8 / 144
冒険者の街イザベル
しおりを挟む
「ヒーーヤッホーーーーーッ!!もっとじゃ!もっーーーとっ飛ばすのじゃーー!!」
「フィウォーーーーーンッ!!」
ハイテンションな連れをよそに、私は冷や汗を流しながら【魔導機関式電動二輪装甲車両】をフルスロットルで飛ばす。
「状況わかってんのか、てかリアスさんちょっとは反省しろよ!」
「妾は何のことかさっぱりわかんなぁ」
【ダンゴ】の速度は現在80km、それとまったく変わらない速度で、下半身が馬で上半身が鬼のケンタウロスの群れがナタのような武器を持って追走してきている。その数8、たぶん。
なぜこんなことになったのかと言うと、リアスのナビゲートで街まで向かっていたのだが近道があるんじゃとほざきだし、密林を通るように指示された。すると気持ちよくお昼寝中のケンタウロスの群れに遭遇。そして、今にいたる。
「あっ」
「じゃ?」
「フィ?」
大きな木の根に突っ込んだダンゴはジャックナイフをして私達を宙にほうり投げた。空中でマロフィノとリアスを抱えて受け身の体制を取り綺麗な着地を果たすもふきとんだバイクは巨大な木に衝突して木をへし折りながら爆発音ともに自身も大破した。
「何をやっておるのじゃ、この下手くそ。危なくケガするところじゃったぞ」
「……俺の自信作が」
制作期間3カ月、総作業時間400時間を超える大作がただの鉄くずになってしまった。失意のどん底に落ちた私の後ろでケンタウロス達は、お前が行け、いやいやお前が行けとコントのような動きをしているのが私の癇に障った。振り向きながら睨みつけ。
「文句があるんなら言って逝けよ」
ケンタウロス達は全員で首を横に振ってそそくさと退散していく。
「凄いのうタタラ。お前の眼力におそれをなしてケンタウロス共が逃げていくぞ」
ビビりじゃなく憐れみだよ、このガッカリエルフが。私は悲しい気持ちを抑えて元ダンゴをアイテムボックスに収納する。
【鉄くず】
「チキショウ」
私は両膝をついて地面を殴打した。
「自分で作ったんじゃろう?また作れば良いではないか」
お前もついでに殴打してやろうか。
「街までどのくらいあるんだよ」
「えっすぐそこじゃよ、ほら街壁が見える」
「お前、こんなに近いなら近道の意味あるか?」
プスープスー。リアスは両手を後頭部に当て明後日の方を見ながら音のならない口笛を吹き出した。このガッカリペッタリミニエルフめ本格的に殴ってやろうか。
怒りを抑えて時計を見る。午後6時、日が少しだけ落ち始めている。どうやらこの世界にも夜が訪れるようだ。
「ターターラッ、何をしておる置いて行くぞ」
「フィーン」
声の方を見るとマロフィノとリアスは街壁近くまで進んでいる。街についたので早くリアスと別れたい私の意に反してマロフィノがめちゃくちゃ懐いてしまっている。気にくわないという気持ちを噛み締めてトボトボと歩き出した。
♦︎
「ここはアスガルズ冒険者ギルド本部を有する街【イザベル】だ。通行したければ許可証、住民証、ギルド登録証のいずれかを提示しなさい」
大型トラックが3台並んで通過出来そうなサイズの門の前に立つ、レザーアーマーを装着した屈強な門番らしき男がテンプレっぽいセリフを読み上げた。
「証?しょうしょうお待ちを」
私はポケットを漁るそぶりをしてみるが当然そんなものを持っているはずもなく、すんなり入れたゲームとの違いに慌てふためいている姿を不審そうに門番が見つめる。
「なんじゃタタラ、イザベルは初めてか?仕方ないここは妾に任せるのじゃ」
今、始めてリアスと出会ってよかったと思った自分がいる。私の後ろから偉そうに前に出てきたリアスに門番は持っていた槍を構え。
「なんだキサマは、態度のでかいホビッ、グギャッ」
リアスはホビットと言いかけた門番に躊躇なくローキックをあびせた。わかる、わかるよ門番さん、それ超痛いんだよなぁ。つーか門番にいきなり攻撃ってめちゃくちゃですやん。それに生粋のアクリス人でさえホビット言うてますけど?
「このダメ門番め、どこからどう見てもエルフであろう。まったく、いったいどんな目の構造をしておるんじゃ。そのバカ目でしっかりと見るがよい」
リアスはレザーアーマーの胸元を広げ、首から下げた紋章のようなものを取り出し、悶絶してしゃがみ込む門番の顔の前に突き出した。
「こっこれはアルフィム王国の!しっ失礼致しました!どうぞお通り下さい」
「ふん、わかればいいのじゃ。行くぞ」
「あっあのコチラの方とその犬は?」
「たわけが!妾の下僕に決まっておろう」
「しっ失礼しました!どうぞ皆様お通り下さい」
たわけはお前だガッカリエルフ。下僕で納得してんじゃねぇよこのダメ門番が……何故だろうアクリスに来てからどんどん心が荒んでいく気がする。しかし門を抜けるとそんな荒みはどこかに消えてしまった。
「すっげぇ」
これぞファンタジー、これぞ異世界。中世ヨーロッパのような美しい建築物で埋め尽くされた街並み。当たり前に行き交う獣人、亜人、様々な姿の人々。私は少年のように眼を輝かせ街を見つめる。最高の気分だ。
「行くぞ田舎者」
コイツさえいなければ。
人通りが多いので、はぐれないようマロフィノを抱き上げる。スルスルと頭の上に登って落ち着いた、どうやら私の頭の上が気に入ったようだ。
車やバイクなどはもちろん走ってはいないが時おり馬車とすれ違う。この世界の交通事情が垣間見れた、まぁ引いているのがモンスターなので、それを馬車と呼べるのかわからないが。
「あのー、無事送って来ましたので俺達はこれで……」
「何を言うておるのじゃ、ギルドまでついて来い」
「いや、でも街とかゆっくり見たいし」
「はぁ、それならそれで構わぬが。身元の保証となるものは持っておるのか?この国のギルドは冒険者の質を高めるため、ならず者やお尋ね者が紛れ混まぬよう身元の確認が取れぬ者は門前払い確定じゃぞ」
「マジすか……じゃあなおさら着いて行っても」
「おぬしはバカか?じゃから妾がおぬしの身元を保証してやるから着いて来いと言っておるのじゃ」
「リアスさん」
「妾一人ではあの距離を移動するのに何日かかったか想像もできんが、それをたった数時間で到着できたんじゃ。少しくらい面倒を見てやろうではないか」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「ふむ、素直でよろしい」
まったく素直じゃないのはお前のほうだろ、予想外の申し出に少し嬉しい気持ちになった。
♦︎
「おい、早くしろや!」
「いつまで待たせんだ!」
ギルド前に到着したのだが、ものすごい人だかりだ。おそらくクエストをこなして来た冒険者達が日没前に一斉に戻って来て報告待ちの大行列になっているのだろう。
「なっなんじゃこれは。これでは早く着いた意味がないではないか」
「どうしましょう」
「……おぬし金は持っておるのか?」
「えっ?一応、村で使っていたのなら」
ゲームの時のお金なら2000万ほどはあるのだが、この世界で使えるのかどうか。
「なんじゃそれは、おぬしの村は独自の通貨でも作っておるのか?なんて言う通貨じゃ見せてみろ」
私はアイテムボックスから三角形の金属の中心に宝石が埋め込まれたゲーム通貨【ピック】を一枚取り出した。このピックは1、5、10、50、100、500、1000、5000、10000、100000の10種類で1~500は金属の材質とサイズが違うだけ、1000~100000は中心の宝石の種類と大きさで区別されている。ちなみに今出したのは10000ピック。
「なんじゃ、ちゃんとピックを持っておるではないか。どんな石ころを出すのかとヒヤヒヤしたぞ」
私のお金はこの世界でも使えるようだ。これでしばらくはお金の心配はいらない、良かった。
「それでは、このまま待っても仕方ないので宿を取って明日の朝一にでなおすぞ」
どことなく嬉しそうに歩き出すリアスの後ろを着いて行く。この街に何度か訪れたことがあるのか迷うことなく宿に向かって行き……はぁ?
目の前にある建物は今まで見て来た街の建物とは明らかに異質なものだった。サイズ、施された装飾が桁違いで、言うなれば街中に突如現れたベルサイユ宮殿のような様相を醸し出している。
「ここじゃここじゃ、はぁぁ疲れた。どうした?さっさと受け付けを済ませて明日に備えるぞ」
「いやいやいやいや、無理です、無理、無理、見て!見て!どう考えても場違いでしょ?」
「そうかのう?」
「そうかのうって……わかりました。お嬢様はこちらにお泊りになって下さいませ。私は馬小屋のような安宿を探して、明日の朝お迎えにあがりますので」
私は深々と頭を下げ夕暮れの街に歩き出した。
「フィン!」
「ああ、すごい活気だな」
少しずつ街に明かりが灯り、あちらこちらで笑い声が聞こえ、解放的で大きなドアや窓から冒険者風の人達が酒盛りをしているのが見える。
「おーい!お兄さん本日の宿はお決まりかニャ?一泊朝食付き5000ピック!もちろんワンちゃん大歓迎だニャーん!」
可愛いらしい猫耳のお姉さんが飛び跳ねながらこちらに大きく手を振っている。5000で朝食付きなら悪くないな。
「フィン!」
私の頭から飛び降りたマロフィノはお姉さんに向かって猛ダッシュして、体を擦りつけている。雄の性か、仕方ねーなー、もう。
「決まりかニャ?」
「よろしくお願いします」
「やったニャー!ラスト一部屋埋まったニャ。別料金だけど晩御飯も食べれるから良かったどうぞだニャ。お客様ご来店だニャー!!」
『いらっしゃいませーー!』
黄色い声に迎えられ宿に入ると、一階はレストランになっているようだ。様々なタイプの美人の獣人従業員の姿。そして、必要以上にむさ苦しい客らしき男達が席のほとんどを埋めている。男の性か、仕方ない。
「ほう、馬小屋してはずいぶんと良さそうじゃのう。この助兵衛が」
後ろから突然声をかけられ驚き、ゆっくりと振り向く。
「リアスさん、いつからそこに?」
「田舎者が騙されやしないかと思って着いて来てやったぞ。感謝しろ」
「いやー、でもラスト一部屋って」
「お連れ様ですかニャ?お部屋のベットは四つありますので自由にお使いくださいだニャ」
「だっ、そうだ荷物を部屋に置いてからディナーにしよう。ああ、おぬしは手ぶらなんじゃから席を取っておけ」
「……はい」
♦︎
食った。すごく美味しかった。しかも別料金と言われちょっと構えたが、なかなかのリーズナブルぶり。そりゃ繁盛するよ。12畳くらいの部屋にはベットが四つと個室トイレがあるだけのシンプルな作りで、入浴設備がないのが少し残念。
リアスは食事のあと従業員用のシャワーを借りれるということで、猫耳お姉さんに連れられて行った。マロフィノは部屋に入ってすぐベットを一つ占領して仰向けで爆睡している。
アクリスに転生して1日半、やっと落ち着いた時間を得た私は、【AQURIS online】から半年以上放置していたタタラのスキルやアイテムを細かくチェックし始めた。
「フィウォーーーーーンッ!!」
ハイテンションな連れをよそに、私は冷や汗を流しながら【魔導機関式電動二輪装甲車両】をフルスロットルで飛ばす。
「状況わかってんのか、てかリアスさんちょっとは反省しろよ!」
「妾は何のことかさっぱりわかんなぁ」
【ダンゴ】の速度は現在80km、それとまったく変わらない速度で、下半身が馬で上半身が鬼のケンタウロスの群れがナタのような武器を持って追走してきている。その数8、たぶん。
なぜこんなことになったのかと言うと、リアスのナビゲートで街まで向かっていたのだが近道があるんじゃとほざきだし、密林を通るように指示された。すると気持ちよくお昼寝中のケンタウロスの群れに遭遇。そして、今にいたる。
「あっ」
「じゃ?」
「フィ?」
大きな木の根に突っ込んだダンゴはジャックナイフをして私達を宙にほうり投げた。空中でマロフィノとリアスを抱えて受け身の体制を取り綺麗な着地を果たすもふきとんだバイクは巨大な木に衝突して木をへし折りながら爆発音ともに自身も大破した。
「何をやっておるのじゃ、この下手くそ。危なくケガするところじゃったぞ」
「……俺の自信作が」
制作期間3カ月、総作業時間400時間を超える大作がただの鉄くずになってしまった。失意のどん底に落ちた私の後ろでケンタウロス達は、お前が行け、いやいやお前が行けとコントのような動きをしているのが私の癇に障った。振り向きながら睨みつけ。
「文句があるんなら言って逝けよ」
ケンタウロス達は全員で首を横に振ってそそくさと退散していく。
「凄いのうタタラ。お前の眼力におそれをなしてケンタウロス共が逃げていくぞ」
ビビりじゃなく憐れみだよ、このガッカリエルフが。私は悲しい気持ちを抑えて元ダンゴをアイテムボックスに収納する。
【鉄くず】
「チキショウ」
私は両膝をついて地面を殴打した。
「自分で作ったんじゃろう?また作れば良いではないか」
お前もついでに殴打してやろうか。
「街までどのくらいあるんだよ」
「えっすぐそこじゃよ、ほら街壁が見える」
「お前、こんなに近いなら近道の意味あるか?」
プスープスー。リアスは両手を後頭部に当て明後日の方を見ながら音のならない口笛を吹き出した。このガッカリペッタリミニエルフめ本格的に殴ってやろうか。
怒りを抑えて時計を見る。午後6時、日が少しだけ落ち始めている。どうやらこの世界にも夜が訪れるようだ。
「ターターラッ、何をしておる置いて行くぞ」
「フィーン」
声の方を見るとマロフィノとリアスは街壁近くまで進んでいる。街についたので早くリアスと別れたい私の意に反してマロフィノがめちゃくちゃ懐いてしまっている。気にくわないという気持ちを噛み締めてトボトボと歩き出した。
♦︎
「ここはアスガルズ冒険者ギルド本部を有する街【イザベル】だ。通行したければ許可証、住民証、ギルド登録証のいずれかを提示しなさい」
大型トラックが3台並んで通過出来そうなサイズの門の前に立つ、レザーアーマーを装着した屈強な門番らしき男がテンプレっぽいセリフを読み上げた。
「証?しょうしょうお待ちを」
私はポケットを漁るそぶりをしてみるが当然そんなものを持っているはずもなく、すんなり入れたゲームとの違いに慌てふためいている姿を不審そうに門番が見つめる。
「なんじゃタタラ、イザベルは初めてか?仕方ないここは妾に任せるのじゃ」
今、始めてリアスと出会ってよかったと思った自分がいる。私の後ろから偉そうに前に出てきたリアスに門番は持っていた槍を構え。
「なんだキサマは、態度のでかいホビッ、グギャッ」
リアスはホビットと言いかけた門番に躊躇なくローキックをあびせた。わかる、わかるよ門番さん、それ超痛いんだよなぁ。つーか門番にいきなり攻撃ってめちゃくちゃですやん。それに生粋のアクリス人でさえホビット言うてますけど?
「このダメ門番め、どこからどう見てもエルフであろう。まったく、いったいどんな目の構造をしておるんじゃ。そのバカ目でしっかりと見るがよい」
リアスはレザーアーマーの胸元を広げ、首から下げた紋章のようなものを取り出し、悶絶してしゃがみ込む門番の顔の前に突き出した。
「こっこれはアルフィム王国の!しっ失礼致しました!どうぞお通り下さい」
「ふん、わかればいいのじゃ。行くぞ」
「あっあのコチラの方とその犬は?」
「たわけが!妾の下僕に決まっておろう」
「しっ失礼しました!どうぞ皆様お通り下さい」
たわけはお前だガッカリエルフ。下僕で納得してんじゃねぇよこのダメ門番が……何故だろうアクリスに来てからどんどん心が荒んでいく気がする。しかし門を抜けるとそんな荒みはどこかに消えてしまった。
「すっげぇ」
これぞファンタジー、これぞ異世界。中世ヨーロッパのような美しい建築物で埋め尽くされた街並み。当たり前に行き交う獣人、亜人、様々な姿の人々。私は少年のように眼を輝かせ街を見つめる。最高の気分だ。
「行くぞ田舎者」
コイツさえいなければ。
人通りが多いので、はぐれないようマロフィノを抱き上げる。スルスルと頭の上に登って落ち着いた、どうやら私の頭の上が気に入ったようだ。
車やバイクなどはもちろん走ってはいないが時おり馬車とすれ違う。この世界の交通事情が垣間見れた、まぁ引いているのがモンスターなので、それを馬車と呼べるのかわからないが。
「あのー、無事送って来ましたので俺達はこれで……」
「何を言うておるのじゃ、ギルドまでついて来い」
「いや、でも街とかゆっくり見たいし」
「はぁ、それならそれで構わぬが。身元の保証となるものは持っておるのか?この国のギルドは冒険者の質を高めるため、ならず者やお尋ね者が紛れ混まぬよう身元の確認が取れぬ者は門前払い確定じゃぞ」
「マジすか……じゃあなおさら着いて行っても」
「おぬしはバカか?じゃから妾がおぬしの身元を保証してやるから着いて来いと言っておるのじゃ」
「リアスさん」
「妾一人ではあの距離を移動するのに何日かかったか想像もできんが、それをたった数時間で到着できたんじゃ。少しくらい面倒を見てやろうではないか」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「ふむ、素直でよろしい」
まったく素直じゃないのはお前のほうだろ、予想外の申し出に少し嬉しい気持ちになった。
♦︎
「おい、早くしろや!」
「いつまで待たせんだ!」
ギルド前に到着したのだが、ものすごい人だかりだ。おそらくクエストをこなして来た冒険者達が日没前に一斉に戻って来て報告待ちの大行列になっているのだろう。
「なっなんじゃこれは。これでは早く着いた意味がないではないか」
「どうしましょう」
「……おぬし金は持っておるのか?」
「えっ?一応、村で使っていたのなら」
ゲームの時のお金なら2000万ほどはあるのだが、この世界で使えるのかどうか。
「なんじゃそれは、おぬしの村は独自の通貨でも作っておるのか?なんて言う通貨じゃ見せてみろ」
私はアイテムボックスから三角形の金属の中心に宝石が埋め込まれたゲーム通貨【ピック】を一枚取り出した。このピックは1、5、10、50、100、500、1000、5000、10000、100000の10種類で1~500は金属の材質とサイズが違うだけ、1000~100000は中心の宝石の種類と大きさで区別されている。ちなみに今出したのは10000ピック。
「なんじゃ、ちゃんとピックを持っておるではないか。どんな石ころを出すのかとヒヤヒヤしたぞ」
私のお金はこの世界でも使えるようだ。これでしばらくはお金の心配はいらない、良かった。
「それでは、このまま待っても仕方ないので宿を取って明日の朝一にでなおすぞ」
どことなく嬉しそうに歩き出すリアスの後ろを着いて行く。この街に何度か訪れたことがあるのか迷うことなく宿に向かって行き……はぁ?
目の前にある建物は今まで見て来た街の建物とは明らかに異質なものだった。サイズ、施された装飾が桁違いで、言うなれば街中に突如現れたベルサイユ宮殿のような様相を醸し出している。
「ここじゃここじゃ、はぁぁ疲れた。どうした?さっさと受け付けを済ませて明日に備えるぞ」
「いやいやいやいや、無理です、無理、無理、見て!見て!どう考えても場違いでしょ?」
「そうかのう?」
「そうかのうって……わかりました。お嬢様はこちらにお泊りになって下さいませ。私は馬小屋のような安宿を探して、明日の朝お迎えにあがりますので」
私は深々と頭を下げ夕暮れの街に歩き出した。
「フィン!」
「ああ、すごい活気だな」
少しずつ街に明かりが灯り、あちらこちらで笑い声が聞こえ、解放的で大きなドアや窓から冒険者風の人達が酒盛りをしているのが見える。
「おーい!お兄さん本日の宿はお決まりかニャ?一泊朝食付き5000ピック!もちろんワンちゃん大歓迎だニャーん!」
可愛いらしい猫耳のお姉さんが飛び跳ねながらこちらに大きく手を振っている。5000で朝食付きなら悪くないな。
「フィン!」
私の頭から飛び降りたマロフィノはお姉さんに向かって猛ダッシュして、体を擦りつけている。雄の性か、仕方ねーなー、もう。
「決まりかニャ?」
「よろしくお願いします」
「やったニャー!ラスト一部屋埋まったニャ。別料金だけど晩御飯も食べれるから良かったどうぞだニャ。お客様ご来店だニャー!!」
『いらっしゃいませーー!』
黄色い声に迎えられ宿に入ると、一階はレストランになっているようだ。様々なタイプの美人の獣人従業員の姿。そして、必要以上にむさ苦しい客らしき男達が席のほとんどを埋めている。男の性か、仕方ない。
「ほう、馬小屋してはずいぶんと良さそうじゃのう。この助兵衛が」
後ろから突然声をかけられ驚き、ゆっくりと振り向く。
「リアスさん、いつからそこに?」
「田舎者が騙されやしないかと思って着いて来てやったぞ。感謝しろ」
「いやー、でもラスト一部屋って」
「お連れ様ですかニャ?お部屋のベットは四つありますので自由にお使いくださいだニャ」
「だっ、そうだ荷物を部屋に置いてからディナーにしよう。ああ、おぬしは手ぶらなんじゃから席を取っておけ」
「……はい」
♦︎
食った。すごく美味しかった。しかも別料金と言われちょっと構えたが、なかなかのリーズナブルぶり。そりゃ繁盛するよ。12畳くらいの部屋にはベットが四つと個室トイレがあるだけのシンプルな作りで、入浴設備がないのが少し残念。
リアスは食事のあと従業員用のシャワーを借りれるということで、猫耳お姉さんに連れられて行った。マロフィノは部屋に入ってすぐベットを一つ占領して仰向けで爆睡している。
アクリスに転生して1日半、やっと落ち着いた時間を得た私は、【AQURIS online】から半年以上放置していたタタラのスキルやアイテムを細かくチェックし始めた。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
転生女神さまは異世界に現代を持ち込みたいようです。 〜ポンコツ女神の現代布教活動〜
れおぽん
ファンタジー
いつも現代人を異世界に連れていく女神さまはついに現代の道具を直接異世界に投じて文明の発展を試みるが…
勘違いから生まれる異世界物語を毎日更新ですので隙間時間にどうぞ
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる