THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

文字の大きさ
18 / 144

居酒屋【妖狐】

しおりを挟む
 しばらく地面と友達になっていた私は今、目抜き通りの外れの小道を入ったところにいた。エヴァさんに指定された居酒屋が分からず道行く人に調査した結果、少し歩くとすぐ正面に石垣で整備された川が現れその川沿い、太陽のような看板が目印になると教えられて来たが、目の前の建物に大きな円の外周に九つの勾玉まがたまのような物が等間隔配置された鉄製の吊り看板が揺れている。きっとここで間違いないのだろう、装飾のほとんどないシンプルな白い漆喰の壁の平屋の木造店舗はどこか和の雰囲気と洗練された高級感を漂わせ、店構えだけで私に後悔と緊張感を味あわせてくれた。イザベルで初めて見た引き戸の入口にはもうすでに暖簾のれんがかけられている、いったい何時から開いているのだろうか。
 恐る恐る、戸を開けるとカラコロと小気味よい音が鳴り。
「いらっしゃいませ」
 上品な女性の声が私を迎え入れてくれた。
 一枚板のカウンターには10人分の椅子が満席になっても窮屈にならない間隔で並べられ、表し柱に梁、赤茶色と象牙色の塗り壁と木製の天井、装飾を極限まで排除し洗練された空間が元日本人の私の心を鷲掴みにした。

「遅い!ぼけっと突っ立ってないでさっさと飲ませろ!」

 内装に心奪われ視界に入ってこなかったがカウンターにはすでに2人の女性の姿があった、真ん中の席にエヴァさん、入口側の隣にリアスさん。
「フィン!」
 その足元にチョロチョロと黒い毛玉がうごめいている。
「おいおいお前までいいのかよ」
「本日はエヴァちゃんの貸切ですのでどうぞお気になさらずに」

 カウンターの中で鶯色うぐいすいろの着物に身を包んだ黒髪の細身の小柄な女将が私のつぶやきに優しく返答してくれた、軽く会釈をしてリアスさんからひとつ離れた席に腰を落とす。

「ゴホン」

 ガッカリエルフがわざとらしい咳払いをして私を睨む、無言で隣の席に移動した。

「お客さん随分お若いようですね」
「あっ、はい……じゅう……はちです」
「あら、それならお酒も大丈夫ね、何にしましょうか」

 あっ大丈夫なんだ。そうするとこの国の成人は16か18ってとこかな、キョロキョロとメニューを探していると。

「とりあえずビール三つだ」

 二つ奥の席から問答無用でビールの注文が入る。異論は一切認めないらしい。

わらわはビールは初めてじゃぁ」

 目を輝かせながら興味津々の声を上げる。

「リアスさんは普段何を飲んでるんですか」
「りんごジュースじゃ」

 苦笑いを浮かべた私の前に水が注がれた器と、茹でられた魚の切り身のようなものが蒸し野菜と盛り付けられている綺麗なお皿が差し出された。

「マロフィノ君にはこちらをどうぞ」
「フィーーーーーーーーン!!フィン!フィン!」
「やったなマロフィノ」

 よほどいい匂いなのか、早く置けとヨダレを垂らしながら尻尾を振り回して大興奮である。こんないいお皿を床に置いて良いものかと女将を見ると優しい笑顔で、手を差し出しどうぞと合図してくれたのでゆっくりと床に置いた瞬間、マロフィノは飢えた猛獣のごとくご飯を食べ始めた。

「お待たせいたしました」

 私達の前のコースターが敷かれ、その上にそっとおかれた透明なパイントグラスの中で、白い雲のような泡に蓋をされた黄金色の液体が小さなたくさんの気泡を立ち上げながら見るものを誘惑する魔性のオーラを放っている。
 唾を飲み込むと喉が渇きを潤せと言わんばかりに鳴った。

「我がギルドの新たな家畜ぼうけんしゃ共に」

 なんか冒険者と言ったエヴァさんのニュアンスに違和感を感じ一瞬躊躇ちゅうちょするが黄金のオーラが私の欲求を駆り立てる。

『乾杯!!』

 冷えたグラスから冷たいビールが喉を刺激しながら私の疲れを全て包み込んで胃の中へと一気に流れ込んでいった。

「くぅーーーーっ。」

 カウンターの上に音を立てながら二つに空のグラスが置かれた。

「タダ酒はうまいな、なぁタタラ」
「ははは、まさかこんな高級そうな店だとは夢にも思いませんでしたけどね」
「【そう】じゃない、高級なんだよこの店は。ヨーコさんビールおかわり、みっ……どうした、お嬢」

 リアスさんはビールグラスを両手で握ったままうつむいている。

「苦い、りんごソーダかと思ったのに全然甘くないんじゃ!」
「お子ちゃまかお嬢、ぬるくなるからよこせ!ヨーコさんビール二つとお嬢に適当に何かジュースを」

 エヴァさんが追加注文をしてリアスさんのビールグラスを取り上げ一気に飲み干した。つーか高級なのねここ、ご馳走すると言ったからには払わなきゃないですよねぇ、ははは、いくらかかるかな。

「さて、今のうちに話をして貰おうか」

 少し威圧感を出した声でエヴァさんが切り出した。リアスさんを呼びわざわざ店を貸し切った、それはつまり、ギルドの冒険者足り得るレベルに達した私が、本当に信頼に値するかどうかここで証明しろと言うことだ。
 緊張感漂うカウンター席で隣のリアスさんは不安気に私の顔を見ている。もしかしたらこの状況は創造神にとって想定外かもしれないが、メールの指示にしたがい私は自分の出自を洗いざらい話すことにした。



 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲
ファンタジー
戦う気なし。出世欲なし。 あるのは「まぁいっか」とゴミスキルだけ。 過労死した社畜ゲーマー・晴日 條(はるひ しょう)は、異世界でとんでもないユニークスキルを授かる。 ――使えないスキルしか出ないガチャ。 誰も欲しがらない。 単体では意味不明。 説明文を読んだだけで溜め息が出る。 だが、條は集める。 強くなりたいからじゃない。 ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。 逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。 これは―― 「役に立たなかった人生」を否定しない物語。 ゴミスキル万歳。 俺は今日も、何もしない。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...