の奥からリアスが駆け寄って来た。どうやら失敗した1度目の突撃の時にすでにこちらまで降りて来ていたようだ。
「マロフィノは今は眠っていますが大丈夫です、でもヒバチは」
「そうか……」
「マロフィノをお願いします、俺は」
「何を言うか!今度こそ妾も」
「マロフィノを……お願いします」
「タタラ?」
「不意打ちとはいえあのヒバチが一瞬でやられてるんです……アレは……ヤバすぎます、だからリアスはマロフィノを連れて先に街まで逃げてください」
私の言葉にこちらを睨むイオタを見るリアスはその迫力に圧倒されたのか一歩後ずさりした。
「なっなんじゃアレは、本当に人なのか?……すまん、正直、妾では手も足も出そうにないんじゃ」
アイアンゴーレムにも臆せず挑んだ勇敢なリアスでさえ圧倒するほどの覇気。
まさかギルドマスターの本気がこれほどまでとは。
「なんや!!来ぃへんのか!?このガキ殺してまうぞ!!」
私はリアスにマロフィノを託しゆっくりと闘技場に戻っていく。
「タタラ!!死ぬんじゃないぞ!!マロフィノと待っておるからな!!絶対戻って来るんじゃぞ!!」
死ぬつもりなどまったくないが、怒れるギルドマスターから果たして無事ヒバチを救出できるかどうか。
闘技場に入るとフレイムフィールドを解除したのだろう、火の海は跡形も無く消え去っていた。
「なんで戻って……きた」
「やかましい!!テメェは黙ってろや!!」
「グハッ!!」
うつ伏せで倒れてているヒバチの背中を踏みつけるイオタ。
「初見で私の【火炎領域】を逃げ切るなんてたいしたもんやんけ、エヴァには勿体ないやん、アンタぁウチのギルドに来ぃへんか?」
「そんな扱い受けてるのを目の当たりにして、行きますって言うやついるんすかね?」
「グッガァァァ!!」
イオタはヒバチを睨むように見下ろすながら踏み付ける足にさらに力を込めたようだ。
「コイツの扱いは特別や、なんたってアタイのペットやからな」
「ペット……だと?」
「そうや。親に捨てられ、村中から嫌われ、挙句、奴隷屋に売られ、そこでアタイが買うたんや、なんやオモロイのがいるな思うてな。ほんで、冒険者まで育ててやったいうのにこのクソガキ、恩も忘れてギルド辞めさせもらうわやと!?んなもん誰が許すっちゅーねん!!なぁ兄ちゃん」
ヒバチの壮絶人生は置いといて、相当ヤバイなこの人。いちいち反論してたら絶対噛み合う気がしないので黙っておこう。
さて、今思いついたが時間がかかるがこういう状況にうってつけの方法がある。
最小表示したメニューウインドウを素早くスクロールして魔法をセットした。
「何黙っとんねん、言うとくが妙な真似したらコイツの背骨ぶち折ったるで」
私は素早く両手を上げた。20……19……。
「勘弁してください、どうしたらソイツを助けてくれますか?」
「せやな、さっきも言ったとおりアンタがウチのギルドに来る言うんなら助けてやってもいいで」
9……8……7……。
「そういうことなら……わかりました。その話……」
その時上空から、ゴロゴロっと低い轟音が響きイオタは不思議そうに空を見上げた。
4……3……2……。
「丁重にお断りします」
私はイオタめがけて手をかざし叫ぶ……0。
雷魔法。
「なんや!?」
「落ちろ!!【サンダー】(+スタン)!!」
タイムラグ20秒、消費OP500。
この世界で初めて放った自身最高の雷魔法は、上空から雷鳴を置き去りに漆黒の夜の闇を青白い閃光でジグザグに切り裂きながらイオタに直撃し大地をえぐった。
『グアアああああああ!!!』
イオタとヒバチの叫び声の直後、置き去りされた雷鳴が鼓膜と心臓が破裂するのではないかと思うほどの爆音を上げ、さすがにここまでの衝撃を想定していなかった私は驚きのあまり尻もちをついて倒れてしまったが、急いで立ち上がり。
「来い!ベルググ!!」
現れた漆黒の大剣を手に電撃に拘束され口から煙を上げているイオタに突進しながら両手剣スキル【飛剣】放たれた衝撃波に押されてイオタが闘技場の反対まで吹き飛んで行く。
「戻れベルググ!大丈夫か!?ヒバチ!!」
返事はないがまだ生きている……はずだ。回復魔法【ハイパーヒール】
私の手から放たれた光で電撃で焼け焦げた体がみるみるうちに修復されて、ヒバチが飛び起き。
「なんや!!タラちゃん!!殺す気か!?殺す気やったな完全に!!」
半ベソをかきながら私の胸ぐらを掴み怒鳴り散らすヒバチ。
そう、この雷魔法【サンダー】は超強力な攻撃魔法ではあるが、実戦では絶望的なタイムラグ、尋常じゃないOP消費、屋内では使用不可能、そして範囲内の無差別攻撃(使用者も含む)というかなり使い勝手の悪い魔法なのだが。
その威力のほどはご覧の通りである。
「生き残るって信じていたぞ」
「白々しいねん!ホンマに」
胸ぐらを掴んでいた両手をはなし、うなだれながら腰に手を当て首を振るヒバチ。
「あれ?」
「んっ?」
ヒバチは足元に何かを発見して突然しゃがみこみ、剣と棒を拾い上げた。
「やった!ワイの【鬼神棒】や!!タラちゃんコレもういらへんから返すわ!」
赤ミスリルの剣を私に突き返すヒバチ。だからあげるなんて言ってないっつーの。
それにしても、キカンボウという名の棒……ヒバチにピッタリすぎて怖い。
「よっしゃ!タラちゃん逃げるで」
「そうだなこんな所にもう用は無いな」
あとは闘技場から脱出したらミッションコンプリート、そう思った瞬間。
闘技場内の空気が一変。
『殺す』
脳に直接響いたような圧倒的殺意に私達の体は硬直した。
『火魔法【ファイアウォール】』
私達の目の前で入場口が炎の壁によって封鎖されたが、その熱量は今までくらっていたフレイムスロウをはるかに上回るものだった。
恐怖にすくむ体を奮い立たせなんとか振り返った私達に向かってゆっくりと近づいて来るイオタの真紅に光る瞳を見た私は、魔王と対峙した時の絶望感を思い出していた。
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転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
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