訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白

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夏休みの特別アルバイト

美少年と夏の夜

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「え、泊まる?」
「今までだって亮太の家に泊まったこと、何度かあったでしょ? せっかくのいいホテルなんだから一緒に楽しもうよ」

 私の言葉に、亮太は安心したような顔を見せた。

「あ……ああ、そういうことな! 高級ホテルなら家よりテレビもデカイだろうし、大画面でアニメ鑑賞会するか」
「私、ホテルに空き部屋あるか電話してみる」

 そう言って亮太の側を離れる。私はズルい。友達であることを利用して亮太の隣に居ようとしているんだから。

 ホテルは空室があり、今晩泊めてもらえることになった。親にも一応連絡したけど、いつも通り大した反応はなかった。

 店長に泊まることを伝え、ホテルまで車で送ってもらう。途中でショッピングモールに寄ってもらった。リゾートホテルのためアメニティも大抵は揃っている。夕飯やお菓子と、泊まるのに必要最低限のものだけ買い足した。

 車は街を抜け、ヤシの木が並ぶ海沿いの道を走る。
「名作アニメ一気見とかもいいよな。何クールもあるやつなんて、なかなか観れないし」
 後部座席に並んで座る亮太が言った。
「明日も海の家手伝うんだから、オールはやめたほうがいいと思うけど」
「まあ、それはそうなんだけどさ。こういうの久しぶりでアガるっていうか」
 声が明るくて、本当に楽しみなのが伝わってくる。その嬉しさと同時に、もやもやした言葉にならない気持ちも胸に残っていた。

 車が白く大きな建物の前で泊まると、亮太は荷物を持って先に降りた。その背中が離れたのを見て、運転席の方へ向き直る。
「店長」
「ん?」
 そう言って、店長が後ろを振り向く。
「手は出さないので安心してください」
 私の言葉に店長は吹き出した。
「ふはっ! そういうのは男が言うものだと思ってたよ」
「一応、保護者としては心配かと思いまして」
 店長は穏やかに微笑んだ。
「そこは心配してないよ。楽しんできな」
 


 受付を済ませて案内されたのは、本館から離れた一棟貸しの建物だった。
「うわっ!? 広!」
 思わず亮太が声を上げる。
 部屋には大きなベッドが2台と、テーブルセット。そしてそれ以上に目を引くのが、一面ガラス張りから見える――

「プールだ!」

 部屋から見える屋外プールは、水面が日光を反射してキラキラと輝いている。

「こんな広い部屋でプールまでついてるなんて、本当にすごいホテルなんだな! 姫野が誘ってくれてラッキーだったわ!」
「元々は亮太が貰った賞品なんだけどね」
「ああ、そう言えばそうだったな。まあいいじゃん。アニメ観ようぜ」

 そう言ってソファの片側に座る。当たり前のように隣の場所を空けてくれるだけで嬉しいのに、それだけじゃ満足できないなんて私は贅沢なのかもしれない。
 


 アニメのエンディングが流れたところで大きく伸びをする。ふと外に目を向けると、もう暗くなっている。随分と時間が経ったみたいだ。
「もうこんな時間か。風呂、先入る?」
 亮太が言った。
「後にする」
「了解。じゃあ行ってくるわ」

 パタン、と脱衣所の扉が閉まる音を聞いて、私は席を立った。近くに置いていたボストンバッグを開け、中身が見えないように二重にしたその袋を取り出す。

 元々インドアで、最後に泳いだのは小学校のプールの授業。だから茉由に今日の誘いを受けた時、どうしようかと思った。

 二重にした袋の中から赤色の生地を手に取る。赤色の生地に水玉模様のついたワンピースタイプの水着。

 茉由から水着を用意しておいてなんて言われたけど、自分で選んだこともない。とりあえずどんなものがあるのか見てみようと思って、オンラインショップを開いた。そしてその時に一目惚れしたのが、この水着だった。

 届いたそれを着てみて、やっぱりイメージ通りだと思った。普段は選ばないような明るい色味も、腰回りについたフリルも可愛くて気分が上がる。亮太に見てほしい、なんて。
 その日はなかなか寝付けなかった。
 
 予定の前日、荷物をボストンバッグに詰めている時にその水着を手に取った。
 本当にこれでよかったのかな、そんな思いが胸を掠めた。

 亮太にとっての私は楽にいられる男友達みたいなもの。だからこそ、亮太の家に泊まったり、2人で出かけることに何の違和感もなかった。私は自分の気持ちを自覚したけど、亮太はそうじゃない。大好きって言ったり、頬にキスしても今までの関係に変化がないのは、亮太に異性として意識されていないから。
 それなのにこんな水着を着て、いかにも「自分は女だ」って見せたら、亮太は私との関係に一線を引いてしまうかもしれない。

 翌朝、いつもの短髪にセットをして、待ち合わせの前に男物の水着を買った。荷物の中に着ないつもりの水着を入れてきたのは、ほんの少し、欲があったから。

 浴室からシャワーの音が聞こえてくる。これでしばらくは出てこない。赤い水着をぎゅっと握った。



 テラスへと繋がるガラス扉を開ける。夏の風が肌を撫でた。自分の部屋で試しに着てみた時とは違って、外だと足の付け根や肩回りがスースーして落ち着かない感じがする。

 もしも自分が普通だったら。深恋や茉由みたいに初めから異性として亮太と出会えていたら、可愛いって思ってもらいたいって、素直に行動できていたのかな。友達であることを利用してるくせにって、自分でも分かっているけど。

 この姿を誰にも見せるつもりはない。でも、扉を隔てた向こうに亮太がいるその場所で、水着を着てみるくらいは許されるんじゃないだろうか。

 プールサイドに腰を下ろし、足をつける。生ぬるい温度が今の心にちょうどいい。
「……やっぱり、亮太にも見てほしかったな」
「俺がどうかした?」
 その声に慌てて振り向くと、Tシャツ姿の亮太が立っていた。驚きすぎて、声も出ない。
「隣、いいか?」
「あ、うん……」

 私の返事を聞いて、プールに足をつける。

「おお、気持ちいいじゃん」
 そう言って、パシャパシャと足を遊ばせる。
 亮太に見られた。私は小さくなるように自分の肩を抱いた。

「そういう水着も持ってたんだな」
 その言葉に心臓がヒュッと縮んだ気がした。

「これは、その……」
「俺はあんまり詳しくはわかんないけどさ、よく似合ってると思うよ」
 それを聞いて、ぶわっと温かい感情が全身を巡っていった。嬉しいのに、意地悪な言葉が口をつく。
「深恋と茉由の水着見た時は、もっと動揺して赤くなってたくせに」
「おい、どっから見てたんだよ!?」

 亮太は水面を見ながら、ハァっと息をついた。

「今だってめちゃくちゃ動揺してるよ。そりゃどんな男だって、こんな可愛い水着姿見て平然としてらんないだろ」
 そう言われてよく見ると、ライトに照らされた頬が赤くなっている。
「ほら! 俺だって色々苦労してここに座ってるんだから、さっさと話せよ。今日様子が変だったし、なんかあるんだろ」

 私を見て可愛いって思ってくれて、動揺して、それでも平気なフリまでして私のことを心配してくれてるって、それって……

「くっ……あはは!」
「おい! こっちは真剣に心配してだな……」
 そう言って、眉間に皺を寄せる。
「うん、分かってる。ありがと」

 こんなに大切にしてくれて、私のこと、大好きじゃないか。

「本当に大丈夫か?」

 ずっと、友達以上にはなれないんじゃないかって自信がなかった。でも亮太は、友達としての私も、異性としての私もちゃんと見てくれていた。最後に君が誰を選ぶのかは分からないけど、今のこの瞬間、君の意識を独り占めしているのは確かだ。

「じゃあ、一つだけお願い聞いてくれる?」
「おう。可能な範囲で頼む」
「晶ってまた呼んで」
 私が迷子になった時、大きな声で名前を呼んでくれた。それがどれだけ嬉しかったか。
「そんなことでいいのか? それくらい別にいいけど」

 その時、空がパッと明るくなった。

「おお、やっと始まったか」
 胸にズシンと響く音と共に、夜空に大輪の花が咲く。
「ホテルのロビーに花火大会のポスターが貼ってあったのを思い出して、速攻でシャワー出てきたんだよ。晶と、一緒に見ようと思って」

 空には赤や黄色、緑と様々な色が輝く。隣を向くと、空を見上げる愛しい横顔が見えた。

「綺麗だな」
 亮太が呟く。
「……うん」
 この景色、この夜を、きっと私は忘れないよ。
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