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大切だから
仲直り
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店の中に戻った後、藍田や私服に着替えた深恋達と手分けして閉店後の片付けが始まった。汐姉は買い出しに行くと言って出て行ったから、しばらくは戻ってこないだろう。
片付けが終わると、藍田・深恋・姫野の3人は急ぐように帰っていった。深恋と藍田はそうだとしても、姫野まで「ああ急がないとな……」とかモゴモゴ言い訳しながら出て行ったのは解せない。
そして、店には2人きりになった。
でもまあ、俺にとっては都合が良かった。
「皇、話があるんだけど」
姫野達が出て行った扉の方を見ている皇の背中に声をかける。どうして俺を避けているのか、ちゃんと話をしないとダメだ。
俺の方を振り向いた皇は、何か覚悟を決めたような顔をしていた。
「私も話したいことがあるの。座って」
俺達は近くの客席に向かい合って座った。偶然にも、皇と一緒に書類の仕分けをしたあの日と同じ位置だった。
あの日から皇の態度はおかしくなった。せっかく腹を割って話せるようになったのに、こんな関係のままじゃ嫌だ。
「「あの」」
声が重なった。
「いいわよ、亮太からで」
「俺は後でいいよ」
皇の話が俺に対する文句なら、俺から訊くことは特にない。
「そう。じゃあ私から話すわね」
そう言って皇は一つ息をついた。
「ごめんなさい!」
皇は勢いよく頭を下げた。
「え、皇……?」
そして、申し訳なさそうな表情で顔を上げる。
「この前のバイトの時も今日も、ひどい態度取っちゃったから。亮太のこと避けていたのは、亮太のせいじゃなくて私のせいなの。だからごめんなさい」
皇の様子を見るに嘘ではないみたいだ。でも、皇の理由で俺のことを避けるって、結局は俺に原因があるってことじゃないのか?
「なあ、その説明じゃよく分からないんだけど」
俺の言葉に皇はさらに申し訳なさそうな顔をした。その時、なぜか藍田が言っていた言葉を思い出した。
『彼女は自分が間違ってるってちゃんと分かってるから、あんまり責めないでおいてよね。不器用みたいだし、あんたの方から歩み寄ってあげなよ』
これが皇のことを指しているのかどうかは藍田に聞いてみないと分からないけど、俺へのアドバイスであることは確かだった。
「ごめん、言い方が悪かった。皇は俺にどうして欲しいんだ? どうしたら前みたいに戻れる?」
皇はふっと目を伏せた後、俺の反応を窺うように上目遣いで見上げた。
「亮太は今まで通りでいてくれればいいよ。前みたいに話してくれたら、嬉しい」
素直な反応が返ってきて、思わず顔を逸らす。
「そうかよ。じゃあ、この話はこれで終わりだな」
俺は荷物を持って立ち上がった。
「そろそろ帰るか。汐姉が戻ってきたら、また雑用押し付けられそうだし」
「ねえ、亮太は私にしてほしいことないの? 迷惑かけたお詫びに何でもするから」
あの学年の三大美少女の皇茉由が、何でもするって……?
俺はハァっとため息をついた。
「あのなあ、男に向かって何でもするなんて言ったらダメだからな? 俺が言うのもなんだけど、欲望まみれの要求される可能性だってあるわけだし。大体、前から思ってたけどお前は危機感が薄くて……」
その時、皇はバンと机を叩いて立ち上がった。
「私、別に誰にでもそんなこと言う訳じゃないし!」
「いま俺に言ったんだろ!?」
「だから! それは、その……」
皇は何か言うのをやめて、不満そうに口を尖らせた。
「余計なお世話かもしれないけど、無防備なところ見ると心配になるんだよ。お前、可愛いんだから」
俺の言葉に、皇は驚いたように目を丸く見開いた。可愛いだなんて、今更言われ慣れているだろうに。
その時、外から唸るようなバイクの轟音が聞こえて、俺は思わず窓の方に目を向けた。
「好き……」
顔を戻すと、皇と目が合う。
「皇ってもしかして……」
「な、なに?」
「バイク好きなのか?」
俺の言葉に、皇は顔を真っ赤にした。
「ああもう! そうなのよ! 高校卒業したら大型の免許でも取ろうかしらっ!」
「おーいいじゃん。バイク乗ってるとき人格変わりそう」
「それ、どういう意味か詳しく聞かせてもらえる?」
そう言うと、皇は自分のバッグを肩にかけた。
「暗くなるし帰るわよ。お詫びは私の独断と偏見で駅前のクレープね」
「おお、いいね」
入り口のドアに手をかけたところで、皇が振り向いた。
「あ、そうだ。亮太の話って?」
「ああ……なに言うんだったか忘れたわ」
「はぁ? なにそれ」
皇はそう言って笑った。
******************
その数日後、深夜。
髪を解き、ベッドに横になる。そしてスマホを開いてSNSをぼんやりと眺めていると、ある動画が目についた。メイドカフェで撮影されたものらしく、少し映像がブレてはいるけど、1人のメイドが店内を駆けまわっているのが確認できる。
後ろ姿だけなのに美少女だと分かるし、プチバズりして私のところまで拡散してきたのも頷ける。というか、実際に美少女なんだ。
「この動画に映ってるの、深恋先輩だ……」
(次章に続く)
片付けが終わると、藍田・深恋・姫野の3人は急ぐように帰っていった。深恋と藍田はそうだとしても、姫野まで「ああ急がないとな……」とかモゴモゴ言い訳しながら出て行ったのは解せない。
そして、店には2人きりになった。
でもまあ、俺にとっては都合が良かった。
「皇、話があるんだけど」
姫野達が出て行った扉の方を見ている皇の背中に声をかける。どうして俺を避けているのか、ちゃんと話をしないとダメだ。
俺の方を振り向いた皇は、何か覚悟を決めたような顔をしていた。
「私も話したいことがあるの。座って」
俺達は近くの客席に向かい合って座った。偶然にも、皇と一緒に書類の仕分けをしたあの日と同じ位置だった。
あの日から皇の態度はおかしくなった。せっかく腹を割って話せるようになったのに、こんな関係のままじゃ嫌だ。
「「あの」」
声が重なった。
「いいわよ、亮太からで」
「俺は後でいいよ」
皇の話が俺に対する文句なら、俺から訊くことは特にない。
「そう。じゃあ私から話すわね」
そう言って皇は一つ息をついた。
「ごめんなさい!」
皇は勢いよく頭を下げた。
「え、皇……?」
そして、申し訳なさそうな表情で顔を上げる。
「この前のバイトの時も今日も、ひどい態度取っちゃったから。亮太のこと避けていたのは、亮太のせいじゃなくて私のせいなの。だからごめんなさい」
皇の様子を見るに嘘ではないみたいだ。でも、皇の理由で俺のことを避けるって、結局は俺に原因があるってことじゃないのか?
「なあ、その説明じゃよく分からないんだけど」
俺の言葉に皇はさらに申し訳なさそうな顔をした。その時、なぜか藍田が言っていた言葉を思い出した。
『彼女は自分が間違ってるってちゃんと分かってるから、あんまり責めないでおいてよね。不器用みたいだし、あんたの方から歩み寄ってあげなよ』
これが皇のことを指しているのかどうかは藍田に聞いてみないと分からないけど、俺へのアドバイスであることは確かだった。
「ごめん、言い方が悪かった。皇は俺にどうして欲しいんだ? どうしたら前みたいに戻れる?」
皇はふっと目を伏せた後、俺の反応を窺うように上目遣いで見上げた。
「亮太は今まで通りでいてくれればいいよ。前みたいに話してくれたら、嬉しい」
素直な反応が返ってきて、思わず顔を逸らす。
「そうかよ。じゃあ、この話はこれで終わりだな」
俺は荷物を持って立ち上がった。
「そろそろ帰るか。汐姉が戻ってきたら、また雑用押し付けられそうだし」
「ねえ、亮太は私にしてほしいことないの? 迷惑かけたお詫びに何でもするから」
あの学年の三大美少女の皇茉由が、何でもするって……?
俺はハァっとため息をついた。
「あのなあ、男に向かって何でもするなんて言ったらダメだからな? 俺が言うのもなんだけど、欲望まみれの要求される可能性だってあるわけだし。大体、前から思ってたけどお前は危機感が薄くて……」
その時、皇はバンと机を叩いて立ち上がった。
「私、別に誰にでもそんなこと言う訳じゃないし!」
「いま俺に言ったんだろ!?」
「だから! それは、その……」
皇は何か言うのをやめて、不満そうに口を尖らせた。
「余計なお世話かもしれないけど、無防備なところ見ると心配になるんだよ。お前、可愛いんだから」
俺の言葉に、皇は驚いたように目を丸く見開いた。可愛いだなんて、今更言われ慣れているだろうに。
その時、外から唸るようなバイクの轟音が聞こえて、俺は思わず窓の方に目を向けた。
「好き……」
顔を戻すと、皇と目が合う。
「皇ってもしかして……」
「な、なに?」
「バイク好きなのか?」
俺の言葉に、皇は顔を真っ赤にした。
「ああもう! そうなのよ! 高校卒業したら大型の免許でも取ろうかしらっ!」
「おーいいじゃん。バイク乗ってるとき人格変わりそう」
「それ、どういう意味か詳しく聞かせてもらえる?」
そう言うと、皇は自分のバッグを肩にかけた。
「暗くなるし帰るわよ。お詫びは私の独断と偏見で駅前のクレープね」
「おお、いいね」
入り口のドアに手をかけたところで、皇が振り向いた。
「あ、そうだ。亮太の話って?」
「ああ……なに言うんだったか忘れたわ」
「はぁ? なにそれ」
皇はそう言って笑った。
******************
その数日後、深夜。
髪を解き、ベッドに横になる。そしてスマホを開いてSNSをぼんやりと眺めていると、ある動画が目についた。メイドカフェで撮影されたものらしく、少し映像がブレてはいるけど、1人のメイドが店内を駆けまわっているのが確認できる。
後ろ姿だけなのに美少女だと分かるし、プチバズりして私のところまで拡散してきたのも頷ける。というか、実際に美少女なんだ。
「この動画に映ってるの、深恋先輩だ……」
(次章に続く)
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