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鏡の亜理砂▪その六 (依頼)
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◆辺境 タガヤラ村
オークの巣が有るとされる辺境の村、タガラヤ。
結局、この地に派遣された冒険者パーティーは、あたし達だけだった。
ハードモード過ぎない?
「これはこれは、この度は、こんな辺境の村に来て頂き有難う御座いますだ。住民はもはや、村を捨てる算段を立てるくらい切迫しとりまして、昨日も畑仕事をしていた村の娘が拐われたところなんですだ」
「昨日!?」
「アリサ!冷静に」
「わ、分かってるわよ!」
村長の状況説明を受けていた私は、誘拐された娘の話しにヒートアップして、マルリーサに窘められた。
冷静に、冷静に、はい、分かってますって!
でも、昨日の今日だよ!?
今なら、その子は確実に生きてるんだよ。
冷静にいられるかって言われたら、無理!
この世界は、いろいろな可能性のある素敵な世界。景色は綺麗だし、閉塞感はないし、魔法のあるファンタジーな世界だ。
けど、魔物がいて戦争もある命の軽い世界。
そして日本では助かる病などても、命を落とす世界だ。
女性の出産は命掛けだし、3歳まで生きられる乳幼児は5割を割り込む。
戦争は終結したけど、戦争で死ぬ兵士の数より、生まれて成人を迎えられない子供の数はもっと多い。
自然の摂理といえばそうなのかも知れないが、医療体制が旧態依然で未だに呪術的なものに頼るところがあるのが問題。
魔法が有っても一般的ではないから、普通の市民がこの世界の先進医療である魔法医療を受ける事は少ない。
受けられるのは上流階級の一握りだ。
それに比べたら魔物に襲われて命を奪われるのは少ないし、日本の交通事故より死者は確実に少ないと思う。
でもだからといって、助けられる命を諦める理由にはならない。
だって、あたしには魔法という誰かを助けられる力を持っているんだから。
「それで、オークの巣はどの辺りにあるの?」
「村の北東の森の中ですじゃ。毎日、オークの咆哮が聞こえ、もう恐ろしくて、恐ろしくて」
「森の中……」
「アリサ、今回は撤退しましょう。森の中では私達に不利です」
マルリーサの言いたい事は分かる。
あたしの魔法は火の魔法。
森の中で使えば森に火が移り、あたし達自身も窮地に陥る恐れがある。
それで魔法が自由に使えないとなれば、あたし達は奴らの格好の餌食だ。
でも……だからといって諦められる訳がないじゃない。
「マルリーサ、ここまで聞いて、後に退けるわけないじゃない」
「アリサ、私は貴女の安全に責任があります。貴女を危険に晒す訳にはいかない」
「マルリーサ、あなた、いつから私の保護者になった訳?」
「……勇敢と無謀は違うと言ってるんです」
「助けられる命があると分かっていて、助けにいかない道理はないわ。あなたが行かなくても、あたしは行く。止めても無駄よ!」
「アリサ!」
マルリーサと言い合いになった、あたしは、村長の家を飛び出してしまった。
分かっている。マルリーサの方が正しいって事。でも、見捨てられる訳がないよ!
こっちの世界は命が軽いから、命に関わる事でも損得で動く。けど、あたしが持っているのは現代日本の価値観だ。助けられる可能性があるなら、多少の危険なんか構っていられるもんか!
あたしは、その足でオークの巣があるという森に向かう。
ここからは時間との勝負だ。
アイツらは、繁殖の為に他種族のメスを使う。同族だけでは繁殖出来ないのだ。
何、そのエッチする為だけの生き物!
地球上では考えられない種族なんだけど、女の敵である事は間違いない。
だから早く助けないと、命が助かっても心に大きな傷が残ってしまうのだ。
あたしは村を走り出て、そのままオークの森を目指した。暫くすると前方に森が見えてくる。
あの森なのかな!?
「はあ、はあ、はあ、ここで息を整えないと、対処出来ないわね」
立ち止まって一呼吸すると、杖を確かめる。
魔法は杖が無くても発動出来るけど、杖があると魔力が安定する。
ようは、魔法の制御が楽に出来るようになるという事なのよ。
「んっ、大丈夫ね」
あたしは魔力を流して、安定的に循環するのを確認する。
「アリサ!」
「マルリーサ!?」
マルリーサが追い付いてきた。
さすがに獣人であるマルリーサを、振り切る事は困難だ。
「アリサ、私も行きます」
「良いの?苦戦するかもよ?」
「だからです。貴女を、一人で行かせる訳にはいきません」
「…………」
「アリサ?」
「……なんか、有難う。実は心細かったんだ。正直、マルリーサが来てくれて嬉しい」
あたしがそう言うと、マルリーサは微笑んで、あたしを抱き込んだ。
「マ、マルリーサ?」
「私の家族はガルダ帝国の亜人狩りで、村が焼き討ちにあい、すでにおりません。ですが貴女は死んだ妹そっくりで、だから貴女には危険から遠いところにいて欲しいのです。だから……」
「そう、だったのね。あたし、そんなに貴女の妹に似てるんだ?」
「……外見は、そんなに似てません。貴女が似てるのは、その無鉄砲なところです」
「何それ?なんか、納得出来ないんだけど」
こうして、マルリーサが合流してくれた。
あとはオークを倒して、娘さんを救出するんだ。
オークの巣が有るとされる辺境の村、タガラヤ。
結局、この地に派遣された冒険者パーティーは、あたし達だけだった。
ハードモード過ぎない?
「これはこれは、この度は、こんな辺境の村に来て頂き有難う御座いますだ。住民はもはや、村を捨てる算段を立てるくらい切迫しとりまして、昨日も畑仕事をしていた村の娘が拐われたところなんですだ」
「昨日!?」
「アリサ!冷静に」
「わ、分かってるわよ!」
村長の状況説明を受けていた私は、誘拐された娘の話しにヒートアップして、マルリーサに窘められた。
冷静に、冷静に、はい、分かってますって!
でも、昨日の今日だよ!?
今なら、その子は確実に生きてるんだよ。
冷静にいられるかって言われたら、無理!
この世界は、いろいろな可能性のある素敵な世界。景色は綺麗だし、閉塞感はないし、魔法のあるファンタジーな世界だ。
けど、魔物がいて戦争もある命の軽い世界。
そして日本では助かる病などても、命を落とす世界だ。
女性の出産は命掛けだし、3歳まで生きられる乳幼児は5割を割り込む。
戦争は終結したけど、戦争で死ぬ兵士の数より、生まれて成人を迎えられない子供の数はもっと多い。
自然の摂理といえばそうなのかも知れないが、医療体制が旧態依然で未だに呪術的なものに頼るところがあるのが問題。
魔法が有っても一般的ではないから、普通の市民がこの世界の先進医療である魔法医療を受ける事は少ない。
受けられるのは上流階級の一握りだ。
それに比べたら魔物に襲われて命を奪われるのは少ないし、日本の交通事故より死者は確実に少ないと思う。
でもだからといって、助けられる命を諦める理由にはならない。
だって、あたしには魔法という誰かを助けられる力を持っているんだから。
「それで、オークの巣はどの辺りにあるの?」
「村の北東の森の中ですじゃ。毎日、オークの咆哮が聞こえ、もう恐ろしくて、恐ろしくて」
「森の中……」
「アリサ、今回は撤退しましょう。森の中では私達に不利です」
マルリーサの言いたい事は分かる。
あたしの魔法は火の魔法。
森の中で使えば森に火が移り、あたし達自身も窮地に陥る恐れがある。
それで魔法が自由に使えないとなれば、あたし達は奴らの格好の餌食だ。
でも……だからといって諦められる訳がないじゃない。
「マルリーサ、ここまで聞いて、後に退けるわけないじゃない」
「アリサ、私は貴女の安全に責任があります。貴女を危険に晒す訳にはいかない」
「マルリーサ、あなた、いつから私の保護者になった訳?」
「……勇敢と無謀は違うと言ってるんです」
「助けられる命があると分かっていて、助けにいかない道理はないわ。あなたが行かなくても、あたしは行く。止めても無駄よ!」
「アリサ!」
マルリーサと言い合いになった、あたしは、村長の家を飛び出してしまった。
分かっている。マルリーサの方が正しいって事。でも、見捨てられる訳がないよ!
こっちの世界は命が軽いから、命に関わる事でも損得で動く。けど、あたしが持っているのは現代日本の価値観だ。助けられる可能性があるなら、多少の危険なんか構っていられるもんか!
あたしは、その足でオークの巣があるという森に向かう。
ここからは時間との勝負だ。
アイツらは、繁殖の為に他種族のメスを使う。同族だけでは繁殖出来ないのだ。
何、そのエッチする為だけの生き物!
地球上では考えられない種族なんだけど、女の敵である事は間違いない。
だから早く助けないと、命が助かっても心に大きな傷が残ってしまうのだ。
あたしは村を走り出て、そのままオークの森を目指した。暫くすると前方に森が見えてくる。
あの森なのかな!?
「はあ、はあ、はあ、ここで息を整えないと、対処出来ないわね」
立ち止まって一呼吸すると、杖を確かめる。
魔法は杖が無くても発動出来るけど、杖があると魔力が安定する。
ようは、魔法の制御が楽に出来るようになるという事なのよ。
「んっ、大丈夫ね」
あたしは魔力を流して、安定的に循環するのを確認する。
「アリサ!」
「マルリーサ!?」
マルリーサが追い付いてきた。
さすがに獣人であるマルリーサを、振り切る事は困難だ。
「アリサ、私も行きます」
「良いの?苦戦するかもよ?」
「だからです。貴女を、一人で行かせる訳にはいきません」
「…………」
「アリサ?」
「……なんか、有難う。実は心細かったんだ。正直、マルリーサが来てくれて嬉しい」
あたしがそう言うと、マルリーサは微笑んで、あたしを抱き込んだ。
「マ、マルリーサ?」
「私の家族はガルダ帝国の亜人狩りで、村が焼き討ちにあい、すでにおりません。ですが貴女は死んだ妹そっくりで、だから貴女には危険から遠いところにいて欲しいのです。だから……」
「そう、だったのね。あたし、そんなに貴女の妹に似てるんだ?」
「……外見は、そんなに似てません。貴女が似てるのは、その無鉄砲なところです」
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