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1. s.アドラ
しおりを挟む最近、婚約者を早く決めろと両親が煩い。両親が貴族には珍しく恋愛結婚だからか、無理矢理婚約者を当てがうことも無く自分で選べるようにと少しばかり猶予が与えられていたが遂に父上が痺れを切らしたらしい。
噂ではとても見目の良いΩが最近になって夜会に出始めたと聞いた。…俺も男だ、それなりに気にはなるもので一目見に普段は行かない少し下級の夜会に参加していた。
「…アドラ様?この様な下級貴族の夜会に参加したがるなんてどういう風の吹き回しです?アドラ様のお相手でしたらもっと上の貴族の方がよろしいのでは?」
「…まあ、たまにはな。」
この口のよく回る男は俺の従兄弟のリュード。この様な夜会によく出ている様だから連れて来たが最近は少しばかり小言が煩い。…幼い頃からの仲で一応は頼りにしてはいるが。
さて、噂のΩは何処だろうな。上の階から見ていたが少し遠い、下に降りて探すか。階段を降り始めてすぐ目を離せなくなる。
「っ!!……リュード、あの男爵夫人の後ろに居るのは?」
「はい?…あー最近噂になってるΩです。あーやだやだ、Ωとあの見た目でαを誑かして……………」
リュードが色々と言っているがそんなことは耳に入る事はなく自然と足がその子の方へ向いていた。が、すぐに近くにいた夫人と人混みに紛れ何処かへ行ってしまった。
「?……マクベス伯爵か、良い噂を聞かない相手だな。」
やっと見つけたかと思ったら、悪い噂の絶えない人物に腰を抱かれ歩くあの子の姿があった。だが、顔色が悪いな。っ!
倒れる!!
そう思った瞬間足が出て、あの子の方へ真っ直ぐと進んでいた。具合の悪そうなあの子を支えることも無く暴れる伯爵に、身体を思い切り揺らし怒り狂う夫人。
「…最悪だな。」
俺が夫人を抑えようとする直前、あの子の目が変わった。諦めた様な、だが決意した様な。…そうか、こんな状況でも助けを求めず自分で立ち上がろうとしているのか。……強い子だ。
「手を、退けなさい。」
「な、なんです!かまわな、、っ貴方様はっ!」
「誰か、この子を運んでくれ。」
「ちょ、お待ち下さい、その子は私が運びます!!」
煩い人だ家でこの子にどの様な振る舞いをしているのか容易に想像できる。話をするのも億劫だが、
「夫人、貴方に今のこの子は任せられません。」
「っ!何故です、この子は私の子です!どうしようと私の勝手ですわ!」
「はぁ、夫人も連れて行きなさい。」
とにかく、寝かせるのが先だと思い夫人も一緒に別室へ行かせた。…この子をこのまま返して良いものだろうか。……いや、母上が許さないかもな。
「夫人、この少年はこちらで引き取らせてもらう。」
「何を勝手な事をおっしゃっているんです!?私の子ですよ!!?」
まぁ、普通の反応か。…子を大切にしている親であれば。おおかたマクベス伯爵に金でも要求していたんだろう。
「いくらだ?いくら貰う予定だったんだ?」
「は?も、貰うだなんてそんな、ただあの子を伯爵様の後妻にしていただくお約束をしていただけですわ。」
さっきの態度とは打って変わって大人しくなった。
「あの伯爵の元へ行ってどうなるかなんて想像できない訳ではないだろう?」
「だったらどうなんです?この様な事をしているのは私だけでは無いはずです!こんなΩ達一人一人相手にするのですか?」
確かにそうだ、この子だけではない。だが、一目で目を奪われ、強さに惚れた。惚れた相手が不幸になると知って見逃せるわけが無い。
「…私がこの子に惚れたんだ。」
「!はっ!やっぱりこの見た目に惑わされていたのね、……好きにすればいいわ。その代わり伯爵の倍はいただきます。」
夫人はドアを荒々しく閉め帰っていった。現地は取れた…今はこの子を休ませよう。
「今の話聞いていたな?」
「……聞いてましたよ~。」
家に連れ帰ると両親が何事かと騒いでいたが事情を説明すると、母が泣きながら俺を抱きしめた。
その後、ミリアンと名乗る少年の実家である男爵家からは金の催促が来たがこの国で人身売買は禁止されているからあっさりと捕まえ、牢に入れられその内刑が執行されるだろう。
今はただこの子にとって安心できる場所が出来ることを願う。
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