THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

文字の大きさ
113 / 144

恐ろしい者

しおりを挟む
「このまま横を抜けるぞ!警戒しろよ」
「了解じゃ!」
「はーい!」

 活動停止中のバハムートの脇を、警戒しながら走り抜ける。
 その時、私達の行動を観察する上からの視線を感じたがまだバハムートは動かない。
 私は進むべきか一瞬ためらったが、視線を振り切ってそのままギルドの前まで走り抜け。

「おい!!お前ら!!なんで逃げねぇんだ!?おかげで俺たちも逃げそびれたじゃねぇか!!」

 あまりにもアホなルチザンギルドの冒険者達に思わず乱暴な言葉を投げかけてしまったが、まぁ、事実なので仕方ない。

「逃げるだって?タタラさん、そりゃ無理な注文ですぜ」

 ギルド前で石像のように硬直し続ける冒険者の一人が私の問いに切り返す。

 つーか、無理って、何言ってんだお前。

「だったら、少しは加勢するとか、手ぇ貸せよ」
「そりゃぁさらに無理だ!!」

 おいおい、それを威張って言うかよ。この野郎。

「だったら何のためにボケっとここで突っ立ってんだよ!?」
「タタラさん、それはですね」

 ギルドの扉が少し開き、重厚な兜をかぶった女性が中から顔を出した。

「アシャ……さん?」
「はい、サブマスターのアシャです。いいですかタタラさん、我々は【天空の災厄】が恐ろしいのは言わずもがなですが、それよりも恐ろしい者があるのです」

「アレよりも恐ろしい者?」

 アシャさんが頷く勢いで兜の稼働式の面がシャッターの閉まるような音を上げ閉じた。
 よく見るとアシャさんは全身フルアーマーである。
 つーかそんな恐ろしいなら逃げたほういいんじゃね?などと思っていると、アシャさんが閉じた面を上げたが、その目には涙が溜まっている。

「【天空の災厄】よりも恐ろしい者……それは、ルチザンギルド、ギルドマスター……ヌエです」

 アシャさんがヌエさんの名前を出すと、石像のように固まっていた冒険者達が一斉に悲鳴のような声で泣き喚く。
 
 ……ギルドマスターが恐ろしいのは、全世界共通か……。

「オーケー、オーケー。話は分かったから、みんな、落ち着け。でっだ。このままここに突っ立ってたって、どっちにしろだろ?」

 私の言葉に徐々に落ち着きを取り戻すルチザンギルドの面々。
 そして、どうする?どうする?と言う声が聞こえてきた。
 その様子をしばらく静観していると冒険者パーティー【鋼の盾】のリーダーが私にたずねる。

「聞いてくれタタラ、俺達は心の底からマスターヌエが恐ろしい!俺達が逃げ出したり、このギルドの建物が壊されようものならどういう目にあうか想像もしたくない。だが!あの化け物もやはり、同じくらい恐ろしい!」

「えっ、ああ。そうですか」

「タタラも知っているだろうが、俺達は弱い!だから教えてくれ、あの化け物に近づかず、ギルドを守る方法は何かないだろうか!?」

 【鋼の盾】のリーダーの演説に拍手と少しの歓声が上がる。
 何言ってだと苛立ちながらも、コイツらの気持ちもわからないわけではない。

 というのも、このルチザンギルドの冒険者達は元々、武器職人になることを夢見てこのルチザンにやってきて、そして、ルチザン職人のレベルの高さについて行けず挫折し、食って行くために仕方なく冒険者になった者達なのだ。

 そんな事情を知っているからこそ、少し複雑な気分になっているとリアスが声を上げた。

「タタラ!!どうやら時間切れじゃ!!」

 その言葉に振り返ると、天を仰いだまま静止していたバハムートが。

『グロォォォ……グロォッ……グロォッ……グッグッゴオオォォォォォ!!!』

 鋭い牙をむき出しにして、開戦の雄叫びを上げた。

「テメェ等!!ヌエさんは来るのか!!?」

「えっ!?あっ……アンタの剣次第だけど……」

 【鋼の盾】のリーダーがアシャさんを見る。

「えっと……その、昨日の段階で仕上げには入っていましたので……そう遠くない未来には」

 要は私の発注した剣が仕上がんないとヌエさんは絶対来ないってことか。
 ちくしょう、あの硬度の素材の仕上げなんてどのくらいかかるかなんて分かるわけないし。

「マロフィッ……ォニ、俺と前線行けるか!?」
「マロはもんだいない!オニ!」
「リアスは後方支援を!魔法が使えるやつに声かけて指揮できますか?」
「できる!!」
「良し!!いいかお前等!!俺とマロッ…オニが絶対アイツを通さなねぇ!!だから全力で支援しろ!!」

 戸惑ったように顔を見合わせるルチザンギルドの冒険者の面々、そこにリアスが檄を飛ばす。

「【大海の災厄】を倒した男が、わらわ達の盾となり剣になると言っておるんじゃ!!お主達!!何が出来ずとも返事くらいできるであろう!!」

『うっ……うおおおおおおお!!』

 前々から思っていたが、リアスの言葉は人をその気にさせる言霊のような不思議な力があるような気がする。

 もしかして、特殊スキル?

「タタラ!!これで良いか!?」
「最高っす!!行くぞマロオニ!!」

『フィィィィウォォォォ!!』

 雄叫びを上げ突撃してくる私達を睨みつけバハムートは戦闘態勢をとった。
 




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲
ファンタジー
戦う気なし。出世欲なし。 あるのは「まぁいっか」とゴミスキルだけ。 過労死した社畜ゲーマー・晴日 條(はるひ しょう)は、異世界でとんでもないユニークスキルを授かる。 ――使えないスキルしか出ないガチャ。 誰も欲しがらない。 単体では意味不明。 説明文を読んだだけで溜め息が出る。 だが、條は集める。 強くなりたいからじゃない。 ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。 逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。 これは―― 「役に立たなかった人生」を否定しない物語。 ゴミスキル万歳。 俺は今日も、何もしない。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...