THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

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冒険者の街イザベル

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「ヒーーヤッホーーーーーッ!!もっとじゃ!もっーーーとっ飛ばすのじゃーー!!」
「フィウォーーーーーンッ!!」

 ハイテンションな連れをよそに、私は冷や汗を流しながら【魔導機関式電動二輪装甲車両ダンゴ】をフルスロットルで飛ばす。

「状況わかってんのか、てかリアスさんちょっとは反省しろよ!」
わらわは何のことかさっぱりわかんなぁ」

 【ダンゴ】の速度は現在80km、それとまったく変わらない速度で、下半身が馬で上半身が鬼のケンタウロスの群れがナタのような武器を持って追走してきている。その数8、たぶん。
 なぜこんなことになったのかと言うと、リアスのナビゲートで街まで向かっていたのだが近道があるんじゃとほざきだし、密林を通るように指示された。すると気持ちよくお昼寝中のケンタウロスの群れに遭遇。そして、今にいたる。

「あっ」
「じゃ?」
「フィ?」

 大きな木の根に突っ込んだダンゴはジャックナイフをして私達を宙にほうり投げた。空中でマロフィノとリアスを抱えて受け身の体制を取り綺麗な着地を果たすもふきとんだバイクは巨大な木に衝突して木をへし折りながら爆発音ともに自身も大破した。

「何をやっておるのじゃ、この下手くそ。危なくケガするところじゃったぞ」
「……俺の自信作が」

 制作期間3カ月、総作業時間400時間を超える大作がただの鉄くずになってしまった。失意のどん底に落ちた私の後ろでケンタウロス達は、お前が行け、いやいやお前が行けとコントのような動きをしているのが私のかんに障った。振り向きながら睨みつけ。

「文句があるんなら言って逝けよ」

 ケンタウロス達は全員で首を横に振ってそそくさと退散していく。

「凄いのうタタラ。お前の眼力におそれをなしてケンタウロス共が逃げていくぞ」

 ビビりじゃなくあわれみだよ、このガッカリエルフが。私は悲しい気持ちを抑えて元ダンゴをアイテムボックスに収納する。
 【鉄くず】

「チキショウ」

 私は両膝をついて地面を殴打した。

「自分で作ったんじゃろう?また作れば良いではないか」

 お前もついでに殴打してやろうか。

「街までどのくらいあるんだよ」
「えっすぐそこじゃよ、ほら街壁がいへきが見える」

「お前、こんなに近いなら近道の意味あるか?」

 プスープスー。リアスは両手を後頭部に当て明後日の方を見ながら音のならない口笛を吹き出した。このガッカリペッタリミニエルフめ本格的に殴ってやろうか。
 怒りを抑えて時計を見る。午後6時、日が少しだけ落ち始めている。どうやらこの世界にも夜が訪れるようだ。

「ターターラッ、何をしておる置いて行くぞ」
「フィーン」

 声の方を見るとマロフィノとリアスは街壁がいへき近くまで進んでいる。街についたので早くリアスと別れたい私の意に反してマロフィノがめちゃくちゃ懐いてしまっている。気にくわないという気持ちを噛み締めてトボトボと歩き出した。

 ♦︎

「ここはアスガルズ冒険者ギルド本部を有する街【イザベル】だ。通行したければ許可証、住民証、ギルド登録証のいずれかを提示しなさい」
 
 大型トラックが3台並んで通過出来そうなサイズの門の前に立つ、レザーアーマーを装着した屈強な門番らしき男がテンプレっぽいセリフを読み上げた。

「証?しょうしょうお待ちを」

 私はポケットを漁るそぶりをしてみるが当然そんなものを持っているはずもなく、すんなり入れたゲームとの違いに慌てふためいている姿を不審そうに門番が見つめる。

「なんじゃタタラ、イザベルは初めてか?仕方ないここはわらわに任せるのじゃ」

 今、始めてリアスと出会ってよかったと思った自分がいる。私の後ろから偉そうに前に出てきたリアスに門番は持っていた槍を構え。

「なんだキサマは、態度のでかいホビッ、グギャッ」

 リアスはホビットと言いかけた門番に躊躇ちゅうちょなくローキックをあびせた。わかる、わかるよ門番さん、それ超痛いんだよなぁ。つーか門番にいきなり攻撃ってめちゃくちゃですやん。それに生粋のアクリス人でさえホビット言うてますけど?

「このダメ門番め、どこからどう見てもエルフであろう。まったく、いったいどんな目の構造をしておるんじゃ。そのバカ目でしっかりと見るがよい」

 リアスはレザーアーマーの胸元を広げ、首から下げた紋章のようなものを取り出し、悶絶してしゃがみ込む門番の顔の前に突き出した。

「こっこれはアルフィム王国の!しっ失礼致しました!どうぞお通り下さい」
「ふん、わかればいいのじゃ。行くぞ」
「あっあのコチラの方とその犬は?」
「たわけが!わらわの下僕に決まっておろう」
「しっ失礼しました!どうぞ皆様お通り下さい」

 たわけはお前だガッカリエルフ。下僕で納得してんじゃねぇよこのダメ門番が……何故だろうアクリスに来てからどんどん心がすさんでいく気がする。しかし門を抜けるとそんなすさみはどこかに消えてしまった。

「すっげぇ」

 これぞファンタジー、これぞ異世界。中世ヨーロッパのような美しい建築物で埋め尽くされた街並み。当たり前に行き交う獣人、亜人、様々な姿の人々。私は少年のように眼を輝かせ街を見つめる。最高の気分だ。

「行くぞ田舎者」

 コイツさえいなければ。

 人通りが多いので、はぐれないようマロフィノを抱き上げる。スルスルと頭の上に登って落ち着いた、どうやら私の頭の上が気に入ったようだ。
 車やバイクなどはもちろん走ってはいないが時おり馬車とすれ違う。この世界の交通事情が垣間見れた、まぁ引いているのがモンスターなので、それを馬車と呼べるのかわからないが。

「あのー、無事送って来ましたので俺達はこれで……」
「何を言うておるのじゃ、ギルドまでついて来い」
「いや、でも街とかゆっくり見たいし」
「はぁ、それならそれで構わぬが。身元の保証となるものは持っておるのか?この国のギルドは冒険者の質を高めるため、ならず者やお尋ね者が紛れ混まぬよう身元の確認が取れぬ者は門前払い確定じゃぞ」
「マジすか……じゃあなおさら着いて行っても」
「おぬしはバカか?じゃからわらわがおぬしの身元を保証してやるから着いて来いと言っておるのじゃ」
「リアスさん」
わらわ一人ではあの距離を移動するのに何日かかったか想像もできんが、それをたった数時間で到着できたんじゃ。少しくらい面倒を見てやろうではないか」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「ふむ、素直でよろしい」

 まったく素直じゃないのはお前のほうだろ、予想外の申し出に少し嬉しい気持ちになった。

 ♦︎

「おい、早くしろや!」
「いつまで待たせんだ!」

 ギルド前に到着したのだが、ものすごい人だかりだ。おそらくクエストをこなして来た冒険者達が日没前に一斉に戻って来て報告待ちの大行列になっているのだろう。

「なっなんじゃこれは。これでは早く着いた意味がないではないか」
「どうしましょう」

「……おぬし金は持っておるのか?」
「えっ?一応、村で使っていた・・・・・・・のなら」

 ゲームの時のお金なら2000万ほどはあるのだが、この世界で使えるのかどうか。

「なんじゃそれは、おぬしの村は独自の通貨でも作っておるのか?なんて言う通貨じゃ見せてみろ」

 私はアイテムボックスから三角形の金属の中心に宝石が埋め込まれたゲーム通貨【ピック】を一枚取り出した。このピックは1、5、10、50、100、500、1000、5000、10000、100000の10種類で1~500は金属の材質とサイズが違うだけ、1000~100000は中心の宝石の種類と大きさで区別されている。ちなみに今出したのは10000ピック。

「なんじゃ、ちゃんとピックを持っておるではないか。どんな石ころを出すのかとヒヤヒヤしたぞ」

 私のお金はこの世界でも使えるようだ。これでしばらくはお金の心配はいらない、良かった。

「それでは、このまま待っても仕方ないので宿を取って明日の朝一にでなおすぞ」

 どことなく嬉しそうに歩き出すリアスの後ろを着いて行く。この街に何度か訪れたことがあるのか迷うことなく宿に向かって行き……はぁ?
 目の前にある建物は今まで見て来た街の建物とは明らかに異質なものだった。サイズ、施された装飾が桁違いで、言うなれば街中に突如現れたベルサイユ宮殿のような様相をかもし出している。
 
「ここじゃここじゃ、はぁぁ疲れた。どうした?さっさと受け付けを済ませて明日に備えるぞ」
「いやいやいやいや、無理です、無理、無理、見て!見て!どう考えても場違いでしょ?」
「そうかのう?」
「そうかのうって……わかりました。お嬢様はこちらにお泊りになって下さいませ。私は馬小屋のような安宿を探して、明日の朝お迎えにあがりますので」

 私は深々と頭を下げ夕暮れの街に歩き出した。
「フィン!」
「ああ、すごい活気だな」

 少しずつ街に明かりが灯り、あちらこちらで笑い声が聞こえ、解放的で大きなドアや窓から冒険者風の人達が酒盛りをしているのが見える。

「おーい!お兄さん本日の宿はお決まりかニャ?一泊朝食付き5000ピック!もちろんワンちゃん大歓迎だニャーん!」

 可愛いらしい猫耳のお姉さんが飛び跳ねながらこちらに大きく手を振っている。5000で朝食付きなら悪くないな。

「フィン!」

 私の頭から飛び降りたマロフィノはお姉さんに向かって猛ダッシュして、体を擦りつけている。おとこさがか、仕方ねーなー、もう。

「決まりかニャ?」
「よろしくお願いします」
「やったニャー!ラスト一部屋埋まったニャ。別料金だけど晩御飯も食べれるから良かったどうぞだニャ。お客様ご来店だニャー!!」
『いらっしゃいませーー!』

 黄色い声に迎えられ宿に入ると、一階はレストランになっているようだ。様々なタイプの美人の獣人従業員の姿。そして、必要以上にむさ苦しい客らしき男達が席のほとんどを埋めている。男のさがか、仕方ない。

「ほう、馬小屋してはずいぶんと良さそうじゃのう。この助兵衛が」

 後ろから突然声をかけられ驚き、ゆっくりと振り向く。

「リアスさん、いつからそこに?」
「田舎者が騙されやしないかと思って着いて来てやったぞ。感謝しろ」
「いやー、でもラスト一部屋って」
「お連れ様ですかニャ?お部屋のベットは四つありますので自由にお使いくださいだニャ」
「だっ、そうだ荷物を部屋に置いてからディナーにしよう。ああ、おぬしは手ぶらなんじゃから席を取っておけ」
「……はい」

 ♦︎

 食った。すごく美味しかった。しかも別料金と言われちょっと構えたが、なかなかのリーズナブルぶり。そりゃ繁盛するよ。12畳くらいの部屋にはベットが四つと個室トイレがあるだけのシンプルな作りで、入浴設備がないのが少し残念。
 リアスは食事のあと従業員用のシャワーを借りれるということで、猫耳お姉さんに連れられて行った。マロフィノは部屋に入ってすぐベットを一つ占領して仰向けで爆睡している。
 アクリスに転生して1日半、やっと落ち着いた時間を得た私は、【AQURIS online】から半年以上放置していたタタラのスキルやアイテムを細かくチェックし始めた。


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