相棒と世界最強

だんちょー

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3話 模擬戦

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 こっそりと木陰から二人の様子を伺う。

 どんな修行をしているのだろうか。

 ゼロお姉さんの修行なんてどうせだらしないに違いない。
 一ヶ月で勝とうなんて無理だ。
 第一メリルは剣を握ったことすらないんだ。

 僕の勝利は揺るがない。

 だけど、もし強くなれる要素が一つでもあって、それを見れるなら見てみたいと思い、様子を伺った。

「うぅぅ~…!やぁ!!」

「ほい!ほいさ!」

 木剣だけど剣の重さに振り回されてる姿を見て、あまりにも拙くて、だけど年相応で可愛らしいと思った。

「いい感じだよ!!めちゃくちゃできてる!もっと見せて!」

 褒めて士気を上げる作戦だろうか。
 それでも3年は覆らない。

 僕はもう二人を見ることはなく、水浴びに向かった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「もういいよ~」

 ゼロお姉さんがそう言った瞬間、鋭い一閃が放たれた。

 ゼロはそれを指一本で止める。
 止められた女の子は少し不服そうだったが、疑問を投げかけた。

「これでよかったの?」

 鈴のように響く透き通った声はこの小さな銀髪の女の子、メリルが発した声だった。
 さっきまで剣に振り回されてた姿とは違う。
 体幹がしっかりした剣士そのものだった。

「いいのいいのー!まぁ僕ちゃんにはちょっと悪いかなぁって思うけどねぇ?でも一ヶ月であの子に勝つのはいくらなんでも無理だからねぇ?」

 ゼロはこの小さな女の子、メリルに一年前から剣を教えている。
 それをずっと隠しながら今まで生活してきた。

 ある目的のために。

「あの子は独学だけど普通に剣士だからねぇ…」

 僕ちゃんの独学での努力は認めていた。
 あれに師がつけばもしかしたら化けるかもしれない。だけど、

 ここにとんでもないのがいる

 これこそ天才、神の子、怪物だった。
 一目見た時、運命を感じた。
 この子なら私と張り合えるかもしれないと。
 最強になれるかもしれないと。

 それからはどうやってこの子に強くなってもらおうかずっと考えていた。
 だけどそんなことはいらなかった。

 メリル自ら剣を教えて欲しいと頼んできたのだ。
 僕ちゃんには感謝してもしきれない。

 メリルに剣は楽しいと言ってくれたこと。
 それがきっかけでこの子の才気が解放されたこと。


 ーーー次代の『本物』の誕生ーーー


 まだまだ先ではあるが、私がきっちりとステップを踏ませ、いつか…

 私と対等な存在になってもらう。

 そのためにまずは踏み台が必要だ。

 その踏み台は


 ーーーもう見つけたーーー


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 昔から何をしても人より早くできたし頭もよかった。容姿も客観的に見ても綺麗で、それは自分でもわかっていた。

 だけど私には何もなかった。
 なんでもできてしまうから、何をしても続かなかった。

 毎日楽しくなくて一人になりたい時がいっぱいあった。
 でも周りはほっといてくれない。

 あの子は一人でいいなってずっと思ってた。

 ある時、何も考えずにたまたまその子に話しかけた。

「剣って楽しい?」


 ーーー楽しいよーーー


 そう遠くはない過去の記憶。
 あの時のエクスの顔は忘れられない。
 何かに必死に取り組む姿、おもちゃをみつけてはしゃぐような、だけど本気で強くなろうとしている姿に・・・

 私は憧れた。

 それから、冒険者の人が村に来て、すぐに私は弟子入りを決めた。
 その人が剣を使うのかもわからないのにだ。
 結果としてはいい方向に進んでいった。

 一年の努力を、私の全力をあの子にぶつけてみたい。

 私も、
 剣を好きになったから

 あの時の恩返しのために、

 私は本気で剣を振る。

 そして、いつか

 ーーあの子と肩を並べて闘いたいなーー


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 村の中心にある広場で向かい合う二人。
 天気は良くなく、空には雲が広がっていて、今にも雨が降ってきそうだった。

「二人ともー!今どんな気持ち?」

 体も、心も。
 今日この日のために一ヶ月前から準備をしてきた。
 最高のコンディションだった。

「すぐ終わるかもしれないけど…初めての対人戦だからちょっと楽しみ」

「僕も」

「いいねぇ…!ワクワクするねぇ!!今日という日が最高に待ち遠しかった…!」


 いつものお姉さんではなく…少し怖いと思ってしまった。
 だけどそれもすぐに切り替わった。

「どうか……くらいついてね」

 優しい笑顔で僕にそう言ってきたからだ。

「?」

「私はあなたとずっと戦いたかった。私の一年の努力…ちゃんと受け止めてね」

「??」

 何かがおかしかった。
 ゼロお姉さんはいつも以上に興奮していて少し怖いし、メリルだって…

 この前見た姿はなんだったのか。
 この肌がひりつく感じ。全然油断できるような感じではないと直感が告げていた。

 そしてこの場の空気もおかしい。
 なんで

 僕が負けるのが当たり前のような空気になってるんだ。

 そして

「一年ってなんだ…」

 一ヶ月の間違いじゃないのか。
 焦るようにメリルの回答を待った。

 ただただ沈黙が続いて、

 だけどこの沈黙で少し頭の整理ができた。

 何ヶ月だろうと

 何年だろうと

 まったく関係はない。

 いつものように、鋭く、速く、力強い剣を想像し、振るだけ。


 そして、目の前にいる『剣士』を倒す。

 これが最強への一歩目。
 ナニモノにも変え難い一歩目。

 僕の努力が、

 今日実り、

 この先への未来へと続く。

 ーーー・・・その一歩目なんだ


「それじゃあ……はじめっ!!」

 合図とともに僕は剣を振るう。


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