冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

取り戻せ

　「くれぐれも気を付けてくださいね。」

　私はウェン様と合流して解毒草を売っているという闇市場に向かった。道中で散々心配されるような言葉をかけれられたがお前のせいだろうと一切話は聞いていなかった。人身売買に関しての知識は塵ほどしかないが売られてすぐに売られてしまうことはまずないだろう。だからウェン様が裏切らない限り私は無事なのだ。もし私が裏切られた場合は何も考えていないが私は生きることに関して何分頓着がない。だってもう一回死んでいるから特に生きていたいという感情はないのだ。

　「分かりました。これ以上貴方と喋りすぎると怪しまれるので黙りますね。」

　私は貰った汚い布を頭から被り顔を隠した。一応王族との婚約者のため万が一バレてしまえばひとたまりもない。解毒草を売っている商人の所に着くとウェン様は異国の言葉で話し始めた。どうやら闇市場では招待した人間以外に物を売ってはいけないらしく、国のほぼ反対にあるような馴染みのない言葉で喋るルールが設けられているらしい。なので取引の内容を聞くことは出来なかったがどうやら交渉はうまく成立したらしくウェン様は薬を貰い、私は商人に預けて何処かに消えてしまった。
　商人は無言で私の肩を掴むと何やら呪文を唱えていた。肩からじわっと痛みが広がり始めた。そして詠唱が終わると黒いオーラに包まれた。その勢いがすさまじく思わず目を瞑った。勢いが収まり目を開けると私は真っ暗な牢屋に入れられていた。呆気に取られているとその牢屋の警備員のようなものが私に近づき1つのパンを投げ捨てた。これを食べろというのだろうか。そのパンを床から拾い上げ、食べるのを躊躇していると目の前にある牢屋から女の人が話かけてきた。

　「あなた、それは食べなければだめよ。」
　「えっと、どうしてですか？」
　「あなたも売り飛ばされたのでしょう？私たちは悪魔の食事とされているの。だから渡された物を食べなければ味がないと思われて無残に殺されるわ。」
　「食べられるのも無残では？」
　「そうね、けれど調理されるときには安楽死をしてくれるらしいわ。そっちの方がいいでしょう？」
　「まあ、確かに。」

　悪魔の存在は以前学校の授業で教わっていた。国の山奥に住んでいて危険区域に指定されている。悪魔が国に侵入しないようにするための魔法陣を敷いているため私たちに被害が及ぶことはない。しかし裏ではこんなことになっていたなんて驚いた。しかしここに居る人たちを見てみても皆やせ細ってはいるけれど死にそうなくらい細い人はいない。ということは皆食べ物は食べているということだ。ここにいる全員は死を悟ってその時を待っているのだろう。
　悪魔は週に一度食事をとるらしい。それがいつかはわからないが早く助けに来てくれなければエリーゼの姿焼きが完成してしまうかもしれない。なんて呑気なことを考えていた時、突然外が騒がしくなった。どうしたのだとざわついてきた時牢屋に1人の使用人のようなものが何やら叫んできた。すると警備員が焦った顔をして牢屋から出て行った。一体何が起こっているのか気になり私は外の音を聞くことに集中した。

　「決して悪魔を許すな、絶対に我が婚約者を取り戻せ！」

　うん、凄く聞いたことのある声がした。気のせいだといいのだが。

　「このガロン・モンタギューが全責任を負う。気負わず突入しろ！」

　悪魔さん、早く私のこと食べてください。あの男にだけは見つかりたくありません。