相棒と世界最強

だんちょー

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4話 本物と偽物

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雨が降りしきる中、少年は立っていた。

 ただただ立っていた。

 手に持った木剣は根本から折れていて、切先は少し先の地面に転がっていた。

 何分、何時間そうしていたのかはわからない。
 だけど、何もする気が起きなかった。

 家に帰って、ベッドに横たわる。
 思い出すのは昼間の出来事。




 僕は敗北した。

 ただの敗北ならまだ良かった。

 僕は

 ーー心を剣を折られたーー

 開始の合図とともに、全力の剣を振るった。
 今までの努力が実った、鋭く、綺麗な、最高の剣だった。
 後腐れがなくなるよう、今までの嫉妬や憧れ、全てを乗せた一撃。
 この決闘が終わったら、今まで避けていたことを謝ろうと決めていた。
 これからは仲良くしたいと伝えるつもりだった。

 だけど
 あの瞬間、メリルの放つ闘気のようなものにあてられ、少し、剣が鈍ったのを自分でも自覚していた。

 恐怖したのだ。

 ーーーメリルの瞳に

 忘れられない。
 剣がメリルに当たる直前、瞳が光ったんだ。
 そして繰り出されたのは、ただの一薙。

 ただしそれは見事なもので、目を奪われるほど綺麗だった。
 師匠のついた本物の剣を目にした。

 木剣は根本から折れ、僕の頬に届くと思った時、ギリギリで止まった。

 どうすることもできない。
 僕は、剣も心も負けたんだ。

 (何が仲良くだ……なんで勝てる気でいた…!わかってたじゃないか……っ)


 あいつは怪物だと

 昔からなんでもできて習得も早かった。
 容姿も綺麗で、こんな村で本当に生まれた子なのかというぐらい別格の雰囲気を晒し出す女の子。それがメリル。

 3年?

 3年がなんだ?

 本当に出来ることは全部したのか?

 どこか甘えてたんじゃないのか?



 ーーー僕はバカだ



 何よりも……何も知らずにいたことが恥ずかしい…っ…!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あらら~…まぁこうなるよねぇ?でも僕ちゃんも頑張ってたと思うよ?なんせこの子は『本物』の器だからさぁ?」

 勝負が終わった後に言われた言葉、メリルは本物だと。じゃあ

 

 ーーー僕はーーー



「ふふっ、君もいい線いってるけどさ、世の中にはね本物と偽物にわかれるの。言いたいことわかるよね?君たちは類稀な才能を持って生まれてきたんだと思う。だけど同じ村にいたのが運命の分かれ道だったね。どんな偶然なんだろうね?勝って前に進むものと進めないもの。世の中残酷だよね」

 ああ。そうだったのか。そういうことか。

 初めて現実を突きつけられた。
 
 ずっと、英雄のように強くなれると思っていた。

 信じていた。

 しかし
 僕はメリルの踏み台で



 ーーー偽物だったんだーーー



 メリルはもっと遥か遠く、先に進み、僕はいつまでも超えられない壁を抱えて生きていく。

 そんなの…

「そんなの…っ…あんまりじゃないか…っ…!」

 感情と理性が決壊して大粒の涙が溢れる。

「ははは!ごめんねぇ?でも目的のためには仕方ないんだよ。本物っていうのはね?」



 ーーとても我儘なんだーー



 ゼロお姉さんの顔を見て、本性がわかった気がした。
 自分のためなら周りをいくらでも傷つけられるゴミクズだと。

 こんな奴が本物?

 どうして世の中はここまで不平等なんだろう。

 真っ当に生きて、努力している人間がバカを見る

「…最悪だ…な…」

 まだ11歳。
 これからたくさん未来がある。色んな道がある。
 だけど、ここで知れたのは良かったのかもしれない。

 希望を抱くこと。
 それのなんて愚かなことか。
 こんなことなら最初から剣など握らず、一生を畑を耕して生きるんだった。

 もう何もかもどうでも良かった。
 未来に憧れた道はない。



 僕は、
 剣士には

 本物には

 なれ……

「なれるよ」

「……え?」

 顔を上げるとメリルがいた。

「なれる!」

「ははは!一度心が折られると復帰できる人は稀だよ?まぁ…頑張れ少年!」

「…うるさい…」

「ん?」

「うるさいって言ったんだっ!!何がなれるだ…!お前はいいよな!!昔からなんでもできて!みんなから認められて!さぞ気持ちいいんだろうな!?どうだ?これが踏み台だ!!気持ちがわかるか!?持ってるやつにはわかんねぇだろ!!この……惨めな気持ちが……!わかったら…気安く話しかけるな!!僕の前に……立つな!!!」

 感情が決壊していたのは言い訳にもならない。
 ただただ惨めだった。
 実力が、努力が足りなくて負けたのに、八つ当たりをして、本物のせいにしている。

 本当に


 ーーー惨めだ


 この時のメリルの顔は一生忘れないだろう。
 戸惑ったような、哀れんだような慈悲むような顔は。



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