もしも推し(女)にそっくりな男の子が隣に引っ越してきたら?

亜瑠真白

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クエストコンプリート

待ち望んだ瞬間

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 ついにこの日が来た。
 全らむちゃんファンが、いや、全人類が待ち望んだ瞬間。今まで誰も到達することの無かった、まさに神の領域。
 今日、小鳥遊らむねが現実世界に姿を現すんだ。
 心臓がバクバクと打って、興奮が抑えきれない。
『ピンポーン』 
 チャイムが鳴って、急いで玄関のドアを開ける。
「あの…きょ、今日はよろしくお願いします…」
 そこにいるのは最高に可愛いお顔をした今日のシンデレラ。緊張しているのか顔は強張り、言葉もたどたどしい。
「こちらこそよろしくね!上がって!」
 ああ、早く衣装に着替えてほしい。ウィッグをつけてほしい。
 私は欲望満載の思いを抑えて、斗真君を部屋へ招いた。

「じゃあ先週言った通り、今日は斗真君にらむねちゃんのコスプレをしてもらうね。基本的に私が準備するから、斗真君は協力してくれるだけでいいからね。」
「わ、分かりました。」
「順番としては、メイク、着替え、ウィッグ、仕上げって感じ。…斗真君、覚悟はいい?」
「はい、よろしくお願いします。」
 その顔を見てほっとする。不安はもちろんあるんだろうけど、嫌々ではないみたい。
「じゃあ、メイクからやっていくね。最初にカラコン入れてほしいんだけど、一人で出来る?」
 そこが一つの問題だった。らむちゃんの目って青系だからカラコンを使いたいんだけど、慣れてないと難しいだろうし。かといって私が入れてあげるっていうのも、ちょっと怖い。
「大丈夫です。運転する時とかはコンタクトしているので。」
「斗真君、運転できるの!?」
「あ…はい。最近は全然してないですけど…」
 意外だ…こんな可愛いお顔で車も運転できるとか…ハイスペか…
 大丈夫というだけあって、斗真君はあっという間にコンタクトを入れた。
「おお…!」
 目の色が変わっただけで、一気にらむちゃんに近づいた。
「いいねいいね!どんどんいこう!」
 えーっと、次は下地か。
「顔、触るよ。」 
 斗真君の肌に下地とファンデーションを重ねる。元々綺麗だけど、コスプレをするからにはマットな仕上がりにした方がそれっぽいだろう。
「次はアイシャドウ塗るね。」
「あ、はい。」
 斗真君の顔はらむねちゃんにそっくりなんだから、私が頑張ってメイクで寄せる必要はない。むしろ素材の良さを最大限に生かすように、あくまでもメイクは薄め薄め、だ。
 私はブラウンのアイシャドウパレットを手に取った。
「…言ってなかったね、ごめん。目閉じもらっていい?」
 数秒見つめあったのち、私は声をかけた。
「ああ!すいません!」
 私の言葉に斗真君が目を閉じる。まあ、自分でメイクしなかったら分かんないか…って、
 まつ毛ながっ…!顔のパーツの中でも目はとりわけ最高に可愛いと思ってたけど…これで天然なの?天然ものなの??
「…菜々子さん?」
 手の止まった私を心配してか、斗真君が目を開けてこちらを見つめた。
「ごめん…その、天然ものが…」
「…?」
 その後、最後の仕上げを残してメイクを終了し、私達は次の段階へと移った。

「次はこれね。」
 斗真君に手渡したのは制服セット。
「詩井野学園農業科制服~冬ver~ね。ちょっと暑いかもしれないけど、冷房かけるから大丈夫。サイズの調整は後でするから、とりあえず脱衣所でこれに着替えてきてくれる?」
「わ、分かりました…」
 制服を手にした斗真君は一段と不安そうだった。
 スカートなんて初めてだろうしなぁ。不安になるのも仕方ないか。
「もし不安なら着替え手伝おうか?」
「それは大丈夫です!」 
 そう言って斗真君は足早に歩いて行った。

「あ、あの…」
 しばらく待っていると、ドアの向こうから遠慮がちに声が掛かった。
「どうしたの?」
「き、着替えたんですけど…その、変、というか…」
「絶対変じゃないって。」
 私はドアを開けた。
「あっ…」
 斗真君が声を漏らす。斗真君は赤い顔でスカートの裾を必死に押さえていた。
「これっ…なんかスカート短いですしっ…まだ僕からあんまり変わってないのにこんな…恥ずかしい、です…!」
「…可愛い。」
「…え?」
「恥ずかしがってるらむちゃんとか萌えだし、もうむしろその髪型のままでもイメチェンってことでご褒美に昇華できるし、控えめに言ってよい。」
 私は斗真君の足元にしゃがみ込んだ。
「ちゃんとストッキング履けたんだね。よかった。」
「は、母が履いているのを見たことがあるので…って!僕、恥ずかしいんですけど!」
「大丈夫。ちゃんと魔法をかけてあげるから。」
 さあ、もう少しだ。

 衣装のサイズ感を調整し、ウィッグを被せた。メイクと衣装、ウィッグのバランスを合わせ、最後に薄く口紅を引く。
「…できた。」
 震える声で呟く。
 そこにはずっとずっと大好きで憧れていたらむねちゃんがいた。
「斗真君も自分の姿、鏡で見てごらん。」
 私は手鏡を斗真君に渡す。
「これが…僕…?」
 鏡を見た斗真君は手を頬にあてた。
「なんか…別人みたい…」
 そう言って振り向く斗真君の表情は今日で一番輝いて見えた。
 そんないい顔するとさ、だめなんだよ。私は必死に我慢してたのに。
 私は思わず抱きついた。
「な、菜々子さん!?」
「もう、無理…限界なの!こんな、ら…斗真君目の前にして、澄ましてなんかいられない!」
「菜々子さん。」
 呼ばれて見上げる。
「らむねちゃんって、呼んでもいいですよ。」
「…う、うわぁ!らむねちゃん!可愛い!可愛いよ!本当に大好き!生まれてきてくれてありがとう!私と出会ってくれてありがとう!今までも、これからも、ずっとずっと大好き!」
 斗真君は私が落ち着くまで、何も言わずにいてくれた。

 私は斗真君の体から離れ、隣に座った。
「…ごめんね、取り乱して。」
「大丈夫です。…僕は菜々子さんが満足できるらむねちゃんになれましたか?」
「もちろんだよ!ほんっとうに最高!」
「よかったです。」
 斗真君は優しそうに笑った。
「その表情!いいよ最高だよ!もっと見せて!」
「そう言われても、意識してないのでできないです…」
「じゃ、じゃあさ!一つお願いがあるんだけど…」
 私は斗真君にスマホの画像を見せた。

「目が溶ける…」
「どういうことですか!?」
 あまりの光景に私は語彙力を放棄した。
「らむねちゃんの決めポーズを3Dで見られるなんて…何かを一つ失ってもおかしくない…」
「これって、アニメに出てきた決め台詞の時のポーズなんですね。」
 私が見せた画像でピンときたらしい。
「そうなんだよねぇ。ポーズと台詞が揃ったら完璧なんだけどなぁ…」
 そう言って斗真君を窺う。
「わ…悪い子たちはみーんなオートクレーブしちゃうぞ…」
「お、おぉ…」
 斗真君は両手で顔を隠した。
「下手なんですから下手って言ってください!」
「それは…だって、上手いとか下手とかの問題じゃなくて斗真君の優しさを感じるところだから。」
「ぐぅっ…」
「ついでにもう一つお願いがあるんだけど…」
「…なんですか。」
「写真撮らせてもら…」
「嫌です!」
 斗真君は食い気味に拒否した。
「お願い!一枚だけ!」
「だめです!写真に残るなんて恥ずかしすぎます!」
「こんなに最高オブ最高で可愛いのに?」
「なんて言ってもだめです!いくら菜々子さんのお願いでもそれは聞けません!」
「そっか、そうだよね…」
 さすがにこれ以上引き下がることはできない。
「疲れたときに見て、癒してもらおうと思ってたんだけど…」
 リアルらむねちゃんに癒してもらうってだけじゃなくって、斗真君自体が私の癒しになっていた。思えば一か月以上こうして会ったりしてるけど、斗真君との活動の証って、一つも形として残っていない。だからせめて、今までの集大成であるコスプレ写真を大事に持っておきたかった。たとえ、もうここで会えなくなっても悲しくならないように。
「それって、僕じゃだめですか?」
「え?」
 斗真君の言葉に思わず振り向いた。
「写真は、嫌ですけど…その、もし菜々子さんがしてほしいって言うなら、また着てもいいかなって…それで菜々子さんが喜ぶならですけど…」
「喜ぶ!超超超喜ぶ!」
 私は斗真君の手を取った。
「それって、私とこれからも会ってくれるってこと!?」
「はい。あの…むしろこんな僕でいいんですか?」
 何がそんなに不安なのか分からないけど、そんな君にはこの言葉を贈ろう。
「いろいろ言っても、私に付き合ってくれる優しい斗真君のこと、私は大好きだよ。」
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