THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

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居酒屋【妖狐】

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 しばらく地面と友達になっていた私は今、目抜き通りの外れの小道を入ったところにいた。エヴァさんに指定された居酒屋が分からず道行く人に調査した結果、少し歩くとすぐ正面に石垣で整備された川が現れその川沿い、太陽のような看板が目印になると教えられて来たが、目の前の建物に大きな円の外周に九つの勾玉まがたまのような物が等間隔配置された鉄製の吊り看板が揺れている。きっとここで間違いないのだろう、装飾のほとんどないシンプルな白い漆喰の壁の平屋の木造店舗はどこか和の雰囲気と洗練された高級感を漂わせ、店構えだけで私に後悔と緊張感を味あわせてくれた。イザベルで初めて見た引き戸の入口にはもうすでに暖簾のれんがかけられている、いったい何時から開いているのだろうか。
 恐る恐る、戸を開けるとカラコロと小気味よい音が鳴り。
「いらっしゃいませ」
 上品な女性の声が私を迎え入れてくれた。
 一枚板のカウンターには10人分の椅子が満席になっても窮屈にならない間隔で並べられ、表し柱に梁、赤茶色と象牙色の塗り壁と木製の天井、装飾を極限まで排除し洗練された空間が元日本人の私の心を鷲掴みにした。

「遅い!ぼけっと突っ立ってないでさっさと飲ませろ!」

 内装に心奪われ視界に入ってこなかったがカウンターにはすでに2人の女性の姿があった、真ん中の席にエヴァさん、入口側の隣にリアスさん。
「フィン!」
 その足元にチョロチョロと黒い毛玉がうごめいている。
「おいおいお前までいいのかよ」
「本日はエヴァちゃんの貸切ですのでどうぞお気になさらずに」

 カウンターの中で鶯色うぐいすいろの着物に身を包んだ黒髪の細身の小柄な女将が私のつぶやきに優しく返答してくれた、軽く会釈をしてリアスさんからひとつ離れた席に腰を落とす。

「ゴホン」

 ガッカリエルフがわざとらしい咳払いをして私を睨む、無言で隣の席に移動した。

「お客さん随分お若いようですね」
「あっ、はい……じゅう……はちです」
「あら、それならお酒も大丈夫ね、何にしましょうか」

 あっ大丈夫なんだ。そうするとこの国の成人は16か18ってとこかな、キョロキョロとメニューを探していると。

「とりあえずビール三つだ」

 二つ奥の席から問答無用でビールの注文が入る。異論は一切認めないらしい。

わらわはビールは初めてじゃぁ」

 目を輝かせながら興味津々の声を上げる。

「リアスさんは普段何を飲んでるんですか」
「りんごジュースじゃ」

 苦笑いを浮かべた私の前に水が注がれた器と、茹でられた魚の切り身のようなものが蒸し野菜と盛り付けられている綺麗なお皿が差し出された。

「マロフィノ君にはこちらをどうぞ」
「フィーーーーーーーーン!!フィン!フィン!」
「やったなマロフィノ」

 よほどいい匂いなのか、早く置けとヨダレを垂らしながら尻尾を振り回して大興奮である。こんないいお皿を床に置いて良いものかと女将を見ると優しい笑顔で、手を差し出しどうぞと合図してくれたのでゆっくりと床に置いた瞬間、マロフィノは飢えた猛獣のごとくご飯を食べ始めた。

「お待たせいたしました」

 私達の前のコースターが敷かれ、その上にそっとおかれた透明なパイントグラスの中で、白い雲のような泡に蓋をされた黄金色の液体が小さなたくさんの気泡を立ち上げながら見るものを誘惑する魔性のオーラを放っている。
 唾を飲み込むと喉が渇きを潤せと言わんばかりに鳴った。

「我がギルドの新たな家畜ぼうけんしゃ共に」

 なんか冒険者と言ったエヴァさんのニュアンスに違和感を感じ一瞬躊躇ちゅうちょするが黄金のオーラが私の欲求を駆り立てる。

『乾杯!!』

 冷えたグラスから冷たいビールが喉を刺激しながら私の疲れを全て包み込んで胃の中へと一気に流れ込んでいった。

「くぅーーーーっ。」

 カウンターの上に音を立てながら二つに空のグラスが置かれた。

「タダ酒はうまいな、なぁタタラ」
「ははは、まさかこんな高級そうな店だとは夢にも思いませんでしたけどね」
「【そう】じゃない、高級なんだよこの店は。ヨーコさんビールおかわり、みっ……どうした、お嬢」

 リアスさんはビールグラスを両手で握ったままうつむいている。

「苦い、りんごソーダかと思ったのに全然甘くないんじゃ!」
「お子ちゃまかお嬢、ぬるくなるからよこせ!ヨーコさんビール二つとお嬢に適当に何かジュースを」

 エヴァさんが追加注文をしてリアスさんのビールグラスを取り上げ一気に飲み干した。つーか高級なのねここ、ご馳走すると言ったからには払わなきゃないですよねぇ、ははは、いくらかかるかな。

「さて、今のうちに話をして貰おうか」

 少し威圧感を出した声でエヴァさんが切り出した。リアスさんを呼びわざわざ店を貸し切った、それはつまり、ギルドの冒険者足り得るレベルに達した私が、本当に信頼に値するかどうかここで証明しろと言うことだ。
 緊張感漂うカウンター席で隣のリアスさんは不安気に私の顔を見ている。もしかしたらこの状況は創造神にとって想定外かもしれないが、メールの指示にしたがい私は自分の出自を洗いざらい話すことにした。



 
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