冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

八坂

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そんなこと言わないでくれ。

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 「これ着られる人心無いですよ?」
 「どうしてそんなこと言うんだ?」

 悲しそうにしゅんとした顔をしてガロン様が尋ねてきた。若干上目遣いなのが癪である。

 「こんな大切なドレスをこんなぽっと出が着ていいはずありません。お気持ちは嬉しいですけど…。」

 そう、リリー様が保管していたドレスを私が来ていいはずもない。買い取るならまだしもただ頂くだけだなんて私の良心が痛む。私がリリー様にお世話になっていたとかリリー様が私にプレゼントしてくれるとかならまだ分かるがその息子が『はいどうぞ!』はなんか違う気がする。

 「あぁエリーゼ、そんなこと言わないでくれ。」

 ガロン様は私の手を取ったまま膝まづいた。日本で生きていた頃は半分憧れていたプロポーズのような体勢だが実際にされてみると何かが違う。言葉には表せないが、何かが違う。学生の頃は『イケメンなら何されても許せる!』と言っていたが実際の所イケメンに膝まづかれてもやめて欲しいの一点張りである。

 「これらはエリーゼ達の為に用意されているのだぞ?」
 「それってどういう…?」
 「これは言う予定では無かったのだが、」

 ガロン様は少し呆れたように笑っていた。けれどその笑顔は暖かく、初めてイケメンが仕事をしていた。

 「母はドレス集めが好きだったのは事実だ。だがここまで集めていたのは俺や兄の婚約者が出来た時にこれをプレゼントしようとしていたそうだ。」
 「え?」
 「おかしな話だろう?まだ1度も出来た事ない婚約者の為にここまでするなんて。」
 「いえ、ですがもしこのドレスが婚約者達のお気に召さなかったらどうするんですか?」
 「それは俺も思っていた。しかし母は俺や兄が婚約する人ならきっとこの服を好むだろうと考えながら買ってきたらしい。どうだ?エリーゼは気に入ったか?」
 「それは、そうですね。確かに素晴らしいドレスです。」
 「だからエリーゼ。亡き母の望みだ、ドレスを貰ってはくれないか?」

 ガロン様は取っていた私の手を軽く、しかしどこか力強く握ってきた。ここまでされたら流石の私も引けなくなってしまう。自分で自分の意思の弱さに驚く。

 「分かりました、けれど1着だけ頂くことにします。」
 「ありがとうエリーゼ。」

 ガロン様は目を細めて微笑んだ。その柔らかな表情は今まで過ごしてきた中で1番穏やかであった。さっきまで嫌悪感しか感じていなかったが少しだけその感情は薄れた。しかし消える事はない。

 「とりあえずその手を離してください。私が選びます。」
 「・・・そうか。」

 とても悲しそうに手を離すもんだからまるで私が悪いのかと錯覚しかけた。しかしこんな人に構っていられない。一刻も早くこの場から去りたい。この2人きりの空間を脱出したい。
 私のドレスの選び方は簡単。1番装飾の少ない物を選ぶことだ。万が一弁償しろってなった時に1番被害が少ないものがいいと判断したからである。しかしリリー様は大人しめに、しかし地味すぎないドレス選びに長けていて中々いいのが見つからなかった。
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