変人令息は悪女を憎む

くきの助

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男爵令嬢 アリスの話

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田舎くさい娘。

ブリジット=バールトンを初めて見た時の印象はその一言に尽きた。

いかにもな地方貴族の令嬢。
身だしなみ、立ち振る舞い、全てが鈍臭い。
そして何より子供だった。

アリスに悪意があったわけではない。
事実としてブリジット=バールトンは地方貴族丸出しだった。

ただ本音を言えば、仮とはいえセディと夫婦になる令嬢が美しい令嬢だったらと思うと不安だった。

アリスはセドリックの心は信じている。
だが万が一心奪われてしまったら、と思うといてもたってもいられなかった。
会うのは禁止されたので、なら遠目でいいから見てみたいとセドリックに頼んだのだ。

しかしそんな考えは杞憂に終わった。

(あれじゃあこの洗練された王都において悪い意味で目立ちそうね。)

そう思うと知らぬうちに1人で微笑んでいた。


しかしそれから二ヶ月ほど経ったある日。
友人とお茶をしているとブリジット=バールトンの話を振られた。
セドリックの婚約者は上位貴族の間で話題になっているらしい、と。

ほうらやっぱり悪目立ちしたのね、とアリスは内心ほくそ笑むも続いた話は真逆のものだった。

「天真爛漫で上位貴族のご夫人の間でとても評判がいいそうよ。」

思いがけないセリフにアリスは氷のように固まった。
あの田舎臭さが逆に受けたのかとお茶を持つ手が震えた。

そんなアリスに気付かぬ友人は、次の話題へと移っていった。
しかしアリスは友人の話など頭に入らぬままだった。

アリスは次の逢瀬でセドリックに正直に心情を吐露した。
言っても仕方ない事はわかっていた。

しかししばらくして思いもかけぬ提案を受けた。

ブリジットが下位貴族のパーティーで悪女の真似をするのはどうかと。
公爵令息の自分を袖にしていれば評判も落ちるだろうと。

(別にそんなことをして欲しいわけではないのだけど……)

そう思いつつもブリジットの評判が下がるのは悪くないと思った。

下位貴族とはいえあんな田舎娘より垢抜けている令嬢ばかりだ。
きっと皆が思うだろう。
あんな鈍臭い令嬢に、セドリック様は何を夢中になっているのか、と。

そして離婚後、妻になったアリスを見れば、セドリック様にはアリスのような美しい令嬢がふさわしい。
そう思うに違いない。

きっとアリスが男爵家だなどということは誰も気にしないだろう。


セドリックたちが参加した下位貴族のパーティにはアリスの両親も参加していた。
夜の食事の時間に親にパーティの話題を振ると、セドリックの話題で返してくれた。
そして期待した気持ちでいっぱいだったアリスは愕然とした。

「下位貴族のパーティなのに珍しく小公爵のセドリック様が婚約者と参加されていたのだけど、まあ美しい御令嬢でねえ。セドリック様が随分ご執心のようで、なんやかやと婚約者にアプローチするのだけども、御令嬢は照れているみたい。そっぽむいちゃってね。その仕草の可愛らしいこと!あれはセドリック様がご執心なのもわかるわ。」

美しい御令嬢?

そのあと続けて父親が「美男美女のカップルでお似合いだったね。」というものだからアリスは勢いよく椅子から立ち上がった。
驚く両親をよそに、食事はほとんど手をつけないまま部屋を出て行った。


自室に戻ると悶々と考える。

(どういうことなの……)

ここでハッと思いつく。

(わかったわ、あの田舎娘。セディが惜しくなったのね!あわよくばこのまま離婚しないつもりでは?!)

わざと可憐な装いでパーティへ行ったに違いない。
アリスの中で黒く重たいものが広がってゆく。

そうはさせない。


あどけない顔をして清純ぶっているが、とんでもない悪女。
みな外見に騙されてしまうがとんでもない男好き。
あまりの浪費家っぷりにセドリックは疲労困憊している。
セドリック様は彼女に誠心誠意尽くしているのに振り回して喜んでいる。

「先日セドリック様とお会いする機会があったのだけど随分悩んでいらしたわ。」

そう言ってコツコツと学園で仲の良かったクラスメイトたちに聞かせて回った。

「あなたと結婚できれば良かったのにね。」

アリスとセドリックが学園時代恋人同士だったのを知っている友人はそう言って同情してくれる。

そう言われるとアリスは心からホッとした。
やはりお似合いなのは自分なのだと。

セドリックの心は疑っている訳ではない。
でも1年後2年後はわからないではないか。

もし少しでもアリスを思う気持ちより、もう面倒だという思いが勝ったら?
評判の良い新妻と、もうこのままでいいと思ってしまったら?
本当に離縁してくれるまでは黒いモヤモヤした気持ちを抱えて過ごすしかない。

セドリックとの結婚のために苦しくとも待てると思っていたが、不安定な気持ちを自分でコントロールし続ける日々は想像以上に辛かった。


努力の甲斐あってブリジットの悪評が下位貴族の間で勢いよく広まったのを、アリスは心の底から喜んだのだ。
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