訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白

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夏休みの特別アルバイト

美少女と水着

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 厨房に戻って少しすると、エプロンのポケットに入れたスマホが震えた。取り出すと、皇からだった。

 ちょっと見にきて、ってそういう事か……
 ダボッとしたTシャツの首回りから覗く華奢な鎖骨だったり、シャツの裾から短パンが見え隠れする感じだったり、なんていうか、目のやり場に困って顔を逸らした。
「これじゃ、さすがに人前に出れないかなって……」
「そう、だな……」
 部屋にぎこちない空気が流れた。
「俺、汐姉に白じゃなくてもいいから貸せる服あるか聞いてくるから!」
「ああ、うん、助かるわ!」
 変なテンションで俺は部屋を出て行った。

 汐姉から借りれたのは黒のTシャツだったけど、仕方がない。あんな格好の皇を他の奴に見せるわけにはいかないからな。
 軽くノックして扉を開く。
「借りられたからこれに……」
「うわぁぁぁあ!?」
 真っ赤な顔で悲鳴を上げる皇。いま、俺のTシャツを着たまま首元を手繰り寄せて顔を埋《うず》めていたような……?
「ちゃんとノックしてから開けなさいよ!」
「ノックはしたんだけど……もしかして臭かった?」
 それは流石にショックだ。まだピチピチの10代だっていうのに、洗濯しても落ちないほど匂いがきついなんて……
「臭くないからっ! 今見た記憶全部消しなさい!」
 そう言って、強引に部屋から押し出された。


 順番に休憩を回し終わった頃にはピークが過ぎ、店内は落ち着いていた。
「みんなのおかげで用意していた材料がほとんど尽きたよ。あとは私1人でも回せるから、せっかくの海を楽しんで来たらどうだ?」
 汐姉は深恋達にそう言った。朝あんな大量に搬入した焼きそばの麺やら野菜やらフランクフルトがもうなくなってしまった。汐姉監修だから味は他の店に比べてもちろん美味いが、評判になっていた理由はそれだけではないだろう。

「でも、大丈夫ですか?」
 深恋が心配そうに首を傾げる。
「売れるのはかき氷と飲み物くらいしか残ってないから問題ないよ」
「そういうことなら……。ありがとうございます」
 そう言って、3人はバックヤードに入って行く。

「じゃあ俺は鉄板の片づけ始めてるから」
「ばぁか、亮太も行くんだよ」
「本当に大丈夫か?」
 俺の言葉に、汐姉は自信ありげな顔で答える。
「テイクアウトに絞ればフロアの片付けも必要ない。さっきも言った通り、手間のかかる商品は全部完売したからな」
「そういう事じゃなくて、汐姉が接客なんて大丈夫かって言ってんだよ」
「お前、私をなんだと思っているんだ?」
「汐姉だと思ってる」

 いつも厨房に籠りきりで、客前に立つことはほとんどない。それに数少ない知り合いを除いて対人関係に難ありだと、汐姉が学生の頃から見て理解していた。

「このくらい私にだってできる。向いてない自覚があるから普段はやっていないだけだ。今日はそんな私の都合よりもっと優先したいことがあるからな」
 汐姉は俺の背中をバシッと叩いた。
「しっかりやれよ」
 その言葉の意味は聞かなかった。


 いくら普段インドアであっても、せっかく海まで行くんだからと一応水着は持ってきていた。基本1人の予定だったし、まさか役に立つとは思わなかったけど。
 さっさと着替えて店前でジュースを飲んでいると、後ろからパタパタと足音が聞こえた。

「お、お待たせしましたぁ」
 不用意に後ろを振り返って……その2人の姿に慌てて顔を押さえた。

 深恋は薄紫色の生地にフリルのついた、いわゆるオフショルダータイプの水着。深恋の清楚なイメージに合っていながらも、一部分のふくよかさを露わにしていて、そのギャップが刺激的だ。
 皇は黒色のシンプルなビキニで、頭に大きな麦わら帽子を被っている。いつものイメージにない大人っぽいデザインと、黒色の水着で際立つ肌の白さが心臓に悪い。
 普段意識しないようにしていたのに、これじゃあどうやっても意識してしまう。

「顔、どうかしたんですか?」
「定期的に目を隠さないと秘められた闇の魔眼が解き放たれるんだ」
「なによその厨二設定は」
 皇が呆れたように言う。なんか俺だけ動揺しててバカみたいじゃないか。

「皇こそ、さっきはTシャツで恥ずかしがってたのに、なんでそれは大丈夫なんだよ!」
「水着はこういうものだからいいのよ! さっきのは、なんていうか、不健全な感じだったでしょ!」
「えっと、なんの話をしてるんですか?」

 そんなことを言いながら徐々に目を慣らしていき、やっと隠しなしでも見られるようになった。

「大丈夫になってよかったです」
「人騒がせな奴ね」
「いや、ごめん。あまりにも2人が可愛すぎてちょっとヤバかった」
 正直まだ心臓がバクバクしているけど、最初よりは大分目が慣れたと思う。
 俺の言葉に対して、少しの間があった。
「その、ありがとうございます……」
「とっ、当然じゃない」
 2人は不自然に顔を逸らした。

「ごめん、待たせた」

 その時、後ろから姫野の声が掛かる。今度はちゃんと手で目を隠しながら振り返った。そして少しずつ視界を広げる。

「いや、なんで?」

 姫野は白いラッシュガードに青色の海パン。上半身も何か仕込んでいるのか凹凸はなく、学校で見る「女子の」王子というよりも完全なイケメンが目の前にいた。

「せっかくだし、こういうのも面白いかと思って」
「晶さん、カッコいいです……!」
「あんたね、水着用意しときなさいって言ったのにどうしてこうなるのよ」
 そう言って皇は大きなため息をつく。2人もこれは知らなかったらしい。
「まあともかく、これで全員揃ったし行くわよ」
「そうですね」

 先に歩いていく皇と深恋の背中が遠ざかったのを見て、姫野に顔を近づけた。

「お前、こういうの嫌じゃなかったのか?」
 周りからカッコいい自分を求められて王子を演じてきたと前に聞いた。それなのにこれはどういうことだ。
「さっき言った通りだよ。周りから見たらダブルデートに見えてるのかな」
 そう言っておかしそうに笑う。髪型のことに触れた時は「暑いから」なんて言ってたけど、まさかこのためだったとは……
「前から薄々思ってたけど、お前変わってるな」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
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