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不損分体の奇跡
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ベルググに入った亀裂は止まることなく、次第にベルググの刀身は崩れ落ち始めた。
「ベルググ!!」
【AQURIS online】時には厄介者にしか思えなかった、だが、この世界に来てから何度この剣に助けられただろう。
もし、この剣が無ければ、私はきっと今までの戦いのどこかで今頃…きっと…。
その時だった。
どこかで聞いた覚えのある、暖かくも冷ややかで、優しくも重圧感のある声がささやく。
「諦めるな、小さく強き者よ」
「えっ?」
私はその声に反応して、左を向いた。
そこには、見上げるほどの巨大な狼が美しく力強い姿勢で私を見下ろしていた。
「フェン…リル…」
あまりにも予想外の出来事に驚き、右手で目を擦り再度、巨大な狼を確認…って、アレ?
フェンリルがいたと思った場所にはマロオニが立っている。
虚な目、力無く垂れた腕、マロオニの様子がおかしいのは一目でわかった。
そして、何よりおかしいのは薄らと光るフェンリルの魔石をつけた首輪だ。
「マロオニ?」
私の呼びかけにマロオニは答えない。
そのかわりにマロオニは、今にも崩壊しそうなベルググにゆっくりと左手を伸ばした。
「おい!マロオニ!やめろ」
振り払おうと思ったが、衝撃でベルググが飛び散ってしまうと思い直し、マロオニに声をかけたが、マロオニはそのままベルググの刀身に触った。
『復旧複製』
淡い光がベルググを包み、消える。
そして、音もなくベルググは粉々に砕けた。
「ベルググ!!マロオニお前っ…」
薄ら涙ぐんだ目でマロオニを睨むが、信じられないものを目撃した私は、もはやどんな表情をしていいのか分からなくなった。
『なんだ?んっ。俺は確か砕けたと思ったが。ん?なんだテメェ!!俺に触るんじゃねぇ』
マロオニの右手には漆黒の大剣が握られていた。
私の頭に響くマロオニへの罵声。
マロオニが握っている漆黒の大剣は間違いなく、砕けたはずのベルググそのものだった。
何度も頭をふり、自分の手に残ったベルググの柄と見比べる。
「マロ…オニ…それは…」
漆黒の大剣を指差しながら戸惑う私にマロオニは微笑み。
「久しぶりですね。小さく強い者、タタラ」
「まさか!フェン…リルなのか?」
「ええ。気絶した坊やの体を借りて、タタラに少し恩返しをしようかと思ってね」
マロオニの体を借りていると言うフェンリルから差し出された漆黒の大剣を、受け取った。
『おい!タタラ!いったい何があった!?』
「知らん!!」
剣と会話する私を見ながらマロフェンリルは優しく微笑んでいる。
「その気配は、まさか魔狼の王か?」
「大きく強い者、ディノ・ルギニ」
「おぬしは討たれたと聞いておったが?それにその姿はなんじゃ?」
「色々あってね、すまないがもう時間が無い。話を聞きたければ、タタラに聞いておくれ」
ディノさんが近づいていたのにまったく気づかなかった、やばい、戦闘中に完全に気を抜いてしまっていた。
ディノさんが殺す気だったら…この悪癖は治さねば。
「タタラ。坊やをここまで立派に導いてくれてありがとう」
「俺は何も」
「また、会うこともあるかもしれませんが、これからも坊やよろしくお願いしますね」
「待って!あなたには聞きたい事がたくさんあります。どうしてマロの体を借りれたんだ、それにベルググを治したこの技は!?」
マロフェンリルはニッコリと笑い、空を見上げた。
「嗚呼、また空を見ることが出来るなんて。全てはタタラが繋いだ【マナ】の縁。ありがとう、タタラ」
「待って!!フェンリル!!」
マロフェンリルは薄ら涙を溜めた目を閉じて、そのまま崩れるように倒れた。
私は倒れたマロフェンリルに駆け寄り、膝をついて上半身を抱き上げた。
「フェンリル!」
「うーん。むにゃむにゃ…オニ」
フェンリルの圧倒的な気配は消え、いつものマロオニに戻ったようだ。
寝てるけど。
「さて、小僧」
ディノさんはフッとため息をついて剣をしまった。
「仕置きは終わりじゃ、話がある、ついてこい」
「えっ?あっ?えっ?」
ディノさんから、ダダ漏れの殺気は消え去ってはいたが、この後に及んでどこに連れ去ろうというのだろうか?
「返事もできぬのか!!」
「はい!!今すぐついて行きます!!」
私はマロオニを抱きかかえ素早く立ち上がりディノさんの後に続く。
怖い。
「いつまで寝ておるんじゃ!!バカ弟子が!!さっさと起きぬか!!」
自分で地面に沈めたくせに、エヴァさんに向け怒号を飛ばす英雄王ディノ・ルギニ…
本当、怖い。
「ベルググ!!」
【AQURIS online】時には厄介者にしか思えなかった、だが、この世界に来てから何度この剣に助けられただろう。
もし、この剣が無ければ、私はきっと今までの戦いのどこかで今頃…きっと…。
その時だった。
どこかで聞いた覚えのある、暖かくも冷ややかで、優しくも重圧感のある声がささやく。
「諦めるな、小さく強き者よ」
「えっ?」
私はその声に反応して、左を向いた。
そこには、見上げるほどの巨大な狼が美しく力強い姿勢で私を見下ろしていた。
「フェン…リル…」
あまりにも予想外の出来事に驚き、右手で目を擦り再度、巨大な狼を確認…って、アレ?
フェンリルがいたと思った場所にはマロオニが立っている。
虚な目、力無く垂れた腕、マロオニの様子がおかしいのは一目でわかった。
そして、何よりおかしいのは薄らと光るフェンリルの魔石をつけた首輪だ。
「マロオニ?」
私の呼びかけにマロオニは答えない。
そのかわりにマロオニは、今にも崩壊しそうなベルググにゆっくりと左手を伸ばした。
「おい!マロオニ!やめろ」
振り払おうと思ったが、衝撃でベルググが飛び散ってしまうと思い直し、マロオニに声をかけたが、マロオニはそのままベルググの刀身に触った。
『復旧複製』
淡い光がベルググを包み、消える。
そして、音もなくベルググは粉々に砕けた。
「ベルググ!!マロオニお前っ…」
薄ら涙ぐんだ目でマロオニを睨むが、信じられないものを目撃した私は、もはやどんな表情をしていいのか分からなくなった。
『なんだ?んっ。俺は確か砕けたと思ったが。ん?なんだテメェ!!俺に触るんじゃねぇ』
マロオニの右手には漆黒の大剣が握られていた。
私の頭に響くマロオニへの罵声。
マロオニが握っている漆黒の大剣は間違いなく、砕けたはずのベルググそのものだった。
何度も頭をふり、自分の手に残ったベルググの柄と見比べる。
「マロ…オニ…それは…」
漆黒の大剣を指差しながら戸惑う私にマロオニは微笑み。
「久しぶりですね。小さく強い者、タタラ」
「まさか!フェン…リルなのか?」
「ええ。気絶した坊やの体を借りて、タタラに少し恩返しをしようかと思ってね」
マロオニの体を借りていると言うフェンリルから差し出された漆黒の大剣を、受け取った。
『おい!タタラ!いったい何があった!?』
「知らん!!」
剣と会話する私を見ながらマロフェンリルは優しく微笑んでいる。
「その気配は、まさか魔狼の王か?」
「大きく強い者、ディノ・ルギニ」
「おぬしは討たれたと聞いておったが?それにその姿はなんじゃ?」
「色々あってね、すまないがもう時間が無い。話を聞きたければ、タタラに聞いておくれ」
ディノさんが近づいていたのにまったく気づかなかった、やばい、戦闘中に完全に気を抜いてしまっていた。
ディノさんが殺す気だったら…この悪癖は治さねば。
「タタラ。坊やをここまで立派に導いてくれてありがとう」
「俺は何も」
「また、会うこともあるかもしれませんが、これからも坊やよろしくお願いしますね」
「待って!あなたには聞きたい事がたくさんあります。どうしてマロの体を借りれたんだ、それにベルググを治したこの技は!?」
マロフェンリルはニッコリと笑い、空を見上げた。
「嗚呼、また空を見ることが出来るなんて。全てはタタラが繋いだ【マナ】の縁。ありがとう、タタラ」
「待って!!フェンリル!!」
マロフェンリルは薄ら涙を溜めた目を閉じて、そのまま崩れるように倒れた。
私は倒れたマロフェンリルに駆け寄り、膝をついて上半身を抱き上げた。
「フェンリル!」
「うーん。むにゃむにゃ…オニ」
フェンリルの圧倒的な気配は消え、いつものマロオニに戻ったようだ。
寝てるけど。
「さて、小僧」
ディノさんはフッとため息をついて剣をしまった。
「仕置きは終わりじゃ、話がある、ついてこい」
「えっ?あっ?えっ?」
ディノさんから、ダダ漏れの殺気は消え去ってはいたが、この後に及んでどこに連れ去ろうというのだろうか?
「返事もできぬのか!!」
「はい!!今すぐついて行きます!!」
私はマロオニを抱きかかえ素早く立ち上がりディノさんの後に続く。
怖い。
「いつまで寝ておるんじゃ!!バカ弟子が!!さっさと起きぬか!!」
自分で地面に沈めたくせに、エヴァさんに向け怒号を飛ばす英雄王ディノ・ルギニ…
本当、怖い。
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