鏡結び物語

無限飛行

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鏡の亜理砂▪その十四 (番)

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「とにかく二人とも!もう、勘違いは止めてよね!」
「………分かった」
「分かりました」


その後、何とか二人を引き留め、コンコンと説得。
二人とも頷いて、ようやく理解して貰えたらしい。
其処まで、あたしの事に親身になってくれた事は嬉しいけど、すこーし二人には恋愛講義をしなきゃあならないわね。
あたしは二人を宿の個室で座らせると、自身の恋愛経験を語る事にした。


「え~、何から話そうかな?まずはアンタ達獣人が恋愛にやたらピュアだって事は分かった」
「………………」
「ピュア??」


あたしは頭をかきながら説明を開始した。
ようは獣人って相手が見つかる事自体が稀だから、恋愛に何処までも純心で、その愛がめちゃくちゃ重いんだわ。
だけどそんなんじゃ人間相手の恋愛なんて、すぐ騙されて貢ぐ君、貢ぐちゃんの挙げ句、飽きられたら捨てられるよ。
ここは一つ、あたしの恋愛経験を披露しないといけないわ。
それに、ウォルフがあたしにつがいっていう恋愛の夢を見ているなら、ここはきっちり分からせなきゃならない。


「あたしの経験から云うと、恋愛は勢いと打算、そして最後は金です」
「………………」
「アリサ、恋愛にお金が必要なんですか?」

「金は大事だよ。結婚して金が無かったら、けっして幸せになれないもん」
「………………」
「あの、男女が好きなら、それで恋愛になりませんか?」

「マルリーサ、一瞬の快楽を求めるならまだしも、お互いに未来に生きていくなら甲斐性なしは無理。先ずはお金よ」
「…………」
「一瞬???」

マルリーサが唖然として首を捻っている。
ウォルフはずっと喋らず、あたしの顔を見てるだけで、何を考えているのかよく分からない。
まあいいや、とにかく続けるよ!

「お金がなければ日々の食事にも困るし、子供が生まれたら習い事だって、させるのにお金がいる。好き合っていれば大丈夫なんて、そんなのは幻想だよ」
「……………」
「でも、始まりは好き合ってないと、恋愛とは云えないですよね?」

「そりゃあそうだけど、日々の生活に追われてたら、恋だの、花だの、言ってらんないでしょ」
「……………」
「それはそうですが……」

「あたしは、そーいうのは沢山見てきた。付き合い出したら借金の肩代わりさせられたとか、同棲始めたら一円も家に入れないとか、二股かけてたとか、本当に頭くる!」
「………………」
「アリサ、でも本当に好き合ってれば、そんな事は乗り越えられるのでは?」

う、マルリーサ、痛いところを突いてくるね。
あたしは面食いだから、今までの出会いは、後先考えずに見かけ優先で付き合った挙げ句、後で揉めて別れてたんだよね。
今回のロイドの件もそう。
極度のマザコンなんて、最初から分からないもん。

「そ、そういう人も、いるかなぁ」
「……………」
「そうですよ!アリサは今まで、酷い出会いばかりで恋愛に疑心暗鬼になってるんです」

「はは、何か逆にマルリーサに説得されてない?だからさ、あたしが言いたいのは、こんな恋愛にスレた、あたしにピュアなウォルフは贅沢過ぎるって事」

マルリーサの言葉に、それとなく無言のウォルフに視線を送りながら思ってる事を吐き出してみる。
まだ変わらない、優しさのこもった目。
もう、あたしにアンタは眩し過ぎるんだって。
だってさ。
ウォルフ達って、どう見ても純粋さが滲み出てるって感じでさ、あたしには本当に贅沢過ぎるって思うのよ。
それなのに、そんな呪いみたいなつがいの本能に振り回されて、あたしなんかに執着するより、もっといい人がいるんじゃないかって思うんだよね。
あたしはもう、沢山恋して、沢山傷ついて、それで現世から逃げたくて、鏡からのロイドの誘いにヒョイヒョイと乗って、こっちでも傷ついて、恋だ何だは要らないかなって思った。

「実はね、マルリーサ、ウォルフ。あたしはもう、恋だなんだはしないと決めてたんだ。これからは冒険に生きるってね。だからウォルフ、ゴメン。アナタの想いに応えられない。どうか、あたしを忘れて、いい人を見つけて。色々回りくどく言ったけど、あたしとアンタじゃ釣り合わない」
「我はアリサの全てを受け入れると言った。過去にアリサがどう生きたか。これからどう生きるか、それも含めて、我は今のアリサを全て好きなのだ」

「はあ、だから聞いてた?アンタ達みたいに恋愛に純粋じゃない訳。あたしは汚い人間なの。そんな人間と付き合ったら、アンタも汚れちゃうじゃない。途中で愛想つかして浮気するかも知れない。それが亜理砂ありさ星屑 亜理砂ほしくずありさなんだよ。だから!」

バッ
「?!」
「構わない、と言っている。どんなアリサも受け入れる。どんなアリサでもだ。我は今のアリサの全てを好きなのだ!!」

ウォルフにおもいっきり抱きしめられてる?
おもいっきりじゃないか、大事に抱きしめてくれてるのかな。
この安心感、そしてこの感じ。
あの時の洞窟で感じた感覚にそっくりだ。
ああ、安らいじゃうじゃない。

何の見返りもなく、あたしを助けてくれたウォルフ。
あたしの気持ちを第一に考え、陰ながら守っていたウォルフ。

それに、一度つがいになった獣人は絶対に浮気出来ないんだよね。
しかも今までで最高にイケメンだし、ランカー1位の稼ぎで超優良物件でもあるわけ。

だけど、そんな事を思っちゃう時点で、あたしはアンタの伴侶に不合格なんだよ。
真っ先に損得勘定、打算まみれ。
そんな、あたしがアンタの伴侶になったら、神様の罰が当たるよ。

「はは、こんなんじゃ、また流されちゃうよ。あたしはアンタに相応しくないのに、伴侶になれたら嬉しいって思っちゃった」
「誰が相応しくないと決めた?我はアリサほど伴侶に相応しい者は考えられないのだ。どうか、我の伴侶になって欲しい」

「なれないよ。あたしは汚れてるんだ。だからなれない」
「アリサは汚れてなんかいない。我はアリサの全てを受け入れられる」

「だから!」
「なら、何故に泣いている?」

「泣いて、る?誰が?」
「アリサ、お前が泣いてるんだ」

あたしが泣いてる?
顔に手をやり、初めて自身が泣いている事に気づく。

「あ、あたし、泣いてるんだ?なんで??」

「それが本当のお前の気持ちだ。つがいはお互いに魂から繋がる。心にもない事を言ったお前は、自分の行いを悲しんでるのだ」
つがい?それが、あたしにも有るの?このまま流されてもいいの?」

「アリサの想いのままだ。我はアリサを愛している。未来永劫、決して変わらない。どうか、我の伴侶になって欲しい」
「こら!顔近いわ。心臓バクバクで殺す気か!はあ~っ、負けた、負けた!アンタの伴侶になってやる。だから、んんん?!」

ぶちゅっ
そのまま、ウォルフがキスしてきた。
彼は軽いキスのつもりだったけど、あたしの流儀でディープキス。
キスは、マルリーサが赤くなり、居なくなるまで続いた。
何か、ウォルフのキスは甘かった。

相変わらずのイケメン顔、その破壊力は面食いのあたしには毒過ぎる。
でも、癒されるイケメン顔だよ。
ほら、居るじゃない?
ずっと黙ったままでも、言葉を交わさなくとも、二人でいられるイケメン。
ただ、寄り添い合ってるだけで、互いに気持ちが通じ合っちゃうってヤツ?
でもウォルフの場合は、ワンコ顔でも癒されるかな。

▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩




こうして、あたしは遂に念願のイケメン旦那をゲットした。

後で聞いたらウォルフのヤツ、あたしらが依頼を受けるたびに、周辺の魔物を退治して回ってたんだとか。
何それ?だから殆んど姿を見なかったの?!
あたしは、ずっと守られていたらしい。
はは、壁炎へきえんの魔女が聞いて呆れるわ。


その後、なんやかんやで彼の故郷に行ったら、バカデカイお城が有って、そこに住むんだと!?
え~??ウォルフって何者?!

「だから言ったじゃないですか。ウォルフは私達獣人の王様だって」
「うえぇ?!だってマルリーサ、獣人の国はガルダ帝国に滅ぼされたんじゃ?」

「そんなの過去の話です。ガルダ帝国は平和政権に変わり、侵略国の自主独立を容認しています。各地に散らばっていた国民も帰還の徒についてます。ウォルフは新生獣人国の初代国王、アリサは初代王妃です」
「ひゃああ、大学生から貴族、冒険者の次は王妃様かあ。アスタイト王妃のまいさんに王妃の心得、聞いてこなきゃあ!」




そんなこんなで、暫く忙しくなりそう。

でも今は、頭に狼耳の可愛い子供の夢も見てみたいから、ウォルフとのプライベートを増やしてる。

近況はこんなところかな。

また今度、会いに行くよ。

待っててね、千鶴ちづる


亜理砂ありさより





鏡の亜理砂   Fin
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