年増令嬢と記憶喪失

くきの助

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エリックの後悔

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結婚式も初夜も失敗した俺は寝室を飛び出して庭のガゼボで頭を抱えていた。


天気が良くて暖かい日はいつもこのガゼボでローズと月一のお茶会をしていた。
そのせいか、何かある度ついここに来てしまう。

春の冷たい夜風は頭を冷やすのにちょうど良かった。
どのくらいそうしていたか。
あっという間に空が白み始めた。

あたりがすっかり明るくなる前に戻ろう。
そしてローズにきちんと謝らなければ。

そう思って屋敷に向かって歩き始めた時だった。
若い男女の声がした。

木々の隙間から見えたのは若い庭師の男と屋敷のメイドだった。

逢引きしてたのか。

なんだか眩しい。

「本当だってば!今屋敷の使用人で知らない人はいないんだから!」

「でもエリック様だって立派な公爵家の嫡男じゃないか。そんな無粋な事するかな。」

俺?

思わず立ち止まる。

てっきり愛を囁き合っているのかと思ったが、違ったか。

「でもエリック様が怒って寝室を出てズンズン歩いてどこかに行ってしまったって姿を見た人は多いんだって。屋敷内にはいらっしゃらないから、噂の恋人の所に行ったって言う人までいるんだってば。」

「それはいくら何でも失礼だろう!」

「そ、そりゃあ私だって信じていないけれども実際屋敷にはいらっしゃらないんだって!」



背中に氷水でも流し込まれたようにゾッとした。

どうしてそんな話になっているんだ。

慌てて戻ろうとしてハッとする。
こんな明け方に屋敷に帰ったら噂を肯定してるようなものじゃないか?
実際はガゼボで一晩過ごしたのだが誰がそんな事思うだろうか。

結果こっそり目立たぬ客室に忍び込み明るくなるのを待った。

自分の行動がそんな風に見られていたなんて。

さっきのような調子で屋敷内では噂されているに違いない。

公爵家の使用人が外部に漏らす事はないだろうが……ローズはどう思うだろうか。

泣きたくなった。

いつかローズに頼ってもらえるような男になろうと、ずっと努力し続けていた。


なのに結果は空回りばかりの情けない男が出来上がっただけだった。


この調子なら両親の耳にも噂は聞こえているだろう。
全部俺が悪いんだって言いに行かなければ。
こんな情けない事の説明をローズにさせるわけにはいかない。

そう思って訪れた父上の執務室。
ちょうどローズが入って行くのが見えた。

俺が一歩遅かった。

しかしローズは何て言うんだ?

気になった俺は扉の前の護衛を下がらせて中の様子をうかがった。
もちろん話し声など聞こえてくるはずもない。
そこでこっそり少しだけ扉を開けた。
いっそローズが怒っていたら、飛び出して行って謝ればいいと思った。

しかし聞こえてきたのは
離婚
後継
恋人の伯爵令嬢
3年のお飾り妻

まるで前から考えていたかのような話の数々。

俺は呆然と立ち尽くしていた。

どうして

なんで

思わず勢いよく扉を開けた。

ローズがこちらを見ている。

違う。違うんだ。

でも上手く言葉にならない。

ローズは俺から逃げるように後ずさっていく。
顔には怯えの色が滲む。

この顔を向けられているのが自分だということに絶望しそうになる。
とにかく誤解を解かなければと思った。

そこからの景色はスローモーションだ。

小柄な彼女が俺の背よりも大きい装飾品の壺に抑え込まれるように床に倒れた。

床に鮮血が広がっていく。

これは本当に現実か?


誰かの悲鳴が遠くで聞こえた。









ベッドでローズが眠っている。
頭の包帯が痛々しい。

医者は傷は浅いが、頭を強く打っていて目覚めるまでにどの位かかるかはわからないと言われた。

「わからないってなんだよ!医者だろう!」

医者に食ってかかると、母上に思いっきり頬を叩かれた。

「子供みたいに泣き喚く事しか出来ないのなら出て行って頂戴!邪魔よ!」

泣き喚く?

そこで初めて自分が泣いている事に気が付いた。

気が付いた途端力が抜けたようにクタクタとその場にしゃがみ込んでしまった。

「ぐ……」

涙を止めたくても止まらない。
噛み殺したはずなのに声が漏れた。

ローズ……

上手く言えないから、やれないからなんて……
いつか、次こそはなんて……

そんな子供じみた言い訳は二度としないから……

上手く言えなくても、上手くやれなくても、必ずちゃんと伝えるから
格好悪くても頑張るから……


神様、俺の命を捧げるから

ローズを目覚めさせてくれ


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