10 / 32
言えぬまま数日
しおりを挟む
私は気持ちよく眠るエリック様を見ていた。
「あまり寝ておられない様でしたから。」
侍女のネリーがそう言った。
じっとエリック様の顔を見れば目の下には隈があった。
確かに、ちゃんと寝ているのかしらとは思っていた。
目を覚ました次の日、お医者様の診察時に
「傷口も綺麗ですし、入れそうなら軽く流すだけのお風呂なら入ってもいいですよ。但し、無理はしないでくださいね。」
そう言ってもらえた。
お医者様が部屋から出て行き、試しにとベッドから出たところ、ノックの音がして扉の方を見た瞬間だった。
久しぶりに立ったからだろう、バランスを崩しふらりとよろけてしまった。
あっとネリーが私を支えたところにエリック様がドアを開けたのだ。
ネリーに支えられている私を見てサッと顔色を変えると、
「どうして立ち上がっているんだ!」
と易々と抱えられベッドに戻されてしまった。
「歩けるのならとお風呂の許可が出たのですよ。ずっと寝ていたのです。少しふらつくのは当然ですのでそんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ、エリック様。」
微笑ましいような笑みをうかべてネリーがエリック様に説明してくれる。
「そんな慌てて何もかもしなくてもいいじゃないか。お風呂なんて入らなくても、君は綺麗だ。」
心配そうにエリック様が私を見つめた。
笑顔
キス
過保護
とうとうリップサービスまで付いてきたのね。
そして立ち上がるならエリック様といる時にと約束させられた。
そこからは過保護は加速し、食事も、読書も監視の様に横で見ていた。
2日ほどそう過ごし、そのまた次の日の今日。
ようやくエリック様の許可が出たので軽くお風呂に入り部屋に戻ると、エリック様が私のベッドで眠っていたのだ。
私が戻るまで少し横になるつもりが眠ってしまったんだろう。
彼にシーツを被せ、横に座る。
いつもとは逆の位置だ。
そう思うとクスリと笑えた。
この2、3日で確信したことがある。
彼は決して私を嫌いなわけではない。
これは以前から感じていた事だ。
ただ心底年上の婚約者が嫌だったのだろう。
子供の時分は良かった。
しかし学園に入学してみれば周りは皆、年下と婚約を結んでいる。
学年を追うごとに、5つも年上の婚約者が居るのは自分だけだと痛感するだろう。
恥ずかしいと思っていたかもしれない。
私が院に上がりエリック様も学園に入学したばかりの頃、学園に用事で行きエリック様を見かけた事があった。
エリック様もこちらを見たように思い、手を振ったがクシャっと顔を歪めるとプイと顔を背けてしまった。
よく見ればまわりには学園生がたくさん居て、その一部始終を見ていた。
恥ずかしい事をしてしまったかと、次のお茶会で謝った。
よくよく考えれば恥ずかしいのは手を振ったことではなかったのだろう。
私が公衆の面前で手を振ったことは揶揄われたに違いない。
その時エリック様が何と言ったか。
想像は容易い。
なぜならその頃からだ。
私が年増令嬢などと学園で囁かれるようになったのは。
そこに院まで噂が届くほどの美しい年下の伯爵令嬢リリー嬢が入学して来た時、彼はどう思ったろう。
エリック様とリリー嬢は同じ派閥で仲良くなるのに時間はかからなかったようだった。
そしてスラリとした2人はお似合いだと評判だった。
エリック様の顔をじっと見つめた。
寝顔とはいえ、正面からこんなにまじまじとエリック様の顔を見たのは初めてではないだろうか。
彼はいつでも横を向いていた。
ところが年下のローズだとこんなに違う。
年下だとこんなに面倒見がいい。
この数日で実感した。
そうして自分の罪深さを再確認する。
私はどうして結婚すれば何とかなると思っていたのか。
(いっそこのまま療養と領地に引っ込むのもいいかもしれないわね。)
いつまでも療養から戻らない新妻と別れても、当然と言える。
いいえ、それはダメね。
ふと浮かんだ甘い考えを振り払うように首を振った。
どうもエリック様は今回の私の怪我を自分のせいだと思っている節がある。
責任も感じているのだろう。
ただ医者にも言われたが縫ったものの、傷は浅い。
丸一日目を覚まさなかったのも頭を打ったこととは関係ない気がするのだ。
結婚式は招待客も多く王族も参列した。
結婚式当日までバタバタと気が休まる事がなかった。
式が終わっても初夜はあんな感じであまり眠れず、気を失った瞬間睡眠不足と疲労がどっと来たんだろう。
ぐっすり眠っただけと思った方がしっくりくる。
なぜならお風呂も入った今は、体調はすこぶる良い。
(きちんと話さなくては……)
エリック様に感じさせなくてもいい罪悪感を持たせるなど。
責任感と年下との誤解から今のエリック様の態度はある。
いつまでも続くものではないとはいえ、それでも……
そんな事を考えていると、パッとエリック様の目が開いたかと思うとガバっと起き上がった。
「俺寝てた?」
「寝ておられましたが、お疲れなのではないのですか。」
エリック様が焦ったように言うのでフォローじみた言葉を返す。
するとじっと私を見つめると髪を一房手に取り口付けを落とす。
「顔色もいいし、調子も良さそうでよかったよ。」
チクリと良心が痛む。
「そうだ!ならば……」
そんな私をよそにエリック様は私にひとつ提案をした。
「あまり寝ておられない様でしたから。」
侍女のネリーがそう言った。
じっとエリック様の顔を見れば目の下には隈があった。
確かに、ちゃんと寝ているのかしらとは思っていた。
目を覚ました次の日、お医者様の診察時に
「傷口も綺麗ですし、入れそうなら軽く流すだけのお風呂なら入ってもいいですよ。但し、無理はしないでくださいね。」
そう言ってもらえた。
お医者様が部屋から出て行き、試しにとベッドから出たところ、ノックの音がして扉の方を見た瞬間だった。
久しぶりに立ったからだろう、バランスを崩しふらりとよろけてしまった。
あっとネリーが私を支えたところにエリック様がドアを開けたのだ。
ネリーに支えられている私を見てサッと顔色を変えると、
「どうして立ち上がっているんだ!」
と易々と抱えられベッドに戻されてしまった。
「歩けるのならとお風呂の許可が出たのですよ。ずっと寝ていたのです。少しふらつくのは当然ですのでそんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ、エリック様。」
微笑ましいような笑みをうかべてネリーがエリック様に説明してくれる。
「そんな慌てて何もかもしなくてもいいじゃないか。お風呂なんて入らなくても、君は綺麗だ。」
心配そうにエリック様が私を見つめた。
笑顔
キス
過保護
とうとうリップサービスまで付いてきたのね。
そして立ち上がるならエリック様といる時にと約束させられた。
そこからは過保護は加速し、食事も、読書も監視の様に横で見ていた。
2日ほどそう過ごし、そのまた次の日の今日。
ようやくエリック様の許可が出たので軽くお風呂に入り部屋に戻ると、エリック様が私のベッドで眠っていたのだ。
私が戻るまで少し横になるつもりが眠ってしまったんだろう。
彼にシーツを被せ、横に座る。
いつもとは逆の位置だ。
そう思うとクスリと笑えた。
この2、3日で確信したことがある。
彼は決して私を嫌いなわけではない。
これは以前から感じていた事だ。
ただ心底年上の婚約者が嫌だったのだろう。
子供の時分は良かった。
しかし学園に入学してみれば周りは皆、年下と婚約を結んでいる。
学年を追うごとに、5つも年上の婚約者が居るのは自分だけだと痛感するだろう。
恥ずかしいと思っていたかもしれない。
私が院に上がりエリック様も学園に入学したばかりの頃、学園に用事で行きエリック様を見かけた事があった。
エリック様もこちらを見たように思い、手を振ったがクシャっと顔を歪めるとプイと顔を背けてしまった。
よく見ればまわりには学園生がたくさん居て、その一部始終を見ていた。
恥ずかしい事をしてしまったかと、次のお茶会で謝った。
よくよく考えれば恥ずかしいのは手を振ったことではなかったのだろう。
私が公衆の面前で手を振ったことは揶揄われたに違いない。
その時エリック様が何と言ったか。
想像は容易い。
なぜならその頃からだ。
私が年増令嬢などと学園で囁かれるようになったのは。
そこに院まで噂が届くほどの美しい年下の伯爵令嬢リリー嬢が入学して来た時、彼はどう思ったろう。
エリック様とリリー嬢は同じ派閥で仲良くなるのに時間はかからなかったようだった。
そしてスラリとした2人はお似合いだと評判だった。
エリック様の顔をじっと見つめた。
寝顔とはいえ、正面からこんなにまじまじとエリック様の顔を見たのは初めてではないだろうか。
彼はいつでも横を向いていた。
ところが年下のローズだとこんなに違う。
年下だとこんなに面倒見がいい。
この数日で実感した。
そうして自分の罪深さを再確認する。
私はどうして結婚すれば何とかなると思っていたのか。
(いっそこのまま療養と領地に引っ込むのもいいかもしれないわね。)
いつまでも療養から戻らない新妻と別れても、当然と言える。
いいえ、それはダメね。
ふと浮かんだ甘い考えを振り払うように首を振った。
どうもエリック様は今回の私の怪我を自分のせいだと思っている節がある。
責任も感じているのだろう。
ただ医者にも言われたが縫ったものの、傷は浅い。
丸一日目を覚まさなかったのも頭を打ったこととは関係ない気がするのだ。
結婚式は招待客も多く王族も参列した。
結婚式当日までバタバタと気が休まる事がなかった。
式が終わっても初夜はあんな感じであまり眠れず、気を失った瞬間睡眠不足と疲労がどっと来たんだろう。
ぐっすり眠っただけと思った方がしっくりくる。
なぜならお風呂も入った今は、体調はすこぶる良い。
(きちんと話さなくては……)
エリック様に感じさせなくてもいい罪悪感を持たせるなど。
責任感と年下との誤解から今のエリック様の態度はある。
いつまでも続くものではないとはいえ、それでも……
そんな事を考えていると、パッとエリック様の目が開いたかと思うとガバっと起き上がった。
「俺寝てた?」
「寝ておられましたが、お疲れなのではないのですか。」
エリック様が焦ったように言うのでフォローじみた言葉を返す。
するとじっと私を見つめると髪を一房手に取り口付けを落とす。
「顔色もいいし、調子も良さそうでよかったよ。」
チクリと良心が痛む。
「そうだ!ならば……」
そんな私をよそにエリック様は私にひとつ提案をした。
771
あなたにおすすめの小説
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
婚約破棄されたので辺境でスローライフします……のはずが、氷の公爵様の溺愛が止まりません!』
鍛高譚
恋愛
王都の華と称されながら、婚約者である第二王子から一方的に婚約破棄された公爵令嬢エリシア。
理由は――「君は完璧すぎて可愛げがない」。
失意……かと思いきや。
「……これで、やっと毎日お昼まで寝られますわ!」
即日荷造りし、誰も寄りつかない“氷霧の辺境”へ隠居を決める。
ところが、その地を治める“氷の公爵”アークライトは、王都では冷酷無比と恐れられる人物だった。
---
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる