鏡結び物語

無限飛行

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鏡の亜理砂▪その十三 (告白とその先へ)

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「あ、あんたが、ウォルフ!?」
「…………………」

「ウォルフ様、元の姿に?!」


屋根の上にいる銀髪イケメン。
マルリーサの反応を見る限り、やっぱりあの、夢うつつに見ていたイケメンがウォルフって事だよね?!
でも、彼がウォルフなら、獣姿から元に戻ってるって事で、その意味するところは……。

コクッ
「はい。番であるアナタの側にいる限り、ウォルフの発情期は安定しています。つまり、間違いなくアリサこそがウォルフの番であるという証明なのです」

あたしがマルリーサに目で訴えると、彼女は頷きながら言う。
はあ、なら、あたしは彼にちゃんと言わなければならないわね。
それは、あたしの将来も含め、ちゃんと決めるっていう事。


スッ
「あ?!」
イケメンが背を見せる。
また、何処かに居なくなる?
そんなの、そんなの、絶対駄目だ!

あたしは息を吸い込むと、口元を両手で囲って大声を上げる。
「こらぁ!!このストーカー勘違い野郎!こっち来いやあ━━━━━━っ!」
「ア、アリサ!?」

「勝手にあたしの気持ちを奪って、勝手に勘違いして、勝手に身を引いて、勝手に一生陰ながら、あたしを守るっていう訳?そんなストーカー野郎、こっちから願い下げだ!!キンタ○付いてる男だったら、あたしをさっさと奪いに来いよ!この大馬鹿野郎!!」
「キ、キンタ○!???」

マルリーサが真っ赤になって反応してるけど、あたしは間違った事は言ってない。
どうだ、この片思い野郎!
さっさと確かめに来いよ!!

キョトンとした顔の銀髪イケメン。
ありゃ、あたしの言葉が理解出来なかった?
なら、もう一押しか?

「…………………」
「はあ~っ、分かった。アンタは女に告白させるタイプか?まあ、そんな男は結構いたけどさ。アンタみたいに一途でシャイなのは始めてさ」

あたしはウォルフを見据えながら、ゆっくりと近づいていく。
背の高さは人間の姿だと190くらい?
それでも、あたしが160だからだいぶ高い。
ウォルフは微動だにしないけど、近づくあたしを見つめる瞳は、優しさと慈愛に満ちている。
まあ、女に告白させるくらいだから、寡黙なタイプなんだろうな。
お喋り告白タイプは飽きてたから、意外とこれは新鮮?
だけど寡黙は美徳じゃない。

スタッスタッスタッスタッスタッスタッ

あたしは宿の軒下まで来ると、親指を立てて地面を指した。
「とにかくストーカーは止めて!こっちに来て、ちゃんと話をしたい。降りてきて!」
「…………………」

何で喋んないのかな。
テントでは、結構喋ってたと思うのに!

シュタンッ「?!」
ウォルフがあたしの言葉に従い、目の前に飛び降りた。
あたしは、ウォルフの胸元が間近に見えるところまできて立ち止まり、彼を見上げた。

まつ毛、なが
獣人だからもっと毛深いと思ったけど何なのよ、綺麗な顔して。
あたしより女みたいじゃん。
体が筋肉質でなければ完全に王子様だわ。

「で?ウォルフ君?あたしに何か言ってよ。獣人の流儀は知らんし、言ってくれなきゃ分かんないわよ」

ウォルフ君!?
うわっ、思わず強気に上から目線の物言いをしちゃった。
調子にのると、相手が誰だろうが強気発言になっちゃうのが、あたしの癖。
獣人で29歳くらいに見える彼は、間違いなく遥かに年上。
それでも主導権を取りに行くのは、あたしの何時もの流儀なんだよね。
まあ、それが振られる要因でもあるんだけど。
分かっちゃいるけど止められない。
自己嫌悪だわぁ。



「我はアリサが好きだ」
「へ?!」

「我はアリサが好きだ」

真っ直ぐに見下ろして、どんな言葉が出ると思いきや、あたしが好きって、顔を赤くして、子供か!
メンタマ、まん丸で口元パッカリ驚いて唖然としてる、あたしは悪くない。
いやいやいや、ストレート過ぎるでしょ?!
どんだけシャイな訳?

「アンタ、そういう時はもっと遠回しに入ってくるとか、ロマンチックな言葉を吐くとか、色々と変化球をつけなきゃ。その好きだけで首を縦てに振る日本女子ニッポンじょしは居ないわよ!それにその好きって、あたしの何が好きなのよ?」
「全てだ」

「!?」
「アリサの全てが好きだ」

あうっ、イケメン効果で思わず頷くところだった。
あたしの全てが好き?
そんなの、そんなの、信じられないわよ!!


「はあ?全てってアンタ、あたしの何を知ってる訳?あたしの事、何も知らないのに知ったような事言われるのは心外なんだけど!」
「そなたの事は詳しくは知らぬ。だが、アリサなら、その全てを受け入れられる」

「それって、つがいっていう魔法によるものじゃないの?そんなの、信じていいわけ?あたし、人間だよ。獣人じゃない。アナタの知らない事がいっぱい、いっぱいあるんだけど」
「構わない。それがアリサの姿なら、その全てを受け入れられる」

全てを受け入れられる?
あたしの事を何も、日本での事を知らない癖に、気安く全て受け入れなんて、何で言えんのよ!!
その、純心な目が、裏表ない顔が、逆に無性に腹が立つ。

あたしはウォルフをそのままに、背後にいるマルリーサに振り返る。

「マルリーサ」
「は、はい、アリサ?!」

「獣人ってのは、浮気はしないって言ってたよね?」
「は、はい。つがいになった者は」

「ふーん。じゃあさ、つがいになる前は?お付き合いはしないの?」
「アリサ!?こんな時に、そんな事」

「こんな時だからよ。獣人の貞操観念はそんなガチガチな訳じゃないよね?」
「……人や種族によりけりです。ひとくくりではありません」

「そっかあ。じゃあ、ウォルフはどうなの?経験があるの?」
「経験?」


あたしはウォルフに向き直ると、マルリーサとの会話が聞こえてる前提で話を続けた。

「あたしは経験がある。男と付き合ってたよ。手に余るくらい。当然、最後までシタ人もいた。ね、幻滅した?あたしって、そういう軽い人間なの。ガチガチの人とは付き合えない。あたしを全て受け入れって事は、そういう事も知るって事。亭主関白は流行らないし、あたしを拘束するダンナはいらない」

ね、酷い女でしょ?
コクってくるその場から、浮気宣言するような女よ。
アンタの純心さに似合わない。
あはは、あたし何やってんだろ?
せっかく、こんなイケメンから告白されたっていうのに馬鹿だね、あたしは。
あ~あ、こんな優良物件。
もう無いだろうな。


「我は、全て受け入れると言った。だから、アリサがアスタイトの貴族と添い遂げたいなら邪魔はしないと。済まぬ。本来は直接会ってはならなかった。アリサが生きていれば、それで良かったのだ……」
「ちょっ!?アスタイトの貴族ってロイドの事??さっきも言ったけど、全くの勘違い。アイツとはスッパリと別れたよ!」

「別れた……?好き合っていたのではないか??」
「確かに最初は好き合ってたっていうか、あたしが雰囲気に流されたっていうか、押し掛けたっていうか」

ガシッ「うえっ!?」
「まさか、騙されたていたのか?!」
「アリサ!本当ですか!?」

な、何?
ウォルフが物凄い剣幕で、あたしの両肩を掴んだ?!
マルリーサも額にシワを付けて、あたしに聞いてくる。
この勢いはヤバいよ。
二人ともロイドを殺しに行く勢いじゃない?
すごーく勘違いをしてるよね?

「ちょっ、二人とも。もうすこーし冷静になろう?別にロイドに騙されたとか、酷い事をされたとか、そーいうのは無いから。あれ?されたかな?」

ザッ
「…………………」
ザッザッ
「……………」

「え?二人共??無言で立ち上がって何処に行くの?え?」
いきなり立ち上がった二人。
急に武器を持ち出し、宿の出口に向かおうとしてる。
いやいや本当に何処に行くのさ。
悪い予感しかしないんだけど。


「ロイドを殺しに行く」
「殺します」

「ぶはっ?!待て待て待って。悪い予感的中だわ、コレ!」

と、言っても、止まらない二人。
うわあ、ロイドが二人に殺されちゃうよ?!
どうすれば?あ、そうだ!

あたしは、速足で歩いて行く二人の背後に追い付くと、その上下に動く例の物をむんずと掴んだ。

「ぶっぎゃあああ!???」
「っ…………………………!」

マルリーサは全身の毛が逆立ち、飛び上がって座り込んだが、ウォルフは震えながらも無言のまま立ち尽くしている。
流石ウォルフ、ランカー1位は伊達じゃない。

でも、そうかぁ。
獣人の弱点、分かっちゃったかも。

あ、それはそれとして、誤解を解いておかないといけない。
ロイドが殺されちゃうからね。
確かにロイドに騙されたようになったけど、最終的にそれを選んだのは、あたし。
それに、大変だったのはロイドお母様との関係と彼のマザコンだったしね。
あたしに振られて傷心の中、冤罪で殺されたら可哀想でしょ。
あくまでもロイドとの別れはお互い様だよ。
一応アレでも、あたしに一途だったみたいだし。
最後はママの胸で号泣きしてたしね。
あ、悪寒が。

でも、彼の執着はどうしよう?
未だに、あたしを連れ戻そうとしてるんだよね。

やっぱウォルフ達を放っておくほうがいいのかな?


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