年増令嬢と記憶喪失

くきの助

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2人のおでかけ

急に決まったおでかけにネリーが身だしなみを整えくれる。

こうしてみれば後頭部の傷は全くわからない。
アップにしてもおろしていても丁度隠れるところに傷があった。
これなら傷が残っても誰も気づかない。
少しばかりホッとする。

離れの私の衣装室からネリーが私のお出掛けの服を見繕って持って来てくれていた。

トレイに置かれたアクセサリーを見て思わず固まってしまう。

(23歳の誕生日にエリック様がくださった耳飾りだわ。)

ネリーは知ってか知らずか。

エリック様と初めてのお出掛けに彼から頂いたものを身につけるなんて素敵なことね。

ただこの耳飾りを頂いた時も例に漏れず
「へえー今回は耳飾りか。本当にセバスに任せておけば間違いはないな!」
とエリック様は笑っていたのだけれどもね。

ああ、つい先ほどまで舞い上がり取り乱していた自分を思い出すと恥ずかしい。
これでは本当に15歳だ。

(私は23歳よ。間違えないで。)

鏡に映った自分に言い聞かせる。

そして……

この機会に言おう。
そう決めた。
休園日ならなおのこと誰もいない植物園で切り出すのもいい。
帰りの馬車でも悪くない。

(これが最初で最後のお出掛けになるのかしら。)


そう思っているとネリーが耳飾りをつけてくれる。

「よくお似合いですね。」

ネリーが感嘆の声を上げ褒めてくれる。

「ええ、本当に。」

私の明るい銀髪は後頭部の傷に慮ってか横流しの編み込みにされていた。

そのおかげで私の瞳に合わせた薄いブルーの耳飾りがよく映えた。

セバスのセンスもさることながら、ネリーのセンスにも脱帽ね。

「本当に素敵だわ。」

そう言って微笑んだ。








馬車では当然のようにエリック様の膝に乗っていた。

ブラウスに編み上げのスカートというオーソドックスなお出掛け着だというのにエリック様は随分褒めてくれた。

今もニコニコ上機嫌に私の顔を見つめている。

「あまり見つめられると穴が空いてしまいそうですわ、エリック様。」

居心地の悪さを感じ思わずそう言うと、エリック様はそりゃ大変だとからから笑った。
少し呆れていると、耳に何かが触れた。

見るとエリック様が愛おしそうに耳飾りに触れている。

驚いた顔を見せると「ローズは覚えていないだろうけどこれは君の23歳の誕生日に俺が送ったんだ。」
そう言ったので思わず絶句する。

「ネリーが離れに君の服を取りに来たからこれに合わせたコーディネートにしてくれって頼んだんだ。」
言いながら、ちゅちゅと耳に優しく口付けされる。

偶然じゃなかったのね……
いいえ、それにしても意外だったわ。
自分で選んだわけでも無いのに覚えているなんて。

「ローズは俺の色を顔まわりに持ってくるとそちらばかり悪目立ちしてしまうから、瞳の空色に合わせたんだ。やっぱり正解だった。よく似合う。」

俺の色だと黒か赤になるもんなあ……と残念そうに呟く。

どういうこと?

どうしてまるで自分が選んだみたいな言い方をするのかしら?

「ん?なんだよ。俺は君の婚約者だったんだ。誕生日の贈り物くらいするぞ?」

目を丸くしてまじまじとエリック様の顔を見つめている事に気付いたのか、少し驚いたようにエリック様が言う。

そこではなくて……

「エリック様が自ら選んでくださっていたのですか……?」

そう聞くと彼は気不味いような顔をした。

聞いてすぐ失敗したと思った。
無粋なことを聞いてしまったと。

私は知っていたじゃないの、彼が選んでいない事を。

「ずっと俺が選んでいたんだ。でも気恥ずかしくてセバスが選んだ事にしていた。ガキだよな。何度もそう言おうと思ったのに、結局軌道修正出来ずに今の今まで言えなかったんだから。」

はああと長いため息をつくと肩に顔を埋める。

「ほんっと馬鹿なガキだよ。贈り物は馬鹿ばかりだ。」

独り言のように言うとギュウウと私の腰に回していた腕を締め付け、顔を肩にぐりぐりと押し付けられた。


私は彼にされるがまま、信じられない事実に口が開いたまま塞がらない。

ずっとご自分で選んでいたですって?

贈り物は馬鹿ばかりって……

だめだわ。
真っ白になった頭ではうまく話が処理できない。

セバスが選んでいると言うのは嘘だったという事?

すっかり混乱していると馬車が止まる。
植物園に着いたのだ。

「君は15歳だからまだ俺と婚約していないものな。訳がわからない話なのも当然だ。愚痴を聞かせてすまない。」

私が黙りこんだのを、わけがわからないと混乱したように思ったらしい。
苦笑いを浮かべると、降りようと言った。


気恥ずかしいからですって……?


彼の不器用さに唖然とするも、すっかり甘やかされ忘れていた罪悪感が蘇る。


本当に子供だったのね……


まるで12歳のエリック様の戸惑いまで伝わってくるような話だった。

同じ年の婚約者だったら?
ここまで虚勢を張ることもなかっただろう。

エスコートの大きな手を取りながら胸が苦しくなる。
なぜか涙が溢れそうになるのをグッと我慢し、馬車を降りた。

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