また明日がくる

たつや

文字の大きさ
1 / 2

出会い

しおりを挟む
 別にはたから見たら大した理由ではないのだろう。でも僕には十分な理由だ。それに自分の人生だ。いつやめても別にいいだろう。
 一歩踏み出せば全てが終わる。そんな状況で真司は10分くらい下を見ていた。別に踏み出すのを躊躇していたわけではない。ただここから見ると車がまるで光の線のようにみえて綺麗だな。そんなことを思っていた。
 こんな夜中に誰も僕に気付くはずはない。時間はたっぷりある。終わりの時くらい綺麗な夜景でも満喫しよう。
「飛ぶならはよ飛ばんか!」
「!!」
今どこかから声が聞こえた。いくら周りを見回しても誰も見当たらない。
 こんな夜中にビルの屋上に人がいるわけないか。
「あれ、わしの声聞こえたんか?」
まただ!
「だ、だれだ!?」
「お、やっぱり聞こえとるんか。かっかっかっ」
姿は見えないのに声が聞こえる。
「どこにいるんだ!」
周りを見回しながら怒鳴った。
そんな僕をあざ笑うかのように声の主は少し笑いながらこたえた。
「おーおーそんなに怒らんでもええやないか。わしはここや。」
声のする方をみるとそこに確かにおっさんがいた。さっきはいなかったと思うのだが。
「もしかしてわしのこと見えてもいるんか?」
目が合うとおっさんはそう言った。
なにを訳のわからないことを言っているんだ。別に僕は目が悪い訳ではない。見えているに決まってるじゃないか。
 まあどうでもいいか。僕はもうすぐ死ぬんだ。ただ、人に見られてるっていうのはなんか嫌な感じだな。
「あの、なんでもいいんでどこか行ってもらいませんか?」
誰かに見られていては飛び降りづらかった。
「なんでや?」
「いや、なんでや?って見てわかりません?僕今自殺しようとしてるんですよ。だから見られてると死にづらいというか」
おっさんはうんうんと頷き
「そうやな。見られてると死にづらいな」
ふう分かってくれたか。
「なら死ななければええやないか!なんでわしがどこか行かなあかんのや!」
ええ全然分かってないじゃん。むしろ逆ギレされたよ。
あぁ最後まで僕はついてないな。死のうと思ってまでこんなことになるなんて。
「それにあんたのことは死なさへんで」
おっさんはかっかっかと笑いながら言った。
「あんさんの思ってることわかるでぇ~。なんで最後の最後までこんなおっさんに邪魔されなあかんねん。と思ってるやろ」
「うるさいな!僕は誰になんと言われようともう決めたんだ。説得なんかしたって意味無いですよ!」
僕はおっさんにそう返した。
「べつに説得なんかせえへんよ。ただあんさんに死なれるとわしが困るんじゃ」
は?おっさんが困る?今ここで初めてあった見ず知らずのおっさんだぞ?
「僕が死んでもあなたは別に困らないと思いますけど」
「困るんや!」
おっさんはそう言うと立ち上がってこっちに近づいてきた。
「い、いや来ないでくださいよほんとに飛びますよ!」
そう言うとおっさんの足がピタリと止まった。
「あんさんが死んだらわしは毎日退屈なんや!死ぬ前に少しくらいわしの暇つぶしに付き合わんかい!」
僕が死んだら毎日退屈?ますますおっさんの言ってる事がわからなかった。
「あ、あのわかるように言ってもらってもいいですか?もしかして僕たち僕が忘れてるだけで知り合いでしたっけ」
おっさんは独り言のように、そうやな説明せんとわからんよな。と呟いた。
「わしの足元見てみい、わし浮いてるやろ」
はぁ変なおっさんに絡まれたなと思いながらも僕はおっさんの足元を見た。
 暗くてよくわからないが確かに少し浮いてるようなそんな気がする。
「わし死んでんねん」
足を凝視している僕におっさんはそう言った。
「横のビルのガラス見てみい」
僕は言われるがまま横のビルをみた。ガラスには僕が映っていた。おっさんの姿はどこにもなかった。
「写真とかには映るんだが鏡とかガラスには映らんみたいでのぉ」
なぜかおっさんはかっかっかっと笑いながら言った。
 急にわし死んでんねんと言われても信じられるはずはないのだがなぜだか今日の僕はすんなりと信じてしまった。
僕が死のうとしたから死神でもやってきたのかな。
「あ、ちなみにわし死神とかそういうのじゃないからな。ただの幽霊だから」
まるで僕の考えを読んだかのように言うと、またかっかっかと笑い始めた。
笑い疲れたのかおっさんは、ふぅ。と一息ついた。
「わしの声が聞こえるのもわしのことが見えるのもあんさんだけなんや。ずーっと1人っていうのはなかなか退屈なもんやぞ。わしは今嬉しいんや。ようやくわしのことが見える人と出会えたんやからな。」
「だから死ぬんじゃない!死んだらわしが呪ってやるからな!」
死んだら呪うってなに意味のわかんないこと言ってんだこのおっさんは。
「そんなこと言われたってもう俺には生きてても意味がないんだよ」
「この若造がなに言っとるんじゃ!なにがあったかは知らんが生きてて意味のない人なんかおらん!」
「あんさんが死んだら悲しむ人が絶対にいるんじゃ!わしがあんさんの力になっちゃる!だから死なんでくれ」
 これが僕とおっさんが出会った日の出来事だ。この後僕はなんやかんやとおっさんに説得され家に帰った。おっさんは行くあてがないと言いうちに住み着いた。いや取り憑かれたと言った方が正しいのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...