元勇者は安らかに眠りたかった

てけと

文字の大きさ
9 / 30
第二章 闘技大会編

闘技大会

しおりを挟む
 たった一年。のんびり暮らしていた頃は短く感じた一年が、今の俺にはとても長く思えた。それほど濃い一年だった。

 そしてとうとう始まる国を挙げての闘技大会。



 舞台は王都の大闘技場。



 魔法禁止の近接戦闘部門。俺はここに出場する。パーティーの前衛を担う人材を選抜する。



 魔法有の遠距離戦闘部門。魔法も有りだし、弓矢投擲武器なども使用可能だ。パーティーの後衛を選抜する。



 総合戦闘部門。何でもありの戦闘。遊撃担当を選抜する。



 回復魔法の使える人たちの大会は少し毛色が違う。魔力量、回復精度、知識を問われ、点数制で順位がつけられる。



 以上4種類の大会が開催される。





 フードを深く被り、大会の手続きを済ませる。テレビなんかに出たせいで、顔が広く知られたせいで、どこに行っても人だかりができて動きづらいったらありゃしない。



「しっかし・・・すごい行列だな・・・。これ全部出場するのか」



 受付する場所は冒険者ギルドの受付で、王都の冒険者ギルドの受付の数は10席。それなのに大きいはずの冒険者ギルドの建物の外まで行列が続いている。

 一応冒険者ギルドのランクが一定以上じゃないと受けれないはずなのになぁ・・・。



「さてどうするか・・・城に顔を出しに行くか?んーまあいっか・・・その辺で宿でも取って・・・」



 冒険者ギルドを出て、宿を探すために歩き出す。



「帰ってきましたね・・・放蕩勇者様?」

「ひぃ!?」



 禍々しい殺気のこもった声につい声をあげてしまう。

 恐る恐る振り返ると、笑顔のはずなのに、人殺しのような目をしたメイが立っていた。



「よ・・よう。久しぶりだなメイ」

「久しぶりですねケンシン様。勝手に旅に出て一年ですか。魔王を倒す前に死なれては困るんですけどね?」

「わ・・悪かったって。勘を取り戻すために必要だったんだよ」

「へ~。その割にいろいろと遊び惚けてたみたいですが?」



 何で知って・・・いや、ちゃんと戦ってたぞ?



「まぁいくら活性化されているとはいえ、魔大陸でもない限りそんな強い魔物もいないしな」

「ふーん。だから遊び惚けるために逃げたわけですね?」

「違うって!?何も言わずに消えたのは謝るけどさ・・・。俺もただ遊んでたわけでもなくって・・・」

「言い訳は聞きません。ひとまず今日からは王城で寝泊まりする事。異論は認めません」

「はい・・・」



 いまだ殺気を放ったままのメイに付いて行き、城に向かう。

 広すぎる寝床は苦手なんだよなぁ・・・。



「そう言えばハルちゃんはどんな感じだ?元気にやってるか?」

「ええ。ハルコ様はやっと環境に慣れてきたのか、最近ではよくメリーと遊んでますよ」

「おお。そいつは良かった。まだ城暮らし?」

「私の屋敷で引き取らせていただきました。勇者と気づかれないほうがいいですし、メリーも妹が出来たみたいで喜んでいましたし」



 ハルちゃん友達が出来たんだな。そりゃいい事だ。この世界で幸せに人生を送ってほしいしな。



「メリーは大会に出るよな?メイから見てどうだ?強くなっった?」

「大人顔負けですよ。あなたに負けてからほぼ負けなし。ちょっとストイックになっていましたけど、ハルコ様のおかげで持ち直したみたいですね」

「いい関係を築けてるみたいでよかったよ」



 強気すぎるメリーと弱気すぎるハルちゃん。相性が良かったんだろうな。



「それにしても、大会参加者が思ったより多いよな~あんなところまで行列ができてやがる」



 建物を越え、数十メートル先まで人が並んでいた。どこぞの電気街かよ。



「私にしては想定の範囲内ですが。ここから4名を選抜するのが大変ですね」

「まじかよ。で?どんな感じで選抜するんだ?」



 こんな人数ををトーナメント式で選抜すると、半年ほどかかるぞ。



「予選をやりますよ。数十名の内で一人だけトーナメントに参加できます。その後は8名の勝ち抜き戦です。予選を一日、勝ち抜き戦を3日の計4日。これを三大会ですね。回復職に関しては15日ですね。それに関しては既に始まっています」

「へぇ。ちなみに前討伐軍衛生担当長のメイからして、優秀な人はいるのか?」



 今日は受付の最終日。明日から予選が始まるのだろう。つまり回復職の選別は始まっていることになる。



「うーん・・・。二人が抜きんでている感じですかね。魔力量がダントツの人と、知識がダントツな人の二人ですね。どちらも極端すぎて甲乙つけがたい感じです」

「どちらも衛生兵としては欠かせない要素だしな」



 魔力量が多い方が癒せる範囲は広く、しかし人体への知識、又毒や病気に対する知識がないと的確に治すことが出来ない。

 この世界の回復魔法とは、ヒールと叫んで全てを癒すわけではない。切り傷には消毒と傷を縫う、打撲には患部を冷やしつつ内出血を防ぐ処置を、病気や毒は、どの症状が自己免疫で毒で何が弱っているのか、病原菌の最適な処置など、元の世界の医者と何ら変わりないことを魔法で行うのだ。



 精緻極まる魔力操作と、膨大な知識が必要でもあるのが回復魔法士だ。



「後は実戦で優劣をつけるだけですね。明日から都合よく怪我人がいっぱい出ますしね」

「まあ確かにな・・・」



 魔力測定、知識をはかるためのテスト。そして明日から始まる武闘大会での実地試験というわけだ。



 何気に回復職が一番大変だろうな・・・。



「今の回復魔法は、物さえあれば欠損すら治せますからね。思う存分暴れるといいでしょう」

「流石にそこまではしねぇよ・・・」

「そういえば、せっかく若い体になったのに、あの時の傷はそのままなんですね」

「そう言えばそうだな。まあ残してくれててありがたいけどな」



 体は若返ったが、魔王討伐時に付いた数多の傷跡はそのままだった。

 この傷は俺にとって歴史とか思い出とかそう言うものだ。消されなくてよかったと思う。



「そうですか・・・私としては自分の不甲斐なさを見ているようで、気分は良くないんですけどね」

「そうか?あんだけの深手を負って生きてたんだから、誇っていいと思うがな」

「・・・貴方がそう言うならそう言うことにしましょう」



 メイと近況について話していると、城の入り口につく。

 フードを深く被った俺は、見張りの兵士に止められるかと思ったが、そんなこともなくすんなりと城の中に入った。



「明日から闘技大会です。十分英気を養い、ベストを尽くしてください」



 メイにそんなことを言われ、当たり前だろ?っと返し、ひとまず王様の元に無理やり連れていかれるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...